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第42話 武闘会準備 1 ホテル「ナナホシ」

 僕達の前に煉瓦(レンガ)造りの建物がある。

 周りの建物と比べてちょっと大きいけれどそれ以外は平均的な宿泊施設。

 最初マリーがド派手にしようとしたのを慌てて止めたのはいい思い出だ。


「マリーから聞いてはいましたが王都にも建てたのですね」

「綺麗な宿なのです! 」


 アリスがキラキラした目で見上げる。

 その先には入り口があり七つの星マークと宿泊施設を示すベッドが描かれた看板が()るしてある。

 今日から大会終了まで泊まる所はナナホシ商会が運営している宿泊施設、ホテル「ナナホシ」。

 いつも寮を従業員に開放しているように宿泊施設をつくったらどうだ、と言う案から生まれた新事業だ。


「さて入りましょう」


 フレイナが扉を開けて先に行く。

 僕もアリスを連れてついて行き中に入った。


「タダにしろや! ゴラァ!!! 」


 入ってすぐに怒鳴られるとはおもわなかった。

 いや違うか。

 ()めている受付を見ると大柄な男が受付嬢に言い寄っている。

 一人じゃない。三人ほどが因縁(いんねん)をつけている。

 けれど受付も負けていない。引いているように見えて「要望には堪えれません」とキッチリ言っている。


「主殿の宿泊を邪魔するとは」

「万死に値します」

「ちょ?! 二人共抑えて! 」


 周りの空気が急降下している。

 これはまずい。

 二人が暴れるとホテルごと吹き飛ぶ。

 僕がどうにかしないと。

 

「お客様」

「あ”ん? なんだてめぇ」

「ホテルの者です」

「ア、アルフレッド様?! 」

「周りのお客様のご迷惑になるので冗談はその顔ときつい口臭だけにしてください」


 ピシ!


 何かが壊れるような音がした。

 おや。チンピラ達に丁寧な言葉はお気に()さなかったらしい。

 大男が顔を赤くして威圧してくる。


「て……、てめぇ。いいぜ。武闘会が始まる前の肩慣らしにしてやらぁ」

「その綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやるよ! 」

「やっちまってくだせぇ兄貴! 」

「臭いのは兄貴の口臭だけですぜ! 顔はイケメンですぜ! 」

「そうですぜ! 兄貴はイケメンですぜ! 」

「今日も美しく月のようにテカってやすぜ! 」


 ……君達は迫って来る大男に恨みでもあるのか?


「……ぶっ殺す」


 大男が拳を放つ。

 いや半分以上はそっちのせい! と思いながらも回避する。

 そのまま背負い投げで地面にたたきつけた。

 

「ぐはぁっ! 」

「「「兄貴?! 」」」


 ズドン!!! と大きな音が鳴り建物が揺れる。

 完全にのびているチンピラを見ながら溜息をつく。

 チンピラにしても少し気が早すぎやしないか?

