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第68話 王立魔法技術研究所 2 フォレスティナの依頼 1

 ――「君は何を知りたい? 」


 そう聞かれて言葉に詰まった。

 フォレスティナ所長がすべてを見透かすような金色の瞳で見て来るのが問題なのではない。

 聞くことが多すぎてどれを聞くべきか迷ったのだ。


「アルフレッド君は……何か知りたいことがあったからここに来たのだろ? 」

「そうですが……、何でそう思うのです? 」

「君が疑問に思うのは当然だ。だが古今東西(ここんとうざい)複雑そうに見える問題の答えというものは単純で意外性も面白さもないものだ。エンターテインメント性も何もない非常につまらない答えだが許してくれ」


 フォレスティナ所長は肩を(すく)めながら言う。

 な、なんだか回りくどい話し方をする人だな。

 迷宮の地図の人達は普通に話していたけど……。

 いやもしかしたらフィールドワークに出ていない研究者はこんな感じなのかもしれない。

 この先気をつけないと。


「君の疑問に関する答えだが。わたしは単に、わたしが君の立場なら、特殊な事情がない限りならこんな変な場所には来ないだろうからね」


 フォレスティナ所長は「ほら面白げもない」と言わんばかりに少し笑う。


「さてさて君は何が知りたい? 」


 聞いて来るフォレスティナ所長にごくりと息を飲む。

 どんな順番で聞くか決めて口を開くが彼女が言葉を(かぶ)せてきた。


「僕は――「いやまて当ててみよう。これでもわたしは三百年以上生きるエルフ。相手の考えを予想することは得意なんだ。さて……わたしと君が会うのは初めてだ。自分以外にも特徴的なエルフに出会ったことはないだろう。となると……、むむ? もしかしてわたしの年齢か? おいおいいくらエルフだからと言って女性に年齢を聞くのはタブーなものだよ。――」……」


 僕に聞いて、何故僕に話をさせてくれないんだ。

 というよりも年齢云々(うんぬん)は今さっき自爆したような気がするけど。


「――気を付けたまえアルフレッド君。例えエルフだろうがドワーフだろうが二十と言えば二十、十八と言えば十八なのだ。この原則は(くつがえ)らない。例え三百年程サバを読んでいるとわかったとしても、そこは(さっ)するという気遣いが必要になる。まだ若木(わかぎ)である君には少し難しいかもしれないけれど、女性の不用意な怒りを買わないためにも――」


 ついに、完全にフォレスティナ所長が自分の世界に入ってしまった。

 マシンガントークとはまさにこの事だろう。

 いやトークにはなっていないか。どちらかというと演説か講演に近い。

 けれど彼女の事で気になることがある。

 一歩下がり隣にいるマリーに注意を向ける。


「ねぇマリー。フォレスティナ所長のこと、知ってる? 」

「ん~、彼女の事は知らないわ。けど「エルダート」というエルフ族の研究者はいたわよ」


 ということは、フォレスティナ所長は昔いたエルフ族の研究者の末裔(まつえい)ということになるのか。


「――からして……。わたしの話を聞かないとは……、つれないじゃないか。アルフレッド君」


 やれやれと言った感じで肩をすくめながら僕を見ると、いきなり目をくわっと開いて詰め寄ってきた。


「そこにいるのはもしや「武姫」ではないかい!? 」


 フォレスティナ所長が食い入るようにマリー達を見る。

 マリーは堂々としているけど、アリスには刺激が強すぎたみたい。

 僕の後ろに隠れて上着を引っ張ってる。


「まさか生きている間に武姫と出会えるとは。いや君の周りに不思議な力を持つ女性がいると聞いている。可能性の一つとして武姫の存在は考えていた。だがっ! だがっ! 本当にこの目で魔法生物の完成形を見られるとは。わたしは今言葉では表しきれない感動を覚える! 」


