第53話 武闘会 5 決勝トーナメント本戦 3 決勝 忍び寄る手
「さぁ武闘会も最終日。ついにこの日を迎えました! 」
司会者の声が闘技場から聞こえてくる。
自分でもわかる程にドキドキしてる。
「では決勝に勝ち進んだ戦士を紹介しましょう! まずは皆さんご存じこの人だァァァ!!! ――」
リリーが呼ばれたようだ。
大歓声が控室まで聞こえてくる。
続けて司会者が僕の紹介に入ると、係員が合図をする。
「対するはこの人! 本大会のダークホースにして未だに実力の底が見えないBランク冒険者ァ! ――」
僕は彼に頷いて席を立つ。
そして闘技場に、――入った。
「――翡翠の新星。アルフレッド・ウィザースゥゥゥ!!! 」
「「「ウォォォォォォ!!! 」」」
中に入りリリーの前に立つ。
彼女と対峙すると周りの音が気にならなくなる。
僕が位置に着くと早速彼女は剣を抜き準備を始める。
「今日という日を待ち望んでいました」
僕もマジックロッドを作り出し身長の三分の二程に調節する。
決して侮っているわけでは無い。
雷の如く移動する彼女に後ろをとられた時の為だ。
「何度アルに戦うように呼び掛けても、いつもアルは本気で戦ってくれません」
「そんなことは……」
「いいえあります。しかしこの場面ならどうでしょう? 本気で戦わないといけないのでは? 」
リリーがチラリと観客の方を見る。
もちろんそこには父上と母上がいる。
何と言うか……。
僕がいうのもなんだけど、えげつない。
「今日は本気のアルとの距離を測る好機。アルが遙か高みにいることはわかっています。しかし――せめて一撃くらいは当ててみせます! 」
「こ、これは何だァァァ! ウェルドライン選手が雷を纏い始めたァァァ!!! 」
バチバチバチッ!!!
辺りを黒焦げにしながら剣を構える。
僕もマジックロッドを二転三転させて集中力を高める。
「これより武闘会決勝戦。「疾風迅雷」リリアナ・ウェルドラインと「翡翠の新星」アルフレッド・ウィザースの戦いを……。はじめ――「ドゴンッ! 」!!! 」
会場に爆音が響いた。
★
不意な爆発音で集中が切れる。歓声が動揺に変わっている。
僕達じゃない。誰だ!?
すぐに意識を周りに向けると二度目三度目の爆発音が聞こえてくる。
バン! ドゴン! ドン!
外から音が聞こえているようだ。
「襲撃?! 」
「リリー勝負はあと」
「わかっております。そこまで私は非常識ではありません」
リリーが一旦魔法を解いた。あれは燃費を食うからだろう。
僕はすぐに魔力感知を広げる。
これは感じたことのある禍々しい魔力……。
「……悪魔獣だ」
「なぜ武闘会に悪魔獣が襲撃を……」
「わからない。けど……、囲まれている?! 」
僕の感知が外側まで広げると状況が見えてくる。
マジックロッドをマジックソードに取り換える。
父上と母上の方に顔を向けるとマリーの声が届いた。
「こっちは任せて」
観察するとすでにアリスが二人の空間だけを閉じている。
あっちは任せても大丈夫だろう。
安心してふっと息が漏れる。
戦いに集中できる。
「「「ガガガガガガガ……」」」
一瞬太陽が覆われたのかと思った。
が、違う。
闘技場上空に全身真っ黒で一対の翼を生やした人型の悪魔獣が現れただけだ。
その瞬間会場に悲鳴が響く。
「先手必勝」
司会者や係員が避難誘導している中駆け上がる。
相手の攻撃を待つ必要なんてないからね。
外の爆音を聞いた感じだとこの中に高位の火属性魔法を使う個体がいるだろう。
けれどさせない。
僕が目の前に行くと彼らはぎょっとする。
片手を前にしている。攻撃する途中だったようだ。
準備をしながら観察すると、やはり腕や体に口が幾つもついている。
気持ち悪いこの上ないが怯むわけにはいかない。
「喰らえ」
後ろから轟音が聞こえてくる中、悪魔獣達に向けて無数の小さな玉を放出する。
何かされると思ったのか奴らが一旦攻撃を止めた。
回避に移ろうとしているけど無駄だよ。
高速で彼らに近付き、そして体の中に消えていく。
何も起こらない。
拍子抜けだと嘲笑うような表情を浮かべると、体の中の異常に気付いたようだ。
「魔力を吸って串刺しにしろ。針罰」
ザッ!
