第47話 武闘会 1 予選 その未来に近付くために
「さ。入れ」
係員に一本の線と「B」と書かれたチケットを渡して闘技場に入る。
「さぁ最後の選手が入場しましたぁ! 」
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!! 」」」
審判兼司会者を見ながら中央まで行くと、大きな歓声が僕を迎え入れた。
かなり盛り上がっているようだ。
まだ予選だからそこまで観客は入らないだろうと僕は考えていたけど違ったみたい。
周りを見ると剣や斧に盾、中には魔杖を持った人もいる。
この大会は武闘会という名目だけど、それぞれの方向性で伸ばした力をぶつけ合う大会みたい。
聞いていたけど実際に目にすると違和感がある。
というよりもこの混戦状態であの魔法使いはどうやって生き残るんだ?
「初日から盛り上がりを見せている武闘会ぃぃぃ! 今年は粒ぞろいが多いぞぉぉぉ! 」
司会が盛り上げると周りの参加者が武器を構え始める。
チラリと僕の方を見るとアイコンタクトをしているようにも見えるね。
これは……。
「わりぃな坊主。貴族様に仕官するために来たんだろうが、お前はここで脱落だ」
「その綺麗な顔をボコボコにしてやる」
「ま、一人でも脱落させれば目に映るだろうな」
「手加減はしねぇぜ」
「構いません。本気で来てください」
全身の魔力の循環を抑える。
一気に体が重くなる。
「んだとぉ? 」
「本気で来てください。そう言ったのです」
足を踏ん張り拳を構えて周囲に気を張る。
この予選は僕にとって好都合だ。
この世界は本当に何が起こるかわからない。
今の所積み重ねで対処できている。
けれどもこの先今の状態では対処できないことも増えるだろう。
だから僕は修練を積み上げる!
――守れなかった。
あんなことがないように!!!
「けっ! 余裕かましてな」
「その首。俺がもらった!!! 」
「ではBグループ午前の部ぅぅぅ! 開始ぃぃぃぃぃ!!! 」
「吹き飛べぇぇぇ! 」
――火南流格闘術「火林」
★
「あれは……? 」
客席でリリアナが不思議そうな顔をして吹き飛んでいく参加者を見て呟く。
アルフレッドは拳を放ったと思えば次は蹴りをする。
死角から敵が来たと思えば捕まえて相手に投げ飛ばしている。
その表情は鬼気迫るもので、リリアナは見たことがないものであった。
「火南流格闘術の一つ。「火林」という技だ」
「火南流? 」
「その昔隆盛を極めた総合武術体系で格闘術はその一部になる」
フレイナがどこか懐かしむような目で見る先には、一瞬火花を散らしながら敵を沈めていくアルフレッドの姿がある。
火林は拳を圧縮して一度に放つ技。
一撃一撃の威力は落ちてしまうが、身体強化をかけて放てば一度に複数の敵を一気に葬ることができる。
しかし今リリアナとフレイナの目にはその威力が発揮できているようには見えない。
その代わりアルフレッドは火林に加えて複数の技を連続的に放ち絶え間なく敵を離している。
その様子を不思議そうにリリアナが見る。
リリアナの疑問は火南流という武術体系のことだけではない。
彼女はアルフレッドに目を移してフレイナに聞く。
「何故アルは身体強化を使っていないのですか? 」
アルフレッドの事を知っている者からすれば一撃で終わる試合だ。
例えば火南棒術「回転」。これにアルフレッドの馬鹿でかい魔力を乗せて伸ばしたマジックロッドをで一払いすれば終わる。
なのに魔力の一切を封じている。
リリアナが不思議に思うのも無理はないだろう。
しかしこれに関してはアルフレッドの心を知らないフレイナもわからない。
火南流剣術に身体強化を使ってはいけない、という決まりはない。
フレイナは少し困ったような表情でリリアナに返す。
「わかりません。しかし主殿の事です。何か考えがあるのでしょう」
フレイナは成長したアルフレッドの姿を見て頬を緩める。
その時にはもうすでに相手は一割しか残っていなかった。
★
「……すぅ……。ふぅ……」
「こ、この化け物めっ! 」
「火南流格闘術「破甲」! 」
「カハッ! 」
メキメキメキ!!!
