第29話 フレイナの挑戦 3 サウザー公爵家
ゼギル男爵の館で日記を見つけた僕達は一先ず冒険者ギルドに魔物討伐完了の報告をした。
色々な事がわかったフレイナの暗所恐怖症克服作戦だったけど、それ以上に謎が残った。
それを解く手がかりはゼギル男爵が残した日記。
早く読みたい。その一心で家に帰る。
けれどこれは僕だけの問題じゃない。
だから父上と母上を呼んで、皆に今日の事を伝えた。
「……廃館でそんなことが」
「リッチとなったゼギル男爵、ね」
父上と母上がしんみりとした空気の中呟く。
二人はウィザース男爵家の前身がサウザー公爵家だったのは知っていたのだろうか?
「あぁ知っていたよ」
「私も結婚した後に聞かされたわ」
「といっても私達が知っているのは元公爵家だったということくらいだ」
「どんな経緯で男爵家になったのかまではわからないわ」
父上と母上でもわからないか。
いやそもそもエルドレッド・サウザーというご先祖様が生きていた時代からどのくらい経っているのかわからない。
マリーに聞いたことはあるけど年号とかが変わり過ぎてわからないと言っていた。
近くに感じる|エルドレッド・サウザー公爵《偉大なるご先祖様》。
だけどもしかしたらかなり昔の人物なのかもしれない。
途中で失伝したと考えると、伝わっていないのも頷ける。
「しかしゼギル男爵が主殿をサウザー公爵と見間違えるとは」
「ゼルちゃんはエルちゃんにぞっこんだったものねぇ。でもゼルちゃんのこともわかるわ。アルちゃん。エルちゃんにとっても似ているもの」
「……僕ってそんなに似ているの? 」
「そっくりよぉ。双子と思えるくらいに。性別が違えば完璧にエルちゃんね」
ん? 性別?
「エルちゃんは女性よ」
「「「え?! 」」」
「初めて見た時はエルちゃんがちっちゃくなっちゃったっておもったくらいよ」
そんなに似ているのか?!
嬉しいような、そうでもないような。
偉大なご先祖様に似ていると言われると嬉しい気持ちになる。しかし気分は複雑だ。
なにせ僕は男。女性と間違われて喜ぶ男性はいるだろうか?
「主殿は主殿です。確かにサウザー公爵は優れたお方でした。しかし主殿には主殿の良い所があります。誇りましょう」
「そうです! お兄ちゃんはとても優しくて、変態さんじゃないのです! 」
「ありがとうフレイナ。そしてアリス。ちょっとその話詳しく聞かせてもらえるかな? 」
サウザー公爵変態説が急上昇。
その後アリスに詳しく話を聞き、日記の内容に移った。
「じゃぁ、読んでいくね」
緊張走る中、僕が一ページ目を開ける。
読んでいくけど……、書かれていたのは衝撃的な内容だった。
「ゼギル男爵が反逆?! 」
「まさか」
「有り得ないのです! 」
「いやしかしこの贖罪のような日記を読むと……」
続けて読んでいく。
そこに書かれているのは犯した罪とその後のサウザー公爵の事だった。
よく読むと途中から筆跡が変わっているようにみえる。リッチになった後書いたのかな?
