第71話 王立魔法技術研究所 5 各所案内
研究所の中を案内してくれるのは迷宮の地図。
全く見知らない相手じゃなくてよかったとホッと安心。
今日どこを見て回るのか玄関ホールで話し合ったけど、迷宮の地図も朝食を食べていないみたいで、一先ず食事を摂りに行くことに決定。
そして僕達は一緒に朝食を摂りに外へ出た。
「肉汁が弾けてる?! 」
「美味しいわぁ」
「……この卵焼きも美味しいのです! 」
「気に入ってくれたようで紹介した甲斐がありましたよ」
僕とマリーは朝食セットを、アリスはお子様ランチのようなものを頼んだ。
朝食だから全体的に量は少なめ。
だけど朝に気合いを入れるには十分な食事だと思う。
「この研究所と呼ばれる町は様々な研究がされています。しかしそれは魔法に限りません」
「というと? 」
「他にも料理研究や農業等様々分野を伸ばすための研究がなされています」
「この料理も研究所で開発されたものの一つで」
「ここで開発されたものは町の中で有効活用されています」
フォレスティナ所長の感じからして魔法や魔物に関することばかりだと思っていたけど違うようだ。
「研究所で開発されたものは外にでないの? このお肉、食べたことがないのだけど」
「依頼されて研究を行ったものに関しては貴族様を通じ世に出るようになっています」
「加えて研究が終わったものに関しては開発グループと所長と相談することになりますね」
「と言ってもその殆どが廃案になっているのが現状ですね」
所長は一体何を吹っかけたんだ?
「研究所内では小規模だからこそ回せていますが、いざ国内へ流通させるとなると一つ一つの値段が高く収益が見込めない等の問題が出てきます」
「なるほどねぇ~」
ライルの説明にマリーが考えるように呟く。
何をするつもりだ?
「終わったのです! 」
マリーに恐怖しているとアリスが食べ終わる。
僕達も急いで食べて、アリスの口を軽く拭いて、店を出た。
★
「所長にお聞きしたかもしれませんが、研究所では冒険者とは異なり探索ギルドなるものがあります」
ライルが歩きながら説明をしてくれる。
「ギルド、ということは他にもあるの? 」
「あります。この国では王立魔法技術研究所の探索ギルドが最大規模になりますが、ダンジョン産業を中心に行っている国では冒険者ギルドよりも活発な所があると聞き及んでいますね」
ダンジョンある所に探索ギルドあり、と言った所だろうか。
冒険者ギルドとすみわけをしているのには何か理由がありそうだ。
「この国だと他にはどこに大きな探索ギルドがあるの? 」
「一番大きな領地だとノーゼ公爵領の探索ギルドが大きいかと」
「あそこは世界三大ダンジョンの一つ「深淵」が存在しているので」
「しかし深淵は公爵家によって立ち入りが制限されている状況です」
「よって組織としての大きさは国内最大規模なのですが、あまり稼ぎは良くないようで」
マリーが聞き、迷宮の地図が答える。
「それって運営できているの? 」
「ノーゼ公爵領には他にも多くのダンジョンが存在します」
「収入の殆どはそちらから得ていると聞いています」
「深淵はノーゼ公爵家が立ち入りを制限しているため、公に雇われた探索者が中に入り魔物が外に漏れないように管理をしているみたいですね」
ダンジョンの管理も一筋縄ではいかなさそうだ。
話している間に黒く大きな建物につく。
軽く見上げると大きく「探索ギルド」と書かれているのがわかる。
皆研究者だから文字にしているのかもね。
確認を終え、ライルが「こちらになります」と言い、僕達を誘導する。
そして僕達は黒い建物の中に足を踏み入れた。
「ギルド証は……。あちらになりますね」
ライルが複数ある受付口をみて当たりをつけたようだ。
彼らについて受付に向かう。
ここが探索ギルドか。
冒険者ギルドとは全く雰囲気が違うね。
どんな感じかと言うと、まず人が少ない。
これは殆どが研究職を本職にしているからだろう。
それに絡んでくる人がいない。
冒険者ギルドと同じく食事をする為のスペースはあるみたいだけど、皆が皆血走った目で何か書き写している。
これはこれで怖いけど……、絡まれるよりはましだ。
「この方達のギルド証を」
「畏まりましたライル様。では手続きに入りますが……」
おっといけない。
周りに気をとられ過ぎたようだ。
受付に謝り手続きに入ってもらう。
「実はフォレスティナ・エルダート所長からこれを渡すようにと言われたのですが」
