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第79話 「私と一緒に人生を歩んでくれませんか? 」

「ただいま」

「お帰りなさいませ。主殿」


 研究所から家に帰るとフレイナが迎えてくれた。


「ただいまなのですー」

「帰ったわ」


 遅れてアリスとマリーが館に入ってくる。

 アリスは久しぶりのウィザース男爵家の館のせいか、元気よく二階へ上がっている。

 買ったぬいぐるみもあるからね。

 それを置きに行きたいのだろう。

 アリスは僕と同じくずっと研究室に泊っていた。

 だから久しぶりのウィザース男爵家の館に懐かしさを覚えているのだろう。

 マリーは時々フレイナと交代してこっちに帰っていたからね。

 彼女はそこまで久しぶりっていう感じがしないかも。


 懐かしい香りに心を落ち着かせる。

 あ、そうだ。フレイナに渡すものがあったんだ。


「どうかなさいましたか? 」

「フレイナ。はいこれ」

「? 」

「お土産だよ」


 説明しながら渡すとフレイナの顔がぱぁっと明るくなる。


「わ、私にお土産ですか! 」


 中身を開けていいか聞く彼女にオッケーを出す。


「こ、これは……、服! 」

「いつも同じ服だからね。(たま)には違う服でもって、思って」

「大切にします! 」

「大切にしてくれるのはありがたいけど、……着てね」


 フレイナの事だから着ずに衣装棚の中に仕舞いかねない。

 けれど服を抱えて幸せそうな表情をしているね。

 気に入ってくれたようで、買ってきた甲斐があるというもの。

 正直「武器」の方が良かったかな、と買った後で考えたけれど大丈夫だったみたい。

 これを機にフレイナが色々と服装に興味を持ってくれたら嬉しいね。

 

「あらアル。帰って来ていたのですね」


 ……。


 ぬぉぉぉぉぉ!!!


 リリーにお土産を買ってくるのを忘れた!

 ど、どうしよう。

 今から買って来る?

 いや無理だ。


「どうしたのですか、アル。青い顔をして」

「い、い、い、いや。何でもないよ」

「体調が悪そうに見えますが……」


 流石幼馴染の洞察力っ!


「だ、大丈夫だよ。リリー」


 尚も気遣ってくれるリリーに「大丈夫だから」と僕は念を押す。

 まだ納得はしていないみたいだけど「そこまでいうのなら」と引いてくれた。

 リリーは僕から離れて移動しようとする。

 が、彼女の目が途中フレイナで止まった。

 

「あらフレイナさん。珍しいですね。新しい服、ですか? 」


 リリーが少し目を大きくしながらフレイナに聞く。

 くっ……。もう少しで何も気づかれずに終われたのにっ!

 いいかフレイナ。余計なことを言うなよ?

 言うとこの館に血の雨が降るからね。

 主に僕の。

 そう念じながらフレイナにアイコンタクトを飛ばす。

 フレイナは僕が言いたいことがわかったのか首を縦に振った。


「これは主殿が私に、と送ってくれたものなのです」


 フレイナの言葉に「まぁ」と手を合わせる。

 ……終わった。

 帰って早々(そうそう)リリーの怒りを買うことになるとは。

 せめて命だけは勘弁してほしい。


「王立魔法技術研究所の最新の衣装ですか。素敵ですね。私も着てみたくおもいます」


 リリーが僕の方に向いて期待したかのような目線を送ってくる。

 これは……、素直に謝った方がいいね。

 下手に言い訳をすると更に怒りを買いかねない。


「ごめん、リリー。忘れてしまって……その……、リリーの分はないんだ」


 ぼそぼそっとした声で言うとリリーが悲し気な瞳をする。

 けどすぐに柔和な笑みを作って僕に向いた。


「人間だれでも忘れることはあると思います。忘れられた身としては悲しいですが、……今度は忘れないでくださいね」


 ……あれ?

 お怒りの言葉がない。


 いつもならこっぴどく怒られて、数週間は口を聞いてもらえないんだけど。

 変な物でも食べたのだろうか?


