第76話 王立魔法技術研究所 9 マキナの子
マリーとアリスと買い物に出ると薄く青い髪をした不思議な少女と出会った。
見た目の歳はアリスと同じくらい。
迷子かなと思い声をかけたんだけど、開口一番「アースドラゴン? 」と聞かれてしまった。
「……僕はアースドラゴンじゃない」
僕は絞り出すように訂正する。
白と黒のワンピースの彼女に反論するも、不思議そうに首を傾げる。
一体僕のどこに「ドラゴンではない」ということに疑問に思う要素があるんだ。
いやわかっている。
僕がアースドラゴンの被り物をしているからそう聞いたということは。
「……違うの? 」
「違うよ」
「……そう」
表情を変えず体を僕の方に向ける。
僕の答えに納得してくれたのだろうか。
表情からは読み取れない。
「アードラさんは……迷子? 」
納得していなかった上に、略された。
「迷子じゃないよ」
「……そう」
「き、君が迷子じゃないかと思って話しかけたんだけど……違うみたいだね」
苦笑いを浮かべながら「ごめんね」と言うと、聞き取れなかったかのように首をかしげる。
そのあと「迷子」という言葉を自分に聞かせるように何度も呟き始めた。
ど、独特の世界観を持つ子だな。
フォレスティナ所長とはまた違う世界観だ。
「……私迷子? 」
少女が首を傾げながら僕に聞く。
それは僕の質問だ。
「僕にはわからないけど……、誰か探してる? 」
「……うん」
「今いる場所がわからなかったりする? 」
「……うん」
「迷子だね」
無表情のまま少女が頷いた。
紛れもなく迷子だね。
迷子と言うことは分かったけれどどうしよう。
出来れば彼女が探している人を一緒に探してあげたいけど……。
「いいわよ。わたし達も手伝ってあげる」
「助かるよ」
「……むむむ。アリスと被っている気がするのです」
「全然被っていないから大丈夫だよ」
言うとアリスが「本当ですか? 」と聞いてくる。
本当だよと頭を撫でながら伝えるとアリスの瞳から警戒の色が消える。
「一緒に君の探し人を探してあげようと思うんだけど……どうかな? 」
「……本当? 」
僕は頷き肯定すると、彼女は少し間を開けて「探して」と頼む。
やっぱり困っていたか。
少女が僕達の方にきて、そして僕は彼女の探し人を探し始めた。
「アリスはアリスと言うのです! 」
「僕はアルフレッドだ」
「わたしはマリーよ」
「……マキナの子」
マキナの子がアリスと手を繋いだ状態で自分の名前を教えてくれる。
それは名前なのだろうか?
名前がない?
いや僕が知らないだけで「~・ジュニア」のように親の名前を名乗る村とかがあるのかもしれない。
でも呼びにくいな。
「マーちゃんは誰を探しているの? 」
「……シン。親戚のお兄さん」
「そのお兄さんとはぐれてしまったという訳か」
「……そう」
途中でクレープを小さな口でぱくりと食べながら僕達の質問に答える彼女。
特に寂しそうな雰囲気は感じられないけれど、その親戚のお兄さんもマキナの子を探しているかもしれない。
マキナの子を見た感じこの研究所の人ではない。
研究所の人は白衣を着たりハイセンスな服を着たりと特徴的だ。
彼女が着ている服は、――高価だけどまだ一般的。
恐らくどこかの貴族の子供だろうね。
「けど見つからないな」
あちこちと探し回ったけれど「シン」とやらは見つからない。
架空の生物ではないと思うけれど、これだけ探し回って見つからないとなると、何か揉め事に巻き込まれていないか心配になる。
何せここは常識の外にある世界「王立魔法技術研究所」。
無事だと良いんだけど……。
「……」
シンを心配しているとマキナの子が無言で僕の方に近付いてくる。
こわっ!
真顔で僕の方に近付いてくるから威圧感がすごい。
「ごめんね。まだ見つけることが出来なくて」
僕が謝っていると、彼女はそれに関係なく右手を僕に伸ばす。
なんだろう?
と首をかしげていると彼女の手がぴかっと一瞬光り輝いた。
「?! 」
「何をしたの! 」
「マキナの子は悪い子なのです! 」
「まって。僕は大丈夫だから」
一瞬で殺気立つ二人に僕は止まるように言う。
マキナの子に向いて、何をしたのか聞く。
「……不公平だから」
「不公平? 」
「……得られる恩恵はアードラさん次第」
恩恵?
