第5話 初めての実践
「気を付けて行くんだよ」
「夕食には帰るようにね」
「はい! 父上、母上! 」
両親に見送られる形で僕達は家を出発した。
マリーとフレイナによる訓練が続く中、マリーが父上に許可を得て今回の実践が決定した。
何でも自分達と戦うだけでなく実践で問題を洗い出して訓練に生かすという方法の方が良いとの事。
何事もそうだけど実践に勝る経験はない。
そう考えるとマリーのやり方は非常にためになる。
けれどこれは八歳の子供にやらせるのかという疑問もある。
これをマリーに聞いた所、笑顔で「アルちゃんは普通の子供じゃないからね」と返されてしまった。
マリーの言葉に反論できないのが悲しい。
ともあれこうして初の実戦に向かっている。
「マジックシールドを足場にして空を飛ぶなんて……。お兄ちゃんは器用なのです! 」
「……空気を蹴って空を飛んでいるアリスに言われると微妙な気分になるけどね」
「はわわわ……。ごめんなさいです」
「あぁ。責めてないよ。こっちこそごめんね」
少し後ろを向いてアリスに謝る。
僕は風属性魔法「飛翔」を使うことができない。
だから何枚ものシールドを空に展開し踏み台にして移動中。
向かっているメンバーは僕とフレイナとアリスの三人。
この実践を言い出したマリーには家を守るように言っている。
以前館への襲撃があった。
この時から僕は武姫達にローテーションで家を守るように指示を出した。
また襲撃者が来ないとも限らない。
何かあってからでは遅いのだ。
運悪く今日のローテーションがマリーだったのだけれど、また今度頼ろうか。
「今回マリーを置いてきて正解だったかもしれませんね」
「なんで? 適任なような気がするんだけど」
「マリーの戦い方は大雑把なので」
フレイナが呆れた口調で言う。
マリーが大雑把?
そんな風には見えないけど。
教え方も丁寧だし、料理を作っている所を見てもそんな気配はない。
まだ知らない一面があるんだなと感じつつも更に足を進めて今向かっている場所について復習する。
今僕達三人が向かっているのはイカリタケ山の麓にある大森林だ。
父上の話によると、山まで行かなければ、そこそこの難易度の森で訓練にはもってこいらしい。
イカリタケ山麓の大森林は多様な魔物が住んでいるみたい。
正直驚いてる。そんな所で訓練を許されるとは思いもよらなかった。
まぁこれも父上がフレイナ達の実力を信用している証拠だろうね。
「主殿。そろそろ着きます。準備を」
「うん。わかった」
フレイナが顔を引き締め僕の方を見る。
僕も気を引き締め直して前を見る。
前には青々として緑が広がっている。
父上のおさがりの防具と短剣をチェックして僕は森の入り口に降り立った。
「さて敵を把握するところから行きましょう」
フレイナの言葉に軽く頷く。
魔力を周囲に薄く延ばして探知を始める。
すると反射してきた魔力が二つの集団を教えてくれた。
「小さな集団が二つほど、かな」
あと距離を伝えてフレイナを見る。
フレイナは小さく頷いて「正解です」と答える。
「一つはゴブリンの集団。もう一つはフェザーラビットですね」
「……なんでわかるの? 」
「経験と気配の大きさもそうですが、この距離なら見てわかるので」
呆れながら聞くとわかるのがさも当然のように答えられた。
まだまだ実力に差があるなと感じながらも、「さて」と準備を始める。
「先にフェザーラビットを倒しましょう。ゴブリンの臭いと声で逃げられるかもしれませんので」
「わかった。戦い方は? 」
「フェザーラビットは遠距離から。ゴブリンは近距離で」
「了解」
言われて視覚強化を発動させてフェザーラビットを見つける。
いた!!
