第37話 リーグルド隊 4 領主とは
僕とフレイナ、そしてリーグルド隊は一旦館に戻り作戦会議をすることにした。
「出来れば住民の反感を買うようなことなく進めたいのですが」
「これは難しい問題だね」
今はフレイナとリーグルド隊に加えて父上とマリーを交えての作戦会議中だ。
「まず普段の行いが良いというのがそもそものネックだ」
「裏があるとはいえ知らない人からすれば「良い人」、ですからね」
「強行すれば確実に反感を買うだろう」
頭の痛い問題である。
どうにかして穏便に済ませたいのだけれど、この問題は簡単に解決できなさそうだ。
なので解決できそうな問題から解決していこうと思う。
「人材についてなのですが一つ解決案があります」
切り出して提案する。
「ガイア様に医者と聖職者を紹介してもらいましょう」
正直な所、いくら懇意にしてもらっているとはいえウェルドライン公爵家に頼りっぱなしはよろしくない。
とてもよろしくない。
しかし自分達のコネクションや力でどうにかできるのかというと不可能だ。
「ガイア様を頼るという案は私も賛成だ」
「わたしもよ」
「それに今回の温室襲撃事件はガイア様にも話しているしね」
流石父上。僕達が出ている間に話を通しているとは。
今行っている制竜水に事業はウェルドライン公爵家との共同事業となっているからね。
物はナナホシ商会で作っているとはいえ、この攻撃は間接的にウェルドライン公爵家を攻撃することと同義だ。
もう町ごと滅んだとはいえ怒っているだろうね。
「父上。ホエミの町の事については? 」
「現在アルフレッドが調査中と伝えている」
無難な返し方だが一番ありがたい。
ガイア様がキレて騎士団や調査団を派遣したら目も当てられないからね。
通常貴族は許可がなければ他の領主が治める領地で自由には活動できない。
軍事行動となると尚更だ。
しかし弱小貴族男爵と国内有数の貴族公爵となるとどうか。
きっと父上はガイア様の言葉に屈するだろう。
「……ならば素直に現状を伝えて助力を願いましょう」
「そうしよう。しかし住民感情についてはどうするか……」
「帰ったのです! 」
頭の痛い問題に悩んでいるとアリスが小さなウサギを抱えて部屋に入ってきた。
帰った、とは?
「あらあら~ご苦労さん」
マリーがアリスを労ってなにやら聞いている。
話を聞いているとマリーが目を見開いたと思うとすぐに表情を戻した。
何の話をしてるんだ?
というよりもこの距離で聞こえないとは。何か魔法を使ってるな?
「アルちゃん。ちょっと不味いことになってるわ」
小さな魔法陣が現れたかと思うとウサギが消えていく。
マリーの報告を聞いて唖然とした。
「デベルトの医院の地下室に人が囚われている?! 」
「そうなのよ。それに昔アルちゃんが倒したっていう獣腕の人間もいたみたいよ」
予想以上にとんでもないじゃないか、デベルト。
今すぐ向かって……、
いやまて、落ち着け僕。今焦ってどうするんだ。
「アルちゃん。制圧後その場で解放したらどうかしら? 」
「……もちろん開放するつもりだけど」
「そうね。そうだけど、違うのよ」
「違う? 」
「正確には住民がいる前で開放するってこと。これだけ悪い事をしていたって皆に訴えるのよ」
それは良い手だ。
ちょっと……、いやかなりパフォーマンスっぽいけど、住民に目に見える形で訴えることができる。
「決まったようね」
「アルフレッド。制圧はどうするんだい? 」
「リーグルド隊に行ってもらいます」
空気がピンと張りつめる。
父上が少し考えてから僕に聞く。
「ガイア様が隊を派遣する、と言い出すかもしれないよ? 」
「今回はこちらに任せてもらいましょう」
「どうやって納得してもらうのだい? 」
「そうですね……。リーグルド隊の初実践なので手出し無用、と」
リーグルド隊はこれから領内各地で活動し規範となる必要がある。
その時侮られないために、そして求められるために、有用性と強さを周りに示すための実績が必要だ。
そのためにも今回ガイア様には譲ってもらおう。
大まかに話がまとまったら細かく決めて行く。
そしてガイア様を訪れた。
★
アリスの能力ですぐに手紙を届けるとリリーがすぐに返事を持って来てくれた。
案内されるまま公爵邸の応接室へ向かうと、すでにガイア様がどっしりと座っていた。
促されソファーに座る。
挨拶無用ということなので、改めて事情と要望を話す。
「アルフレッドがお願い事とは珍しいな」
「……難しいですか? 」
「いやそんなことは無い。動ける医者と教会の者をすぐに探し派遣しよう」
すぐに派遣してくれるみたいだ。
囚われている人を一日でも早く救出したいから非常に助かる。
「……さてアルフレッド。今回の首謀者はホエミの町の医師デベルトと助祭ナインと聞いているが本当か? 」
「ええ。その通りです」
「私の顔に泥を塗ってくれた者の名前、よく覚えた。私が直々に天誅を下してやろう」
こっわっっっ!!!
