第6話 異様な賊
「魔硬連弾! 」
走りながらフォレストウルフに魔弾を放つ。
ヒットしたフォレストウルフが倒れて行くのを感じる。
けれど目をやらずに目の前の大きなフォレストウルフと対峙した。
「ガ! 」
ドン!
フォレストウルフの巨大な脚が僕を踏みつぶそうとする。
けれどそれを避けて懐に入りマジックソードを斬りつける。
悲鳴のようなものが聞こえる中、空中にマジックシールドを張りすぐに退避。
追撃が無いか気を張るけれど「ドン! 」と大きな音を立ててフォレストウルフのリーダーが倒れた。
「ふぅ。終了かな」
周りに魔物がいないか確認する。
マジックソードと解体用の短剣を使って手早く解体。
この世界の魔物は食べられる。
フォレストウルフも食べる事が出来る訳で。
僕が大森林から採ってくるものはウィザース男爵家の食卓に並ぶ。
解体を終えるとフレイナに向く。
彼女とアリスも手伝ってくれていたようで手元には解体されたフォレストウルフ達がいた。
「アリス。肉を頼む」
「了解なのです! 」
アリスに頼むと家とこの空間が繋がる。
向こう側から「あら~」とマリーの間延びした声が聞こえて来たと思うと向こう側からマリーがやって来た。
「凍結保存しておくわね」
マリーは魔法を使い肉を持ち上げる。
全部運んだかと思うと「夕食には間に合うようにね~」と言い門の向こうに消えていった。
相変わらず仕事が早い。
「領都側ではあまり見なかった大きさだったね」
「お兄ちゃんの二倍はあったのです」
「ええ。確かに大きかったですね」
領都側は比較的小型の魔物が多かった。
中型の魔物は比較的少なく少し奥に行かないと出くわさなかったのを覚えている。
けれど領都側から離れたここでは浅い所から中型の魔物が現れた。
これも地域差のようなものだろうね。
「しかし主殿。よく、あまり見たことのないサイズの魔物と冷静に戦闘できましたね」
「イレギュラーに慣れてきたみたい」
「流石主殿です。この短期間でよくここまで成長しましたね。これならば更に訓練を激しくしても大丈夫でしょう」
フレイナが無慈悲なことを言う。
けど訓練はするにこしたことはない。
ひと昔の僕なら全力で拒否していただろうけど、この世界には賊だけでなく魔物のような敵がいることを知っている。
そんな敵が領地を、家を襲ってくるかもしれないんだ。
もっともっと強くならないと。
そのためには自分の手で対処できる幅を広げる必要がある。
そういう意味ではフレイナ達の訓練はありがたい。
出来れば次の日に痛みや疲労を持ち越さないようにしてもらいたいが贅沢な要望だということは分かってる。
僕がもっとしっかりすればいいだけの事だ。
「さ。あと一狩りして帰りましょう」
フレイナが再開の合図をする。
僕は探知を広げて、戦いに出た。
★
アルフレッド達が魔物を狩り終えた頃、大森林の近くを通る街道では戦闘が繰り広げられていた。
「くそっ! なんだこいつら! 」
「人じゃない?! 」
「ははは。よえぇ! よえぇな! それでも公爵家の護衛か! ああ”」
「馬鹿にしやがっ……」
山賊のような男が剣を振る。
ずしゃぁぁぁぁ、と騎士が切り裂かれ次の獲物を探すために辺りを見渡す。
が腕を振り上げ気配を消して近寄っていた騎士を切り裂いた。
「奇襲なんて卑怯だなぁおい! ご自慢の騎士道精神とやらはどうしたぁぁぁぁぁ! 」
威圧の籠った声があたりに響く。
声が馬車を守っている騎士達の耳を直撃し膝をつく。
(ただの声がこれほどまで……。くそっ! 一体何なんだこいつは! )
騎士の一人が心の中で舌打ちをする。
残っている力で彼が顔を上げるとそこには山賊風の男達がいた。
騎士は憎たらしい腕を見て思い出す。
殆どの敵は普通の山賊だった。
襲撃当初山賊相手に騎士達が無双していたのだが、異形の右腕を持った男が現れて状況が一変。
殲滅間近だったにも関わらずたった一人で護衛騎士達を半壊させた。
(腕も異常だ。なんだあの獣のような腕はっ)
襲撃者が異常なのはその力だけではない。
剣を持つ賊の腕にはグリズリー系統の魔物のような禍々しく毛深い腕が生えていた。
毛皮ではない。