 フォレスティナ所長はマリーとキスをするんじゃないかと言う程に近付き鼻息を荒くしている。

 マリーは心底鬱陶しそうに彼女を手で遠ざけ溜息をつく。


「本当にエルダートの家系なのね」

「どういうこと? 」

「興味を持ったことには一直線。それが彼女達だったから」

「その帽子はディザスター・マリーだね。そしてそこに隠れているかわいこちゃんはワンダー・アリスとみた! おやソードマスター・フレイナは見えないがお留守番かな? 」


 フォレスティナ所長は狂気が籠った瞳でマリーとアリスを見る。

 流石に暴走が過ぎる。止めないと。


「フォレスティナ所長。落ち着いてください」

「これが落ち着いていられるものかぁぁぁ! 」

「落ち着いてください! 」

「わたしは……わたしは今猛烈にっ「落ち着け!!! 」……、ひぎゃぁ! 」


 ★


 思わず硬化を使って拳を振り下ろしてしまった。

 がこれは興奮しすぎたフォレスティナ所長が悪い。

 彼女がどんな方法でマリー達を知ったのかはわからない。

 会えない、見ることが叶わない人やものと会った時のドキドキは分かる。

 興奮するのもわかる。


 わかるけれど、やり過ぎだ。

 だから頭を擦りながら恨めしそうに僕の方を見ないでくれ。

 確かにこの人はすごい人なのだろう。

 けれどやっぱり残念な人だ。


「さて。話を戻そうとしようか」


 所長が立ち上がりパッパッと白衣を払う。

 拳の効果のおかげで落ち着いてくれたようだ。

 これでやっと話が先に進む。


「質疑応答のような形で君の質問に答えてもいいのだがそれではわたしにメリットがない」

「なにかと交換、ということ? 」

「察しが良いね」


 所長が小さく笑みを作るとマリーとアリスが僕に寄る。


「大丈夫だよ。皆をあの悪魔に差し出すつもりはないからね」

「誰が悪魔だい? 全く失礼だね。そんなつもりはレポート百枚分くらいしか思ってないよ」


 それは多いのか? 少ないのか?

 単位がわからない。

 自分の世界で物事を語るのは少し控えてくれ。


「ま、何事も得るにはそれ相応の対価が必要になるということだ」

「……何をすればいいんだ? 」

「お、やるきだね。いいよいいよ。そのやる気に心意気も大好きだ。是非君の愛人として囲って欲しい所だが、それはまた今度だね」


 愛人なんて作りません!


「やる事は単純明快。アルフレッド君の質問に答えるから、――わたしの研究を手伝ってくれ」


 フォレスティナ所長が長い魔杖でくいっと帽子を上げる。

 「研究? 」と聞き返すと彼女は「そうだ」と肯定する。

 魔杖で地面をコツンと突いたかと思うと「ズドンズドン! 」と大きな音が聞こえてくる。


「これは今わたしが開発しているメタルゴーレムだ。様々な行動パターンを組み込んだ代物で、今のAランク冒険者程度なら片手で倒せる一品」


 何て物騒なものを作ってるんだこの人は。


「素材はこの研究所の裏に存在するダンジョンから採れたミスリナタイト。今のままでは販売できない程に高価だが、ミスリナタイトの代価品を作る事に成功したら、領地を守る兵として使えると思わないかい? 」

「……よく他の貴族がこれを作るのに賛成したな」

「ここは貴族の横やりが入らない治外法権のような所。そしてわたしはその「長」だ! 何も問題ない」

「つまりやりたい放題できると」

「その通り」


 溜息をつきながら笑みを作るフォレスティナ所長に「何をしたらいいのか」聞く。


「これと戦ってくれ(たま)え」

「戦う? 」

「これの戦闘データを取りたい。研究所の奴らはもやしが過ぎるし、かといってわたしが戦っても一種類のデータしかとれない。何事もそうだがコツコツとデータを積み上げるのは大切だからね」

「……これ耐久度は大丈夫? 」

「ん? そんなのは気にしなくてもいい。もちろん壊してくれて構わない。後で回収して再利用するからね」


 意外とクリーンだ。

 しかし最初から僕とゴーレムの戦闘データを取るつもりだったのか。

 試験闘技場に呼び出されたわけだ。

 ゴーレムがズドンズドンと音を立てつつ更に近付いて来る。

 僕はゴーレムの方へ一歩前に出て所長を見る。

 僕の行動を肯定と捉えたのか、フォレスティナ所長は笑顔のまま魔杖を僕に向けてメタルゴーレムを動かす。


「さぁ。実験、――開始だ」

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