さっきの光と関係しているのだろうけれど、何の事だろうか。
「見つけた」
「……シン」
「あれほど遠くに行かないようにと……。うん? 君達は……」
少年が息を切らしながらやってきた。
マキナの子が探していた親戚のようだ。
白い髪をした少年の方にマキナの子が寄っていく。
「……一緒にシンを探してくれた」
「迷子だったマキナの子を探してくれたのか。ありがとう。助かったよ」
ルビーのように赤い瞳が僕に向く。
マキナの子みたいな不思議ちゃんではなく、普通の好青年のような印象を受ける。
「……君を探し当てることが出来なかったけどね」
「一緒に探してくれただけでも嬉しいよ。普通の人なら声すらかけないだろうからね」
まぁ確かにね。
★
マキナの子とシンと別れた後、僕達は買い物を続けて総合研究棟へ戻った。
棟の中を歩いているとフォレスティナ所長と出くわしそのまま彼女の研究室へ連行された。
「マジックアイテムが出来上がったよ」
「本当ですか! 」
「……わたしが何の理由も無く君達を連れると思っているのかい? 」
やれやれと手を振りながら言うが、少なくとも僕は「思っている」。
彼女には今までの行動を思い返していただきたい。
「ともかくだ。種類は二種類」
言いながら手のひら大の丸いマジックアイテムと腕輪の形をしているマジックアイテムを取り出した。
「こっちの丸いマジックアイテムが悪魔獣探知機。腕輪が対魔力霧散能力になる。それぞれ二十個しか作れなかったから誰に渡すかは君達に任せるよ」
「ありがとうございます」
とお礼を言いながらアイテムを受け取り、使い方を教えてもらう。
両方ともこれから悪魔獣や厄介な魔法無効化能力を持つ魔物と戦う時に必ず役に立つ。
所長様様だ。
「使い方はこんな所になるが一つだけ注意点だ」
「注意点? 」
「わかっているとは思うが、この対魔力霧散能力はその名の通り「魔力霧散型」の魔法無効化能力を無効化する。よって機序が異なる魔法無効化能力は無効化できない」
「例えば吸収型、とか? 」
「その通りだ。他にも魔法完全無効化能力とかもあるが……、人族が生きている間に当たるようなことがあれば、天から星が降るような確立だろうね。わたしも数回しか出会ったことがない」
「……因みにどんな状況だったか聞いても? 」
「そうだね。アルフレッド君達が冒険者も行っている事も考えると……、君達が出会う可能性が一番高いのはやっぱりダンジョンだろう」
ダンジョンの中は何が起こるかわからない摩訶不思議な所だ。
研究は進んでいるみたいだけど、全容は明らかになっていない。
「フィールドエフェクト、とでもいうのだろうか。階層全てに魔法完全無効化が施されていた時は焦ったよ」
「よく生き残ったな」
「わたしは古代生物並みの生命力をしているからね。あのくらいじゃ死なないよ」
なんだか想像できるのが嫌だ。
「倒したか?! 」と言ったらノリノリで復活しそう。
「ともあれわたしは休ませてもらうよ。しかし、こんな作るだけの作業、出来ればもうやりたくないね」
「……悪魔獣対策で大変なんだが」
「研究者たる自分には関係ない事だね。それか……そうだ。レシピを渡すからそっちで増産してくれ。ナナホシ商会で売り出せばいいだろ? 」
言いながら研究室の奥の扉の向こうへ行き、紙束をもってマリーに渡す。
「マリー君なら出来るだろう? 」
フォレスティナ所長が挑発的な表情を浮かべてマリーに言う。
マリーは冷静に資料を読んだと思うと大きく頷いた。
「よし。これでわたしの仕事は終了だ。そうだ君達はいつ帰るんだい? 」
「マジックアイテムも手に入ったから明日にでも」
「そうか。わたしはこれから睡眠をとるから君達の見送りは出来ないが、アルフレッド君の武運を祈っているよ」
言うとフォレスティナ所長は軽く手を振りながらそのまま奥の部屋に消えて行く。
色々なことがあったけど充実した研究所生活だったな。
武姫の秘密に一歩近づいたり、スキルについて知ることが出来たり、新しい力を手に入れたりと。
本当に充実しているとはこの事だろう。
けれどまだ調べきれていないことはたくさんある。
また来たいな。
そう思いながら僕達は研究所を後にして、アリスの力で、ウィザース男爵領へ戻った。
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