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第66話 王立魔法技術研究所への紹介状と第一王子「エルリオン・フォレ」

 門番が他の人と仕事を交代する。

 最初会った時とは全く違う態度で王城の中を案内してくれる。

 流石王城。見たことのない(きら)びやかな内装だ。

 すれ違う人もどこか品に(あふ)れているように感じ取れる。

 父上はこんな所で会議をしていたんだね。

 いつも疲れた顔をしていた訳だ。


「この先はこちらのものが案内します故、私はこれにて失礼します」


 幾つか階段を登り赤い絨毯(じゅうたん)を踏みしめる。

 進むごとに雑音が少なくなり、ついに無くなったかと思うと、王族のプライベートエリアとやらに着いた。

 案内役が門番から専門の人に代わる。

 幾つかの扉を過ぎ去り先に進むと、案内役が足を止め、金であしらわれた扉をゆっくりとノックした。


 ――緊張が走る。


 今までにない程に緊張する。

 思えば王子相手に「やぁきたよ」とビックリ突然来訪は中々に不敬なんじゃないだろうか。

 いやマリーの案に乗った僕が言うのもなんだけどさ。

 けれどもう引き下がれない。


 返事が聞こえ扉がゆっくりと開く。

 案内役に促されるまま扉の向こうに足を進める。


「アルフレッドから会いに来てくれるなんて嬉しいよ」


 緑の瞳をした金髪幸薄イケメン、エニファーが迎え入れてくれた。

 やっぱりエニファーはエニファーだった。


 ★


「結局この短剣は一体? 」


 エニファーに促されるまま僕達は席に着く。

 メイドが飲み物を入れ下がったのを確認して、僕はエニファーに聞いた。

 軽く渡されたものだからすぐに答えてくれると思ったけど、エニファーが「……ん~」と悩んでいる。


「まぁ言いにくいのなら今日の所は良いよ」

「悪いね」

「言いにくいものを渡さないでください」


 エニファーは微笑み紅茶を飲む。

 本当に悪いと思っているのだろうか。

 今度彼からものを受け取る時は注意しよう。


「で今日はどうしたのかい? いや何もなくても遊びに来ても良いけれど……違うのだろう? 」

「実は——」


 と今日来た要件をエニファーに伝える。

 すると納得したような顔をして席を立つ。

 さらさらっと机の上で何か書いたと思うとそれを包み僕の方に持ってきた。


「紹介状になる。これを研究所に入る時渡せば大丈夫だ」

「助かるよ」


 軽く微笑んで差し出す紹介状を受け取って大事にしまう。


「位置はわかるかい? 」

「ウェルドライン公爵領の端、だよね? 」


 もしかして知られざる正規ルートがあるのならば僕はわからない。

 けれど危惧したようなことはなく、エニファーは「その通りだ」と答える。


「正確にはウェルドライン公爵領とスミス辺境伯領、そしてウィザース男爵領の交点に位置する場所だね」


 なら遠回りせずにウィザース男爵領からでもいけるね。

 僕が知らないだけで有名な所だ。

 きっと馬車も通っているだろう。


「アルフレッドはリリアナ嬢と仲が良かったと記憶しているけど、合っているかい? 」

「……確かに仲は良いと思うけど……どうしたの? 」

「それなら彼女は連れて行かない方がいいかもしれない」


 エニファーが渋い顔で忠告する。

 王立魔法技術研究所はウェルドライン公爵領の中にあるのに何故だろうか?


