第43話 不穏を告げる魔物
僕はフレイナとアリスを連れて城門を潜る。
武闘会の影響もあってか色んな人が横切っていく。
「これはアリスの力で移動しなくて正解だったかもね」
「うぅ……。負けた気がするのです」
「いつも助かっているから気を落とさないで」
アリスの頭を撫でながら元気づける。
武闘会の間は自分の足で移動することにしている。
これは大会の影響で色んな人が王都に出入りしているからだ。
アリスなら人のいない所に出られるだろう。
けど非日常の今、誰がどこにいるか全く予想がつかない。
端的に言うとアリスの力で移動した時騒動になったらいけないからこうして歩いているわけだ。
「王都付近にも悪魔獣が出るとは」
「まだ悪魔獣って決まったわけじゃないけどね」
フレイナに言うが僕の中では八割くらいは悪魔獣だろうと考えている。
二割普通の魔物というのを捨てきれていないのは、悪魔獣に似た魔物がいないかマリーに聞いてみたことがあり、似た魔物がいたことを知っているからだ。
今は確認できていないけど、と言う前置きでマリーから教えてもらったのはケロべロスやオルトロス、ヒュドラのような多頭種と呼ばれる魔物と、倒した相手の力を取り込み使う魂喰らいの悪魔達。
「いずれにせよ討伐するに限る」
考えている間に森に着く。
そして僕達は森へ入った。
森の中は至って普通だ。
時々他の冒険者と会ったりしたけど特に変わった様子もないみたい。
早々に指定されたシルバーウルフの討伐数を倒して話し合うことに。
「……見間違い、ということもありますし」
「もしくは僕達が考えすぎたか」
未確認のウルフ種と言っても森の中。
それに詳しい外見などは書いていなかった。
報告した人が混乱していたら普通のウルフを違うものとして報告することもありうる……のか?
「ん? 」
「多いですね」
「少し様子が変なのです」
集団で来ているみたいだけど普通の魔物ではない。
異様な魔力を放ちながら何かがこっちに向かってきている。
「グルルルル……」
「……オルトロス? 」
「いえこれは悪魔獣です! 」
フレイナが剣を構えながら正す。
頭が二つのシルバーウルフに見えるんだけど、オルトロスじゃないのか。
今まで悪魔獣と戦ってきた中で発している魔力に特徴があるのでは、と感じている。
何と言うか禍々しいんだ。
けれど禍々しい魔力を放つ魔物が居てもおかしくない。
だから魔物かなと思ったのだけれど違ったみたい。
唸る魔物の姿は普通のシルバーウルフに頭を二つ付けたもの。
しかし首の位置がおかしい。
この世界のオルトロスが神話上のオルトロスと同じならば首が隣にあるはずだ。
けどこの悪魔獣は一つの首から少し離れてお腹の方に寄っている。
こう見れば、確かにオルトロスではないね。
僕もマジックソードを構える。
オルトロスが唸り一歩前に出る。
今にも襲い掛かってきそうだ。
取り巻きのシルバーウルフ達も目を血走らせ唸りながらじりじりとこっちによってきている。
先手必勝だ!
「フレイナ! アリス! 」
「任せてください」
「ここは通しません! 」
声をかけると同時にオルトロスもどきの懐に入る。
「グル?! 」
ズジャッ!!!
そのままマジックソードで斬り上げて首を落とす。
だがオルトロスもどきは後ろに下がる。
お腹の方からもう一つの頭が僕を観察しているようだ。
もう一つの頭が指示を出しているのか。
「ガ! 」
「風弾か」
迫って来る魔法を避ける。
後ろからバキバキッという音が聞こえてくる。
気にせずオルトロスもどきを追うけど中々足が速い。
「魔弾」
「ガッ! 」
マジックショットで足を打ち抜く。
「もらった! 」
オルトロスもどきが足を崩している間にその首をとった。
その後フレイナと共に他のシルバーウルフを討伐したけど、中には悪魔獣も紛れていた。
これは「未確認のウルフ種」と言われても仕方ないと。
「やはり普通のシルバーウルフよりも悪魔獣となったシルバーウルフの方が強力ですね」
「今回は何の掛け合わせだったの? 」
「わかりません。しかし私が倒した悪魔獣は魔法を使っておりませんでした。しかし身体能力が向上していました」
「もしかしたらシルバーウルフ同士を掛け合わせたのかもしれないね」
毛皮の上から狼の顔のような浮き出ているシルバーウルフを見て言う。
しかし何を目的にこんなものを作っているんだ?
