第45話 武闘会準備 3 嫌味なイケメンは重病にかかってしまったようだ
全身黒スーツの男がリリーに「こんな所で会うとは奇遇ですね」と言って現れた。
誰だこいつ?
身長は僕よりも少し高いけど顔つきからして歳は同じくらいだと思う。
少なくとも知り合いにこんないけ好かない感じの人はいない。
リリーの方を見る。物凄い不快な表情をしている。
男が一歩前に出る。
僕がリリーの前に立つと男が眉を顰める。
「誰だ君は」
「お前こそ誰だ。不審な輩め! 」
「聞いているのはボクだ。いやまて。その髪、その耳、その瞳……。まさかアルフレッド・ウィザースか? 」
「……何で僕の名前を」
恐怖を感じて一歩下がる。
顔は良い。
しかしこんな全身真っ黒の痛々しい格好をする人に知り合いはいない。
「くっ……。また君はボクを馬鹿にするのか」
俺はこんなこじらせたような奴にあったことがあるのか?!
馬鹿にしたことがあるというのならそれなりに濃い付き合いだと思うのだが。
「まだ思い出さないのか! 絶対に名前を忘れることがないとボクは言ったはずだ! 」
「すまない。全く記憶にない」
「……君と言うやつはっ! ならば再度名前を教えよう。ボクはフォレ王国の……「行きましょうアル。不審者の名乗りを聞くほど私達は暇ではありませんし」……」
リリーに手を取られて彼の横を過ぎる。
後ろからアリスがトテトテと歩いて僕に続く。
フレイナも何も見なかったように横に並んだ。
そうだね。リリーの言う通りだね。
僕達は不審者の名乗りを聞くほど暇ではない。
あれの相手をするくらいならホテルで護衛の真似事をした方が良いだろうね。
「無視をするなーーー!!! 」
後ろから大声が聞こえてくる。
周りが更に騒々しくなる。
あの不審者君は周りの迷惑というものを考えないのだろうか。
「また馬鹿にしやがって」
はぁ、と溜息をついて後ろを向く。
すると不審者君がズシズシと大股でこちらに歩いてきている。
「馬鹿にはしてないが興味がないだけだ不審者君」
「誰が不審者だ! 」
「不審者要素しかないが? 全身真っ黒だし付きまとうし」
「これはファッションだ! 男爵程度ではこの美しさはわからないだろうがね」
不審者君が襟を正して自慢する。
「黒いヒトは魔物ですか? 」
「人語を喋る魔物か。珍しい。だがいないことはない。人に紛れていたようだが主殿と会話したのが運の尽きだったな」
アリスの言葉をいいように解釈し、フレイナがこれ幸いと不審者君を退治しようとする。
「なんだ。ボクとやり合おうというのか? ボクは全属性持ちだぞ」
「全属性持ちは器用貧乏になりやすい。取るに足らんな」
「ボクは魔法を極めている。そこら辺のやつらと一緒にしてもらっては困る」
不審者君が魔杖を取り出し構える。
険悪なムードが漂う。
魔法が飛ぶかと思ったら、リリーがそれを許さなかった。
「そこまでです。二人共落ち着いてください」
二人がリリーの方を見る。
「これ以上は他の方々の迷惑になりますので」
リリーが言うと不審者君が魔杖を降ろす。
「リリアナ様がおっしゃるのなら。将来のつ――ゴボァ!!! 」
「「「あ……」」」
不審者君が何か言おうとしたらリリーの拳に沈んだ。
リリーは拳を解き軽く払うと僕の方をニコリとみる。
「さ、アル。帰りましょう」
その有無を言わさない笑みが怖い。
★
宿に戻り一階に備えられた休憩スペースで一休憩。
アリスはもってきたお菓子を両手で持って可愛らしく食べ、フレイナは貴族の娘のように品のある動きで飲み物を飲んでいる。
ケイトはケイトで物珍しそうに買ったお菓子を見ては口に入れていた。
「リリー、結局あれは誰だったの? 僕を知っているようだったけど」
「本当に記憶にないのですね」
リリーがクスリと笑う。
やっぱり僕は彼にあったことがあるみたいだ。
けど記憶にない。
あれだけキャラが濃かったら覚えているはずなんだけど。
「あれはアンテ・ノーゼですよ」
「アンテ・ノーゼ……、ノーゼ?! 」
「ええ。ノーゼ公爵の一人息子、アンテ・ノーゼです」
驚いた。
悪名高きノーゼ公爵の一人息子か。
けどそんな奴とあったことあるか?
