第75話 王立魔法技術研究所 8 研究所でお買い物
武姫装備を試してみた。
僕の感想は「すごい」を通り越して「唖然」である。
幼少の頃から僕はマリー達と戦闘訓練をしていた。
そのおかげか、どんな魔物に対しても今までオーバーキルだったけれど、これはその比じゃない。
「……一体どんな力を使えば訓練闘技場が半壊するのかい? 」
フォレスティナ所長が呆れた目線を僕に送る。
けれど僕は何も言えない。
やったのは僕だけど。
けれど武姫装備を使う前、マリーが「今の時代必要ないと思うわよ」と言っていたのはよくわかる。
こんな威力の力、使う場面がある方がおかしい。
「その魔導書はマリー君がもっていた魔導書だとはおも……、いや待て。マリー君は今どこだい? 」
……気付いたか。
流石この研究所を仕切る人だ。
だが彼女に話すわけにはいかない。
話でもしたら僕達は永遠に彼女のおもちゃにされかねない。
何とかしてフォレスティナ所長の追及をはぐらかす。
追及を逃れるために彼女の研究を手伝うことを約束させられ、今日の所は終えた。
★
高火力を超えて超火力を誇る「武姫装備」。
使う予定は全くないけれど、それでも僕は使いこなせるように訓練をすることにした。
当り前だけど使う機会はない方が良い。
けれど最近悪魔獣の活動が活発化している為、念には念をと言うことで人がいない所で訓練だ。
「お買い物です! 」
「なにがあるか楽しみだわ」
訓練を続ける中、今日は休日ということでマリーやアリスと、研究所の中で買い物をする事になった。
ずっと訓練を続けたいのだけれど武姫装備は大量の魔力を消費する。
僕も何度魔力枯渇になったことやら。
自然回復を待つ意味合いも含めて息抜きに出ている。
それにフォレスティナ所長が作っているアイテムはまだ出来上がらない。
息抜き兼アイテム待ち、ということだ。
「色んなお店があるわね」
「観光地みたいだな」
「言われてみると確かにねぇ」
この研究所は観光地ではないはずだ。
けれど観光地を思わせるようなお土産店がいっぱい建っている。
形は他の建物と同じく白く長方形をしている。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! ぬいぐるみさんがいっぱいです! 」
アリスが僕の服を引っ張って目をキラキラと輝かせる。
「マリー。アリスがあの店に行きたそうに……」
「入りましょう」
僕が聞く前に店の前に立っているマリーを見てくすっと笑う。
そう言えばマリーも可愛いものが好きだったね。
「いらっしゃいませ」
店の中に入ると店員が迎え入れてくれる。
早速マリーとアリスはぬいぐるみを物色し始めた。
僕は彼女達が物を選び終わるまでやることがない。
何をして時間を潰そうかな、と店内をじっくり見渡す。
ぬいるぐみを売っているということもあってか中々ファンシーな店だ。
棚に並んでいるのは大きなものから小さなものまで、様々なサイズのデフォルメ化されたぬいぐるみ達。
種類もくまからうさぎ、しかにとりにと。中には羽つき妖精を思わせるものもある。
上にはふわふわな飾りが付けられて、店の外とは全く違う異世界に入り込んだ感覚を覚える。
「わっ?! 」
え?! なに?!
上を見ているといきなり頭になにか被せられた。
後ろを見ると愉快な目をしているマリーが僕を見て、アリスがニコニコと僕を見上げていた。
「よくにあってるわぁ」
「お兄ちゃん可愛いのです! 」
「……何を被せたの? 」
言いながら頭に被さられたものを取る。
僕の目に映ったのは丸く顔の部分だけくりぬかれた、恐竜の被りものだった。
「こちらはダンジョンで発見された新種のアースドラゴンを被り物にした一作となります」
「新種のアースドラゴンねぇ。道理で見たことがなかったわけね」
「これも欲しいのです! 」
両手いっぱいにぬいぐるみを抱えるアリスが言う。
自分のお小遣いから買う分には何も言わないけど、お金大丈夫?