単純に混乱を引き起こすためとは思えないけど……。
「一先ず冒険者ギルドに報告するとしましょう」
「戻るか」
シルバーウルフ達を片付ける。
そしてすぐに森を出た。
「未確認のウルフ種と出くわしたのですか?! 」
「悪魔獣だったよ」
「悪魔獣……。聞いたことがあります。少しお待ちください」
受付嬢が奥の扉に入っていった。
聞いたことがある、とな。
悪魔獣のことを「未確認のウルフ種」と書いていたからもしかしたらと思ったけど、そこまで名前が浸透してないのだろうか?
「今回が初めての遭遇だったのではないでしょうか? 」
「それはあり得るね」
実際に見ないとどんな魔物が悪魔獣なのかわからない。
悪魔獣は通常の魔物よりも強力な魔物だからより注意を払わないといけない。
けどこの様子だと一回被害が出るまで対策を練る事は難しそうだ。
「お待たせしました。ギルドマスターがお待ちです」
僕達が直接報告しろと?
今さっき報告したじゃないか。
そう思ったけど悪魔獣と戦ったのは僕達だから直接報告した方が良いのは確かと思い受付嬢の後ろをついて行った。
ギルドマスターの部屋は僕の家の応接室以上に豪華だった。
流石王都本部のギルドマスターの部屋。
持っているお金が違う。
「お前さんがアルフレッドか」
受付嬢がささっと出ると大柄な男が僕に聞く。
僕が頷くと隣に目をやる。
「とんでもねぇな」
「? 」
「いやなんでもねぇ。報告を聞こう。座ってくれ」
促されるまま座り今日あったことを報告する。
すると「ああ~」と唸りながら頭を掻いた。
「聞いてはいたがついに王都でも出たか」
「今まで悪魔獣は出なかったのですか? 」
「全くだな。怪しい組織、なんてものは幾らでもあるが悪魔獣は初めてだ」
いや怪しい組織は放置していいのか?
「どんな組織があるんですか? 」
「知らないのか? 有名どころだと「貴族フェチズムの集まり」「ショタを崇める会」「筋肉教会」とかだな……」
一瞬からだがぶるっと震える。
何だろう……。悪魔獣のような異常性は感じないけど、別の意味で犯罪臭がする。
「あぁ、あと……」
ギルマスが声を小さくする。
「言いにくいが「ノーゼ財団」ってのも怪しいな」
「ノーゼ財団? 北の公爵が出資でもしているのですか? 」
ギルマスに小さく返すと大きく頷いた。
「表向きは貧困対策、教会や孤児院への出資、財団傘下の商会の展開とかやってるがよ。なんかきな臭いんだな」
「きな臭いとは? 」
「欲望の塊のようなやつがこんなことするか? 」
全くその通りです。
あまり接点がないがノーゼ公爵の評判はギルマスが言った通りである。
流石に収めている北の大地での評判はわからない。
けれども伝わってくる情報を纏めると「金に汚い」「権力志向」であることがわかる。
彼が要注意人物なのは確かだ。
「しかしこんなことを教えて大丈夫なのですか? 」
「気にするな。怪しい組織のくだりは冗談だ」
「信じてしまったじゃないですか。いえそうじゃなくてですね……」
聞くとギルマスが真面目な顔をして言う。
「……悪魔獣の事は各ギルドに伝達されている。現時点で強力な魔物に対する完全な対抗策がないにも関わらず、悪魔獣の出現。頭が痛い思いだ」
ギルマスは席を立ちゆっくりと窓の方へ移動しながら話す。
「しかもそれが人為的に引き起こされているときた。増々対抗策をとるのが難しい」
ギルマスは僕の方を見て意味ありげに笑う。
「一番確実な方法は悪魔獣を作っている組織を潰すこと。それが出来る一番の人材に情報を渡すのは合理的だと思うが? 」
全くもってその通りで。
この使われている感覚。正直なところ不満はある。
僕は悪魔獣を放置していると家族皆に危害が加わりそうだから積極的にを倒しているだけで。
それを作っている犯罪組織を探しているのもその延長。
もしこれが家族に危害が加わらないのなら守りに入っていただろう。
不満を感じながらもギルマスとの話を終える。
受付で報酬をもらいそのまま宿に帰ると、そこには疲れ切ったケイトと腰に手をしたリリーが待っていた。
「どこに行っていたのですか? アル」
ある種、悪魔獣よりも恐ろしい。
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