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第32話 大森林奥地での調査 2

「フレイナ! リリーを」

(かしこ)まりました! 」


 リリーに注意が行く前にソードタートルに魔弾を放ち、空に駆けあがる。


「ゴォォォォ!!! 」


 ソードタートルの咆哮(ほうこう)が放たれる。

 肌がピリつく声。

 咆哮に麻痺をのせているようだ。


 マジックシールドを踏み台にしながら下を見ると、背中の甲羅(こうら)には幾つもの口がついているのがわかる。

 普通のソードタートルじゃない。

 こいつは悪魔獣(ビースト)だ!


 ソードタートルが忌々(いまいま)し気に僕を見上げている。

 注意をこっちに向けることに成功したみたいだ。


「来たね」


 ドドド!!!


 と大きな音がなる。

 甲羅の一部が剣状になって放たれた。


 ソードタートルという魔物は甲羅の突起(とっき)物を剣として扱い敵に射出することで戦う魔物で、仕留めた相手をゆっくりと食べるという習性をもつ。

 足が遅いせいかこの魔物の攻撃の殆どは射出した甲羅()によるものだけど、ソードタートルの意志によって動かすことができ、あちこちに動く。

 弱点は足が遅い事と甲羅の突起物が有限であること。最初に敵とみなした相手を執拗(しつよう)に仕留めようとすることも時によっては弱点になるだろう。

 正直亀じゃなくてすっぽんのような気がするのはおいておこう。


 ――回避して剣で迫る甲羅()()ぎ払う。


「土属性魔法かな? 」


 以前に戦った悪魔獣(ビースト)とは違う甲羅の修復の仕方のように見える。

 人型の悪魔獣(ビースト)も魔法を使っていた。

 獣型の悪魔獣(ビースト)も魔法を使ってもおかしくないだろうね。


「っと?! 」


 剣が横を通り過ぎていく。回避すると周りを囲まれていた。

 魔力感知か。

 かなり上空まで飛んだのにここまで伸びるとは。

 けど――。


「回転! 」


 回転斬りで周囲の剣を、斬る。

 一瞬開いた隙間を通って他の剣もすべて落とす。

 

 手早く安全に倒すためソードタートルの武器が切れるのを待っていたけど、これは僕から行った方が早いか。

 ソードタートルの背中から岩のような石弾(ストーンショット)が放たれる。

 それを斬って、上から近付く。

 土属性の魔法が飛んでくる。

 それを回避しながらマジックソードに魔力を込める。


「喰らえっ! 」


 鋭利さを増したマジックソードで、首を両断した。


 ★


「これが父が言っていた悪魔獣(ビースト)……」

「だね。獣型は僕も初めてだけど」

「この甲羅からおぞましさが伝わりますね」


 リリーが表情を暗くする。

 全くリリーの言う通りだ。

 どんな方法を行ったのかはこのソードタートルからはわからない。

 けど甲羅に幾つもの口が現れるような方法がまともなわけない。


「早く真相を解明するためにも、頑張らないといけませんね」


 暗い表情から一転。

 キリッとした表情でリリーが大森林の奥を見る。

 そして僕達は大森林を探索した。


「他にはいませんでしたね」

「いなくてよかった思うべきかな」


 エズの町の冒険者ギルドに報告を終えた僕達は町を歩いている。

 今日マリーは仕事がある。

 だから館の護衛はフレイナに任せてアリスと大森林にでた。

 けどアリスは今家で食事中。

 さっきリリーからもらったお菓子を食べるためだ。


 僕達は大森林の調査を数日に分けて行った。

 悪魔獣(ビースト)の出現は最初の一体のみ。

 それをガイア様に引き取ってもらい一段落。


 流石に大森林全域をこの人数で行うのには無理がある。

 よってキリの良い所で終了となった。

 なお父上への報告は僕が、ガイア様への報告はリリーが行うことになっている。

 情報の共有は必要だからね。


「おや。アルフレッド様じゃないかい」

「そっちの騎士様は……、いやちょっと待て、当ててみる」

「馬鹿無粋なことを言うんじゃないよ。どう見ても恋人じゃないか」

「無粋はどっちだっ! 」


 声をかけられたと思ったらいきなり騒がしくなった。

 しかし僕とリリーが恋人か。

 いやいや確かにリリーは綺麗だけど立場が違い過ぎるよ。

 けどそれをここで言ったら町の人がパニックになりそうだ。


「……リリー、否定してくれ」

「あらいいじゃないですか。恋人」


 リリーが僕を見ながらクスリと笑う。

 何でリリーは乗り気なんだよ。

 広まったら結構な問題になるぞ?


