第57話 マリーは今日も忙しい 1 面接試験官フレイナ
王都にて執り行われた武闘会で優勝したアルフレッド。
悪魔獣による混乱が発生したものの、時間の経過と共に落ち着いた。
けれどアルフレッド達はまだ王都を離れていない。
それは父ウィリアムズ・ウィザースが王都で缶詰めになっているからだ。
「じゃぁアルちゃん行ってくるわね」
「僕がいかなくても大丈夫? 」
「大丈夫よ。アルちゃんの影響力を使わせてくれたらそれで」
ホテル「ナナホシ」の一室にて、大きなとんがり帽子を被った女性——マリーが主人アルフレッドに笑いかける。
彼女の言葉にアルフレッドは顔を歪める。
――影響力。
それは武闘会決勝戦で彼の「疾風迅雷」と有名なリリアナ・ウェルドラインを圧倒的な実力で打ち勝って得たものである。
アルフレッドからすれば今すぐにでも返上したいものだ。
けれどもマリーの言葉に首を横に振らない。
というのもアルフレッド自身、自分の影響力を使うことでマリーが管理・運営している「ナナホシ商会」が潤うことがわかっているからだ。
「いつもありがとう」
「こちらこそよ。アルちゃんのおかげで退屈しないわ」
「それは褒めてる? 」
「もちろんよ。じゃ、いってきま~す」
「行ってらっしゃい」
アルフレッドはマリーを見送り、彼女は扉を開ける。
――マリーは今日も忙しい。
★
アルフレッドの武姫にしてナナホシ商会の会長であるマリーは、現在ナナホシ商会グループのすべてを仕切っている。
ナナホシ商会の従業員の殆どはウィザース男爵領で雇った人だが、中にはアルフレッドが助けた人、はたまた現地で雇った人もいる。
けれども現在進行形で急拡大しているナナホシ商会の全てを賄うことはできていない。
「今日もよろしくね」
マリーが声をかけると何十ものぬいぐるみが「ぬっ」と手を上げる。
そして仕事に取り掛かった。
「会長。お客様が……、っとすみません。秘書の方々と打ち合わせ中でしたか」
王都勤務になった女性従業員がいつもの見慣れた光景にほんわかしながら申し訳なさそうに言う。
マリーも「大丈夫よ」とほのぼのした声で答え、用件を聞く。
従業員が来客をマリーに伝えるとぬいぐるみを二体連れて一階へ下りた。
「――ではこれからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いしますね」
マリーの対面に座った男性が軽くお辞儀をして握手を求める。
マリーが一瞬顔を顰めるが相手は気づかない。
そして二人は握手を交わし契約を結んだ。
「流石マリー様ですね。新しく契約を結ぶなんて」
「王都支店なんてこの前建てたばかりなのに……、流石です! 」
「これからウィザース男爵領にイーゼ公爵領の野菜が入ってくるのですね」
「これで私達の食事がさらに豪華に……」
「欲望駄々洩れ……」
涎を垂らす同僚に呆れる従業員。
それを見ながらマリーは資料に目を落とす。
ナナホシ商会王都支店はアルフレッドが武闘会で優勝したことを機に、撤退した商館をそのまま使って、開いたものだ。
今王都でアルフレッドの人気は非常に高い。
そのおかげかアルフレッドも手掛けているナナホシ商会も噂になっている。
これを商機とみたマリーが王都支店を開いたという経緯がある。
「アルちゃん人形……。すごい売上ね」
「流石アルフレッド様ですね」
「美しくも可愛らしいお顔をしているので売れるための素地はあったのかと」
「それに加えて武闘会優勝です」
「人気にならないはずがありません」
武闘家バージョンから魔法剣士バージョン。中にはお昼寝アルフレッドに、抱き枕用アルフレッド等々。
その殆どが貴族用であるが、中には「旅の安全」を祈った行商人が買ったり、その強さにあやかろうとした冒険者が買ったりと様々な人の手に渡っている。
意外なのは女性だけでなく男性にも人気だったことだろう。
正式名称「アルフレッド人形」を彼が泣きながらマリーに抱き着き販売を止めようとしたのは想像に難くない。
そして誰がコンプリートしているかはも……想像に難くない。
「あら? これは」
マリーが書類を読んで首をかしげているのは代表者の名前が書かれた求人票であった。