体中に棘を生やした悪魔獣達が落ちていく。
僕の見える範囲は終わったようだね。
奥からしていた音も消えている。
どれだけ残っているのだろうかと魔力感知を広げる。
反応に残るのはあと下に一体。
下を見るとリリーが一体の悪魔獣と戦っていた。
★
「全てを薙倒す風よ。我が体に宿り給う! 風姫剣! 」
フレイナが風姫剣状態になる。
赤い服は緑に変化する。赤い髪も緑が混じる。
「あっちはフレイナちゃんに任せましょう」
「一瞬で終わらせる」
言うとウィリアムズ達の目から消えた。
音速を突破したのだろう。
爆音が聞こえる中、無残な姿の悪魔獣が落ちている。
「いつもとは違う戦い方なんだね」
「新鮮だわ」
「フレイナちゃんは状況に応じて戦い方を変えるのよ」
「あ、あの……」
襲撃を受けているというのに呑気な口調で話すウィザース一家。
慣れているのだろう。
フレイナの非常識にも落ち着いている。
けれども慣れていない人がここに一人。
――ケイト・ブラウンだ。
彼女は武姫達の守る範囲から外れている。
だが優先順位は低いものの、彼女もアリスが生み出す空間の中に入れていた。
「に、逃げなくても? 」
ケイトが当たり前の提案をする。
ウィリアムズは、マリーが火球を飛ばす中、彼女の問いに答えた。
「ここが一番安全だからね」
「それに直に終わるわよ」
二人の言葉に疑問を覚える。
今戦っているのは約四人。対して相手は五十を超える軍勢だ。
あまりに多勢に無勢が過ぎる。
ケイトがそう思うも、ウィリアムズとアネモネは信じているようだ。
その様子にケイトは影響されたのか冷静さを取り戻した。
「あれは! 」
が、その冷静さも一瞬。
ケイトが全体を見渡すと、貴賓席で避難しようとしている王子に迫る刺客が見えた。
(自分では間に合わないっ! )
「アリスさん! 自分を貴賓室の前に! 」
ケイトはアリスの力を (時空間属性魔法の適合者としてだが)知っている。
彼女なら自分を飛ばすことが出来ると考えたのだ。
だがアリスはケイトに指示を出されてムッとしている。
アリスにとってどうでもいい人から命令されたからだ。
しかし彼女は主の友人。
どうするのが良いのか判断がつかないため、アリスはマリーを見上げた。
「構わないわよ」
マリーは遠くにいる敵に火球を飛ばしながらアリスに告げる。
「……わかったのです。なら行ってくるのです」
「助かります」
(間に合え!!! )
明らかに襲撃による混乱を囮にした暗殺。
武闘会で王子がやられるわけにはいかない。
ケイトは激情に体を任せながら転移門の向こうへ走る。
剣をとり、狙いを済ませた。
「――蛟!!! 」
ズドォォォォォン!!!
彼女の一撃は紙一重で王子の隣を過ぎ去り敵を仕留める。
「き、君は……」
「大丈夫ですか! 殿下! 」
いきなりの急襲に呆然としていると王子の後ろからざわめきが起る。
ケイトの急襲よりも驚くことがあったようだ。
エニーが振り向くとそこには噛みつかれたような跡を残す黒ローブの男性が。
「ま、まさか暗殺?! 」
ざわめきが更に大きくなる。
驚くもすぐに落ち着きを取り戻す。
エニーは部下に指示を出して暗殺者を捕縛させる。
彼が会場を見下ろす頃には上空の敵は一掃されていた。
――そして観客は再度熱狂する。
★
「アル、気を付けてください。近付くと魔法が使えなくなります」
リリーが敵から距離を置いて僕に伝える。
魔法無効化?!
まさかこんなにも早く出て来るとは。
いや違う。今まで研究していた事が表に出てきた、ということかもしれない。
「近付いたら? 」
「ええ。距離を置いて攻撃をすればこの通り」
僕とリリーが距離を保ちながら情報を交換する。
彼女が風弾を打つと悪魔獣の前で消えた。
「……魔法が霧散しているように見えるね」
「他に何かあるのですか? 」
「魔力を吸収することがあってもおかしくない、と考えただけだよ」
僕が思いついただけで、魔法を無効化するだけならもっと違う能力があるかもしれない。
幾つか候補があるけど、それは次だね。
まずは倒さないと。
「……相手の体の中の魔力にも影響するの!? 」
身体強化で接近して殴る。けれど本来の威力が出ない。
悪魔獣がにやっと嫌な笑みを浮かべると、体にある口から不快な笑い声が聞こえてくる。
精神攻撃ではないね。
拳を突き出したまま足で蹴り飛ばし距離を取る。
「大丈夫ですか? 」
「大丈夫だよ」
身体強化をキャンセルされたような感じではない。
体の中の魔力を乱された感じだ。
それに相手は動きが鈍いし格闘慣れしているような感じでもない。
ならば身体強化を使わずに倒せばいいだけの話だ。
身体強化を解いて集中する。
手をナイフのように構えて敵に向かう。
一撃で落とす!
悪魔獣が腕を僕に向けて魔法を放つ。
自分は打てるのかよっ!
反則じみた行動に心の中で毒突きながらも、重い体で回避する。
「火舞斬り! 」
少しの火花を散らせながら、悪魔獣の首を落とした。
「翡翠の新星……。「翡翠の新星」アルフレッド・ウィザースが倒したァァァ!!! 」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」」」
集中が切れると歓声が耳に入って来る。
周りを見るとリリーと試合を始めようとしていた時とかわらない観客が僕を見ている。
皆逃げてなかったの?!
「どうやら被害は出ていないようですよ」
「ならよか……、ってえ? 」
「ではアル。私と一曲踊ってくれませんか? 」
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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