鎧を粉砕してダメージを与える。
連続で蹴り飛ばし二人一度に場外にした。
息を吸い、大きく吐く。
大声を上げながら迫ってくる相手を捌きながら昔フレイナに言われたことを思い出す。
――『もし魔法が使えない状態で戦闘になったらどうしますか? 』
――『魔法が使えない? 身体強化も? 』
――『ええそうです。魔力操作も使えない、魔力を完全に閉じられた状況になった場合、どう戦いますか? 』
あの時は質問に現実味が無かった。
けれど悪魔獣というイレギュラーが出現した。
悪魔獣の基本は魔物の掛け合わせ。
膨大な能力パターンがあるとはいえ、既知のものが多いだろう。
しかし誰がそれが全てと言った?
魔力を封じる悪魔獣が出現してもおかしくないだろう!
「火南流格闘術「三心撃」! 」
あと一人!
「……ありえない。魔力を使わずにこの人数を」
「戦意喪失ゥゥゥ!!! 戦意喪失です! 」
ふぅ……。終ったみたいだね。
「激闘の末勝利を手にしたのは……。アルフレッド・ウィザース選手だァァァ!!! 」
「「「うぉぉぉぉぉぉ!!! 」」」
★
「おめでとうございます。アル」
「あ、ありがとうリリー」
試合を終えた後リリー達と合流した。
僕を見た瞬間リリーが憤怒の形相をしたんだけど……、なんで?
試合には勝ったし本当にわからない。
けれどもリリーは会場で理由をいう気はなかったみたい。
「こっちです」
怒ったままのリリーについて行く。
途中フレイナとアリスにアイコンタクトで聞いてみたけど二人もわからない様子。
本格的にどこで僕は地雷を踏んだのだろう。
「教会? 」
「さ。中に入りましょう」
リリーについて行くと大きな教会についた。
彼女に促されるまま教会の中に入る。
途中待つように言われて足を止めるとリリーがシスターに話しかけている。
首を傾げて待っているとシスターが僕の方にきて「こちらにどうぞ」と部屋に案内してくれた。
「全くアルは無理をし過ぎです」
「はは。面目ない」
リリーが怒っていたのは僕の拳がボロボロだったからのようだ。
シスターが回復魔法をかけると部屋から出る。
リリーがその上に包帯をぐるぐるにして巻いてくれた。
少し過保護な所があるけど……、これは温かいね。
「……どうしてあんなことをしたのか聞かないんだね」
「聞いたら答えてくれるのですか? 」
「……黙秘します」
言ったらリリーを不安にさせるかもしれない。
悪魔獣というだけでも脅威。
それ以上の可能性となると、もうすこし。せめて悪魔獣の実態がわかるまでは話さない方が良いだろう。
それにこれにはかなり僕の妄想が入っている。
考えすぎという可能性の方が高い。
「アルは私に色々と話してくれますが、本当に重要なことは話してくれません」
リリーがフレイナとアリスをちらっとみて、ドキリとする。
この二人が「人ではない」ことに気付いているの?!
「なので私は聞きません。一人で対処できなくなったら教えてください。私の両手はいつでも空いているので」
リリーがニコリと笑い両腕を広げる。
「さて。治療も終わりました。帰るとしましょう」
これは参ったね。
いつか僕とリリーの間に、本当の意味で壁がなくなる日は来るのかな。
そんなことは無いだろうと思いながらも、その日がきたら嬉しいな。
「馬鹿な考えだ」と思いながら僕はまん丸になった両手を見て笑った。
★
大会四日目の午後。
僕達は観客席でリリーの応援をしている。
「体格差はあるけど……」
「全員でかかってもリリアナ殿には敵わないでしょうね」
大会開始の合図がなる。
バチバチッ!
と音が鳴ったと思えば立っているのはリリー一人だった。
「い、一瞬!!! これが……。これが「疾風迅雷」リリアナ・ウェルドラインだァァァ!!! 」
司会が叫び観客席から歓声が上がり、その日の幕を閉じた。
僕とリリーの試合が終わった。
あとは最終日のケイトのみとなったある日の事。
僕達は待つだけだったのだけれど、リリーが突然ホテル「ナナホシ」にやってきた。
「アル。ちょっと相談に乗ってほしい事があるのですが」
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