第39話 リリーの相談事
温室襲撃事件も一通り終わり食堂で一息ついていた。
悪魔獣対策に領内の犯罪組織対策。やることは多い。
かといって急いで無理をしてもダメだ。
着実に情報を集めつつ相手を締めあげていかないとね。
「帰ったわよ」
「ただいまなのです! 」
「お帰り。マリーにアリス」
いつものようにマリーがアリスの力でガイア様の所から帰ってくる。
けど今日はお客さんもいるようだ。
「こんにちは。アル」
「いらっしゃい。リリー」
リリーもアリスの転移門を潜ってやってきた。
今日もお菓子を食べに来たのだろうか。
リリーが家にくる時の用事は大体お菓子を食べに来るか、ナナホシ商会の新商品を見に来るか。あと時々僕と剣の打ち合いをするか、くらいである。
稀にガイア様の伝言をもってくることもあるけど、流石にこの前話し合いをした後だからそれはないだろう。
「こ、これはっ! 」
考え事しながら様子を見ていたら知らない人が入ってきた。
誰だ!?
「これは皆に言っちゃだめよ」
「畏まりました! 」
「よろしい」
マリーがにこやかに言う。
元気よく返事をする彼女は茶色い、ツンツンになる程のベリーショートの髪を持つ女性で金色色の瞳をしている。背はリリーよりも低い。服は白のズボンと黒いジャケットを着ている。
彼女についてマリーとアリスが何も言わないということは、二人の許可を得ているのだろう。
ということは僕に無害な人と言うことがわかる。
リリーの友達だろうか。
友達を紹介しに来たという事が一番わかりやすい。
けど今まで友達を紹介する素振りも無かった。
ならこの線もないか。
「アル。ちょっと相談にのっていただけませんか? 」
「相談? 」
座って話そうと提案する。
マリーとアリスが座りリリーも座る。
けれどお客さんはリリーの後ろに直立して座ろうとしない。
護衛の騎士か何かだろうか?
「で、相談って? 」
「ここにいるケイトの事なのですが……。そうですね。ケイト、まず自己紹介を」
「はっ! 」
リリーの言葉にケイトがこれでもかと言う程に背筋を伸ばす。
「自分は王国騎士団ダニエル隊所属ケイト・ブラウンと申します! 」
ケイトは敬礼をしながら自己紹介をする。
王国騎士団?
何で王国騎士団の団員がここに?
「ケイトの家系、ブラウン男爵家はウェルドライン公爵家に仕える文官の家系です」
「文官の? 」
「ええ。しかしケイトは幼いころから武芸に秀で、王国騎士団に入隊することができました」
「そのことが今回の相談に繋がる? 」
リリーが頷き話してくれた。
彼女——ケイト・ブラウンはその才能をもって王国騎士団に入隊した。
文官の家系ということもあってか、剣や魔法の腕だけでなく様々な事をこなすことができた。
しかしそれをよく思わない人が現れる。
――新人の癖に生意気だ。
最初は悪戯程度だった。
けど日に日に過激になりついには怪我をするほどになったみたい。
しかしそれでは終わらない。
ある時呼び出された彼女は隊長から「武闘会」の参加を知らされたらしい。
「武闘会? 」
「国が定期的に行っている強者を決める大会です。この大会で腕の立つ人を見つけて雇う貴族も多いですね」
「じ、自分は出る予定はなかったのですが……」
「ケイトを快く思わない人が捻じ込んだ、か」
見た感じケイトは弱々しい。
今見ているだけでも目線を右に左にしたり、肩を縮こませたり。
リリーは色んな事が出来るケイトを快く思わなかった人達が彼女をいじめていると考えているみたい。
けど彼女の性格や仕草もいじめを起こさせた原因なのかもしれない。
「けど何でその先輩? とやらはケイトを武闘会に入れたんだ? 」
「公の前で自分との実力の差を知らしめたいというのもあるでしょうが……、今回武闘会にエニー・フォレ殿下が来るからでしょう」
第二王子殿下とどんな関係が?
