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第59話 マリーは今日も忙しい 3 マリーのお仕事

 マリーは商会館の執務室で仕事を済ませて服を着替える。

 荷物を纏め、ぬいぐるみ達に指示を出すとぬいぐるみ達がぬっと手を上げた。


「あとはよろしくね」


 それを確認したマリーは執務室から出る。

 今日はウェルドライン公爵家のお茶会に呼ばれている日。

 ウィザース男爵領で働いている時も商談に合わせてお茶会が開かれることはよくあった。

 手紙の返事によるとローズマリーが今回のお茶会に他の領地の奥様方も呼んでいるみたいで。

 それもあってか今日のマリーは一段と気合が入っていた。


「ふふふ。商機(しょうき)ね」


 すれ違う従業員が距離を置くほどに悪い顔をするマリー。

 だがある部屋を過ぎ去ろうとした時、彼女はある違和感に気が付く。


「あら? 音が……」


 マリーは不自然なほどに音が漏れてこない部屋を見て注視(ちゅうし)する。

 この商会館は再利用したものだ。

 その上でマリーが魔法で防音をかけているが、それでも魔法をかけた本人(マリーの耳)を誤魔化すようなことはできない。

 このようなことができるのは分かっている中でも一人だけ。


「あら何をしているのかしら」


 マリーが扉を開けて中に入ると真っ暗な場所に出る。

 一歩進むと机の上にマジックアイテムの光が灯っているのがわかる。

 それらは席に座る不気味な女性達(従業員達)とアリスを映し出していた。

 余程(やく)に夢中となっているのか、それとも集中しすぎているのかアリスはマリーに気が付いていない。

 気付かづまま、アリスは(ひじ)をついて手を組み悪い顔をし従業員に言う。


「ふふふ……。皆の者よく集まってくれたのです」

「お菓子が無くなっていますよ総帥」

「お茶も切れていますよ総帥」

(くる)しゅうないのです」


 さながら悪の秘密結社の様相(ようそう)(てい)していた会合はすぐにお気楽なお茶会に変わる。

 彼女達はまだマリーに気付いてない様子である。

 マリーは「このくらいなら放っておいてもいいかしら」と思い始めた所でアリス(総帥)は「ふぁ~」と息を吐きカップを机に置いた。


「マリーもいないのです! さぁ皆でお兄ちゃんについて語り合うためのファンクラブを始めるのです! 」

「「「おおお! ……お……、お……」」」

「マリーに言うと「こうしき」とか「ひこうしき」とかめんどくさい事を言うのです。そんなお小言(こごと)は御免なのです。アリスはもっと自由に語り合いたいのです! 」

「そ、総帥」

「どうしたのです? お兄ちゃん愛用のコップが欲しいのですか? 」

「それはとても興味深いですが……。いえ総帥。後ろを見てください」

「うし……ろ……」

「あら~。わたしを抜きに楽しい事をしているじゃない。アリスちゃん」


 アリスが振り向くと余裕から絶望した表情に移り変わる。


「な、なんでマリーが」

「わたしに聞こえないように防音をかけるなんてアリスしかできないでしょう? 」


 あくまで笑みを絶やさずアリスに言う。


「わたしもその楽しいファンクラブに入れてくれるでしょうね? 」

「「「は、はい!!! 」」」


 従業員達が勢いよく立つ。

 彼女達を見てアリスが声を上げる。


「う、裏切り者なのです」

「もうアリスちゃんったら仲間にそんなことを言わない。さ、会合とやらを始めましょう」


 ウェルドライン公爵邸へ向かうまでの僅かな時間。

 マリーは「アルフレッドファンクラブ (非公式)」を傘下(さんか)に収めて商会館を出た。


 ★


「こちらが新作のお菓子でしょうか? 」


 ローズマリーを中心にして三人ほどの貴族家夫人が椅子に座っている。

 彼女達は後ろに立つマリーにお菓子の話を聞く。

 マリーの説明に満足したのか談笑に戻ると、ローズマリーがマリーに提案した。


「マリーさんも席にお着きになって」


 その言葉に他三人が大きく驚く。

 このグループの長であるローズマリーがマリーの事を認めたのだ。

 高位貴族の妻である彼女達が驚く中、マリーは「では失礼して」と慣れた様子で席に座る。

