第62話 武闘会の報酬 2 アルフレッドの別荘 2
ナナホシ商会から派遣された人員との顔合わせが終わった。
館の中を一通り説明し終え各人解散。
一応今日からの出勤になるけど、人によっては準備が終わっていないかもしれない。
何せ突然の事だったしね。
「一通り館のチェックを終えました。アルフレッド様……いえ旦那様」
執事服を着てピンと背筋を伸ばし報告してくる白髪交じりの男性はラック。
彼は救った村の村長だった人だ。
聞くと彼の家系は使用人をしていたみたい。
けれど主家の没落と共に彼らも放り出されたとの事。
その後色々あって村長をしていたようだ。
まさに適任である。
「「ただいま帰りました」」
「ネネナナが帰ってきたみたいですな」
ラックが孫を見るような目で声が聞こえる玄関の方を見る。
ラックと共に玄関に向かうと双子のメイドが大きな籠を手に持ち食堂へ向かおうとしていた。
食料でも買いに行っていたのかな?
「ア、アルフレッド様! 」
「お疲れさまです旦那様」
ナナが慌てるもネネは静かに挨拶を。
二人はデベルト達から助けた人だ。
その後ナナホシ商会で働いてもらっていたのだけれど今日からこの館で働くことになった。
彼女達の仕事の様子は聞いている。
真面目で丁寧。テキパキと色々な仕事をそつなくこなすとのマリーの評価だ。
「全くナナ。アルフレッド様とお会いするだけで緊張するとは。それでもメイドですか? 」
「メイドなんて今日が初めてだよぉ」
「初めてであろうとメイドはメイド。どのような状況でも冷静に対処し仕事をこなす。それが出来なければ解雇されるかもしれませんね」
「そ、そんな……」
「アルフレッド様に助けを求めても無駄です。なにせ引導を渡すのは私ですから」
「裏切り者~! 」
「何とでも。しかしナナに残された道はきちんとメイドとしての役割をこなす道。けれど安心してください。ナナはダメダメですからね。私がきちんと一人前のメイドになるよう導きますので」
「ネネ~~~!!! 」
ナナが感極まってネネに抱き着く。
ネネが姉のように見えるが実はナナが姉。
感情豊かで元気なのがナナで、常に無表情なのがネネと覚えた。
しかし――。
「……ふっ」
ネネが僅かに笑みを浮かべた。
……楽しそうだな。
姉を弄って遊んでいるのだろうか?
「声が聞こえたと思ったら……。帰ってきていたのね」
「メリアさん、帰りました! 」
「ただいま帰りました。メリアさん」
「はい、おかえりなさい」
微笑みながらネネナナの食材を受け取るのはメリア。
彼女はナナホシ商会傘下の大衆食堂で働いていた人だ。
素朴な料理からスタミナ料理まで幅広い料理が得意なこの館のシェフだ。
今後誰か貴族が訪れる事もあるかもしれない。
だから貴族が食べるような料理はこれから覚えるとの事。
彼女達が仕事をしている所を軽く観察する。
不慣れな所は見えるけど大丈夫そうだ。
「アルフレッド様。この度は雇って頂きありがとうございます」
外に出ると作業服を着た人の良さそうな男性が頭を下げる。
彼はウェルドライン公爵家から紹介された庭師、ニックだ。
「手入れできそう? 」
「もちろんですとも。より綺麗に整えてみせましょう」
「よろしくね」
ニックが自信満々に言う。
けどその自信にも納得だ。
彼の家系は優秀な庭師を輩出する家系と聞いている。
ニックは去年身内の試験に合格したみたいで、貴族家の館で働くのはこれが初めての事らしい。
自信がないよりは多少過剰な方がこっちも安心する。
是非その腕をこの館で振るって欲しい。
「お疲れさまです兄貴! 」
「……っす」
「お疲れ様。やれそう? 」
「任せてください! 」
「……出来る」
「ちょ、ジュッソの兄貴も今日くらい大きな声を出していきましょうよ! 」