「アルフレッド。帰って来ていたか。ちょっと話があるから執務室にきてくれ」


 リリーの反応を不思議に思いながら、父上の執務室へ向かった。


 ★


「まずは……、お帰り。アルフレッド」

「お帰りなさい。アル」

「ただいま帰りました。父上、母上」


 執務室へ入ると、父上だけでなく母上も一緒だった。

 本当に帰ってきたんだ。二人を見て実感するよ。

 僕は約一か月ほど王立魔法技術研究所にいたけれど、父上と母上は特に変わりない様子。健康そうで何よりである。

 まぁたった一か月くらいで急激に変わるはずはないか。


「さて色々と話したいことはあるが……、まずはこの領地の犯罪組織だが九割ほどを壊滅させた」


 領地は急激に変わったようだ。

 九割が壊滅?!

 父上は何をしたんだ……。


「アネモネと一緒に悪魔獣(ビースト)を作っている組織を探したんだが、結局の所見つけることが出来なかった」

「見つからないから次の組織へ。そうなってね。結果としてウィリアムズが大暴れ、ということよ」

「……それはアネモネも一緒じゃないか」


 そんなことはないわ、と白々しくいう母上に父上がツッコむ。

 二人が高名な冒険者だったことは知っている。

 どれほど強かったのかと言うと、それこそ町の人でも知っているレベルだ。

 となると二つ名持ちだと思ったのだけれど、頑なに父上と母上は教えてくれなかった。

 が、犯罪組織の九割を潰したとなると「強い」や「かなり強い」というレベルは超えてそうだ。


「……コホン。そこでガイア様と話し合った結果だが――」


 と父上が今後の方針を教えてくれる。

 大きな方針転換はない。

 今までは隠れていた犯罪組織を倒したり動向を監視したりしていた。

 けれど今後は表の組織や個人の動きをより注視することになった。例えば商人だったり聖職者の動向だったりだ。この中には貴族も含まれる。

 何せ相手は第二王子の暗殺未遂に関与している悪魔獣(ビースト)を作った組織だからね。


「――アルフレッドがいない間に決まった事は……まぁ……こんな所だ」


 父上が少し緊張した表情をする。

 首を傾げる間もなく父上は少し早口で僕に言う。


「実はあと一つ決まったことがある」

「他にもあるのですか? 」


 聞き返すと父上は大きく頷いた。

 なんだろうか。とても気になる。

 けれどこの決まった事とやらが父上を緊張させているのは確かなようだ。


「……アルフレッドもそろそろ婚約者の一人や二人いてもおかしくない時期だ」

「いや二人はおかしいのでは? 」


 ツッコむと母上が「くすっ」と笑う。

 父上は顔を赤くして下を向いてしまった。


 けれど……、なるほど。

 婚約者の話か。それで緊張していたのか。

 僕は今十五。

 父上の言う通り本来なら婚約者がいてもおかしくない歳。人によっては結婚している人もいるだろうね。

 けれどウィザース男爵家は、最底辺を脱出したとはいえ貧乏貴族。

 結婚相手は自分で見つけないといけないと思っていたのだけれど、まさか父上が見つけてきたとは。


「その相手だが……実はすでに来てもらっている」

「え?! 」


 もう来ているの!?

 相手はかなり行動力がある人物のようだ。

 しかし、誰だろうか。

 貴族間の婚約だ。僕の知らない人物である可能性は高い。

 というよりも僕王立魔法技術研究所から帰ってきたばかりだ。

 こういう話があるのなら身なりを整えて来るべきだった。


「では……、入ってきてくれ」


 父上が扉に向かって声をかける。

 僕が立ち上がると同時に扉がゆっくりと開く。

 ドキドキとしながら扉を見ていると、黒く長い髪がチラリと見えた。


「これからもよろしくお願いしますね。アル」


 現れたのは黒髪黒目のちょっと背の低い美少女、リリアナ・ウェルドラインだった。


 僕の幼馴染が、婚約者になった。

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