第50話 武闘会 4 突然の遭遇
「すまない。世話になる」
「殿下が訪れたことでこの宿にも箔が付くでしょう」
父上が恭しく頭を下げる。
「ウィザース卿。今は非公式の身だ。頭を上げてくれ」
「しかし……」
「私が構わないと言っている。それにアルフレッドもだ。この前のように親しく接してくれまいか。私と君は友達だろ? 」
「……そう言われると弱いね」
引き攣った笑いを浮かべながら頭を上げる。
父上がアイコンタクトで「いつの間に王子と友達に? 」と伝えてくるけど、あれは偶然だ。
本当にどうしてこうなったのだろうか。
闘技場前でエニファーと遭遇した。
挨拶だけしてすぐに別れたかったのだけれど、エニファーがどこかで話そうと言い出した。
「王城での生活は退屈なのだろうか」とか「武闘会の仕事は大丈夫なのか」とか色々考えたけど正体がわかった以上、彼の言葉は無視できない。
この国の王子の言葉を聞かないわけにはいかず、場所をホテル「ナナホシ」に移した。
国民に紛れていた護衛は説得して、この宿の一階で待ってもらっている。
見破られた事に驚いているが、しょせん彼らも「一般」から外れているということ。
なんでわかったのかを教えると全員沈んでいたことが少し面白かった。
因みに王子の事は「エニー」ではなく「エニファー」と呼ぶように言われている。
彼はこの呼ばれ方が気に入っているようだ。
「まず……。リリアナ嬢、騎士ケイト、そしてアルフレッド。決勝トーナメント進出おめでとう」
「光栄にて存じます」
「じ、自分の名前を?! こ、光栄にてっ! 」
「ありがとうございます」
瞬間「ギロン! 」と皆から睨まれる。
けどエニファーが笑いながら手を振りながら皆を制する。
「構わない。というよりも私はこちらの方が好ましい」
「……殿下がおっしゃるのならば」
父上が軽く頭を下げるとエニファーが僕達に向いた。
「今日は三人に祝辞を言いに来たんだ」
「まだ優勝していないけど? 」
「優勝してからだと優劣がついてしまった後だろ? それだと不公平感がある」
「言われてみれば」
「私はまだアルフレッド達の戦いを見ていない。しかし今回の決勝トーナメントに勝ち上がった選手は粒ぞろいと聞いている。アルフレッド達の試合を観れる日を楽しみにしているよ」
王族の目に留まるのは貴族として嬉しい事だ。
元より優勝するつもりだったけど、繋がりが出来た以上ここで負けるとウィザース男爵家としてマイナスに動く可能性がある。
負けられない戦いだね。
「今日来たのは祝いの言葉を伝えることと実はもう一つある」
「もう一つ? 」
「そうだ。実は気になる事があるのだが、聞いても良いか? 」
「気になる事? 」
僕の言葉にエニファーが大きく頷く。
「王城で偶然聞いたのだが、最近国内を乱す魔物が現れると聞く。心当たりはないか? 」
それを聞きすぐに悪魔獣の事が頭を過る。
だがエニファーがこれを聞くのはおかしい。
父上はもちろんのことガイア様も王城に悪魔獣の事は伝えてあると言っていた。
ならばその情報が王族まで届いていないとおかしい。
しかしエニファーの知識は「偶然聞いた」というレベル。
――城内に情報を握りつぶしている者がいる。
同時にエニファーを危険に晒さないために情報を隠しているという可能性もある。
エニファーに悪魔獣の事を話すのは簡単だ。
けど話したことで王城から睨まれる可能性もある。
これは話しても、話さなくても、リスクしかないね。
判断がつかない。
父上の方を見る。
父上が僕と目を合わせると少し考え大きく頷き口を開いた。
「その魔物についてですが――」
父上が悪魔獣について知りうる情報を伝えた。
エニファーは目を大きく開いて驚いている。
父上が話し終えるとエニファーは顎に手をやった。
どこか思う所でもあるのだろうか?