少し心配になりながらもマリー達がぬいるぐみを買い終えるのを待つ。
両手に袋を抱えて、僕達はぬいぐるみ店を出た。
次は服を買いに行くことになった。
それは良いのだけれど、僕は顔が真っ赤である。
何故ならば……。
「やっぱり似合うわ」
「カッコかわいいとはまさにこの事なのです! 」
「……もうやめて」
アースドラゴンの被り物を被ったまま研究所内を歩くことになったからだ。
特に理由がある訳でもなく、また罰ゲームでもない。
要はマリーの強制力。マリーが「そうだわ。被っていきましょう」と提案したのが全ての元凶だ。
もちろん僕は全力で拒否をした。
けれどマリーの圧力には敵わなかった、ということである。
「さ、着いたわよ。アルドラちゃん」
「アルドラお兄ちゃんなのです! 」
「……やめてください」
今まで色々なことがあったけれど、これほどまでに羞恥心を覚えたことはなかったと思う。
「これもいいわね」
マリーがドレスのような服を幾つか見比べている。
アリスはそれを羨ましそうに見ているけれど、彼女は服を買うことが出来ない。
ぬいぐるみ店でお小遣いが尽きてしまったのだ。
「フレイナはボーイッシュな服がに合いそうだね」
ここに来たのはマリーの用事だけではない。
今留守を任せているフレイナにも何か買うことも目的の一つだ。
彼女だけなにもなかったら仲間外れみたいで悲しいしね。
「アルドラちゃん。ちょっと着替えてくるね」
マリーが店の奥へ行き試着してくる。
幾つか着替えてきてマリーのファッションショーが始まった。
白いワンピース姿に海賊を思わせるようなセパレートの服。片や貴族家夫人のような赤いドレスに、森ガールのような大人しめの服。
どれも似合っているけれど僕に決めろというのは酷だと思う。
というよりもよくこんな服装がこの世界にあったな。
僕の他に転生者や転移者が他にもいると言われた方がしっくりくる。
「ふふふ。良い感触だわ。ねぇ定員さん。ちょっとお話があるのだけれど」
「え? 何でしょうか? 」
マリーが店員を奥の部屋に連れて行く。
これは商談を始めたな。
マリーはフォレスティナ所長と話し合った結果、ナナホシ商会と王立魔法技術研究所は共同で商品を売ることになった。
二人が悪徳商人のような笑顔を浮かべて握手をしていた時の事は忘れることができない。
「マリーはまだです? 」
「もう少しだと思うけど」
「お待たせ~」
マリーが少し疲れたような表情をする店員と共に奥の部屋から出てきた。
その様子を見て店員に心の中で「ご迷惑をおかけしました」と謝りながらも、僕達は清算を済ませて、店を出た。
★
二つ店を回ったけれどまだまだ時間はある。
けれど荷物が重い。
だからアリスに頼み一旦研究室に荷物を置いて、息抜きを続けることに。
「あれは……迷子? 」
「! 」
「?! 」
次どこに行こうか研究所をさまよっていると、小さな女の子が一人寂しく店の前で立っていた。
薄い青色の長い髪。白く長いシャツに黒いワンピースを着てぼーっと立っている。
周りに誰もいない。
迷子かな?
近付き声をかけようとすると、マリーとアリスが引き留める。
「あの子は……やめておいた方が良いわね」
「ううう……。なんだか関わらない方が良いような気がするのです」
二人が警戒する。
単なる迷子じゃないのか?
二人は警戒しているけれど、僕には異常さは特に感じられない。
迷子なら……、彼女を助けてあげた方がいいのかも。
「……君、迷子? 」
女の子に近づき声をかけると、ゆっくりと僕の方を見る。
表情はどこか無機質な印象を受けるけれど、どこか不思議な気配がする。
光り輝いているわけではない。けれどフレイナの「聖姫剣」を思わせるような、どこか神聖味が……。
いやいや何を考えたいるんだ。
心の中で否定していると、彼女の澄んだ青い瞳が僕を見る。
僅かに瞳を大きく開けたかと思うと目線をさらに上げ、桜色の小さな唇をゆっくりと開けか、囁くように言った。
「……アースドラゴン」
違う。
僕はアースドラゴンじゃない。
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