第64話 領主代行のお仕事 2 武闘会優勝の余波
「主殿。どうかなされましたか? 」
「いや珍しい嘆願書を見つけて」
フレイナが首を傾げ、僕はもう一度嘆願書に目を落とす。
今までだと嘆願書の殆どは魔物駆除や納税、あとは崩落等災害の対策に関することだった。
これらは個人や一つの組織の裁量ではどうにもできない。
だから僕達ウィザース男爵家が率先して対応に当たっている。
けれど宿泊施設のような商業的なことは、領民や領地を訪れる人に任せている。
今まで上手く回っていたと思うのだけれど……、さてどうしたものか。
少なくとも僕は宿泊施設に関する嘆願書なんて見たことがない。
「宿泊施設の不足に客の騒ぎをどうにかして欲しい、と」
「不足、ですか? 」
「ホテル「ナナホシ」をどうにかして欲しいというのならわかるけど……、あ」
「? 」
本文にはこう書いてあった。
――最近ウィザース男爵領外からのお客様が急増しており治安も悪化しております、
と。
僕のせいかぁぁぁぁぁ!
内容を読んで理解した。
この手紙が出された日付は僕が武闘会で優勝した後。
他に出されている嘆願書も読むと、場所はエズの町やその周辺から来ている。
「武闘会優勝の影響で武芸者や観光客が増えたんだろうね」
「情報が早いですね」
フレイナが嬉しそうに言う。
確かに情報が早い。けれど驚くほどでもない。
なんだかんだ言って武闘会優勝からかなり時間が経っているからね。
来てみたいと思う人がいてもおかしくない。
僕の精神に大ダメージだけど。
「ざっと嘆願書を読んでみたけど、まだ王都に近いウェルドライン公爵領方面からしか上がっていないね」
「ならばホテル「ナナホシ」に声をかけてホテルを増やしますか? 」
「出来れば領民に頑張ってほしいけど、すでに対処できない状態に陥っていると思うから、それが一番だろうね」
それに今後もこの手の要望は増えて行く可能性がある。
まだウィザース男爵領全体に広まっていないからだ。
似たような騒ぎが領内の他の部分で起こることも見据えて宿泊施設を建てないと。
「それにこれを一過性のものにしてはいけない」
他の領地と比べてウィザース男爵領の経済状況は「普通」と言えるレベルまで持ち上がっている。
が決して裕福ではない。
領地全体が潤うようにリピーターを増やせないか考えないとね。
「客が起こす騒動に関しては部隊を編成して向かわせよう」
「ではすぐに手配の準備を」
「たの――」
――ぐぅ~~~。
「まずは夕食にしましょうか」
「……外に食べに行こうか」
★
今問題が起こっている町や村に派遣する部隊を編成する。
精鋭で揃えられた領軍だけど今回は量が必要。
こんな時の為にもう少し揃えないといけないね。
そう思いながら問題を解決するために彼らをウェルドライン公爵領の方角へ送り込んだ。
「宿泊施設が足りない……。なるほどね」
「武闘会優勝の影響は出るだろうと考えていたが……、いや流石と言うべきか」
「精一杯頑張ると意気込んだ手前恥ずかしいのですが、無断で計画を立ち上げ進めるのはどうかと思いまして」
王都の館。
僕は早速マリーに話をもちかけて、父上に相談した。
顔から火が噴き出そうなほどに恥ずかしい。
けど大きなお金が動く宿泊施設事業と観光地化計画なので父上に相談しない訳にはいかない。
「観光地化計画か」
「なら、この前解放した廃館を宿泊施設にするのはどうかしら? 」
マリーが妙案とばかりに提案する。
それは僕も提案しようと考えていた。
更地にした所もあるけど、いつでも使えるように廃館は全て綺麗にしてある。
今回のように宿泊施設にする為だ。
けれど解放した廃館は、アンデットが住んでいた所謂事故物件。
この世界の人達は気にしないようだけど、僕としては今一つあれらを宿泊施設にする事に罪悪感のようなものがあるわけで。
