第63話 領主代行のお仕事 1 アルフレッドは領地に帰る
父上に呼ばれて三階にある父上の執務室に向かう。
途中武姫達と出くわし彼女達も連れて部屋の中へ。
僕を呼んだ時もそうだけどどこか苦しそう。
「大丈夫ですか? 」
「……昨日ガイア様と飲み過ぎたようだ」
「なにをしているんですか。確か午後からも王城で仕事ですよね? 」
「……なにも言い返せないな」
父上は頭を抑えながら苦笑いを浮かべる。
本当に苦しそうだ。
何とかしてあげたいのは山々だけど僕にはどうしようもない。
一応神聖属性と呼ばれる魔法の中に二日酔いを治す魔法はある。
けどお酒の飲みすぎで教会に行って神聖魔法で治してもらったらいい笑いものだ。
ここは耐えてもらおうか。
「さて来てもらった理由だけど、アルフレッドには一旦ウィザース男爵領に戻ってもらおうと思ってね。それを伝えるために呼んだんだ」
「戻る? 」
父上がゆっくりと頭を縦に振る。
「私とアネモネはまだ王都での仕事が終わりそうにないんだ。けど領地をこれ以上放置するのもよろしくない」
そう言いながら父上は紙を一枚取り出した。
「だからアルフレッド。少し早いとは思うのだけれど、一時的に領主代行として働いてはくれないか? 」
「領主代行?! 」
「そうだ。今までは手伝いのような感じだったが今回は違う。私の権限を用いて仕事をすることになる」
父上は「一時的に、だけど」と付け加える。
まだまだ先だと思っていたけどこんなに早く領主代行をする時が来るとは。
時間ややる事は限られている。
が今までとは重さが違う。
――「もう少し慣れてから」と断りたい。
けれど父上の言う通り僕達は王都に滞在し過ぎだね。
そろそろ帰らないと運営に支障が出てくるかもしれないけど、父上の仕事も大事。
父上が二つをこなすことは出来ない。
これが普通の貴族家ならば雇っている文官がある程度処理して領地運営に支障がないように調節するだろう。
けど我が家は文官がいないからね。
「ちょっと脅しすぎたかな」
薄氷のような空気を父上がクスリと笑って割る。
「代行といっても大層な事ではない。今までアルフレッドがやってきたことをそのままやるだけだ」
言いながら机の上に出している一枚の紙を僕に渡す。
「これは領主代行書だ。これがあれば領地内で領主権限を使うことができる」
丸められた羊皮紙を受け取り開いて確認。
「確かに引き受けました。精一杯務めを果たさせていただきます」
「気負うな、というのは酷かもしれないが私でも領主が務まるんだ。アルフレッドならより上手くこなせると思うよ」
羊皮紙を大事に丸めて仕舞い込む。
僕の緊張をほぐすためとわかっていても嬉しいな。
「それと私達は他の貴族家と少し事情が異なる。もし一人では対処できないようなことがあればアリスの力で相談に来ると良い」
「任せるのです! 」
元気よく手を上げるアリスに「よろしく」と頼み僕達は執務室を出た。
そうと決まれば早速行動だ。
一時的にこの館を開けることを従業員に伝える。
同時にアリスの力の事も伝えて戻る時の準備を万端にする。
リリーにも伝えて、僕達は皆に見守られながらウィザース男爵領に戻った。
★
「久しぶりに帰ってきた」
館に帰ると僕の部屋に出ると、外から自然の光が差し込んできた。
けれど明るいとは言えない。
すぐに部屋を光で照らして灯りをともす。
全体が明るくなったことを確認して窓を開ける。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! 外から声が聞こえてくるのです! 」
「「「ギャァァァァァ!!! 」」」
「立たんか坊主共! それでも兵士か! 」
とても……、とても物騒な声が聞こえて来るね。
窓から様子を見ると人が四方八方に吹き飛んでいるのが見える。
「ちょっと訓練場に挨拶に行ってくるよ。二人は残りの部屋の窓を開けてくれ」
「畏まりました」
「わかったのです! 」