「偏見を持たせるのはあまりよくないと思うが……、フォレスティナ・エルダート所長はウェルドライン公爵家の者達を毛嫌いしているんだよ」

「リリーとその人を会わせると喧嘩をする、と? 」


 僕の言葉にコクリと頷く。


「だから喧嘩をさせたくなかったら連れて行かない方が無難だろう」

「仲が悪いのなら確かにそうした方が良さそうだね」

「逆にアルフレッドは彼女に気に入られるだろうね」

「それは僕が武闘会で優勝したから? 」


 聞くとエニファーは肩を(すく)める。

 なにその曖昧(あいまい)な返事……。

 とても不安になるんだけど……。


「行ってみればわかるよ」

「行くしか選択肢はないけどね」

「確かにそうだ」


 エニファーがくすっと笑うと僕も笑う。

 王子様とこんなバカなやり取りを出来るとは思わなかった。

 けどこういうのも良いかもね。


 エニファーと話し合いを終えて部屋を出る。

 案内してくれる人に連れられ廊下を歩いていると正面から人が向かってきた。

 案内人がすぐ脇によけて頭を下げる。


 ――第一王子「エルリオン・フォレ」殿下だ。


 思い至ると同時に僕も道を開けて頭を下げた。


「見慣れない顔だな」


 僕達の前まで来ると顔を上げるように言う。

 見下ろしている彼の背丈(せたけ)はやや高い。

 天井から差す魔法の光が明るいブラウンショートを映し出し、茶色い瞳が僕を観察している。


「この場にいるということは誰かに許可を持っているという……」


 (いぶか)しめに言うと案内人がエニファーが許可を出したことを伝える。

 嫌なことを聞いたとばかりに眉を(ひそ)めるが、いきなり大きく瞳を開いた。


「その耳の発現者は……お前はウィザースの子か?! 」


 僕は頷き肯定する。


「な、なるほど。ならば名乗らなければな」


 コホンと軽く咳払いをする。


「私はエルリオン。フォレ王国第一王子エルリオン・フォレである。これからよろしくな。若木(アルフレッド)よ」

「よ、よろしくお願いいたします」


 笑顔で握手を求められて強く手を握る。

 エニファーとは対照的な人だなと、背中越しに手を振りながら過ぎて行く第一王子を見て思った。


 ★


 王城から館へ、そしてウィザース男爵領へ僕達は戻る。

 ウィザース男爵領から王立魔法技術研究所に向かうためだ。

 当然だけど僕達は王立魔法技術研究所とやらに行ったことがない。

 だからアリスの力じゃなくて馬車で向かわないといけないのだ。


「おや。アルフレッド殿ではありませんか。先日ぶりです」


 今回はフレイナがお留守番。

 今の魔法技術の最先端に興味があるマリーと知らない土地に行くことにウキウキなアリスを連れて馬車の停留所へ行ったのだけれど、そこには見知った集団がいた。


「ライル。これからどこかに行くの? 」

「我々は一旦王立魔法技術研究所に帰る所ですよ」

「ちょっとした報告に帰るようなものです」

「休憩ともいう」


 軽く手を振りながら彼らに近付く。

 休憩?

 報告は休憩じゃないと思うのだけれど……、いまいち研究者の生態がわからない。

 僕達は? と聞かれたので僕達も王立魔法技術研究所に向かうことを伝えると、驚かれた。

 らしくない場所に向かうのは自覚しているよ。


「なにをしに……というのは野暮ですな」

「最近出てきた()()()()関連、でしょうね」

「……敢えて口に出さなかったものを」


 ライルが仲間の言葉に眉を(まゆ)める。

 悪魔獣(ビースト)の名前は秘密ではない。

 だからそこまで気を使わなくても大丈夫と伝えたら、「申し訳ない」と頭を下げられた。


「お話を続けたい気持ちもあるのですが……、出発の時間の様ですね」


 ブルブルっと馬達が首を振る中僕達は馬車に乗った。


 アリスが機嫌よく両足をぶらぶらとさせる中、僕とライル達は馬車に乗って王立魔法技術研究所に向かっている。

 が流石に一つの馬車に八人は乗れない。

 だからライル達は二手に分かれた。


「ライルちゃん、だっけ? 」


 ゆっくりと馬車が移動する中、マリーがゆったりとした口調でライルに「なんで冒険者をしているのか」と聞く。

 この前僕から彼女に「フィールドワーク」って教えたはずなんだけど……。

 マリーに言うと「ん~」と顎に手をやり、ライルの方を見た。


「それだけじゃないわよね? 」


 マリーが言うとライルは分かるくらいに大きく目を開く。


「いやはや鋭い洞察力ですね」

「え?! 本当なの! 」

「彼女の言う通り我々にはフィールドワークの他に目的があります」


 ライルは僅かに苦い顔をしながら僕に向く。


「実は私達は裏切り者の研究者を探しているのです」

「「裏切り者の研究者? 」」

「その者を見つけ出しこの手で処分する。それを目的として情報を集めやすい冒険者業をしております」

「……それって僕達に話しても良い事? 」

「王立魔法技術研究所の者なら誰でも知っておりますので、特に隠す必要もありません」


 予想以上に重い話が出てきたね。

 僕はちょっと引いてる。

 まさか迷宮の地図がこんな任務を負っていたなんて。


 少し重い空気の中だけど馬車はそれでも走る。

 ライルが「なにか情報を得ることがあれば教えてほしい」と言っていたので、それに了解を伝えさらに進む。

 そして僕達はウェルドライン公爵領の西端に存在する王立魔法技術研究所に着いた。

ここまで読んで如何でしたでしょうか。


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