第54話 武闘会 5 決勝トーナメント本戦 4 決勝 私と一曲踊ってくれませんか?
リリーは強い。
誰しもが知っていることで、そして知らない事だ。
「雷光剣!!! 」
バチバチバチッ!!! ……ズドォォォォォン!!!
視界が急に光に包まれたかと思うとリリーの剣戟が繰り出される。
僕はそれを目を閉じマジックソードで受ける。
剣と剣がぶつかり合って電気が周囲に拡散していく。
どれだ……。左?!
「雷光龍来剣!!! 」
ズッッ……オォォォォォン!!!
「何ということでしょう!!! 我々には二人の戦いを見ることさえ敵わないというのかァァァ!!! 」
司会者が何か言っている。
だがそれに気を取られている場合じゃない。
リリーは風属性と雷属性という二つの属性を持っている。
この国の常識だと魔法使いを選ぶのが普通。
しかし彼女は魔法剣士への道を選んだ。
「雷光脚! 」
「狩脚! 」
彼女曰く「実践を考えると魔法使いが攻撃を打つよりも早く、剣士が相手を仕留めることができるから」とのこと。
納得の理由だ。
けれどそれが建前だということを僕は知っている。
――彼女が剣士を選んだのは僕に追いつくためだ。
リリーは僕を幼馴染であると同時に一人のライバルとして見ることがある。
競い合う仲間がいることは、どんな形であれ嬉しい事だ。
それに加えて彼女が剣をとった根底には、その昔自分が戦えなかった事もあるだろう。
――守られる存在から守る存在へ。
そうなりたいと彼女が思うのも不思議ではない。
「我が身を雷としここに舞い降りろ! 雷帝! 」
「全てを切り裂け! 鷲爪! 」
公爵家の娘である彼女がこの国でステータスとなる魔法使いを選ばなかった。
その責任の一端は僕にもある。
だからといって彼女に考え直すようにはいわない。僕は彼女の選択を否定しない。
僕に出来ることは、一人のライバルとして、剣をもって彼女に向き合うことだ。
「はぁ……はぁ……すぅ……はぁぁ。流石ですねアル」
「それはこっちのセリフだよ。そろそろフレイナ達と訓練が出来るんじゃないか? 」
「光栄なことですね。あとで頼んでみましょう。しかし……これが終わったらです」
リリーが剣を縦に構える。
剣に風が集中している。
何をする気だ?
「次の一撃で決めます」
剣に集まった風は厚みを増して巨大な剣を形どる。
単純明快。そのまま振り下ろすつもりみたいだ。
僕もマジックソードを強化する。しかし長さは変えない。
「風刃覇斬!!! 」
巨大な刃が振り下ろされる。
全力でマジックソードで斬り上げて――、
「魔法核破壊!!! 」
風刃を霧散させた。
リリーに一瞬の隙が生まれる。
「今回は僕の勝ちみたいだね」
リリーの首にマジックソードを突き付けて僕は言った。
「ふぅ。まだまだ遠いですね」
「……そのうち本当に超えられそうで怖いよ」
「ふふ。首を短くして待っていてくださいね」
彼女に手を差し伸べて立ち上がらせる。
そこは「長くして」じゃないんだと思いながらも、この成長ぶりを見ていると、長かった首は斬り落とされて短くなりそうとも感じた。
負けていられないね。
「……お、終わった。いや終了。試合終了だァァァ!!! 激戦を制したのは翡翠の新星……。アルフレッドォォォ……・ウィザースゥゥゥ!!! 」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」」」
★
「――ここにアルフレッド・ウィザースの優勝を表する。おめでとう。アルフレッド」
「ありがとうございます」
悪魔獣の襲撃があったにも関わらず、武闘会は無事に運営されて僕達は表彰式を迎えた。
正気? とも思ったけど区切りをつけるという意味では良いのかもしれない。
表彰状と証となるメダルをエニファーから受け取る。
何故か隣にいるケイトから他の優勝賞品の説明を受けて、彼女とエニファーを見送った。
表彰式を含めた武闘会の全工程が終わる。
僕達も出口に向かおうとすると観客席から声がかかった。
「ありがとう、翡翠の新星! 」
「おかげで助かったわ、翡翠の新星! 」
「これからも頼むぜ! 翡翠の新星! 」
「「「翡翠の新星!!! 」」」
一気に顔が熱くなり下を向く。
「ふふ。アルは人気者ですね」
「……男爵領に引き籠ったらその内冷めてくれると思う? 」
「それはわかりませんが……、おや? 」
「アルフレッドさん! リリアナ様! 」
会場を出て声がする方をみるとケイトが走ってきている。
「遅くなって申し訳ありません」
ガバっとケイトが頭を下げる。
何の事だろう? と頭を巡らせているとケイトが経緯を説明し始めた。
「……混乱に乗じた暗殺」
