第46話 武闘会準備 4 エニファーと王都巡り
武闘会の会場でエニファーと名乗る少年に出会った。
家名を名乗らなかったけど恐らく貴族の子だ。
一般の服と同じ物を着ているけど見てわかる程に素材が違う。
「主殿」
「わかってる」
彼が貴族の子であることは確実だ。
人ごみの中に何人もの護衛がいるんだから。
最初は「あれ? 」と思ったけど、流石に同じ顔を三度見れば気付くというもの。
加えて彼は高位の貴族の子だと思う。
護衛の数が一人や二人じゃないからね。
「守られているね」
護衛をつけた人の気持ちはわからなくもない。
体の線は細くどこか幸薄い印象を受ける。
まず、大会参加者ではないだろう。
「君は……」
エニファーが大きく目を見開いて口をパクパクさせる。
「コホン。君の名前を教えてくれないだろうか? 」
どうしたんだろう? と首をかしげていると軽く咳払いをして名前を聞いてきた。
おっと黙りこくってしまったようだ。
すぐに僕は自己紹介をする。
そして護衛としてフレイナとアリスを紹介すると、今何をしているのか聞いてきた。
「今は出店を回ろうとしている所だよ」
「へぇ……。そうなのか」
エニファーは少し考え込んでしまった。
どこに考える要素が?
と思いながらどうやってこの場を切り抜けようかと頭を巡らせているとエニファーが顔を上げた。
「なら私も一緒に回ってもいいだろうか? 」
「え? 」
「実は私も出店を回る予定なんだ。けどこういう所に来るのは初めてで……正直なところ戸惑っていたんだ。一緒に回ってくれる人がいれば心強いのだが」
期待を込めた瞳で見て来る。
一緒に回ってくれる人ならそこにいるよ、と叫びたかったけどぐっと抑える。
僕としては回る人数が増えることに文句はない。
だけどフレイナとアリスをみると不満そうな顔をしている。
これは難しいね。
「だ、だめだろうか」
エニファーが顔を下に向けてしょんぼりする。
なんだか悪い事をしている気分だ。
く、くそぉ!
「わ、わかった。一緒に回ろう」
「本当か! ありがとう! 」
エニファーが顔を上げて目をキラキラと輝かせる。
反対にフレイナとアリスから不満を訴える目線が向けられる。
二人に「後で穴埋めをするから」と、どうにか納得してもらい僕達は出店を回ることにした。
「ふわぁぁぁ! これは何というんだ?! 」
「焼き鳥だけど……。いやなんでここに焼き鳥があるんだよ」
嗅いだことのある懐かしい匂いに誘われて、僕達は一つの出店に向かった。
甘くも香ばしい香りで繁盛していない訳がない。
行列に並んでやっと僕達は焼き鳥をゲットした。
「これはどうやって食べるんだい? 」
「かぶりついて食べるんだよ」
「かぶりつく?! 」
「こうやって」
と僕は自分の焼き鳥にかぶりついて見せる。
エニファーはこの食べ方に衝撃を受けたようだ。
僕と自分の焼き鳥を交互に見て、かぶりつくか悩んでいるようだ。
「無理しなくてもいいんだよ? 」
彼は明らかに高位貴族。
このやり方が合わないというのは十分にあり得る。
「い、いや。こんなにも美味しそうなんだ。やって見せる! 」
とはむっと焼き鳥を口にする。
するとエニファーの顔が一気に笑顔に包まれた。
エニファーは一つ一つ丁寧に食べている。
しかし本当に何でこんな所に焼き鳥屋があるんだ?