 美しくも大胆不敵にして豪快な商人マリーならではの行動であった。


 マリーを含めた五人で談笑は続く。

 途中緊張ゆえかマリーにアルフレッドのことを聞こうとしたものもいたが、それを軌道修正しながら一段落着いた。


「今日も主人が遅くて」

「こうも遅くなると……ねぇ」

「王城の女にうつつを抜かしていたら締め上げないといけませんわ」


 彼女達は「ほほほ」と笑う。

 目が笑っていないと思っているのはマリーだけではないだろう。


「しかし……悪魔獣(ビースト)、でしたか。武闘会を襲撃したのは」

「そう聞き及んでいます」

「聞けばその悪魔獣(ビースト)という魔物は最近各地で多くなっているとか」

「そうそう。領地でも報告が上がっているようですわ」


 各地、と聞いてマリーの耳がピクリと動く。

 マリーが知っているのはウィザース男爵領都ウェルドライン公爵領。そして王都だけ。

 新しい情報に興味が湧きながらも心を落ち着かせて三人に聞いた。


「どのような種類が出たかご存じでしょうか? 」

「種類……」

「聞いていませんわ」

「ただ強力な魔物とだけ……」


 悪魔獣(ビースト)の発生が局所的ではない事がわかるも、それ以上の情報を得ることが出来なかった。

 得られた情報量の少なさに少し肩を落としていると、ふと思い出したかのようにマリーに声をかけた。


「そう言えば北のノーゼ公爵領で多く発生していると、夫が愚痴(ぐち)っていましたわ」

「ノーゼ公爵領……ですか」

「ええ。おかげでノーゼ公爵領を通過する品物は全て値段が上がっていますの。ですからマリーさん、少しお話があるのですが」


 お話……、商談を持ち掛けられマリーはホストであるローズマリーに目配(めくば)せで聞く。

 ローズマリーが微笑みながら軽く頷くと、マリーはお礼を言い二人でその場を退出した。


「今日の所はお疲れ様」

「「「お疲れさまでした」」」


 今日の仕事を終えたマリーは身支度をしてホテル「ナナホシ」に戻る。

 時々明るい光と騒がしい声がマリーの耳に入るが、ホテルへの道は真っ暗だ。

 もう夜も遅い。


「お帰りなのです! 」

「戻ったのだな。マリー」

「お帰りマリー」


 ナナホシに戻るとアルフレッド達が一階で出迎える。

 突然の事で驚きながらも「ただいまぁ」と返す。

 ホテル(ホーム)に戻ったせいか、マリーが大きく息を吐き気を抜く。

 かなり疲れていたようだ。


 (戻ると疲れが一気に出て行く気がするわぁ)


 すっかりアルフレッドがいる所が帰る所になっていることに嬉しく思いながらも、夕食がまだだったことに気が付く。


「帰ったのかいマリー」

「マリー。お疲れ様です」


 上の階からウィリアムズとアネモネが降りて来る。

 ウィリアムズは食堂の方へ行き、アネモネが台所の方へ向かう。

 マリーは食堂の方へ向かうアルフレッド達について行きながらも不思議に思い、ふときいた。


「皆でお夜食ですか? 」

「いいや。まだ食べていないんだ」


 アルフレッドが答えると少し目を見開いて驚いた。

 確かにウィザース男爵領にいる時は全員で食べていた。

 けれど王都で仕事を始めた時は忙しくなることがわかっていたから、アルフレッド達に先に食べているようにと伝えたからだ。


「そんなに不思議? 」

「全員で食べる事が出来ない日もあるけど、出来れば皆で食べたいからね」


 ウィリアムズが微笑みながら席に座る。

 マリーはアルフレッドを待たせた罪悪感と、ウィザース男爵家の人達が待ってくれていた幸福感を覚えながらも席に座る。

 

「さ。厨房を借りて作ってきましたよ。皆でいただきましょう」


 アネモネが良い香りを漂わせながらスープを持ってくる。

 その後ろにはこのホテルの従業員のアイナとルーニャが他の料理を運んでいた。

 どうやら彼女達を起こしてしまったみたいだ。


「では祈りを」


 食前の言葉を口にしてマリーは温かい料理を口にした。


 そして話はアルフレッドの元へ戻る。

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