「あの館なら来た人の印象にばっちり残るわ」
ある意味ね。
けど……背に腹は代えられない、か。
「……あの廃館をホテル「ナナホシ」の店舗として使おう」
その後も従業員の問題などを話し合い詰めていく。
どのようにしてリピーターを増やしていくのか等は、今日の話し合いだけでは決めることが出来なかった。
けれど大まかな道筋を作ることはできた。
宿泊施設問題は解決しそうだ。
マリー達と宿泊施設問題を話し合い手配をした。
従業員は出来るだけ領内で募集をするとして、まず僕は今起こっている問題を解決することに。
「貴様を倒せば俺の名は……ぐふぉっ! 」
「おおお。あの大男を一撃で……」
「動きが全く見えなかったぞ」
「これが武闘会優勝者「翡翠の新星」アルフレッド・ウィザースか」
「強いって次元じゃねぇ……」
「流石アルフレッド様ですわ」
町で暴れている輩とやらを一網打尽にしていた。
……翡翠の新星の二つ名がもうこんな所にまで伝わっているのか。
「宿で騒ぎを起こしている奴らをしょっ引いてきましたぜ、大将」
「リーグルド。せめて勤務中は「アルフレッド様」にしなさい」
食堂で騒ぎを起こしている大男を取り押さえている間に、リーグルド隊が宿で騒動を起こしている客を取り押さえたようだ。
どうやら僕を引き摺り出すために暴れていたみたい。
本当に、申し訳ない。
あとできちんとお詫びをしなきゃね。
その後もアリスの力を使いながら各地を転々として犯罪者を捕まえて行く。
「これで最後かな」
騒動をどうにかして欲しいと嘆願書を送ってきた町や村は、僕と他の部隊で全て回った。
「まだ安心するには早いと思うぜ」
「リーグルドではありませんがこの先も起こるかと」
「ここに来て人員不足が響いてくる、か」
ウィザース男爵領の町や村には衛兵や自警団が設備されている。
が今回のようにキャパシティーを超えると機能不全になる事がある。
常設の警備隊か巡回警備兵のような存在を設置出来ればいいのだけれど……。
これなら何人か武闘会で見繕って来るべきだったね。
「ん? おやそこにいるのはアルフレッド殿ではありませんか? 」
急に呼ばれて振り向く。
「それにリーグルドにヒョウカもいるではありませんか。皆さんこんな所でなにをしているのですか? 」
そこにいたのはCランク冒険者パーティー「迷宮の地図」の面々であった。
★
「まさか皆さんがアルフレッド殿の元で働いているとは」
ライルが「ははは」と笑い、出された飲み物を口に含む。
僕達は犯罪者を一旦送ったあと、ライル達五人と食堂で再会を喜ぶ。
食堂は特に高級と言うわけでもなく質素と言うわけでもなく。
けれどこのお店には個室があるのが魅力だ。
彼らとはエズの町で起こった異変の時以来。
この前の出来事なのにとても昔に感じられるね。
元気そうで何よりだ。
「ライル達もこっちで働く? 」
「今ウィザース男爵家は人手不足なんだ。ライル達のような実力者ならいつでも歓迎だぜ」
「リーグルド。口調を直せと何度言ったら……」
「お二人も更に仲が良くなったようで」
「「良くない!!! 」」
ライルの言葉に反論する二人。
いがみ合っているように見えるけどじゃれ合っているようにも見える。
ライルじゃないけど、これは確かに仲がいい。
それこそ付き合っているんじゃないかと思うくらいには。
「しかし……仕官ですか。大変魅力的なお話なのですが私達は遠慮しておきましょう」
「なんだ給料が良いぞ? 」
「上司も優しいですし……どこに不満が? 」
「いえ私達の場合はそう言う問題ではないのです」
僕達が首をかしげていると、ライルは苦笑いを浮かべながら教えてくれた。
「私達は王立魔法技術研究所の職員でもありますので」
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