部屋はまだ埃っぽい。
アリスとフレイナに館の部屋の換気を頼んで僕は訓練場へ向かった。
訓練場には多くの人達が倒れている。
彼らは父上が連れてきたウィザース男爵家の領軍だ。
他の領地の領軍と比べると数は少ないけれどその実力は折り紙付きである。
そんな猛者達を一蹴した人物は、倒れている実力者の向こう側で、リーグルド達と戦っていた。
「死に晒せぇぇぇクソジジイ!!! 」
「感情に流されるな青二才が! 」
「当たるかっ! 」
リーグルドと戦っているのはウィザース男爵家の剣術指南役「ビャクレン」老だ。
彼は父上の剣の師匠でもあるらしく、軍を編成するにあたって父上が引っ張ってきた。
「っ! 何で詠唱破棄しているのにカレン様の方が速いのですかっ! 」
「若いね。その若さが命取りじゃ」
ヒョウカが氷弾を高速で数十打ち込む間に、対する茶髪の老婆はその倍の数をヒョウカに打ち込んでいる。
均衡なんてあってないもの。
すぐにヒョウカが打ち負けて氷壁を展開した。
ヒョウカに苦悶の表情を作らせているのは、ウィザース男爵家の魔法指南役「カレン」様。
彼女は母上の魔法の師匠であるらしく、こちらも軍を編成するにあたって母上が引っ張ってきた。
「……何でリーグルド隊はあんなに元気なんだよ」
「絶対にランク詐欺だろ」
「ってアルフレッド様?! 」
倒れている人達が驚きすぐに立ち上がる。
ピシっと背筋を伸ばして一斉に僕に向く。
「「「お帰りなさいませ」」」
野太い「お帰りなさいませ」が響き渡る。
統率がとれていて良い挨拶だ。
彼らに「ただいま」と返していると戦闘音が止んだ。
「帰って来ておったのかアルフレッド」
「王都に行ってまた良い男になったじゃないかアルフレッド」
「ただいま帰りました、ビャクレン老、カレン様」
いつの間にか隊列の一番前に移動しているのはいつもの事。
さっきまでの殺さんばかりの目とは打って変わって孫を見るような目を向けてくる二人。
「お、アルフレッド。帰って来たな」
「お帰りなさいアルフレッドさん」
遅れてボロボロのリーグルド隊がやってきた。
全員揃ったことで僕達が留守の間の事を聞く。
少々忙しかったみたいだけど、大きな問題は起ってないみたい。
簡単な報告を受け取り僕も武闘会で優勝したことを伝える。
「武闘会で優勝?! 」
「本当ですか! 」
「まさか武闘会優勝者が俺達の上司とはっ! 」
「実家に帰ったら自慢できるぜ! 」
王都で褒められなれたと思ったけど、やっぱり恥ずかしいのは恥ずかしいね。
けど報告しないわけにはいかない。
他の人が知っていて部下に当たる彼らが知らないとなると、トラブルが起きかねないし。
全員が静かになるまで少し待つ。
落ち着いた所で話を変えて王都で何が起こったのか伝えた。
「王都でもついに現れるようになったか」
「それも武闘会を襲撃するとは」
「指揮官のような悪魔獣がいたのかも」
「どこも安全ではない、と言うことですね」
各部隊に不安が広がる。
「これは訓練をより厳しくしないといけないのぉ」
「魔力を霧散させる悪魔獣か。面白い。こいつらを正面からぶつけてみたいのぉ」
不安が絶叫に変わった。
ビャクレン老とカレン様は「カカカ」と笑いながら冗談のようなことを否定しない。
ま、まぁ死なない程度に頑張ってほしい。
帰宅の挨拶と伝達事項を伝え終えて皆と別れる。
打撃音や絶叫をBGMに僕は館に届いた書類を手に執務室へ向かう。
大量の紙束を持ちドキドキしながら父上がいつも座っている椅子に座り作業開始。
「主殿。食事の時間になりました」
「ん? もうそんな時間? 」
窓を見ると日が落ちかけている。
かなり集中していたようだ。
んんっと背伸びをして一息つく。
時には領都に出て外食も良いかもと思いながら、書類を整理すると目につく嘆願書が出てきた。
「宿泊施設不足? 」
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