第77話 一方その頃アンテ・ノーゼはというと
アルフレッド達がマジックアイテムを手に入れた頃の事、一人の男性が目を覚ました。
「おお。目覚めましたか」
薄暗い部屋の中、白い台の上に横たわる男性に声がかかる。
長く寝ていたせいか彼の頭はぼんやりとしている。
不明瞭な意識の中、彼は誰が声をかけてきているのか記憶を探る。
――思い出せない。
仕方ない。
硬い感触を我慢しながら、僅かに首を横に動かし声の主を目に映す。
そこに見えるのはピエロ。
姿からは性別は分からないが、低くも軽快な声は男性のものだろうと、彼は考えた。
――何でピエロが?
横たわる男性は今までの経緯を思い返そうとする。
確かボクは父上に連れられて……、
と思い出していると、女性の声が彼の耳に届いた。
「ほぉえ~。耐えたんだ」
「「施し」が成功するとは。やはり何が起こるかわかりませんね」
「今までとは違う成功体! 旧人類とは別次元の新人類の誕生っ! 非常に喜ばしい! 」
彼を取り囲む人達の様子は多種多様だ。
身長の高い紫色ロングの髪をした女性研究者は感心したように男性を観察し、
髪をワンサイドアップでまとめた深い青い髪をした女性研究者は男性を冷たい目線で見下ろしながらも何かメモを取っている。
ピエロ姿の研究者はクルクル回りながら彼が目覚めたことを祝福し、自分の周りに新しい風船をもう一つ作って浮かせていた。
「まずは成功おめでとさん。あとはあそこのピエロ野郎、――イルージの旦那から説明があると思うから……、まぁ頑張れ」
「……ダンテさん。どこに行くのですか? 」
「ちょっとくらい休ませてくれ……」
「彼の改造をしたのは私なのですが」
ダンテ、と呼ばれたヨレヨレの白衣を着た男性は頭を掻きながらその場を去った。
その様子にワンサイドアップの女性は深く溜息をつきながらピエロに目を向ける。
ピエロは頷き、横たわる男性に質問した。
「では幾つか質問を。貴方は誰ですか? 自分の名前は言えますかな? 」
「ボクは……。そうだボクはアンテ。アンテ・ノーゼだ! 」
ガバっと体を起こして叫ぶようにいう。
興奮したかと思うと、冷静になる。
静かとなった彼にピエロは頷きながら問いかける。
「記憶の混濁もありませんね。さて……ご気分の方は如何でしょうか? 」
明瞭になった頭でピエロに向く。
「……生き返った気分だ」
「それは素晴らしい。貴方は人類初っ! 新人類に到達したのですから! 」
「新人類? 」
「そうですとも。今までの失敗作とは全く違う、異次元の人間。――」
ピエロがクルクルと回りながらアンテに説明をする。
アンテは彼の話を流し聞きしながら自分の体を確かめる。
――力が漲る。
体中に巡る魔力や気力に満足そうに笑みを作るアンテ。
(父上の言葉に従って正解だった)
アンテは武闘会ではアルフレッドに無様に負けた。
しかし今の力ならばアルフレッドを倒せるだろうと、拳を握る。
(いや違う。奴を倒すだけじゃない。この力があればこの国だって――)
アンテの野心に火がつきメラメラと燃え始める。
「……出来る」
「? 」
「これからはボクがっ……! 新人類たるこのボクが王だ! 」
それを聞いた周りの研究者達は口を閉じ、静かになる。
が、すぐに笑い声が部屋に響き渡る。
「ハハハハハ! 君は面白い事を言うね」
「……笑えない冗談なのですが」
「まぁまぁどの道導き手は必要なのだからさ。そんなにツンツンしないでよ、メイコちゃん」
「貴方が教えを持ち出すとは……。明日にでも世界が終わるのでしょうか。不安です」
「ひ、酷い」
背の高い女性が傷ついたと言わんばかりに地面に泣き崩れる。
その様子を|ワンサイドアップの女性が冷たく見下ろし溜息をつく。
「まぁまぁアンテ殿。そう急がなくても」
ピエロがアンテに近付きながら教える。
「確かに貴方は人類初の新人類へと登りました。しかしそれだけでは不十分」
「不十分? これだけの魔力と気力に溢れているというのにか! 」
「ええ不十分です。今の貴方は、存在そのものは尊いですが、ただそれだけ。よってこれから更に新しい力を授かりに行きましょう」
更に新しい力、と聞いてアンテの目に好奇の光が灯る。
それを確認したピエロはクルクルッと回りながら、部屋の出口に移動する。
そして芝居かかった口調でアンテに言った。
「さぁ行きましょう。我々の神の元へ。そして授かりましょう。――恩恵を」
★
ダンジョン間転移という技術がある。
ダンテの力を使いアンテは自領へ戻って恩恵を受けた。
「まさかこんな仕組みになっていたとはな」
「非常に疲れるんですがね」
ダンジョンから公爵邸に戻ったアンテはダンテを招いて組織の事を聞いていた。
「といっても俺は脇役なんで知っている事は少ないですが」
「ダンジョンを作り魔物を放つのだろ? 」
「……恩恵の影響か強すぎるのが困りものですがね」
ダンテは疲れた顔で答えた。
アンテが組織を聞く相手にダンテを選んだのは話しやすそうだから。
人型悪魔獣の完成体としての力を得て、尚且つ恩恵までも得た彼だが、他の三人に聞く勇気はなかった。
というのも三人とも癖が強すぎたのだ。
加えて彼女達はアンテを「実験動物」のような目で見る。
これらが重なってダンテに白羽の矢が立ったというわけだ。
「おおっ、アンテ。無事に帰って来ていたか」
父シャルル・ノーゼがアンテを見つけて嬉しそうに部屋に入る。
彼は王都で様々な用事をこなしていた為アンテに遅れて公爵領入りした。
アンテが近付く中、シャルルはその隣を見て目を見開いた。
「四研救の方ではありませんか! 」
「四研救? 」
「あ~、そういうのめんどくさいんで、普通に「ダンテ」と呼んでくださいっと」
本当にめんどくさいのか、だらけた口調でシャルルに言う。
「ま、組織の事は親父にでも聞くといいと思う」
ダンテは席を立ち部屋から出る。
バタンと扉が閉まると、アンテはシャルルの方を向いて、真剣な表情で告げる。
「父上。ボクは王になります」
「おおお。ついにアンテが我が公爵家の悲願を」
今にも泣きそうなシャルルから目を離し、拳を握り宣言する。
「そして王の隣には美姫が必須。リリアナ・ウェルドラインはボクのものだ、アルフレッドッ! 」
瞳に様々な欲望を灯しながら、いずれ来るだろう未来に叫んだ。
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