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第36話 リーグルド隊 3 ホエミの町での情報収集

 リーグルド隊を連れてホエミの町に向かった。

 このホエミの町は領都から大体片道三日ほどの所。

 僕やフレイナなら走って数時間だけど、リーグルド達がついてこれるはずもなく、馬車で三日かけて町についた。


「ここがホエミの町」


 町につき馬車から降りる。

 目に映ったのは普通の町。

 とてもじゃないけど悪徳医師と聖職者が潜んでいるとは思えないね。

 いやこういう普通そうな所に本当に悪い奴は潜んでいるというもの。

 そう考えると定番なのかも。


「どうしますか? 」

「一先ず宿をとろう」


 フレイナに答えて宿を探す。

 宿をとって作戦会議をすることになった。


「これからどうしますか? 」

「まずは聞き込みだね」

「聞き込み? 」

「相手がどんな評判の人か知りたいから」


 この二人がどんな評判の人か知るのは必須だ。

 僕達はアリスの力のおかげで二人が襲撃の首謀者だということを知っている。

 いきなり彼らを捕まえることも出来る。

 しかし評判のいい人だった場合町民から反発が喰らう可能性が高い。

 それはウィザース男爵家にとって不利益になるし反逆の種になるかもしれない。


「調べるのはあくまで人柄のみにしておこう」

「デベルト達に流れているものとかは調べなくてもいいので? 」

「構わない。事実として温室の襲撃があるからね。捕まえること自体は難しくない」


 僕の考えと共に作戦を説明する。

 逃げることができないように包囲網を()く必要はあるけど、まだ捕まえるには早すぎる。


「ということで聞き込みに行こう」


 作戦会議を終える。

 宿を出てそれぞれ町の中へ向かった。


 ★


 町で名前を隠しながらデベルトとナインの話を聞く。

 一旦止まって周りに誰もいない事を確認してフレイナと情報をまとめた。


「医師デベルトは腕が良くて人の良い医者、か」

「この町の教会の助祭(じょさい)ナインも、厳しくも優しく穏やかな人らしいですね」


 見事に本性を隠しているね。

 前情報があっても他の人なら情報の方を疑って操作を打ち切るかもしれない。

 けれど僕が手にしているのはアリスが喋らせた情報だ。

 決して嘘をつけないアリスの力で引き出したものだから、一般に出回っている情報よりも断然信じるに(あたい)する訳で。


「人は見かけによらないというけれど(まさ)にこれだね」

「どうしますか? 」

「皆と合流して後の事を考えよう」


 フレイナを連れて宿に戻る。

 少しするとリーグルド達が戻ってきた。

 リーグルド達に話を聞くとデベルトとナインの町の人の印象は同じだったようだ。


「――という感じでした」

「中々に手強いね」

「この町に医師と聖職者が一人しかいないというのも問題だと思います」


 ヒョウカの言葉通りこの事も問題だ。

 医者や聖職者の配置は小規模の町だと一人が普通。

 だからこれ自体おかしくはない。

 けど捕まえた後この町に医師や聖職者がいないというのは問題だ。

 何せ怪我や病気を治す人がいなくなってしまう。


「これは一旦帰って作戦を練り直す必要があるな」


 ここで考えていても仕方ない。

 情報を纏めつつ医者と聖職者の問題も考えよう。

 こうして僕達は一旦領都に戻った。


 ★


 アルフレッド達が領都に戻った日の夜のこと。

 ホエミの町にある医院に二人の男性が机を囲んでいた。


 一人は眼鏡をかけた白衣を着た男性でこの医院の医院長、デベルト。

 対しているのは顔が縦に長く角ばっている筋肉質の初老の男性、ナインである。


 デベルトは用意した酒をコップに入れてナインに渡す。

 ナインは酒を豪快に飲み鋭い眼光をデベルトに向けた。


「ウィザース男爵家の坊主が動き出したぞ」


 荒々しい口調でデベルトに言う。

 町の人がこの様子を見ると、きっとナインだとはわからないだろう。


 ナインの言葉を受けたデベルトは困惑する。

 しかし一瞬で「あり得ない」と振り切りもっともらしい言葉をいう。


「単なる視察では? 」

「刺客をナナホシ商会に送ったあとだ。どこからか知らんがわしらのことを嗅ぎつけたんじゃないか? 」

「有り得ませんね。それにあの暗殺者達があれしきの依頼をこなせないとは思えない」


 ナインはデベルトの言葉で依頼した刺客のことを思い出す。

 彼らはこの国最高峰の暗殺者。

