第49話 武闘会 3 静寂の殲滅者「ケイト・ブラウン」
武闘会予選最終日午後の部。
多くの大会参加者が選手室の中へ入っている。
体を慣らしてきたのか汗の臭いが漂う中、アルフレッドとリリアナはケイトと共に選手室の前に立っていた。
「決勝トーナメントに上がってくるのを心待ちにしております」
「心を無にするんだ。ケイト」
ケイトはリリアナの励ましに「ありがとうございます」と答え、アルフレッドの助言に「どんな助言?! 」と驚く。
二人は緊張していると思い彼女を見送りに来ている。
けれどずっとここに引き留めておくわけにはいかない。
ケイトは「それじゃ」と手を振り剣を握りしめた。
「おいあいつ見て見ろよ」
「さっき「疾風迅雷」と話していたやつじゃないか! 」
「あいつもやべぇのか? 」
周りの声を聞いて苦笑いするケイト。
(自分は強くないんですけどね)
これまでの彼女なら周りから視線を集めるだけで硬直していただろう。
だがリリアナの訓練のおかげもあってか余裕が見える。
「選手の皆様は入場してください」
係員が声をかけケイトは立ち上がる。
ケイトは大事な長剣をしっかりと握り前を向いた。
思えばリリアナとアルフレッドはケイトの性格を治すためにこの大会に参加した。
これは二人に利点のない事である。
それにアルフレッドなんて一か月ほど前までは面識すらなかったのに、と思いケイトの口元が綻ぶ。
二人のおかげでこの場に立てる。
ケイトは穏やかな心のまま剣を抜く。
「では予選最終戦! ――」
ケイトは目を瞑る。
周りの音が消えていく。
「――開始ぃぃぃぃ!!! 」
――明鏡止水「波風」
★
僕達は観客席でケイトの試合を観戦している。
だけど観客席が静まり返っている。
無理もない。
ケイトは全く目を開けずに敵を流れるような動作で沈めているからだ。
熱狂していないわけでは無い。
ただ皆彼女の綺麗な動作に目を奪われている。
「ケイトは幼少の頃よりその才覚を発揮していました」
リリーが微笑みながらケイトを見ている。
僕と訓練をしていた時とはまったく別種の動きだ。
人が入れ替わったと言われても納得するね。
「彼女の強さは徹底した基礎と研ぎ澄まされた感覚。実力を発揮できればこの国でも上から数えた方が早いでしょう」
「けれど性格が邪魔をしていると? 」
リリーが軽く頷く。
「何故彼女がプレッシャーに弱くなったのかはわかりません。しかしそれが彼女のパフォーマンスを著しく損なっているのは確かです」
リリーが続ける。
「しかし今回それを克服することができたようですね。アルには感謝です」
「僕はちょっと剣を交えただけだけど? 」
「それでもですよ」
リリーが言うと、審判兼司会者のアナウンスが流れる。
ケイトの一人勝ちのようだ。
ケイトの試合も終わり僕達は会場の観客席で合流した。
試合が終わったというのに観客は帰っていない。
むしろ多くなっているように感じられる。
「ではこれより決勝トーナメント抽選会を始めたいと思います! 」
「「「うぉぉぉぉぉ!!! 」」」
試合の司会をしていた人が大声で叫ぶと、周りから声が轟く。
その声を受けるも司会者は抽選を始めようとしない。
観客が落ち着いた辺りで再度声を張り上げる。
「皆さんご存じでしょうか。今回の武闘会は特別であることを! 」
静かになった会場で司会者が問う。
少し観客がどよめいたかと思うと更に続ける。
「さぁこの方に入場してもらいましょう! フォレ王国第二王子「エニー・フォレ」殿下です!!! 」
「「「ワァァァァァァァ!!! 」」」
会場に割れるような歓声が響く。
その中、幸薄そうなイケメンが入り口から入場してきた。
「エニファー?! 」
「「エニファー? 」」
リリーとケイトが首を傾げながら聞く。
けれども僕はそれどころじゃない。
着ている服は全然違うけどあの幸薄イケメンは確かにエニファーだ。
この前一緒に王都を回った所だから見間違えるはずはない。
「道理で護衛が多いはずだ」
王族が町に降りているのなら納得だ。
むしろ傍に護衛がいなかった方が不自然だ。
王族ならば強引にでも護衛が付くはずだけど……。
けど……、してやられた気分である。
昔一回見たことがある。けど分かるはずがない。
ははっと苦笑いを浮かべながらエニー殿下を見る。
すると彼が笑顔で僕の方に向いて手を振った。
「アルはエニー殿下と面識が? 」
「……この前ね」
「意外です」
手を振り返しながらリリーの質問に答える。
僕も意外だよ。
フレイナとアリスも同じ気持ちかな?