「……」
ニックと別れ門の方へ行くとそこには門番が二人。
小柄な男性が大柄な男性に注意すると黙り込んでしまった。
悪い人じゃないんだけどね。
槍を持つ小柄な男性はケッソという。
彼はある村の自警団の団員だった男性だ。
言葉使いからチャラい印象を受けるがとても優秀。
ナナホシ商会護衛隊では身軽な身のこなしで敵を翻弄していたと聞く。
またケッソと同じく槍を持つ大柄な男性はジュッソだ。
彼もケッソと同じ村の自警団の団長だった人物である。
無口で不愛想な顔をしているが、その人柄は優しく好感が持てる。
けれどその一撃は重く攻撃力だけを見たらAランクに匹敵する程。
凸凹コンビだけど、これから館の門を守ってほしい。
「ここがアルが貰った館なのね」
「……私よりも出世している気がするのは気のせいだろうか? 」
「細かい事は気にしないの」
ジュッソとケッソと話していると父上と母上が到着した。
館を見て父上が少し落ち込んでいるように見えるけど……、苦情は第二王子殿下までよろしくお願いします。
「アルフレッドはこの館に住むのかい? 」
二人と合流し館の中へ入り一階の談話室で一息つく。
僕に、とくれた館だけど王都にいる時は父上と母上も一緒に泊る予定だ。
「父上と母上が王都にいる間はここに住もうかと。父上が王城での仕事を終えたら一緒にウィザース男爵領の館に帰る計画です」
「安心したわ。こっちの方が住み心地が良いから、こっちに住むって言い出したらどうしようって、ウィリアムズが言っていたのよ? 」
「ア、アネモネ。それは言わない約束だろ? 」
「あら良いじゃないですか」
母上がクスクスと笑いながら父上の秘密を暴露していく。
父上が母上の暴走を必死になって止めていると時間が経った。
お腹が空いてきたなと思うとノックの音が聞こえてきた。
「お夕食のご用意ができました」
食事の用意が出来たみたいだ。
席を立ち食堂へ向かおうとするとチャイムの音が館に響いた。
「――し、少々お待ちをっ! 」
何事かと思い廊下に出るとネネが焦った様子で僕達の所にやってきた。
「ウ、ウェルドライン公爵家の方々がっ、お越しでございます! 」
まぁ、お隣だしね。
★
ウィザース男爵家ではふとした時、公爵家や王族と遭遇するイベントが時々起こる。
普通なら有り得ない事だが、ウェルドライン公爵家とのこれまでを考えると、十分にあり得ることだ。
なお王族との遭遇は事故だと思って諦めてほしい。
ということを館の従業員に知らせ絶望へ落とした後、僕達ウィザース男爵家の面々はガイア様達ウェルドライン公爵家の面々と食事を共にしていた。
「あまり食べない料理だが美味い」
メリアの料理はガイア様の口にも合ったようだ。
隣のローズマリー様も満足そう。
あとで二人の様子を伝えてあげようか。
「アル。手が止まっていますがどうしたのですか? 」
「少し考え事をしていただけだよ」
深く考え事をしていたわけではないけれどリリーを心配させてしまったようだ。
隣に座るリリーが気遣ってくれる。
けどリリー。何故僕の隣に座っているのだい?
リリーはガイア様やローズマリー様の方に座るべきだと思うのだけれど。
ともあれウェルドライン公爵家の突然の来訪というイレギュラーはあったものの今日の従業員との顔合わせは無事終了。
食事会の後、父上とガイア様は部屋で飲むということで別れた。
二人を館に置いて僕と母上はローズマリー様とリリーを見送り、一日を終えた。
★
翌日のこと。
今日は特に面会の予定等はない。
よって自由時間なのだけど、一階で寛いでいたら父上が声をかけてきた。
「アルフレッド。ちょっといいかい? 」
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