第48話 武闘会 2 休日の襲撃者
ケイトの試合まで時間を潰していると、リリーがナナホシにやってきた。
リリーの顔はどこか深刻そう。
聞くとどうやら相談事があるらしい。
話を聞くために一先ずリリーを部屋に入れる。
ホテルに設備された椅子に座ってもらい話してもらうことに。
「実はここ最近つけられているのです」
「つけられている?! 」
驚いた。けれど不思議ではない。
リリーは美少女だ。
武闘会で初めて見た人もそうでない人も、お近づきになりたいと考える人がいても不思議ではない。
「それが違うのです」
「普通のストーカーじゃないってこと? 」
「はい。裏家業の者達かと」
となると話は変わってくる。
リリーは公爵令嬢だ。
彼女を誘拐して身代金を要求するものがいても不思議ではない。
例え身代金を要求しなくても誘拐されたという事実だけでリリーは周りから避けられるようになるかもしれない。
ウェルドライン公爵家の力を削ごうとしているものならばやりそうなことだ。
それに以前誘拐されそうになったこともある。
貴族間のいざこざだけでなく悪魔獣を生み出す組織に狙われているという線もある。
「最初はまいていたのですが、送り込んでくる相手が変わっていきまして」
「まくのが難しくなってきたってこと? 」
僕の言葉にリリーが大きく頷いた。
かなり予選で落ちているがこの大会には多くの貴族関係者が参加している。
貴族の子は就職先を探しに、貴族家の家臣はその実力を国に認めさせるために。
だから貴族やその子供を誘拐するのにはもってこいの状況だったりもする。
「リリー。護衛は? 」
「つけていますが、常につけているわけではありませんので」
リリーが扉の方を見る。
今日は護衛付きで来ているということか。
「あまり大声では言えませんが……」
とリリーが僕の顔に彼女の顔を近づける。
……近い。
少し顔が熱くなるのを感じながらもリリーの話を聞く。
「私がついてきている者から全力で逃げるとなると彼らは着いてこれないのです」
「聞いた僕がいうのもなんだけど、護衛の意味ある? 」
「私は常に周囲に気を張れるほど器用ではないので」
リリーはコテっと首を少し傾けると顔を離す。
「いつまでも追われるのは好きではありません」
「ならどうするの? 」
「攻勢に出ようと思います」
「リリーらしいね」
「どの辺が「らしい」のかは後で追及することにしましょう。そこで、ですね。アルに相談です」
なんだろう?
「私の護衛をしてください」
★
リリーの相談を受け、彼女の護衛をすることになった。
僕が護衛をすると聞いてフレイナとアリスが黙っているはずがない。
ということで二人はリリーの護衛の護衛をしてくれるそうだ。
なおリリーの護衛をしていた人はとぼとぼと高級住宅街に消えていった。
「リリーは追跡を指示している人に心当たりがあったりする? 」
さりげなく聞くとリリーが難しそうな表情をする。
「あるにはあるのですが……」
「……言い辛い? 」
リリーが言い難いような表情をする。
深く聞かない方がよさそうだ。
それに捕まえたらわかること。
アリスの力で存分に情報を吐いてもらおう。
「主殿」
「ん。着いてきてるね」
「もうですか?! 」
ナナホシから出てあまり時間は経っていない。
恐らくどこかに潜んでいてリリーが姿を見せたら追跡する、という形をとっていたのだろう。
となるとかなりの人員を割いて王都に配置していることになる。
リリーがどこに行くかなんてわからないからね。
こうなると相手の正体は絞られてくる。
相手はかなり裕福だろう。
「僕はリリーにつく。アリスは僕に、フレイナは周りの追跡者を掃除してくれ」
「お任せください。主殿」
「わかったのです! 」
指示を出すと少しペースを上げる。
相手が着いてきていることを確認して、――僕達は一気に散開した。
「この辺でいいかな」
リリーやアリスと共に人気の少ない所に着地する。
もうフレイナの姿は見えない。
代わりに相手の姿が見えた。
「余計な手間をかけさせやがって」
「だが追いついたぞ」