 そんな彼らが単なる襲撃一つこなせないわけない。

 そう思い至り「確かに」と頷く。


「すぐに成功の報告が来ますよ。首を長くして……、というのは少し待ちすぎですが、しばらく待って様子を見ましょう」

「……だな。わしらの商売を邪魔した奴が、わしのテリトリーに入って苛立っていたようだ」

「気持ちは分かります。しかしここは一つ冷静に行きましょう」


 言いながらデベルトは空になったコップに酒を注ぐ。

 彼はナインがもう一杯豪快に飲んだのを見て優しそうな顔でナインに提案する。


「彼らが成功の報告をもってきたら、次はアルフレッドの暗殺でも依頼してみますか? 」

「おお。それは良い。生産拠点を落としたら次は頭、ということか」


 ナインの言葉に微笑みながらデベルトが頷く。


「現在流通されているモンスター病の治療薬「制竜水」の半数がナナホシ商会から、そしてその原料のすべてがナナホシ商会のものになります」

「……公爵家のお墨付きということもあってわしらも安易に動けなくなってしまった」

「その通り。しかし公爵家のお墨付きとはいえウィザース家は所詮男爵家。薬を発見したというアルフレッドを失っても動くことは無いでしょう」

「ああそうだな。それに薬の製法はもう広まっている。製法を知る者がウィザースの坊主だけならともかく、殺したところで動かんだろうな」


 ナインが悪い笑みを浮かべながら最後の一口を飲む。

 飲み終えると空になったことに気が付いてデベルトに催促する。

 デベルトは優し気な顔で「これで最後ですよ」と言い酒を注いだ。


「公爵家が動かない。ならば安心して暗殺者を送り込めるものですね」

「わしらの畑を荒らしてくれたお礼はきちんとしないと、だな」


 二人はニヤリと笑みを浮かべながら会議を終えた。


 ナインを見送ったあとデベルトは台所へ向かう。

 彼は大きなトレイを机に置いて十近い食器を置いて行く。

 ガサガサと紙袋を探ったかと思うとパンを等分に分けて、食器に入れる。

 きちんと数があっていることを確認するとトレイをもって、台所を出た。


 デベルトは台所を出て暗い廊下を歩く。

 所々に光球(ライト)の魔法が付与された魔道具があるが全体を照らしているわけではなく、全体的に薄暗い。

 しかも彼が先に進むほど、その魔道具の数が減っているようで、優し気な顔でトレイを持つ彼の姿はどこか不気味さを覚える。

 

 デベルトが廊下を行くと一つの部屋に辿り着く。

 彼は無言のまま扉を開けて地面にトレイを置く。

 しゃがんだまま床に手をしたかと思うと、床が扉のように大きく開いた。


 ――地下室である。


 そしてデベルトはそのまま地下室へおりていった。


「ん~~~! ん~~~! 」

「はぁ……はぁ……」

「……」

「皆さんお元気なようでなによりです」


 デベルトは牢屋の中に入れられた人達にトレイを差し出す。

 余程飢えているのか我先にとパンに手を付ける。

 その様子を見て満足そうにデベルトが頷く。


 デベルトの目には多様な人が映っている。

 大柄な男に女に子供に老人まで多種多様。

 中には獣の腕をした、……そう以前にリリアナを襲ったような異形の腕を持つものもいる。


「う”う”う”……」

「彼もそろそろ限界ですし、そろそろ引き取ってもらわないと」


 獣の腕を生やした男性の前でデベルトは言う。


 (高純度の魔力素体を手に入れるのはわたしの役割ですが、研究は管轄外。それにわたしの医院は実験体の宿ではないのですが……)


 考えながらもデベルトは全員が食事を終えたことを確認する。

 しかし――。


「う……う”、うがぁぁぁぁぁ!!! 」

(うるさ)いですよ」


 獣の腕をした男性がいきなり苦しそうな声を上げながら立ち上がる。

 しかしデベルトは完全に変身する前に一撃で仕留めた。

 そしてなにも無かったのような表情でそのまま地下室を後にする。


 デベルトがいなくなった後の地下室。

 そこでは半透明のウサギが一匹前足で顔を(こす)っていた。

 (しばら)くするとウサギはぴょんぴょんと跳ねて牢屋の中を覗き見る。

 獣の腕を生やした人物はデベルトが倒した男だけだったようで、他にはいない。

 一通り見終えたウサギは壁に向かう。

 小さな扉を作ったかと思うと、その先へ消えていった。


 過保護な武姫がなにもしないわけがない。

ここまで読んで如何でしたでしょうか。


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