「拝見します」
昨日の夜、ギルドに入る時必要だろうということで手紙のような物を受け取った。
それを渡したんだけど……、中身を読んでいる受付嬢の表情が一瞬にして固まった。
やっぱり爆弾のようなものだったか。
「し、少々お待ちください」
受付嬢が早足で階段を登る。
バタンという音が聞こえた後、「もうやだぁぁぁ」と絶叫のようなものが聞こえてきた。
マリー達と顔を見合わせ首を傾げる。
「なにが書かれていたんだ? 」
「普通の推薦状……ではなさそうね」
「おてがみはいやなのです? 」
迷宮の地図よ。
そんなドン引きしたような表情で見ないでくれ。
僕は悪い事をしていない。
やったのはフォレスティナ所長だ。
「お、お待たせしました。こちら探索ギルドのギルド証になります」
上の階から降りてきた受付嬢は箱に入ったギルド証を持ってきた。
僕達はそれを受け取る。
光にかざしてみると長方形のプレートには探索ギルドの文字が書かれ、黒く輝き異彩を放っているね。
「試験はないのですか? 」
「……昨日所長自ら試験を行ったとの事、でした」
探索ギルドに入るには試験が必要なみたいだね。
昨日、といったらあのゴーレムと戦ったあれか。
確かに試験官としては優秀だったかもしれない。
真っ二つにしたけれど。
「ん? これは」
ギルド証を仕舞い外に出ようとすると、二枚のボードが置かれているのに気が付いた。
片方は冒険者ギルドでいうところの依頼書のようだけど、もう一つは見たことがない。
近付きよく見る。
そこには人の名前と説明文のようなものが書かれていた。
「イルージ、ロリエ、メイコ、ダンテ……」
「その人達は研究犯罪者になります」
ライルが苦い顔で僕に教える。
研究犯罪者……。
そう言えばフォレスティナ所長がギルドに行けば情報があると言っていた。
大々的に手配していると言っていたけど、これもその一つなのかもしれない。
「この中でもこの研究所から出たのはダンテせんぱ……、いえダンテになります」
「他の犯罪者達は? 」
「主に他の領地や国で活動していた研究者になりますね。世界的に手配されている者はこうして様々なギルドを通して情報が共有される形となっております」
なるほどね。
つまりこの人達が僕達の敵になる可能性が十分にあるということか。
手配書をよく読むとその人の人相や特徴だけでなく、使える魔法や出身国まで事細かに書かれている。
これを元に対策を練っておいて損はないだろう。
しかしライルの様子を見ると、このダンテという元研究者。ライルと何か関係があるのだろうか?
そう言えばライル達は「裏切り者の研究者を探す」ために冒険者をしていたんだっけ?
察するにダンテという元研究者がその「裏切り者の研究者」だろう。
けれど僕はライルの辛そうな顔を見ると、この事をライルに確認することは出来なかった。
「ギルド証も手に入りましたし研究所をご案内します」
僕達は探索ギルドを出てライル達に案内をしてもらうことに。
僕は少しこの研究所に滞在するからね。
迷わないように建物とかを覚えないと。
ライル達について行く。
研究施設に学校、食事処、商業施設にと色々と案内してくれた。
やはりここは国内一の研究所だと思う。
各研究室の質は僕には判断付かない。
けれどライル達が案内してくれた研究室の数だけでも余裕で十は超えた。
「最後になりますが、こちらが総合図書館になります」
迷宮の地図に連れられ高く白い建物に辿り着いた。
本を守るためだろう。
窓は少なく白い監獄のようなイメージを受ける。
高さは総合研究棟と同じくらいで、前に立つだけで圧倒される。
これほどの建築物を作るとは……、これも「研究の成果」というものだろうか。
「これで研究所内の大まかな施設は回りました。ダンジョンに関しては総合研究棟の裏手にある門から向かうことができます」
「ありがとう。助かったよ」
「同じ建物ばっかりで迷子になりそうなのです」
アリスじゃないけど、確かにこれは迷子になりそうだね。
所長が僕に案内役をつけた理由がよくわかる。
今日の日程が終わった。
実際にダンジョンに行くのは明日になった。
ダンジョンも、迷宮の地図が案内してくれるみたいだ。
僕達は約束を交わして今日の所は分かれることに。
そしてダンジョンアタックをする日がやってきた。
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