ボロボロのローブを羽織った男性が息を切らして現れた。
が、僕達の前に現れるとは思わなかった。
当初の予定では追いついてきた相手に僕達が仕掛けるというもの。
「もしかしてそこまで上質な犯罪組織じゃない? 」
「犯罪組織?! 」
「……馬鹿にしやがって」
「まぁ犯罪組織にしろ、そうじゃないにしろ、何でリリーを追跡していたのかは吐いてもらうけどね」
「はっ、誰が! 」
相手が武器を構えようとする。
けれどその前に取り押さえて、……終わってしまった。
「こいつら追跡だけの役割だったみたいだね」
「いえそうではないと思いますが」
「お兄ちゃんに常識を説いても無駄なのです」
何か酷い事を言われた気がする。
「さぁアリスの出番なのです! 」
そう言いアリスが相手の情報を引き出していく。
アリスの質問に抵抗なく喋っていく二人にリリーが驚いているが、つっこんではこない。
これはありがたい。
「彼らはノーゼ公爵家の諜報部員でアンテ・ノーゼが指示を出していた、ね」
「……醜く愚かだとはおもっていましたがここまでとは」
リリーが虚ろな目をしている追跡者に蔑むような目線を送る。
諜報部員の話によると彼らはアンテの元へリリーを連れてくるように指示を出されたらしい。
流石のノーゼ公爵家の諜報部員でもリリーのスピードに適う者は少ない。
今回捕えた人達が王都にいるノーゼ公爵家の手ごまの最後のようだ。
「なんでリリーを連れてくるように指示を出したんだろう」
ポツリと呟くとリリーが複雑な表情をする。
少し顔を上げて僕を見る。
「他の場所でお話しできたらと思います」
★
フレイナの掃除も終わりノーゼ公爵家の諜報部員を彼らの別荘に埋めてきた。
もうこんなことをしないように念押しして。
ともかくとして僕達はナナホシに戻り部屋でリリーの話を聞くことに。
「実は以前よりあのゴミ……、いえアンテ・ノーゼからお見合いの手紙が来ておりまして」
「「「お見合い?! 」」」
驚いた。今までそんな様子を見せたことがなかったから余計に。
しかしリリーは公爵家の娘。
お見合いの一つや二つあっても不思議ではない。
「もちろん断りました」
「「「断った?! 」」」
「不思議ですか? 」
「不思議というか……」
「よくガイア殿がそれを許したな」
「父はアンテという一人の男性に「男としても貴族としてもリリーに不適合」と言っておりましたので」
様子が目の前にいるかのように思い浮かぶ。
ガイア様は優しい人だが、リリーの事になるととても厳しい。
果たしてガイア様の眼鏡に適う人は訪れるのか。
「しかし一度で諦めるアンテ・ノーゼではありませんでした。何度も何度も何度も何度もしつこいくらいにお見合いの手紙を……。果てには自作ポエムを送ってきて……。気持ち悪かったです」
リリーがぶるっと震える。
ふと黒い服を着たアンテが歌うようにポエムを書いている所を想像してしまった。
……これは気持ち悪いな。
僕もドン引きである。
「ご、ご愁傷様」
リリーは思い出したのか少しやつれたように見える。
「恐らく今回の件は彼が業を煮やしての行動でしょう。愚かな方法ですが」
「リリーは最初から彼が指示を出していたと? 」
「可能性は考えていました。ですが私も公爵家の娘と言う立場ですので……」
他の理由で襲われる可能性もあった、ということか。
「しかしこれで私を襲ってくることはないでしょう」
「あれだけ脅せばね」
「ですので存分にケイトの試合を見ることができます」
解決できてリリーが笑顔になる。
この後も「もしかしたら」ということがあるかもしれない。
ケイトの試合が始まるまで、外に出る時は僕達がリリーの護衛をすることになった。
リリーにお見合いの話がきていた。
僕にはどうすることもできない事だし、口を挟むようなことでもない。
けれどそれを聞いてズキっと胸が痛んだのは……、まさかね。
思いを伏せて試合までリリーと一緒に王都を楽しむ。
そしてケイトの試合の日を迎えた。
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