この国の識字率は高くない。
よってナナホシ商会の職員もしくは推薦者が、名前などを書いてまとめて、求人票としてマリーの所まで報告に上げる。
その中に見知ったBランク冒険者をマリーが見つけた。
「ん~。わたしは手を離せないし……」
「どうかされましたか、会長? 」
自分の書類を片付け終えた従業員がマリーに聞く。
マリーが事情を話すと女性従業員が提案した。
「ではフレイナ様を呼んできましょうか? 」
「……そうね。頼むわ」
マリーが頼むと従業員が扉を出て行く。
マリーが仕事を進めているとフレイナが部屋に入ってきた。
「どうしたマリー。困りごとか? 」
「実はね。フレイナちゃんに護衛隊志望の子達の面接を頼みたいの」
フレイナはマリーの秘書人形をつけて面接会場へ向かった。
★
商人が自分や商品を守るために冒険者のような護衛を雇うことは多い。
その中でも一部の商人は自分で腕利きの者を見つけて護衛にすることがある。
ナナホシ商会では様々な人材を雇っている。
中でもアルフレッドが助けた人達は特に戦いに適正を持っていたりする。
そのような人材は店で働くことに加えて護衛のようなことをする者が多い。
――ナナホシ商会護衛隊。
彼らは店で働く者達とは性質が異なる。
護衛隊の者達は一か所の店で働くのではなく品物を輸送する行商人について護衛する集団だ。
「きたにゃ! 」
武闘会の時に知り合った冒険者三人を見てフレイナは顔を顰める。
「お前達……、冒険者はどうした? 」
「辞めたにゃ」
「こっちで働いた方が良さそうだしな」
「あわよくばお近づきに……」
冒険者を辞めてきたというのに元気有り余る元Bランク冒険者ミカ・イオナ・レナを見て気分が重くなるフレイナ。
彼女達の後ろには他にも多くの受験者がいる。
実力が保証されていない彼らと比べると高位冒険者である彼女達が志願してくれるのは商会的にメリットがある。
だがフレイナは素直に喜ばない。
「この仕事を舐めてもらっては困るんだが」
フレイナは剣を抜きながら呟く。
苦労人のミカはおいても、主に悪い影響を与えそうなイオナとレナ。
武闘会開催中も主に迫ろうとしている彼女達を何度斬り倒そうと思ったことか。
「さてこれから試験を始める」
「め、面接なのに何でそんな物騒なものを構えているのにゃ?! 」
面接受験者がざわめく中、フレイナは気にせず試験内容を伝える。
「今回の試験は一分間私から逃げ切る事。それだけだ」
フレイナの言葉を受けてマリーがつけた熊の人形が旗を持ち、振り下ろした。
フレイナは基礎体力試験を終えるとマリーがいる王都支部へ戻る。
商会館の中を歩きマリーの元へ報告に戻ろうとするとフレイナの超聴覚が話し声を捉えた。
「――アルフレッド様人形。やっと手に入りましたわ! 」
「羨ましいです……」
「見てください! やっと。やっと三人姉妹の皆さんの人形が出来上がりました! 」
「「「おおお!!! 」」」
フレイナは聞き捨てならない単語を聞き部屋に向かう。
アルフレッドの人形が売られている事は知っている。
だがフレイナ達の人形が作られているという話は出ていない。
(マリーが企画を潰したはずなのに……)
自分達の人形と聞きすぐに潰した人形化計画。
マリーが武姫達を人形にした所で収益にはつながらないとそれっぽい理由で潰したが、本当の理由はアルフレッドと同じく「恥ずかしいから」。
(まさか水面下で作られているとは。どうにかして止めないと! )
フレイナは扉に手をかける。
だが歓喜に沸いている彼女達の声が聞こえ、反射的に手を放してしまう。
「――そしてこちらの三人姉妹の皆さんを合わせると……」
「「「念願の|アルフレッド様と三人姉妹の完成です! きゃぁぁぁぁぁ!!! 」」」
扉の向こう側から黄色い歓声がフレイナに届く。
その後商会館の一階で怒鳴るような大声が聞こえ、顔を真っ赤にしたフレイナがマリーの元へ訪れたらしい。
なお|アルフレッド様と三人姉妹と呼ばれるセットは非公式ファンクラブにて流通することになった。
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