「あれはナナホシ商会の出店でしょう」
「ナナホシ商会の?! 」
「そう言えばマリーが「稼ぎ時よ! 」と言っていたのです」
驚いたけど納得だ。
昔からウィザース男爵家は自分で狩って食べるというのが基本だった。
だからその流れでタレを開発して食べていた。
ならその過程でマリーがタレを独自開発してもおかしくない。
いつの間にか武闘会に出店するとは、マリー……恐ろしい人。
「アルフレッド。君はナナホシ商会の関係者なのかい? 」
「そうだけど? ナナホシ商会を知ってるの? 」
「知っているさ。ナナホシ商会は今貴族の間でも有名だからね」
今さらっと貴族であることを暴露したけどツッコんだら負けだ。
「お菓子産業から知的玩具までこの商会が作るものはどれも斬新で面白い、と聞いている。それに何よりモンスター病の治療薬。素晴らしいの一言だ」
エニファーが少し興奮気味している。
好評なのはとても嬉しい事だ。
マリーの立ち回りが上手いのか悪評が出てこないのが特に。
「これほど話題になる商会というのも珍しいから覚えているよ」
エニファーが串に残っている最後の焼き鳥を食べて、笑顔を見せる。
僕もあと一つだ。
ぱっくっと残りの塩だれで味付けされた焼き鳥を食べる。
するとフレイナが声をかけてきた。
「主殿」
「ん? 」
「口が汚れております」
「ん~~~?! 」
フレイナの方に顔を向けると、彼女がいきなり布で口を拭く。
う、嬉しいけど恥ずかしい。
精神力がゴリゴリと削られていく……。
「フレイナだけずるいのです」
アリスがぷんすかと怒る。
しかしそのアリスの口元には大量のたれがついていた。
「ほらアリス」
「お兄ちゃん?! 」
「ついてるよ」
ポケットに手をやり布をとる。
アリスの口元を軽く拭いて綺麗にする。
アリスが「アリスがやりたかったのです」としょんぼりするけど満更でもない様子。
「皆は仲が良いだな」
食べ終えたエニファーが僕達を見るとフレイナとアリスが答える。
「もちろんだ」
「もちろんなのです! アリス達は仲良しさんなのです! 」
「それは……ちょっと羨ましいかな」
そう言うエニファーの表情は少し寂しかった。
大会会場に出ているお店は大体回った。
ここでお別れかと思ったけど彼は王都の町にも興味があるみたい。
僕も王都の町並みに興味がある。
一緒に王都の商業区を歩きながらエニファーに聞く。
「エニファーは他の領地から来たの? 」
「そんな所だ。この機会に王都の様子を見て見たくてね」
エニファーが珍しそうに周りの建物を見る。
その様子は観光を楽しんでいるというよりも、どこか社会見学をしているようにも見えるから不思議。
エニファーを連れて店舗を回る。
普通のお店だけでなく体を使った遊びもあるね。
回っていく内に、最初はエニファーに対して警戒していたフレイナとアリスだけど、気が付くと一緒に遊んでいる。
僕を挟んで、という言葉が入るけど。
「大きな建物だね」
「確かあれはノーゼ財団が出資を行っている商会だと思う」
一通り見て回ると一つの大きな建物に行き当たる。
建物の中には貴族や貴族の子供が入っていくのが見えるね。
明らかに一見さんお断りな雰囲気を持つお店だけど、エニファーの言葉で納得した。
「なんでわかったの? 」
「あそこにノーゼ公爵の家紋が付けられているからだ」
「偽物という可能性は? 」
「疑ってかかることは必要な事だけど、これに限って偽物と言うことはないだろう。なにせ貴族の家紋を許可なしにつけることは許されない」
言われてみれば確かに。
となるとやっぱりここはノーゼ財団の手がかかった店なのか。
――『「ノーゼ財団」ってのも怪しいな』
王都冒険者ギルドのマスターが言っていたことを思い出す。
そう言われると格式の高い店、というよりも怪しい店と見えてしまう。
調べたい。けど今調べるべきではないね。
出来れば情報が揃った時に、一気に潰しにかかりたい。
「どうしたんだい? 」
エニファーが首を傾げて僕に聞く。
彼に「なんでもないよ」と答えて次の店に向かった。
「今日は楽しかったよ」
「それはなによりだ」
余程いつも退屈しているのかエニファーは会った時よりも血色が良い。
血色が良いのはあちこちのお店でお腹いっぱいに料理を食べたおかげか、リフレッシュしたおかげか。
エニファーばっかり遊んでいたようにも見えるけど、僕達が満足しなかったわけじゃない。
「一緒に回れて僕も楽しかったよ」
そう言うとエニファーは満面の笑みを浮かべた。
「それじゃ」
「あ、ちょっと待って」
「ん? 」
「あの……さ」
エニファーが言いにくそうに少し俯く。
何だろうか。
「よければ、さ。私と友達になってくれない……か? 」
それを聞き僕は目を大きく開けてクスリと笑う。
何を言っているんだろうか。
今更だね。
「もう友達だろ? 」
言うとエニファーはガバっと顔を上げる。
腕で目を擦り大きく頷く。
「そうだね! 友達だ! 」
こうして僕とエニファーは友達になった。
★
エニファーと別れて数日後。武闘会が開催された。
開催式は全員参加ではない。
出る必要性も感じられなかったので黙々と僕は準備をする。
そして武闘会二日目。
Bグループ予選が、――始まる。
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