「ほらエニー・フォレ殿下の誕生パーティーの時にアルが私を守ってくれた」
「あ……、あぁ! 」
「ふふ。思い出してくれたようですね」
リリーが上品に機嫌よく笑う。
ようやく思い出した。
何とかしてリリーの気を引こうとしていた子供だ。
そうだ。確かにアンテ・ノーゼって名乗っていた。
貴族の子、ということであの後もリリーとアンテは交流があったのだろう。
今日のリリーの雰囲気からしても彼女がアンテを受け入れているとは思えない。
けれど何でかな。
僕の知らない所で交流があったと思うともやっとするのは。
「さて。私達は行きましょう」
「ふぇ?! 」
リリーが席を立ちケイトに声をかける。
ケイトはお菓子を食べていた途中のようで「コホコホッ」とせき込んでいた。
水を出し、飲ませる。
ありがとうございます、とお礼を言ったと思うと少し寂し気に席を立った。
「次は武闘会の会場でお会いしましょう」
「うん。リリーもケイトもパーティー頑張って」
僕達は二人を外で見送った。
★
「大会当日までやることがない」
部屋の中で僕はぽつりと呟いた。
「冒険者ギルドに悪魔獣が関係していそうな依頼はありませんでしたしね」
「悪い獣さんはかくれんぼなのです」
フレイナは扉の横を陣取り、アリスが足をぶらんぶらんとさせる。
依頼として出ていないということはこの前の悪魔獣以外に発見されていない、被害が出ていないということだ。
これ自体は喜ばしい事なんだけど、今僕が暇を持て余している原因でもある訳で。
「普通の依頼は受けないのですか? 」
「それもありだけど……ここは王都だしね」
依頼自体はかなりあった。
けれどここは僕達のホームじゃない。
僕達の実力を知っているウィザース男爵領なら依頼を受けて時間を潰していただろう。
しかしここで依頼無双をしたら絶対に勘ぐられ変なことに巻き込まれる自信がある。
逆に周りの合わせたペースで依頼をこなしたとする。
今度は大会開催時間までに間に合わなくなる可能性が出てくるわけで。
「ならば大会の下見をするのは如何でしょうか? 」
「下見? 」
「宿に戻る時ちらっとみたのですが大会に合わせて様々な店が並んでおりました。主殿はいつも頑張っておられます。なのでここで一つ息抜きをしたらどうかと」
息抜き、か。
そういえば男爵領の村のお祭りとかに出たことないね。
思い出せば思い出すほど今まで息抜きというものをしていないような気がする。
ありだね。
「下見に行ってみようか」
「はい! 」
「ついて行くのです! 」
フレイナとアリスを連れて宿を出る。
思えばせっかくの王都。下見だけじゃなくて王都を探検するのも良いだろう。
「けど大会か。ケイトじゃないけど多くの人の前で何かをするというのはなかった気がする」
「緊張しますか? 」
「そこそこ」
緊張もある。
だけどドキドキしているのはそれだけじゃないような気がする。
大会と聞いて高揚しているようだ。
「そろそろ着きますね」
「いつ見ても大きいね」
「人もいっぱいなのです! 」
この前大会の受付期間は終わった。
その影響かこの前よりかは人が少ない。
だけど周りを見ると多くの人が出店の食べ物やグッズを買っている。
「フレイナの言う通り出店が多い」
「なにか買いますか? 」
「そうだね。マリーにも買って帰ってあげたいしなにか……」
――ドン
「っとすみません」
「こ、こちらこそ不注意でした。申し訳ない」
ぶつかり尻餅をついた人に謝って手を差し伸べる。
彼は少しどうするか迷った後、僕の手を取る。
立ち上がるとローブのフードが外れ、短い金髪が現れ緑の瞳が僕を見た。
「私はエニファー。起こしてくれてありがとう」
男……だよな?
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