第41話 合宿 in ウィザース男爵邸 2 お色気パニック!
この館には風呂場が設置されている。
僕が生まれた時には使われていなかった。
けれど魔石の交換をすることで使うことが出来るようになったのだ。
魔石はもちろん大森林産。
魔石に刻み込む付与魔法はマリーにやってもらっている。
浴槽に水を溜めるには大量の魔力が必要だ。
だから魔力を込めるのは僕が行っていたりする。
転生してきた時お風呂はないものと思っていた。
けれどあると聞いて飛び跳ねるように喜んだのはよく覚えている。
ありがとう。|エルドレッド・サウザー《偉大なるご先祖》様。
風呂場に着く。
扉の向こうから湿った空気を感じる。
母上が用意してくれていたようだ。
今日はお客さんが二人も来ているし、僕は彼女達と訓練していたから、きっと父上と力を合わせて用意してくれたのだろう。
「さて入ろう! 」
勢いよくノブを引く。
が――。
「………………アル? 」
バタン!!!
あれ……。今おかしなものを見た気がする。
目の錯覚かお風呂に女の子が二人いた気が。
いやいやこの館の女の子と言えば武姫達だ。
なにもおかしなことは無い。
「アルどうしたのですか? 」
「リ、リリー?! 」
お風呂の方からリリーが無防備な姿で出てきた。
小さく可愛い顔をコテリと傾けて今の状況が普通であるように聞いてくる。
が僕はそれどころじゃない。
こっちも全裸なんだ!
すぐに体を反対に向ける。
けど……、白い肌にふっくらとした胸。それにスラリとした体に突き出たヒップ。
リリーの成長が著しい。
「アルもお風呂でしょうか? 」
「う、うん。まぁそうなんだけどリリーは何でお風呂に? 」
リリーに少しだけ顔を向けて答える。
リリーが膝に手をついて前のめりになって赤い瞳で僕を見ている。
色々な所が見えてます。せめてタオルを巻いてください!
でないと僕がお風呂に入る前に茹で上がってしまう。
「アネモネさんが先に入ったらって」
まさか母上。謀ったな!
あのタイミングで声をかけるとはそうとしか思えない。
やられた。
完全に僕の敗北だよ。
「アル。一緒にお風呂に入りませんか? 」
無垢な表情でそんなことを言わないでいただきたい。
僕達はもう十五なんだ。色々と不味い。
「え、遠慮しておくよ」
「そう言わずに」
「じゃぁ僕はこれで! 」
「あ、ちょっとアル! 」
今日だけは敗北を認めようじゃないか。
ちょっともったいなかった気もするけど問題を起こすよりかはマシである。
★
「ふぅ……。まったくアルったら恥ずかしがり屋さんなのですから」
「だ、大胆ですね」
ケイトは顔を赤くしながらお湯に浸かるリリアナを見る。
ケイトから見てもリリアナは美少女だ。
艶のある黒い髪に宝石のような赤い瞳。小さく可愛い顔つきは人を魅了し、整った体つきは女性の理想を思わせる。
それに比べて、とケイトは自分の体を思い出しお湯に沈む。
「どうすればアルを攻略できるのでしょうか」
今でも過剰なほどにアプローチをしている。
これ以上となると夜這いになる。
しかしケイトの立場からすればそれを提案しても良いのか困るところ。
結局ケイトは曖昧に返事をしてお湯に浸かる。
「やはり夜這いでしょうか」
ケイトの努力は泡のように消えた。
「だ、ダメですよ。婚前交渉は流石にまずいです」
「そうですよね。これは最後の手段に取っておきましょう」
諦めたかと思えば最後の手段になってしまった。
ケイトは心の中で冷や汗をかきながらリリアナに向いた。
「お、お二人の仲が良いのは知っていましたが……、リリアナ様。どこか焦っていますか? 」
ケイトの言葉で固まるリリアナ。
リリアナは肩の位置までお湯に浸けて俯いた。
「……そのようなことはありません」
絶対になにかある。けれどなにも話さないだろう。
ケイトはそう直感で感じ取ったが口を閉じる。
「そう言えばケイトは好きな人、出来ましたか? 」