他の団員が切りつけた時、毛に血が滲んでいたのを見ると生きているようであった。
装備も普通の山賊ではない。
幾ら山賊達のリーダーとはいえ装備が整い過ぎているのだ。
それを見た瞬間騎士の男は山賊の後ろに誰かいることを察した。
豪商か、それとも敵対貴族か。
「どうしたぁ! 誰もビビって来れねぇってかぁ!!! 」
獣のような咆哮が周囲に轟く。
「こねぇってんならこっちも仕事をさせてもらうぜ」
「ま、まて! 」
騎士は声を上げるも体が麻痺して動かない。
(このままではお嬢様がっ! 誰か……誰かいないのかっ! )
悪魔のような存在が馬車に近付く。
騎士は体を這いずらせながらも止めようとする。
だが間に合わない。
男が馬車に手をかけようとした瞬間――。
「吹き飛べ!!! 」
一人の少年が降り立った。
★
異様な気配を感じて来てみたけど来て正解だったね。
「んだぁ? ガキ」
「フレイナ、アリス! 他の賊を! 」
「我が剣に代えても! 」
「分かったのです! 」
到着した二人が散っていく。
「無視すんなや、ゴラァ! 」
賊達の悲鳴が聞こえる中目の前の敵に集中する。
普通の賊じゃないな。
まだ殺したら駄目だ。
迫って来る異形の賊を弱めた魔弾で吹き飛ばす。
「がぁっ! 」
賊が膝をつき憎々し気に僕を見上げる。
「貴方が誰かとても気になりますが……、その前にその魔物のような腕は何ですか? 」
魔力視で腕を見ると禍々しい魔力が纏わりついている。
明らかに人のものではない。
「誰が言うかよっ! 」
大男が息を整えながら立ち上がる。
言わないだろうとは思っていたけど……、情報は欲しい。
さてどうしようかと考え周囲に耳を澄ませる。
賊達との戦闘は終わったようだ。
なら――。
「アリス」
「はいなのです! 」
「奴から情報を引き出せるか? 」
「ちょちょいのちょいなのです! 」
「――殺す! 」
腕に魔力を纏わせて突っ込んで来ようとする男の前に出る。
「ちょっと大人しくし――ろ! 」
勢いのまま背負い投げをする。
ドン!!!
男が地面にたたきつけられ「かはっ! 」と口から空気が漏れた。
一瞬気が飛んだのを察知してアリスが手際よく力を使う。
「では行くのです! 心よ開け! 」
すぐに意識を取り戻した男が虚ろな目をしたのを確認。
いつ見てもアリスの力は恐ろしい。
本当に仲間でよかったと思いながらも賊に寄る。
「さてと。お前のその腕は何だ」
聞くと男が虚ろな目をしたまま俺を見る。
焦点が定まっていない瞳で口を開いた。
「……これはブラッディベアの、の、の、の……がぁぁぁぁぁぁ!!! 」
「アリス一旦離れるぞ」
「はいなのです! 」
男がいきなり苦しみ出した。
少し宙に浮いたかと思うと腕がどんどんと肥大化している。
「なんだこれは……」
「体の構造から変質しているようですね」
フレイナが観察しながら教えてくれる。
情報は諦めた方が良いみたい。
賊だった男に向かって歩く。
膨張を続ける腕が体を侵食するように色が変わり体毛が生えている。
姿は完全にブラッディベアだ。
マジックソードを手に持って彼の前に立つ。
開いた口からは獰猛な歯が見え涎が地面まで落ちている。
「ガァァァァァァァァァ!!! 」
爪を立てて振りかざしてくる。
動きは緩慢。
「遅い」
ゆっくりと剣を振ってブラッディベアを真っ二つにした。
戦い終えて緊張を解く。
ふぅ、と息を吐いて振り返るとフレイナとアリスが寄ってきていた。
「流石お兄ちゃんです! 」
「流れるような剣捌き。綺麗でした」
褒める二人に「そうでもないよ」と答えて頬を掻く。
嬉しいのは嬉しいのだけれど、実際僕よりも遙かに強いこの二人に褒められても実感がわかない。
賊は倒したのだけれどまだ気を緩めていいわけでは無い。
気を引き締め直して騎士達のリーダーを探す。
周りを見回していると、馬車の扉から同い年くらいの女の子が現れた。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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