第70話 王立魔法技術研究所 4 フォレスティナ所長の予想
「何で僕に研究室を……」
「ん? 研究室を持たずにどうやって寝泊まりするんだい? 」
「この研究棟の外に宿泊施設とかあるでしょう? 」
「おお。これは盲点だったよ。確かに宿泊施設がある。君も男の子だ。行ってみたい気持ちというのは理解できるが若木である君には少し早いと言っておこう」
「……何の話で? 」
連れてこられた研究室で、フォレスティナ・エルダート所長は綺麗なソファーに豪快に座って僕の質問に答えてくれた。
所長は三百を超えているとは思えないほどの美貌の持ち主。
はだけた白衣からはふっくらと盛り上がった黒いインナーが良く見える。
僕がいることを特に気にしていないのか足を組んでおり、綺麗な生足が見え隠れしている。
非常に、エロい。
しかし本当に何の話をしているんだ、この人?
普通に宿があると思うんだが。
それと研究室が宿泊施設だと思っているのはきっと所長だけだ。
「しかし……なんで所長の研究室の隣なんですか? 」
「君との距離が短い程共同研究はしやすいだろ? 」
「しない」
「おや。他にも聞きたいことがあるんじゃないのかい? 」
「……考えさせてくれ」
フォレスティナ所長が小さく笑みを作る。
何をさせられるのかわからない。
安易に頷くことはできないけれど、彼女が持っている情報の価値は計り知れない。
慎重にいこう。
「最後に……なんで僕の研究所に所長がいるんだ? 」
「まだ話しておくべき事があるからだ」
所長は足を組み直して真面目な表情で僕を見る。
「現在ウェルドラインのガキとウィザース男爵家、そして国からの要請で悪魔獣に関する調査を行っている。その進捗状況だが悪魔獣そのものを調査できていない。よって王立魔法技術研究所としては目下調査中だ」
そもそも悪魔獣発見から時間が経っていないから仕方ない。
何か情報があればと考えて尋ねてみたけどダメだったか。
「けれど上がって来る報告から推察するにやっている事は大体想像できる」
「本当?! 」
「あくまで推察だ。詳しく調べないとわからないということは変わらない。それでも聞くかい? 」
僕は大きく頷いて、話を急かす。
「なら話そう。さてアルフレッド君も気付いているかもしれなが、あの研究をしている者が行っているのは魔物と魔物、魔物と人を組み合わせる実験と推察される」
「魔物と人?! 」
「あぁ。全く品の欠片もない研究だよ」
人型の魔物と獣型の魔物を組み合わせていたとばかり思っていたけど、そんなことが……。
「報告に上がってきている資料を読むに、どれも拒絶反応が酷くその殆どは失敗。成功したとしても数日持てばいい程。戦力として使うのなら武闘会を襲撃した時のように暗殺の攪乱に使うのがせいぜいだろう」
「暗殺の攪乱にしては大がかりだったと思うけど……」
「作り上げたはいいものの寿命が近かったんじゃないかい? 」
そう言われると納得だ。
もうすぐ死んでしまう成功体。
死んでしまうくらいならば何かの役に立てようと考えるのは自然なことだ。
やっていることは下衆だが。
「問題はこれからだ」
「これが全てでは? 」
「そんなはずはない。大量の金を使い危険を冒してまで作り上げた成功体が余命数日の悪魔獣? わたしなら「ふざけるな! 」と叫んでいるだろうね」
分かりたくないが、言っている事は分かる。
ナナホシ商会の商品もそうだが、よりいい物を作り上げるように努力するのは普通の事。
いや相手は一般世間的な「普通」な相手ではないが。
「恐らく組織とやらに所属している研究者は悪魔獣を改良するはずだ。が流石にわたしでも悪魔獣の先に何を求めているのかは全く分からない。結局の所これ以上の推察は正確さをさらに失っていく。わたしとしては外での調査を待つしかないということろだよ」
フォレスティナ所長が肩を竦めながら立ち上がる。
「さて。色々と話したが、君にお願いしたいことがある」
「引き受けないぞ? 」
