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第56話 成功体第一号

「クソがっ! クソがクソがクソがッ! 」

「ぼ、坊ちゃん。おやめください」

(うるさ)い! ボクに指図をするな! 」


 パリン! と物が割れる音が豪華な部屋に響く。

 ノーゼ公爵家の使用人は「ひぃ」と一歩下がる。

 彼女の周りの同僚達も困ったような顔をするが、それでも彼を止めようとする。


「お気持ちはわかりますが……」

「お前なんかに気持ちがわかってたまるかっ! 」


 アンテがギロリと使用人を睨むと机から手を離す。

 大きく腕を振り使用人を払い、吹き飛ばす。

 彼は壁にぶつかり気を失った。


「執事長! 」


 アンテはこれでも武闘会で上位に入る実力者だ。

 アルフレッドに一撃で負けたとはいえ大男を吹き飛ばすだけの力はある。

 それ故このノーゼ公爵家で最も屈強な執事長を連れてきたのだが、意味はなかったようだ。


 これまでにもアンテが癇癪(かんしゃく)を起すことはあった。

 だが今日は今までの日ではない。

 まさに烈火(れっか)(ごと)く、と言う言葉がふさわしい程アンテは激情に駆られていた。


「はぁ……はぁ……はぁ……。いいかこの部屋に誰も入れるな! 」


 その言葉に使用人達が大きく頷く。

 制御かなわない(あるじ)の息子に怯えながらも執事長を引っ張って出て行った。

 アンテは息を荒げながら顔の包帯を外す。


「くそがぁっ……」


 そこから現れたのはぐちゃぐちゃに変形した顔。

 今の彼の姿は決してイケメンとは言えない姿である。

 

 アンテは何も理由もなしに暴れていたわけではい。

 アルフレッドの一撃を顔面で受けたアンテ。

 その一撃は本来ならそのまま死亡、よくて脳に機能障害が起こるレベルの大ダメージをアンテに与えた。

 しかし父が用意した優秀な医師と神官の手によって奇跡的な回復を。

 だが一部、どうしても顔だけは治すことが出来なかった。

 何故治せないのか医師達もわからない。

 まるで呪いのようだと(さじ)を投げ、結局顔面は崩壊したままであった。


 それに納得しないのが本人アンテ。

 自慢の顔は彼のアイデンティティの一つ。


 ――こんなのボクじゃない!


 怒り、暴れ、食事を拒否し……。

 健康を保つことで維持していた彼の髪や肌もボロボロになり更に自分を否定することになる。

 悪循環である。


 この時点で、ある意味リリアナのアルフレッドへの依頼は達成していたのかもしれない。


「あの無能な医師も神官も……。この……このボクの顔をぐちゃぐちゃにしたアルフレッドも見る目のないリリアナも……。いつか……、いつか必ず悲惨な目にしてやる! 」

「……そしてまたやられるのか? 」

「二度とあんな無様をさら……、父上? 」


 アンテの耳に男性の声が届く。

 彼が振り向くと疲れが入った表情をしているアンテの父——シャルル・ノーゼがそこにいた。


「試合を観たが……、どんな策を(ろう)しようともアンテ、お前では敵わないぞ」

「そんなことはありません」

「あるとも。あれは人が辿り着ける領域ではない」


 アンテの実力は国内でも上澄(うわず)みだ。

 それは彼が剣や魔法の分野において天才と呼ばれる(たぐい)の人物だからである。

 しかしアルフレッドやリリアナのように才覚を伸ばすための訓練を行ってこなかった。

 その差が現在天と地の差になっている。


「だが……。更なる力があればお前の望みが叶うかもな」

「更なる力? 」


 シャルルは頷きアンテに問いかける。


「私の息子アンテよ。力が欲しくないか? 」


 ★


 アンテは夜シャルルに連れられて王都を出る。

 二人は森がある方向へ足を進め暗い教会のような所に辿り着いた。


 ――暗い。


 夜ということもあるが、それ以上に教会が(かも)し出している雰囲気からアンテはそう感じた。

 外観は普通の教会だ。

 ボロボロになっているわけでもなく、今も運営されているような清潔さがある。

 異様としかとらえることができない教会に少し不安を覚えながらも、アンテは父について教会の中へ足を踏み入れた。


 教会の中は無人だった。

 シャルルが光球(ライト)が付与されたランプを照らしながら無言で歩く。

 幾つも並ぶ横に長い椅子を過ぎ、(しゅ)祭壇の前まで行くと、シャルルは(かが)みおもむろに床を開けた。


「隠し扉?! 」

「静かに」


 アンテの声が静かな教会に響く。

 この先も静かにするように言われ、アンテは口を閉じる。

 不安よりも好奇心が勝ったようだ。

 アンテはシャルルの後ろについて階段を降りる。

 暗いが空気に湿気は含んでいない。

 どちらかというと乾燥しているようだ。


 階段を降り切ると長い道に出る。

 そして、広い空間に出た。


 (なんだここは……)


 シャルルが先に進む中、アンテは周りを見ながらゆっくりと歩く。

 四方に大きなランプが備えられたこの部屋は暗い。

 石でできた地面をみると方陣のようなものが描かれている。


「――この者になります。副教祖様」


 父に紹介されてアンテは背筋を伸ばす。

 相手の顔を見るもアンテは何故か「副教祖」と呼ばれていた者の顔を認識することが出来なかった。

 高度な認識阻害である。


「残念ながら教祖様は本部の方へ出向かれています」

「……それは(まこと)に残念」

「教祖様がおられぬので今「恩恵」を付与することは出来ません。しかし「施し」を行うことは出来ますが」

「おおお。それはありがたい」


 歓喜に震えるシャルルに何を言っているのかわからないアンテ。

 アンテは未知の恐怖に襲われながらも副教祖を見ると、別室に誘導された。


 その後アンテは生還する。


 史上初、新人類へ到達した者として。

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