 気が早いから問題を起こしていたんだろうけど……。


「やりやがったぞあの坊主! 」

「相手は熊殺しだぞ?! 」

「マジか! 北の暴れ者じゃないか! 」


 沸き立つお客さんとは対照的に顔を青くするチンピラ達。


「で? どうする? 」


 少し威圧を込めて睨みつけるとチンピラ達はたじろいだ。


「や、やばい……」

「逃げるぞ! 」

「連れてきたのです! 」


 大男を置いて逃げようとしたチンピラ達はアリスが連れてきた衛兵に捕まった。

 熊殺し殿も一緒に引き取ってもらい一先ず騒動は収束。

 やっと一息つけると宿をとろうとしたのだけれど、店長に応接室へ連れていかれた。


「何度も助けられ……。ありがとうございました」


 ガバっと頭を下げるのは受付嬢と同じ服を着た女性で「アイナ」さん。

 出来る女性というイメージの彼女は、ナナホシ商会で雇っている人の一人で、温室襲撃事件の時に助けた人の一人だったりする。


「ルーニャさん大丈夫だった? 」

「は、はい! おかげさまで怪我もありませんでした! 」

「ならよかった」


 ルーニャさんがピシッと背筋を伸ばして元気よく言う。

 本当に良かったと思う。

 従業員として雇った手前怪我をされたら困るしね。


「いつもこんな感じなの? 」

「いえ。ここ最近になりますね」


 王都の宿はいつも物騒なのかと思って聞いたけど違うみたい。

 アイナさんに聞くと話はこうであった。

 ホテルを建てて開業した当初は混乱もあったけど、暴力に出る人は少なかった。

 荒れてきたのはフォレ王国国内から様々な人が来るようになった最近とのこと。


「武闘会が原因か」

「お客様が増えるのは嬉しいのですが……」

「変なのに絡まれるのは嫌だよね」

「そ、そういうわけでは……」


 アイナさんが恐縮して小さくなる。

 口では大丈夫なように言っているけど、大丈夫じゃなさそうだ。

 因縁をつけられるだけなら何とかなる。

 けれど暴力を振るわれるのはいただけない。

 それに店で暴れられたら評判にも関わるからどうにかしないと……。


「一時的に、だけど冒険者を護衛で雇おうか」

「そ、そこまでしていただかなくてもっ! 」

「けれど武闘会期間中僕達がいるわけじゃない。出費は痛いけど君達が怪我をする方がよほど痛い」


 現在ナナホシ商会は制竜水の流通に貴族向けのお菓子産業。それに加えて新事業も幾つか行っている為人手が足りない。

 だからイレギュラーで人員を減らしたくない。

 正直なところナナホシ商会が嫌になって出て行く人が現れるのが一番困る。


「ありがとうございます! 」

「ありがとうございます! アルフレッド様!!! 」

「う、うん」


 アイナさんとルーニャさんが感極まったようにお礼を言う。

 勢いに少し引きながらも僕達は割り当てられた部屋に行く。

 荷物を卸し体を軽くしてフレイナとアリスと合流した。


 さて冒険者ギルドに行ってみようか。


 ★


「宿の護衛のご依頼ですね。少々お待ちください」


 王都の冒険者ギルドに行き早速依頼を出す。

 今手が空いている冒険者を探すのに時間がかかるようで僕達は手持ち無沙汰(てもちぶたさ)

 冒険者が冒険者を雇うというのは少し違和感があるね。


「依頼でも見てみる? 」

「見てみましょう! 」


 大勢の冒険者がいる中僕は依頼ボードに向かう。

 遠目でも見てわかるくらいに依頼は多いけど、冒険者達は受けないのだろうか?

 これも武闘会の影響?


「主殿。これを」

「これは……、シルバーウルフの討伐? 」


 シルバーウルフの討伐にしては金額が高い。

 依頼書を注意深く見ていると「なお未知のウルフ種の報告あり」と書かれていた。

 これってもしかして……。


悪魔獣(ビースト)の可能性があります」

「なら受ける一択だね」


 ボードから依頼書を()がすと同時に名前を呼ばれた。

 受付に行き、先に依頼の受付を済ませる。

 聞くと幸い村が襲われているというわけでは無いみたい。

 この依頼はいつも恒常(こうじょう)的に出している、王都近くにある森の魔物駆除の一つとのこと。

 だから明日向かうことにした。

 受付嬢に護衛の候補を教えてもらう。

 そして指名をする。


(うけたまわ)りました。では明日の朝、ギルドにお越しください」


 受付嬢の丁寧な挨拶に見送られ僕達は冒険者ギルドを出る。

 冒険者ギルドでやるべきことを終えた僕達は宿に戻る。

 少し慌ただしかったけど王都での一日を何とか無事に終えることができた。

 

 翌朝日が昇り始めた頃、フレイナとアリスに魔力を与えて宿を出る。

 今日はホテル「ナナホシ」の護衛をしてくれる冒険者達との顔合わせ。

 シャッキっとしないとね。


「お! きたにゃ! 」

「この子が今日の依頼者?! 」

「ショタフェイス……ジュルリ」


 冒険者ギルドに近付くと女性冒険者三人が見えた。

 彼女達に声をかけたけど……、すぐに戻りたくなった。

 いやいや彼女達はBランク冒険者パーティーだ。実力は確かなはず。


「コホン。では初めましてだにゃ。私はリーダーで軽戦士のミカだにゃ」

「私は剣士のイオラだ。ところで君。どこから来たの? 」

「い、いや……。その……」

「もう何を言っているのイオラ。依頼者を困らせたら。ごめんなさいね。ええ~っと……」

「アルフレッドです」

「そうアルフレッドさん。私は神官のレナよ。所でアルフレッドさんは恋人いるかしら? 」

「レナも人のことを言えないにゃ。本当に申し訳ないにゃ」


 ミカが申し訳なさそうに頭を下げる。

 な、なんというか冒険者と言うのはBランクを超えると変人が発生するシステムでもあるのか?

 疑問に思いながらもこのまま立っているわけにはいかない。

 僕達も自己紹介をして早速宿に向かう。


「今回はご指名ありがとうにゃ」

「女性のみのパーティーで、しかもBランク冒険者が引き受けてくれて助かりました」

「同じランクだにゃ。ため口でいいにゃ」

「それは助かるよ」

「けど……聞くのはマナー違反かもしれにゃいけど、どうして女性だけで組んでいる私達を指名したんだにゃ? 」

「それは宿の従業員が女性だけだからだよ」


 答えると「おおーーー」と彼女達から声が上がる。


「主殿はとてもお優しい。男性冒険者を雇った場合従業員に威圧感を与えないか心配したのだ」

「お兄ちゃんはとーーーっても優しいのです」


 フレイナがどやり、アリスが両手を広げてアピールする。

 恥ずかしさで少し(うつむ)きながら歩いているとヤバい声が聞こえてくる。


「Bランク冒険者で男爵家の長男でナナホシ商会の役員でしかもショタフェイス……。はぁ……はぁ……ヤバい。鼻血出てきた」

「永久就職したいですね」

「馬鹿二人は置いても、冒険者を辞めたらナナホシ商会で雇って欲しいにゃ」


 僕は本当に彼女達をホテル「ナナホシ」の護衛にしてもいいのだろうか?

 疑問が深くなる中、宿に着く。

 しかし彼女達はプロだった。

 仕事場であるホテルに着くと今までのやりとりが無かったかのように人がかわり、従業員と挨拶をする。

 その後護衛の日程やどの程度の武力行使を認めるのかを話し合い、今日から仕事に就いてくれた。

 これはありがたい。


 ホテルも任せることができるようになった。

 僕達はホテルを出て、そして王都近くにある森へ向かった。

ここまで読んで如何でしたでしょうか。


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