フェザーラビットが十体もさもさと草を食べている。
可愛らしい姿だけどこの魔物は森を荒らす害獣だ。
フェザーラビットは雑食で村に降りると家畜を食べられてしまうからね。
きちんと倒さないと。
狙うは眉間。
攻撃は一瞬。
「魔弾」
手を前にかざして魔法を唱える。
強化された視覚で十の弾道を追うと、――フェザーラビットの頭が爆散した。
「グロっ! 」
強すぎた……。
「次! 」
フレイナの言葉で意識を切り替える。
続けてゴブリン達がいた所を見ると警戒を始めている。
――早く行かないと!
魔力で剣を作り上げ身体強化を強めにかける。
ゴブリン達がいる場所へ走り発見した。
「ギャギャギャ!!! 」
棍棒を向けて不快な声を上げる。
僕を発見したみたいだけど、遅い。
「シッ! 」
「「ギャ! 」」
正面から横薙ぎで剣を振るって首を二つ落とす。
バックステップで後ろに移動すると横から棍棒が二つ通り抜ける。
戻った腕をそのまま振る。
「?! 」
剣が止まった?!
驚きで体が固まった瞬間体に衝撃が走る。
下を見るともう一体のゴブリンが棍棒を僕の体に打ち付けていた。
強化された体にダメージというダメージは無いけれど攻撃を喰らったという事実に苛立った。
「くそっ! 」
今も攻撃をしようとするゴブリンを脚で蹴り体から離す。
一度剣を魔力に戻し距離を取り再度生成。
次は落ち着いて剣を振るい、初めての実践を終えた。
「十点、ですね」
「……厳しい評価だね」
「一点でもよかったのですが、初めての実践ということで少し甘めにつけましたが」
アリスが心配そうに見ている中、フレイナが淡々と言う。
「本来主殿の実力ならばあの数のゴブリン程度一秒で仕留めないといけません」
「いやそれは盛り過ぎだと思うよ? 」
「盛っていません。事実主殿はこの広いウィザース男爵領の領都から離れた場所にあるこの大森林に移動するまで半日もかかっていないのですから。気付かれずに倒せるかは問題ですが、速度に関しては秒を切ってもおかしくありません」
「……ごもっともで」
返す言葉もない。
「では反省会を。まず――」
とフレイナが今回ダメだった点を教えてくれる。
まず魔弾の威力が強すぎた事。
これによりフェザーラビットが爆散し怯み後の失敗に続いた。
「最初ということで緊張するのはわかりますが魔力コントロールは適切に」
怯んだことも悪かった。
想定外の事が起こるのは仕方ないが常に動けるようにしないといけない。
けれどこればかりは経験だと思う。
この後も反省会は続いた。
剣の作りが甘く三体目のゴブリンを一撃で仕留めることが出来なかったこと。
仕留めることが出来なかったため動きが止まり他のゴブリンの攻撃を許してしまったこと等々。
少しは強くなったつもりだけどやっぱりまだまだ実力不足、経験不足だとよくわかった。
反省を生かして次の訓練と実践を行うことにした。
因みに次の実践はマリーを連れて来た。
するとマリーが「敵が一杯いますね。少し間引きましょう」と言い、巨大な水球で辺り一面の木々を薙倒した。
その大雑把さに僕はドン引きしたのだけれど……、フレイナが言ったことは正しかったようだ。
マリーと一緒に実践を行う頻度は少し考えないといけないかもね。
★
大森林での実践が始まり約半年が経った。
その間に僕は九歳になったけど武姫達との訓練の日々は続いている。
「ねぇ、フレイナちゃん」
「なんだ? 」
「アルちゃんの訓練なんだけど少し場所を増やしてみない? 」
場所を増やす?
首を傾げながらマリーとフレイナの会話に聞き耳を立てる。
「大森林でやるのはそのままなんだけど、もっと違う場所でやってもいいかなって」
今僕達が訓練に使っている場所は大森林でも領都側。
大森林は広く様々な場所があり住む動物や魔物の生態は均一ではない。
場所が異なれば出て来る魔物も違うし動き方も違う、と思う。
「確かに最近主殿の成長が著しい。良い案だと思う」
「でしょぉ! なら善は急げね! 」
バン! と机に手を突きマリーが立ち上がる。
その勢いのまま部屋を出て行き父上の了解をとって来た。
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