第61話 武闘会の報酬 2 アルフレッドの別荘 1
「でっか」
「あらあら~」
「豪華ながらも主殿の力を示すかのような館ですね」
「おっきな館なのです! 」
ナナホシ商会でマリーによる館で働く使用人の選抜試験が始まる前、僕達は貰った館を下見に来ていた。
場所は貴族街でも一等地でウェルドライン公爵家の館の隣。ここは騒がしいのを好まないのか数軒しか建っていない静かな場所だ。
入り口の門を潜り僕の目の前に広がるのは広い庭と白塗り巨大な館。窓の数を数えると三階建てみたい。
少し歩くと庭が見える。庭には自動で水が行き渡るようにしているのだろうか。中央にある噴水から放射状に水路が伸びている。
「……これ管理するの? というか出来るの? 」
「庭はともかくとして、中央の噴水はどうにかなるわね」
館に向かいながらマリーが説明する。
「この噴水は中央に水属性魔法が刻印されて、囲っている石材の裏に魔力を流せば発動する仕組みになっているわ」
マリーが白い石材の裏を覗いたかと思うと魔力を流す。
「わぁぁぁ。お水がいっぱい出たのです! 」
噴水の勢いが増してアリスがはしゃぐ。
アリスは興味深そうに右に左に周りを見る。
瞳を輝かせたかと思うと花壇の方へ走って行ってしまった。
「あまり遠くに行かないようにね、アリスちゃん」
マリーが白い石材から顔を離して声を張る。
勢いよく水を出す噴水も、寝転がったらさぞ気持ちいいだろう芝生が植えられた広い庭も、綺麗に整ったカラフルな花壇もウィザース男爵領の館では見られないものだ。
アリスにとって新鮮なものなのかもしれない。
そう思うと彼女がはしゃぐのもわかるというものだ。
「エニファーから貰った説明によると裏に訓練場があるみたいだけど」
「訓練場ですか?! 」
「……一応念押ししておくけど訓練しないようにね? 」
「く、訓練場なのにですか?! 」
「一般的な訓練場がフレイナの訓練に耐えることができるはずないじゃないか」
フレイナがわかりやすくがっくりと肩を落とす。
ウィザース男爵領で僕達が訓練をできるのは広い所でやっているからだ。
こんな各貴族家の家が集まっている所でフレイナが訓練するとテロ騒ぎになるだろうね。
「じゃ、開けるね」
落ち込むフレイナを連れ玄関に立つ。
アリスも戻り僕がノブを手にかける。
ゆっくりと扉を開けると、
「「「おおお~」」」
広く清潔な玄関ホールが迎えてくれた。
「これは予想以上ね」
マリーが妖しく微笑みながら周囲を見渡す。
何を企んでいるんだ?
少し心配になりながらもマリーが「館の様子を見てるわ」と言い奥の扉に消えて行ってしまった。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! 上の階を冒険したいです! 」
「物を壊さないようにね」
言うとアリスがタタタと階段の向こう側に消えて行く。
僕も館の中をチェックしに行こうと考えているとフレイナが少しもじもじとしている。
「……訓練場を見に行っても良いよ」
言うと「ぱぁ」っと表情を明るくし「行ってきます! 」と外に出る。
今度こそ、と思っているとチャイムが鳴った。
僕の冒険はまだ先になりそうだ。
「お招きいただきありがとうございます」
館を訪れたのはお隣さんになったリリーだった。
彼女には今日下見をすることを事前に報告しておいた。
誘わなかったらあとで恐ろしいことになるからね。
忙しいことは分かっているけどガイア様とローズマリー様も誘った。
けれど二人共今日は仕事があるようで後日また来るとの事。
代わりかどうかはわからないけどリリーはメイドを二人連れている。
双子だろうか?