「今さっき色々と教えてあげたじゃないか。それに同族のよしみだと思って年上のお姉さんの頼みを聞くのも一興だと思うのだが? 」
一方的に話していただけじゃないか。
確かに悪魔獣の事に関しては、僕が彼女に聞こうと思っていたことだ。
けれど強引に話ておいてこれはないと思う。
だが満面の笑みを浮かべながら一歩こっちに近寄るフォレスティナ所長からは引く気が感じられない。
うう……。問答になって勝てる気はしない。
降参だ。
「……わかった。聞くだけ、聞こう」
「おおやってくれるか。ではアルフレッド君。君にダンジョンに潜って素材を集めてほしいんだ」
★
フォレスティナ所長と話していた為時間が遅くなった。
よって僕達がダンジョンでの素材集めは明日から行うことになった。
「これなんです? 」
「それは錬金術に使う道具の一種ね」
アリスが興味深そうにあちこち見ている。
予想外だったのはマリーもアリスと同じくらい部屋に置かれている機材に興味を持ったことだろう。
「綺麗で目新しい機材が多くあるもの。後で館に持って帰っていいか交渉してみようかしら? 」
「交渉するのはいいけど……」
「やったわ」
ふふっと笑いながらどれを持って帰るのか物色を始めた。
マリーが交渉する分には何も言わない。
けれどここにあるのは国内最先端をいく研究所のもの。
物色しても持って帰れないと思うよ。
けどマリーも楽しそうで何よりだ。
いつもは商会の方を任せて忙しくしているから、時には彼女がリフレッシュできるような時間も取らないとね。
錬金術の道具の物色がリフレッシュになるのかはわからないけど。
「でもよかったの? 」
「なにが? 」
「依頼を受けて」
マリーが後ろを向いて僕に聞く。
ここで知りえる悪魔獣の情報は知った。
マリーが不思議に思うように、ここに長居する必要はない、と感じてもおかしくはない。
「断り切れる自信が無かったというのもあるけど、人工ダンジョンというのに少し興味があったし構わないかなって」
それに加えて僕はここでやりたいことがある。
まずは僕自身の能力アップだ。
ここは国が誇る研究所。
ならばマリーが知らない無属性魔法の資料があってもおかしくない。
それにマリー達武姫という存在も気になっている。
小さな頃から一緒に過ごした彼女達だけど、僕は彼女達の事をよく知らない。
フォレスティナ所長がどうやって武姫の存在を知ったのかも気になるし……。
まぁ色々と資料があるこの研究所は時間をかけて聞いたり調べたり色々する価値はあると思う。
まぁそれに応じて、所長の要求が増えてくる可能性もあるが。
「アルちゃんが彼女の頼みを聞くというのならわたしも一肌脱ぎましょう」
「アリスも一肌脱ぐのです! 」
「ってアリス。服は抜いじゃダメ! 」
一肌脱ぐの意味が違う。
アリスを止めつつ研究室に設備されている寝袋を三つ取り出し、今日の所は床に就いた。
★
……爆発音で朝を迎えるというのは初めての経験だ。
「ははは、すまない。いつもの事だから気にしないでくれ」
「「「えぇ~~~」」」
「おっとそうだ。君達はまだこの研究所に来たばかり。どこに何があるかわからないだろう。そう思って案内を手配しておいたから、あとで合流してくれ。では! 」
バタン!
爆発の原因であるフォレスティナ所長は早口で僕達に要件を伝えて、白い扉を勢いよく閉めた。
「朝から騒がしいね」
「研究者ねぇ」
爆発を起こす人の事を研究者と定義したくない。
けど、ゆったりとしているマリーとは大違いだね。
ともあれ僕達は案内人と合流する必要があるということか。
朝食はまだだけど、案内人を待たせるというのはあまりよろしくない。
ということで僕はマリーとアリスを連れて案内人が待っているという玄関ホールへ向かう。
「昨日ぶり、ですな。アルフレッド殿」
そこにいたのは迷宮の地図の五人だった。
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