「ウィザース卿。情報提供感謝する」
「身に余るお言葉恐縮でございます」
エニファーが続ける。
「これで一つ疑問が解けた。出来ることは少ないとわかっていても、知っていると知っていないでは違うからな。こちらでも何か情報を掴んだら伝えるとしよう」
それはありがたい。
今までとは違う情報源があると調査も進むだろう。
「だが期待しないでくれ。現在私達は王位継承権争いで動かせる人材が殆どいない」
「継承権争い? 」
「まぁ、と言っても兄上とその周りが騒いでいるだけで、私は「王」になるつもりはないのだが。あぁ……これは他言無用で頼むよ」
そう言うエニファーの表情はどこか寂しかった。
その後ナナホシ商会のお菓子を楽しんでもらいながら談笑を。
こんな時でも商機を逃そうとしないマリーには脱帽させられる。
彼女にナナホシ商会を任せたのは正解だったね。
十分に楽しんだエニファーは「本当に楽しかった。いずれウィザース男爵領にお邪魔したい」と言って護衛の人達と王城に帰ったけど、父上と母上はお腹を押さえている。
気持ちは十分にわかる。
今日は僕も父上と母上と一緒に胃に優しいものを食べようか。
本戦まであと少し。
緊張の日々を父上と母上と一緒に過ごした。
★
「ついにこの日がやってきましたァァァ! 」
司会が張り裂けんばかりの声で言う。
今日から決勝トーナメント本戦。
今は開会式の時間だ。
観客が熱狂する中、司会は観客席に向かう。
「では本戦を戦う戦士達を紹介しましょう! まずはこの人! ウィザース男爵家が生んだ最強の武人んんん~~~。アルフレッドォォォ……ウィザースだァァァ!!! 」
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!! 」」」
耳が痛いほどに会場が沸く。
誰だよ最強の武人って。
心の中でツッコみながら軽く手を振る。
「人気者ですね」
「こんなの一瞬のことだよ。大会が終われば忘れられるだろうね」
「そんなことは無いと思いますが」
リリーが笑いながら茶化してくる。
そのせいか違う方向から穴が出来る程に睨みつけられている。
わざとなの?
リリーは見せつけているの?
「――ノーゼ公爵家が生んだ天才。闇より深き漆黒から生まれた魔法騎士。アンテ・ノーゼェ! 」
「「うぉぉぉ……! 」」
「リリアナ様。リリアナ様の為にボクは勝利を掴んでみせます」
「いえ結構です」
アンテが、顔が変形しそうなほどに顔を引き攣らせて僕を再度睨みつける。
……痛い。
なんというか、めっちゃ痛い。
笑いを通り越して、痛い。
なんでアンテはこんな文章を読まれているんだ?
こっちを睨んでいるアンテをチラリとみる。
アンテは恥ずかしがっていない?
となると……もしかしてこれって自分で紹介文を送れたのか?
アンテ。司会者を見てくれ。
慣れているはずなのに顔を真っ赤にして、他の人の紹介に移っている彼を。
「――そして次は彼女! 流水の如く美しい動きから大木を薙倒す静寂の殲滅者! ケイトォォォ・ブラウン!!! 」
ケイトが紹介され彼女を見る。
熱狂する人の中、ケイトはただ瞳を閉じている。
きっと耳も閉じているのだろう。
「――そして最後はこのお方!!! ウェルドライン公爵家最強の剣士。最早美し過ぎて視界に映すこと不可能! 誰も立つことは許されない! 「疾風迅雷」ィィィ……リリアナ・ウェルドラインだァァァァァ!!! 」
リリーが軽く微笑み手を振る。
さらに会場が熱狂する中、司会が締めた。
「武闘会決勝トーナメント……。開催だぁぁぁ!!! 」
「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!! 」」」
そして僕は試合を迎えた。
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