しかし……なるほど。だからゼギル・リッチは贖罪の言葉をずっと口にしていたのか。
内容によるとサウザー公爵領でゼギル達が反逆を起こした。
その理由については書かれていないが、最初の記述と後の後悔に塗れた記述を読むと誰かに唆されたみたい。
武姫を封印した後のサウザー公爵はそれでも強かった。
結果反乱軍を戦時の英雄「エルドレッド・サウザー」は一人で鎮圧。
だがそこからが唆した貴族の罠だったようだ。
内側から壊されたサウザー公爵。
もちろん自分を支える人材がいなくなり、派閥の求心力も低下。
加えて王家から「国を騒がせた」ということで罪を着せられる。
けれど「英雄」の二つ名は伊達ではなかったみたい。
サウザー公爵家は取り潰しではなくウィザース男爵家として、彼女が他の貴族から守った領地を治めることになったみたい。
「だからウィザース男爵家の領地は不相応なくらい広いのか」
これはある程度予想していた。なのであまり驚きはない。
父上を見る。特に驚いたような感じは受けない。
父上も予想していたみたいだ。
「これで一つ我が家の謎が解けたな」
僕が日記を閉じると父上が言う。
「と言ってもこれからやることは変わらない。家族を守り、この領地を守ることだ」
父上の言葉に僕は頷く。
日記を読み終えた僕達はそれぞれ解散した。
★
日記を読み終えた翌日、僕は父上と他の館について話し合った。
結果、冒険者ギルドに出している依頼を取り下げて、順次魔物を討伐して開放していくことが決定。
解放された館や土地はそれぞれ有効活用することになった。
「しかしフレイナも慣れてきたね」
「おかげ様で」
「もぉ。いちゃつかない」
マリーに叱られくすりと笑う。
今も館を解放し終えた所。
館を解放するにあたってフレイナについてきてもらった。
せっかくなので夜行って、何度も館を壊しかけながら訓練した。
流石に夜は夜で違う恐怖があるみたい。
だけど、僕の手を握っている間という限定はつくけど彼女は動けるようになった。
それに魔力を流した後なら、少しの間なら一人でも動けるようになった。
これは素晴らしい進歩である。
「今晩はフレイナの好きなものを作ってあげようか」
「本当ですか! 」
「本当だよ。何が良い? 」
フレイナが少し考える。
ぼそぼそと幾つか案を上げているけど、どれも甘いものだ。
もしかしてフレイナは甘い物好きかな?
そう言えばアリスとお菓子を取り合っているのを見たことがある。
「で、ではいいでしょうか」
「良いよ」
「主殿が以前に作った、カップケーキなるものを食べたいです! 」
「いいよ。じゃぁ帰ったらね」
「はい! 」
ルンルンなフレイナを引き連れ家に向かう。
彼女について歩くとマリーの声が後ろから僕に届く。
「もう。言った傍から」
そんな声が聞こえてきた気がするけど、きっと気のせいだろう。
家に帰るとすぐに約束を果たすためにカップケーキを作る準備に入る。
が正確にはこれはカップケーキではない。
カップケーキと同じ手順で作るカップケーキ風お菓子と言った感じである。
機材はフレイナ達が居た図書館の一室に置いてあったものを使っている。
というのもフレイナ達を解放した後もう一回この部屋を調べると色々と道具が出てきたからだ。
料理が上手かったのだろうか。意外なところでご先祖様の特技を見た気がする。
食材は代わりとなる食材やウェルドライン公爵領から取り寄せたものを使う。
流石に砂糖は高価なのでここは代替品。
全部を安上がりにしているのは許してほしい。
ということでお食事タイム。
「ふぁぁぁぁぁ! 」
フレイナが、らしからぬ声を上げている。
これはこれで貴重だ。
動画を撮影する機材があれば記念に取っていただろうね。
「で、では」
フレイナが僕の方を見て食べていいか聞いてくる。
もちろんオッケーだ。
「あまぁい」
了解を出すとフレイナが祈りの言葉を口にしてスプーンを手に取る。
いつもキリッとした顔は、今は蕩けてゆるゆるだ。
こうも美味しく食べてもらえるのなら作った者として冥利に尽きるね。
「あああーーー!!! フレイナがカップケーキを食べているのです! 」
匂いにつられたのかアリスが二階から降りてきた。
だがフレイナは素早い。
アリスに気が付くや否や両手で「自分の物だ! 」と囲ってしまった。
「お、お兄ちゃん。その……」
「はは。悪いけど今日はフレイナだけだね」
「えええーーー! 何でですか! 」
「今日はフレイナのお祝いだからだよ」
「お祝い? 」
僕の言葉にアリスが首を傾げる。フレイナを見ると胸を張ってどこか自慢げだ。
フレイナは何のお祝いなのかアリスに誇らしげに話す。
聞いたアリスは「ありえない」と愕然としていた。
そこまで驚かなくてもと思いながら二人の様子を見ていると、二階から父上がおりてきた。
「アルフレッド。ちょっといいかい? 」
「どうしたのですか父上? 」
「今手紙が来たのだけれど、例の調査が終わったようだ」
「! 」
「ギルドとガイア様から説明があるようだ。だから私と一緒にエズの町の冒険者ギルドに行くよ」
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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