ちらっと横を見る。
興味がなさそうな表情をしていた。
「ではっ! 第二王子殿下にくじを引いてもらいましょう! 」
歓声収まらないまま司会が殿下を誘導する。
設置された透明な箱の中に手を突っ込んでくじを引く。
順番にくじが引かれていく。
そして対戦表が出来上がった。
★
「僕とケイトが準決勝で当たる形になったね」
「自分はその前にエルピス先輩を倒さないといけませんが」
「私は二人と真反対になりました」
エニー殿下の厳正なる抽選の結果、リリーの思惑通り僕とリリーは反対側になった。
あまりにも出来過ぎているため「不正してないよな? 」と勘繰ってしまうが、リリーに限ってそんなことはしないだろう。
「アンテはこっちと同じグループか」
「ボコボコにしてくださいね」
リリーが僕とケイトに笑顔で凄む。
アンテをボコボコにしなければ僕達がボコボコにされそうだ。
まぁ諜報部員まで動かしてリリーに迫ったんだ。
やられても仕方ない。
「主殿。店の様子が変わってきましたね」
「新しいお店がいっぱいなのです! 」
会場からナナホシに帰ろうと歩いているとフレイナとアリスが教えてくれる。
言われて周りを見ると確かに店が入れ替わっていた。
「予選も長かったので観客が飽きないようにとのはからいでしょう」
確かに同じ食べ物や催しだと飽きるだろう。
もちろん観客も入れ替わっていると思う。
だけど何日分も席をとっている人もいるはずだ。
特に貴族とか。
まぁ貴族は出店で買い食いはしないだろうけど。
ふと変装していたエニー殿下を思い出す。
焼き鳥にかぶりつく第二王子。
……思えば僕とんでもないことをさせた気がする。
「あ! マリーです! 」
「え? 」
アリスが指さす方を見ると、僕達に気が付いて手を振っているマリーがいた。
「父上! 母上! 」
「やぁアルフレッド。来たよ」
「皆さん無事決勝戦に上がったようですね」
マリーの隣にいる人が振り返る。
二人が近付いてきて軽く手を振る。
そろそろ来る頃かと思っていたけど、まさかここに来ているとは。
「宿に直接向かっているのかと思いました」
「はは。ちょっとお店を見て見たかったしね」
「ちょうど良かったのよ」
母上が頬に手を当てながら言う。
二人は最近社交の場に出ているとはいえ、結婚してからはあまり領地から出てないと聞く。
珍しくなったのか、懐かしくなったのか。
「あ、あの~。申し訳ございません。お店は明日からになるので食べ物をお出しすることは出来ないんです」
「それは困ったな……」
お店の方から声が聞こえる。
マリーが振り向き、僕もその方向を見る。
ナナホシ商会の出店だ。
しかし揉めている少年は……。
「ちょっと見てくるわね」
マリーが店の方へ駆け寄り事情を話す。
少年は肩を落としながらも店を離れようとした。
が――。
「おや。アルフレッドじゃないか」
第二王子、こんな所で何をしているんだ。
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