「常套手段とはいえ、まさか悪魔獣の襲撃に紛れるとは」
パニックに乗じて暗殺するのは、方法としては単純だ。
それに今回はエニファーが表に出て来る絶好の機会。
しかしこれが悪魔獣の襲撃に紛れるとなると話が違う。
悪魔獣と王子の暗殺を指示した者が同じ、もしくは同じグループである可能性が出てくる。
となると悪魔獣の一件に政治色が現れてきた。
より複雑になって調査が厄介だ。
けどまぁ今回の企みはケイトの手によって阻止されたみたいだけど。
「その功績で第二王子殿下の近衛騎士になりました! 」
「「近衛騎士?! 」」
「自分がプレッシャーに抗うことが出来るようになったのも、近衛騎士になることができたのも、アルフレッドさんとリリアナ様のおかげです! ありがとうございます!!! 」
キラキラした目で僕達にお礼を言う。
いきなりのエニファーの近衛騎士になったと聞いて僕とリリーはまだ口が塞がらない。
「そして申し訳ありません! 自分、これから後処理があるのでこれにて失礼します! またお会いしましょう! 」
ケイトはそう言い嵐のように去っていった。
その様子をポカーンと見ながら僕は呟く。
「……騎士団の事もそうだけど、ケイトは自分から大変な方へ向かっているのか? 」
「アルも人の事は言えないのではないでしょうか? 」
リリーが僅かに口角を上げながら僕に向く。
これは反論できないね。
一本取られたよ。
「アルちゃん。お待たせ」
「主殿。素晴らしい試合でした! 」
「お疲れ様なのです、お兄ちゃん! 」
僕とリリーは受付で商品と賞金を受け取る。
その足でリリーと一緒に会場の入り口を出て外で待つ。
少しすると遅れてフレイナ達と父上と母上、そして何故かガイア様とローズマリー様がやってきた。
「アルフレッド。おめでとう」
「いつの間にかこんなにも成長してしまったのね。けど嬉しいわ。おめでとうアル」
「あ、ありがとうございます。父上、母上」
二人に褒められこそばゆい。
けど……、優勝できてよかったな。
「リリー傷はないかい? 」
「今回は無茶をしましたねリリー」
「怪我はありません。今回の戦いは無茶をして一太刀入れることができるかどうかでしたので。それにまだ成長できると実感できました」
「勤勉なのは良いが、少し肩の力を抜いたらどうだ? 」
「そうですね。今度一緒にお買い物でも行きましょう」
リリーが僕の方を見ると顔を真っ赤にした。
きちんと見ておりますとも。
ぷくーっと顔を膨らませぷいっと顔を逸らせてしまう。
「アルフレッド」
僕を呼ぶ父上の方を見る。
少し残念そうな表情をしているけど何かあったのかな?
「この後すぐにお祝いをしてあげたかったのだけれどそれは出来なさそうだ」
「なにかお仕事ですか? 」
「察しが良いね。さっき王城から連絡があって今から緊急の会議を行うようだ。だからアネモネと一緒に、先にホテルに戻っていてくれ」
父上が本当に残念そうに言う。
僕としてはその気持ちだけでもとても嬉しい。
悪魔獣の出現と第二王子暗殺事件。
これが王都で起こったんだ。
襲われた闘技場にいた父上が呼ばれるのは自然な事だろう。
「ということでリリー。私とローズマリーは王城に行く」
「畏まりました」
ローズマリー様も?
「ではウィザース卿。王城に行こうか」
ガイア様が厳しい顔をして父上を連れて行く。
王城に向かう三人を見送り、僕達はホテルに帰った。
★
「「「優勝。おめでとうございます!!! 」」」
ホテルに帰ると大勢のお客さんに迎え入れられた。
嬉恥ずかしながらも席に着き歓待を受ける。
「会場大変だったが凄かったな」
冒険者だろう。
バシバシと背中を叩かれながらも「ありがとうございます」と答える。
「はは。誇れ誇れ! 」
「そうだぜ。あの激戦を制したんだ。威張っていいんだぜ」
「……威張れませんよ」
「謙虚だなぁ。……だが俺達はせめてあと二年お前さんのネタをさせてもらおう」
「これも一緒の宿に泊まったもんの特権だ」
「「「ははは」」」
え、そんなに!?
聞くと次の開催が二年後らしい。だからそれまではこの話が続くみたい。
男爵領に引き籠ってやり過ごす作戦は通じないようだ。
その後もホテルでお祝いが続いた。
いつの間にか隣に座っているリリーと一緒に食べては話して、が続いたけどこれはこれで楽しいね。
途中リリーが僕の過去を暴露しようとしてヒヤリとしたけど、こういう騒がしい日も悪くないと思えたよ。
さ、明日も頑張ろうか。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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