「アルは私の事が嫌いなんですか? 」


 少し瞳を潤ませていう。


「う……ぐ」


 反則だぞ、リリー。

 そんな瞳で見られたら否定できないじゃないか。


「いや……。嫌いじゃないけど」

「ならいいじゃないですか。恋人」


 ……なにその理屈。

 リリーのトンデモ理論展開に呆れながらも、町の人が食べ物をくれる。


「最近は大丈夫なのかい? 」

「なんとかなっています」


 おばちゃんが「それはよかったよ」といいパンを渡してくる。

 それを受け取ると奥からおっちゃんがやってきた。


「最近大森林産の魔物肉が少なくなっているから……、ほらこの前の戦いで怪我でもしたんじゃないかって、皆心配してたんだ」

「はは。ご心配をおかけしました」

「大森林産の魔物肉? 」


 リリーが町のおっちゃんに聞く。


「そうなんだ。アルフレッド様が大森林で採った肉を卸すようになって、美味しい魔物肉を食べる事ができるようになったんだ」

「魔物肉だけじゃないよ。貴重な薬草や木の実とかもだ」


 次々と町の人達がリリーに教える。

 リリーは楽しそうににこやかに聞いているけど、僕は恥ずかしくて顔が熱い。

 町の人達もリリーも満足したのかトーンが落ちる。

 彼らと別れるとリリーが聞いてきた。


「なんで大森林の魔物を売っていたのですか? 」


 うっ……。

 本当に、純粋に「わからない」という瞳で聞かれるときつい。

 そしてとても答え辛い。


「……今でこそナナホシ商会で稼いでいるけど、……なんというか貧乏だからね」


 遠い目をして(ささや)くように言う。

 リリーもウィザース男爵家の(ふところ)事情に気が付いたのか「あ……」と声をもらして口に手をやる。

 

 ……(つら)いね。


 貴族間の格差もそうだけど、この反応はじわじわと心にくる。

 少し(うつむ)く。沈黙も痛い。

 この空気どうしようかと考えているとリリーの声が聞こえてくる。


「アル。アルは何でナナホシ商会を立ち上げたのですか? 」

「それはお金を稼ぐためだよ」


 少し顔を上げてリリーを見る。

 優し気な表情で僕に言う。


「マリーさんから聞きました。アルはナナホシ商会を立ち上げるのには否定的だったって」


 確かに僕は最後まで悩んだ。


「けれど村の人のために立ち上げたのでしょう? 」


 その通りだけど……。


「その時の決断がウィザース男爵家を豊かにして、今はフォレ王国の貴族にも認められるナナホシ商会になっています」


 マリーからも聞いてはいる。

 最近は一般用の商品だけでなく貴族用の商品も好調だと。


「アルはそんな素晴らしい商会の、商品のアイディアを出しているのです。確かに貧しさは残っていると思います。しかし落ち込む必要はありません。今まで貧しかった分、これから裕福になると思いますので」


 リリーが優しい笑顔で言う。

 根拠がない……、訳でもないのだろう。

 今、ナナホシ商会の商品はウェルドライン公爵家に卸している。

 けれども直接取引をしたいという貴族が現れているというのを、公爵家を通じて聞いている。


 リリーの言う通りいつまでも下を向いていたらダメだね。

 顔を上げて頑張ろうか。


「ふふ。元気になりましたね。強く凛々(りり)しいアルも好きですが――、心優しく元気なアルも好きですよ」


 リリーがはにかみながら言うと、足早に先を行ってしまった。


 ……そんなこと言われたら、勘違いしてしまじゃないか。


 ★


 大森林における第一回目の悪魔獣(ビースト)の探索を終えた。

 この前ソードタートルをベースとした悪魔獣(ビースト)を発見した。

 苦戦という苦戦はしなかったけど悪魔獣(ビースト)がどんな能力を秘めているのか、本格的に予想がつかなくなった。

 よって日課にしているフレイナとマリーとの訓練を複雑化。

 今まではどちらかと訓練していたのだけれど、二人同時に相手にすることにした。


 高位の剣士と魔法使い二人を同時に相手するのは一苦労というレベルじゃない。

 毎日ボロボロになりながらも訓練と、大森林での食材調達などをこなしている。

 そんなある日のこと。


「アルフレッド。ちょっといいかな? 」


 訓練が終わった頃に父上が話しかけてきた。


「ぜぇ……、ぜぇ………………。ふぅ……。急ぎでしょうか? 」


 息を整え父上に聞く。


「急ぎと言えば急ぎだけど……、休んでから執務室に来てくれないか? 」

「わかりました。因みにどのような話か聞いても良いでしょうか? 」

「特に秘密にすることでもないから構わないよ」


 詳しい話は後だけど、と付け加えると父上が言った。


「そろそろウィザース男爵家直下の部隊を創設しようと思うんだ」

ここまで読んで如何でしたでしょうか。


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