第58話 マリーは今日も忙しい 2 ワンダーアリスのおつかい
杖の武器「マリー」は頭脳派である。
彼女は様々な知識を有している為ナナホシ商会の商会長を任されている。
そんな彼女はぬいぐるみ達が働くファンシーな執務室で一枚の手紙を書き終わった。
「……これはアリスちゃんに頼もうかしら」
マリーがポツリとこぼすとぬいぐるみの一体が彼女に近付く。
座る彼女を見上げながらぬいっと手を上げ提案する。
「アリスちゃんを連れてきてくれるの? それじゃぁ頼もうかしら」
ゆっくりとした口調でぬいぐるみに頼むと、それは扉を出て行った。
秘書ぬいぐるみを待ちながら仕事をしているとアリスがぬいぐるみを抱えて部屋に入る。
「どうしたのです? 」
「アリスちゃんに頼みたい事があるの」
「頼みたいこと、ですか? 」
マリーがアリスに頼み事をすることは少なくない。
よって特に疑問に思わずマリーが差し出す手紙を受け取る。
「これをね。王都にあるウェルドライン公爵家の別荘に届けてほしいの」
「お安い御用なのです! 」
「でその場所なんだけど――「では行ってくるのです! 」……」
場所を教える前にアリスが力を使い商会館から出てしまう。
マリーは不安を抱えながらも次の仕事に取り掛かった。
★
「……迷ったのです」
アリスは早速広い王都に迷い落ち込んでいた。
ここは王都。
一歩歩けば賑やかな人に迷路を築くように配置されている建物の数々。
アリス達が王都に来て時間が経つとはいえまだまだ場所を把握できていない。
ましてや貴族街となるとどの館がウェルドライン公爵家のものなのか、アリスには判別がつかないだろう。
「元気を出せ、ですか? 」
アリスが抱える秘書ぬいぐるみは彼女のホールドを外れて型にポンポンと軽く叩く。
「そうですね! この程度で落ち込んではいられないのです! 」
元気をもらったアリスは顔を上げる、そしてウェルドライン公爵邸探しを再開した。
「あら。そこにいるのはアリスさんではありませんか」
「リリー! 」
アリスが目的地を探しているとリリアナが声をかける。
アリスが振り向くとそこにはいつもと違うリリアナがいた。
今の彼女はいつもと違い白い訓練用の服ではない。
下に長ズボンを履いたワンピーススタイル。
色合いも薄いブルーと落ち着いており全体的にシックなイメージを出している。
いつもと服が異なるがリリアナはリリアナ。
アリスは「タタタ」と駆け寄りにぱぁっと笑みを浮かべてリリアナに声かける。
「リリーはどうしてここにいるのですか? 」
「それは私の質問なのですが……。私は買い物からの帰りになります」
リリアナが手に持つ袋を軽く上げてアリスに説明する。
「お買い物? 」
がアリスは不思議そうに首を傾げ、周りを見た。
彼女は仮にも公爵令嬢。
一人で買い物に出歩くようなことは、常識的ならばやらないだろう。
それにリリアナはこの前までアンテ・ノーゼというストーカーに付きまとわれていた身だ。
「なるほどなのです。お買い物ですか」
「そうなのです。お買い物なのです」
アリスは護衛を見つけて一人でない事を理解する。
二人はクスリと笑い歩きだした。
「そう言えばリリーはお兄ちゃんの事が好きなのです? 」
脈絡のない言葉にリリアナが咳き込む。
「い、いきなり何をいうのですか?! 」
「いきなりではないのです。リリーのラブラブ光線は昔からお兄ちゃんに送られているのです」
核心を突く言葉に少し顔を引き攣らせるリリアナ。
まさか自分がそんなにも分かりやすいとは思っていなかった。
彼女も散々アルフレッドに「顔に出やすい」と言ってきた。
リリアナはこの先アルフレッドの事を言えないだろう。
「……好きですよ。人としても、武人としても、異性としても」
「ふ~ん。なのです」
アリスの返しに僅かに動揺するリリアナ。
好きであることを告白すると、取り返しのつかないことになる可能性を考えていたからだ。