メイド二人は顔がとても似ている。
「まだ家具とか何もないけどね」
「それは仕方ありません。しかしエニー殿下も随分と粋なことをされますね」
「粋かどうかはわからないけど物理的に近くなったのは確かだね」
王都限定だけど。
リリーもそれがわかっているのか軽く微笑み紅茶を飲む。
少し真面目な顔をして聞いてきた。
「この館の人員はどうするおつもりで? 」
「ナナホシ商会から選抜している所だよ」
「ウェルドライン公爵家も手を貸しましょうか? 」
「申し出は嬉しいけど出来るだけ自分の力でどうにかしようかと」
「……父が「アルフレッドが頼りにしてくれなかった」とごねますよ? 」
「それは困るけど……全てを任せる事はできないよ」
「因みに私もごねます」
「それも困る」
あの強面でごねられるとそれはそれで恐ろしい。
そしてリリーがごねると物理的に脅威が迫る。
「ならアルちゃん。庭師を紹介してもらったらどうかしら? 」
マリーが音も無く近付き提案する。
メイド二人が驚き硬直したかと思うとリリーを庇うように構えた。
ん~。普通のメイドとは思わなかったけどやっぱり護衛を兼ねたメイドだったか。
僕とリリーは慣れているから特に思わないけど初見の人からすれば、いきなり現れた魔王のような存在だろう。
「そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。彼女はウィザース男爵家の使用人です」
「で、ですがお嬢様」
「警戒する気持ちはわかります。しかしマリーさんとは昔からの付き合いなので大丈夫ですよ」
お嬢様がおっしゃるのならば、と渋々と言った感じで警戒を解く二人。
元の位置に戻るとマリーが話を続けた。
「今ナナホシ商会でね、この館で働く人を募集しているのだけれど、どうしても庭師は見つかりそうにないのよ」
「庭師ですか……。分かりました。手配しておきますね」
庭師の問題は本当に助かる。
庭師は専門職。そう簡単に見つからないと思っていたから助かった。
適当に整えるのなら出来るかもしれないけどせっかくの綺麗な庭だ。
出来れば綺麗な状態を保ちたい。
そのあと少し話をして時間と言うことでリリーを見送った。
★
「うさぎさん部隊なのです! 」
「??? 」
リリーを見送り食事も終えて昼も過ぎた頃。
マリーと一緒にナナホシの商会館へ従業員の選抜状況を確認しに行こうかと館の外に出ると、アリスが多くのうさぎに指示を出していた。
「このうさぎさん達がこの館の平和を守るのです! 」
アリスが腰に手をやりドヤッているとうさぎ達が「にゅ」っと可愛らしく前足を上げる。
なんとも愛らしい警備員だ。
「あら。監視兎隊じゃない」
「監視兎隊? 」
「そうよ。彼らはアリス傘下の諜報部員のような存在ね。強さはそこまでじゃないけど、このうさぎさん達の情報収集能力は超一級品よ」
想像以上に物騒なうさぎ達だった。
「さぁ皆頑張るのです! 」
アリスが号令をかけるとうさぎ達が四方八方に散る。
新しく館で働く人にはうさぎがいることと危害を加えないことを念押ししないといけないね。
アリスの監視兎隊とやらを見た後僕達はナナホシの商会館に向かう。
館での勤務は、ナナホシの人からすれば未知の職業。
応募が無かったらどうしよう。
けど逆に王都の館で募集に成功したら後でウィザース男爵領の館の使用人も募集していいかもしれない。
実家の使用人については後回しになっているのが現状だ。
資金にも余裕が出来たことだし、そろそろ手を付けても良いと思う。
もちろん父上や母上と話し合ってからになるけどね。
そうこう考えている間に商会館についた。
中に入ると見知った従業員達が忙しそうに仕事をしている。
目が血走っててちょっと怖い。
これは後にした方が良さそうだね。
「アルフレッド様! 会長! 」
「お、おぉ……」
「今日はどうされましたかぁ! 」
「や、館の件で来たんだけど……。忙しそうだし後でまた来るよ」
「その必要は御座いません! 」
「今すぐお茶とお菓子をお出しして! 」
彼女達はすぐにもてなそうとする。
今までも似たようなことがあったけど、今の状況はちょっと異常だね。
何が起こっているのか詳しく事情を聞いて助け舟を出した方が良いのかな?
でも彼女達の邪魔になるかもしれない。
「邪魔をするわけにもいけないし、応募状況だけ聞いて帰るよ」
「アルフレッド様のご命令です! お茶とお菓子は中止です! 」
「入れてしまいました! 」
「あ、あとで君達で食べると良いよ」
「「「ありがとうございます!!! 」」」
統率のとれた良い返事だ……。
じゃなくて館の応募状況を聞く。
すると彼女は拳を握りながら訴えるように強い口調で僕に教えてくれる。
「依頼者が殺到しています! というよりも私も王都の館で働きたいです!!! 」
怖い程に人気なようだ。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