「圧倒的な実力で相手を打ちのめす。それを王子見せたいのでは? 」
「……その落差をもって、自分の実力以上の強さをアピールか。可愛い子にそんなことしたら逆効果だと思うけどね……」
「か?! じ、自分が、可愛い?! 」
思わずぽろっと出た。
まずい。
王国騎士団に入っている彼女からすれば「可愛い」は侮蔑かもしれない。
「か、かわっ………………プシュゥゥゥ……」
「ケイト!? 」
「大丈夫! 」
倒れたケイトを見ると顔を真っ赤にしている。
これは……、起き上がれそうにないね。
マリーに彼女を運ぶのを頼んで席に着いたけど、正面に座るリリーが不満そうだ。
「リリーも可愛いと思います」
「心がこもっていないと思います」
リリーがぷいっと顔を逸らす。
困ったな。
そう思っているとリリーが突然笑い出した。
「ごめんなさい。でもアルがケイトのことを可愛いなんていうからいけないのですよ? 」
「これからは気をつけます」
何に気を付けるのかさっぱりわからない。
けれどこれでよかったらしくリリーからお許しの言葉が出る。
話を元に戻して聞いてみる。
「リリーが実力者と言うんだからケイトは相当な実力者でしょ? 彼女が負けるとは思えないんだけど」
「そうなのですが、彼女は見ての通り内気というか臆病というか弱々しいというか……」
「本番で力が発揮できないタイプってこと? 」
「ええ。その通りです」
「それを計算しての武闘会への申し込みか。聞いていると腹の立つ人達だね」
「今目の前にいるのなら恥をかかせるのですが……」
「それに関しては賛成だけど……結局リリーは僕に何を相談したいの? 」
聞いた感じ僕に出来そうなことはなさそうだ。
けどリリーが相談に来たということは出来ることが何かあるのだろう。
「アル。ケイトを鍛えてあげてくれませんか? 」
鍛える、か。
リリーの頼みだから無碍に断ることも出来ないけど……、
今まで人に教えるということをしてこなかった。
かなり不安である。
「ケイトは強い子です。しかし精神的に弱い所が多く、アルと共に訓練をすることで克服できるのではないかと考えているのですが」
その根拠がどこからくる? と心の中でツッコむ。
けど……確かに僕もフレイナ達と訓練したらイレギュラーに動揺しなくなった。
と考えるとリリーの言葉も外れていないのか。
この件、断ることもできる。
しかし今までガイア様に頼ってきたことを考えると、彼女のお願いを聞いた方が良いのかもしれない。
「わかった。彼女に訓練をつけることにするよ」
「ありがとうございます! アル」
そんなに喜ばなくても。
けどリリーはケイトの事を大事に思っているんだね。
これはこれで微笑ましい。
「ついでに私もご一緒してもよろしいですか? 」
「……こっちが本命だっとは」
僕の感動を返してほしい。
まぁ打算的な所も含めてリリーだね。
そう考えるといつも通りのリリーだ。
リリーとの話し合いを終える。
彼女はケイトに結果を話に行くと言い立ち上がる。
僕もこの事を父上に話さないといけないから二階に上がらないと。
二人で二階へ上がり、別れる。
そして僕はこのことを父上に話すため執務室に入った。
「武闘会に出るのかい? 」
「いえ出る気はないのですが」
「そうなのかい? アルが出るのなら見に行こうと思ったんだけど」
「出ます! 」
父上が苦笑いを浮かべている。
けど父上が見に来るのなら話は別なんだ。
「しかし大丈夫なのですか? 」
「調査の事かい? 」
この前大規模犯罪組織を潰して、デベルトやナインを捕えた所。
父上はかなり忙しいはずだ。
「仕事は大体終わったよ。調査にしても今の所私が出来ることは殆どない。悪魔獣にしろ犯罪組織にしろ手がかりが少なすぎるからね」
「上がってくる情報待ち、という所ですか」
「そう言うことだ。それに決勝トーナメントまでに間に合えばいいだろ? 一日や二日程度なら時間は取れるさ」
これは絶対に決勝トーナメントに上がらないといけないね。
絶対に勝つということを心に決めて執務室を出る。
リリーやケイトはどうしているだろう?
お客さん用の部屋まで行きノックをする。
「リリー? 」
「アル! 」
「どうしたの……って、え? 」
部屋に入ると多くの荷物が置いてあった。
この部屋こんなに荷物なかったはずだけど。
気になってみているとリリーが声を張り上げた。
「お泊りです! 」
お泊りですと?!
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