リリアナからみてアリス達はアルフレッドに好意のようなものを持っているのは確かに見える。
少なからず反発されると考えていたのだが……。
「アリス達はお兄ちゃんの武姫なので」
「武姫? 」
聞きなれない単語に首を傾げるリリアナ。
その不思議な言葉を追及する間もなく二人と一体はウェルドライン公爵邸に着いた。
★
「確かに預かりました」
ウェルドライン公爵邸の応接室でアリスがローズマリーに手紙を渡す。
「お返事を書きますのでそれまでリリアナとお茶をお楽しみください」
「はいなのです! 」
そう言い残すとローズマリーは部屋を出て行った。
リリアナに促されて対面に座る。
アリスにしては少し大きすぎるくらいのソファーに座る。
彼女は機嫌よく可愛らしい足をぶらんぶらんとさせている。
ほどなくして部屋の中にメイドが入る。
ウェルドライン公爵領の応接室よりも広い部屋を銀色のワゴンが進む。
アリスの元へ香ばしい香りが漂い、彼女はどんな美味しいものが入っているのだろうと目を輝かせた。
「クッキーなのです! 」
「今回は趣向を凝らせて果実を入れてみました」
メイドが出た後リリアナが説明する。
早く食べたい。
今にも飛びつきそうなアリスに顔を綻ばせながらもリリアナは一つクッキーを摘まんだ。
「さ。頂きましょう」
「頂くのです! 」
早速一つ手に取り口に入れる。
――サクッ!
いい音が部屋の中に鳴る。
「美味しいのです! 」
「果実の酸味と甘さが程よく出ています。ですが……」
「マリーのお菓子には届かないのです」
言いにくい言葉をさらっと告げるアリス。
それに苦笑いしながらも「確かに」と思いつつクッキーをもう一つ手に取る。
この果実入りクッキーは確かに美味しい。
果実の味を利用した新しさに加えて今の味の流行に乗せている。
だが果実を使った影響だろう。
クッキーが僅かに湿気を帯びていたりとリリアナからすれば気になる所が多い。
普通の人なら気にしない。
だがここは公爵家だ。客に出すお菓子としては二級品。
料理長の「早く食べてもらいたい」という思いが暴走したのだろうと、リリアナは想像した。
二人が食べながら会話をしていると器の底が見え始める。
楽しい時間ももう少しという所で、ローズマリーが部屋に入ってきた。
「ではアリスさん。これをよろしくお願いしますね」
「お任せなのです。きちんと届けるのです! 」
アリスが差し出された手紙を受け取る。
ローズマリーは元気な顔にクッキーの欠片が残っていることに気が付く。
彼女はハンカチを取りアリスの顔を拭った。
「あらこのお菓子は」
「先日料理長が完成させたものになりますね」
完成させたもの、と言う割にはリリアナの表情が浮かばない。
その理由を察して心の中で苦笑しながらも、ローズマリーはアリスに伝言を頼んだ。
「アリスさん。もう一つ頼まれてくれませんか? 」
ローズマリーの言葉に頷くアリス。
そして彼女は秘書ぬいぐるみと共にナナホシ商会の商会館へ戻った。
★
「公爵家の料理長と一緒にお菓子作りですか」
アリスが受け取った伝言を聞いて頭を悩ませるマリー。
お菓子事業はナナホシ商会を支える柱の一つ。
おいそれと技術を渡すわけにはいかない。
けれどこれは公爵家からの申し出で簡単に断ることができない。
「引き受けましょう」
アリスのいなくなった部屋でマリーが決める。
製菓技術を盗まれる可能性がある決定だが彼女には「盗まれない」という自信があった。
「ふふ。流石に果実入りクッキーをそのまま出すわけにはいかないわね。ここは共同で――」
すぐに頭を商売モードに切り替える上司に「また始まった」とばかりに首を振るぬいぐるみ達。
ぬいぐるみ達は悪い笑みを浮かべるマリーに呆れながらも仕事を続ける。
マリーの仕事はまだまだ続くのだ。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