「ふぇ?! 」
「苦しい事があるとはいえ王都で働いているのです。奥手なケイトとはいえ好きな人の一人や二人できてもおかしくないと思うのですが」
リリアナの言葉にケイトは動揺する。
一瞬アルフレッドの事が脳裏を過る。
(な、なんで?! )
慌てて顔が赤くなる。
アルフレッドはリリアナの想い人だ。
昨日今日あったばかりの自分が、と頭の中からアルフレッドを追い払い冷静を取り戻す。
そしえてリリアナに答えた。
「す、好きな人はいません……」
「あら? そうなのですか? 」
「毎日訓練なので」
毎日訓練でも好きな人が出来ない理由にはならない。
王都、しかも王城勤務ならば様々な出会いがある。
騎士団での出会いもそうだが彼女の場合様々な事務も任されている。
それ故に王城の文官との出会いもあるはずだ。
そう思いリリアナは聞いてみたのだが外れたようだ。
リリアナは残念そうに「そうですか」と言い体を温める。
けれどもリリアナの質問は止まらない。
リリアナの興味が尽きるまで女子会は続き、そして二人は十分に体を温めて風呂を出た。
★
あれから時間が経った。
ケイトもだんだんとウィザース男爵家に慣れて、順調に訓練も進んでいる。
最初は僕がケイトの相手をしていたのだけれど途中から降ろされた。
流石に僕相手では訓練にならないとの事らしい。
ということで交代でリリーやリーグルド、マルク達がケイトの相手をしている。
けれども役割なくなったわけではない。
時々「プレッシャー係」としてケイトの相手を交代して軽く剣を振るっている。
そして出発の日がやってきた。
「忘れ物はない? 」
「私達はあとから向かうからね」
「必ず勝ち上がります」
「うん。その意気だ」
大きなリュックサックを背負って父上と母上に笑いかける。
これは王都に行くにあたってのカモフラージュのようなもの。
数日馬車で移動するのに荷物の一つもないとなると絶対に怪しまれる。
「私達も護衛しておりますのでご心配なく」
「なんで今日もわたしがお留守番なのよぉ」
「アリスがマリーの分まで応援してくるのです。なので心配はいらないのですよ」
「わたしもアルちゃんの応援したい~」
「じゃんけんの結果は悲惨だな」
「きちんとした公平な振り分けなのです。マリーの運が無かっただけなのです。諦めるのです」
「ううう~~~」
マリーが萎れた。
下を向いたかと思うとチラチラと僕の方を見てくる。
「この館を守るのも重要な仕事なんだけど……」
「わかっているわよ。けどねアルちゃん。アリスちゃんもアルちゃんについていることだし、交代で出来ないかな~なんて」
「「試合を全部みたい」と言い出したのはマリーだった気がするが」
「フレイナちゃん、そんなこと言わないでよぉ」
それは自業自得だ。
自分が発案者なら僕はなにも言えないね。
「そろそろ出ませんか? 」
「そうだね。出ようか」
父上と母上に挨拶して館を後にする。
途中までアリスの力で行き、そこからは馬車で王都へ向かう。
リリーはよく王都に行っているみたいだけど僕は久しぶりの王都。
家で寂しく待っているマリーに何かお土産でも買ってあげようかなと思いながらも道を進む。
そして数日の日程を経て僕達は王都に着いた。
「では私はこれで。明日宿にきますので」
「じ、自分は一度騎士団の方へ顔を見せに行きます。その後は……ううう……」
「もう観念してください。行きますよケイト」
僕達はリリーやケイトと別れた。
彼女達はリリーの別荘に泊るようだ。
というのも彼女達はこれから各貴族家でおこなわれるパーティーに出ないといけない。
ケイトも自分の弱点を克服するためとはいえなんと不憫な。
心の中でエールを送り僕達も宿へ入ることにした。
宿の名前は――。
「ホテル「ナナホシ」」
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