体から嫌な汗が出るけどここは引いたらダメだ。
ゴクリと鳴らしてガイア様に向く。
「今回は手出し無用でお願いします」
「何故だ? ウィザース男爵領の戦力では逃げられるかもしれんぞ? 」
ガイア様の言う通りだ。
戦力、単純な力だけならば武姫達に敵う者はいないだろう。
しかし同時作戦となったらどうか。
館を守る、標的を鎮圧するという二つの役割に分かれる。しかも今回は標的が二つ。
荷が重いだろう。
けどこの先こういう場面は幾らでもある。
だからこそリーグルド達が経験を積む必要がある。
「創設したリーグルド隊の事もありますし何より――」
ガイア様が怒気を孕んだ瞳で睨む。
しかし僕は目線を外さない。
折れる訳にはいかないんだ。
「これはウィザース男爵領のことなので」
言い切る。
ガイア様の瞳を威圧を込めてみる。
ガイア様に任せれば制圧は一瞬だろう。
けどそれじゃダメなんだ。
これまで、そして今回もガイア様を頼った。
自分で解決できない事を意地を張って人を頼らず落ちて行くよりかはずっとマシだからだ。
けど最低限やらなければならないことがある。
――それは「領内の治安維持」だ。
領主の権限の中で領内の組織に委託することはある。
ウィザース男爵領内の冒険者ギルドがその例だ。
しかしこれを領地外、つまり他の地の領主に、――例え公爵様であっても任せることは出来ない。
何故なら「ここは公爵領でいいじゃないか」ということになるからだ。
もちろん例外は幾らでもある。けど今回はそれではない。
――引くわけにはいかない。
緊張した空気が流れる。
そして破れた。
「……ふぅ。どうやらわかっているようだな」
ガイア様の表情が緩む。
同時に空気の緊張も解けた。
「ならば何もいうまい」
「ありがとうございます」
「だがアルフレッドよ。仮にも公爵家の申し出を断ったんだ。失敗は許されんぞ? 」
「もちろんです。失敗する気は毛頭ありません」
無事ガイア様に人材派遣をお願いすることができた。
けど派遣してくれる人が来るまで囚われの人を救出できない。
もどかしい日々が続く。
けどやっとウィザース男爵家に代わりの医師と聖職者がやってきた。
「彼の高名なアルフレッド殿にお会いでき光栄でございます。私は医師のテッカと申します」
「教会より派遣された司祭のプレイと申します」
「お二人が来てくれるのを心待ちにしておりました」
館で二人と軽く挨拶をして自己紹介。
一先ず二人に状況を説明しようとするといきなりテッカが息を荒くして迫ってくる。
や、やめてくれ。
僕は男性に迫られて喜ぶ趣味はない。
「私もお会いできる日を心待ちにしておりました。是非制竜水発見の秘話をお聞きしたく――」
「――テッカ。公爵閣下から自重するように言われているでしょう? 」
「そ、そうでした。不治の病の治療薬を発見するという偉業を成し遂げたアルフレッド殿のお話をお聞きしたかったのですが……」
「どうやら事情がおありのようで。詳しくはアルフレッド殿から聞くように、と伝えられているのですがお聞きしても? 」
と聞かれたので、今の状況を伝える。
「……そのような医師がいるということは聞き及んでいます。しかし……、本当にいるとは」
「聖職者の風上にも置けぬ下衆がっ! 神の裁きを受けると良い!!! 」
プレイが顔を赤らめて怒鳴る。
きっと敬遠な信徒なのだろう。
大人しい神父さんの雰囲気を出していたプレイから、イメージからかけ離れた言葉が出る。
けれどここで怯んでいてはいけない。
これから捕まえる二人の代わりをしてくれないかと聞く。
「もちろんですとも」
「是非ホエミの町の為に働かせてください」
二人と握手をして、準備に入る。
そして僕は彼らとフレイナ、そしてリーグルド隊を引き連れホエミの町へ向かった。
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




