第27話 フレイナの挑戦 2 廃館を解放せよ! 1
「結局なにがしたかったの? 」
昨日は時間も遅いということで解散した。
今はフレイナの部屋に集合してベッドの上に座る武姫達に話を聞いている。
どちらかというとフレイナは僕と一緒に聞く側だと思うんだけど、何でそっちに座っているんだ?
「申し訳ございませんでした! 」
「え? 」
いきなりフレイナがベッドから飛び降りる。
流れるような綺麗な動作で、床に頭をこすりつけて土下座した。
土下座をする文化があるんだ、と一瞬思ったけど違う違う。
何でフレイナが謝っているんだ?
「あのねアルちゃん。実はね」
訳も分からず混乱しているとマリーがぽつぽつと説明を始める。
内容はフレイナの苦手克服に関するものだった。
昨日気絶したことからもわかる通り、フレイナは極度の暗所恐怖症だ。
聞くと彼女自身なんで暗い所が怖いのかわかっていない。
だけど今回それを克服しようという試みをしていたようだ。
暗い所が怖いだけなら問題はない。
しかし彼女の場合パニックを起こして暴れまわる可能性がある。というよりも前科がある。
だから僕はいつも護衛としてフレイナではなくアリスを連れて行っていたのだけれど、それがフレイナを傷つけていたみたい。
これはフレイナだけの問題じゃないね。
僕も注意が足りなかった。反省だ。
しかし僕一人ではどうすることもできないのも事実。
こうしてマリーやアリスがフレイナの暗所恐怖症を積極的に治そうとしてくれるのは僕としても嬉しいよ。
「それなら僕も手伝おうか? 」
「本当ですか?! 」
皆に提案するとフレイナがガバっと顔を上げる。
そんなに驚くようなことでもないのに。
それともなに? フレイナの暗所恐怖症を治すのは皆が驚くほど危険なものなのか?!
「あらあら~。それなら大助かりだわ」
マリーが頬に手を当てて穏やかに言う。
逆に僕は不安に襲われる。
「フレイナちゃん。アルちゃんと手を繋いでいると、怖いの薄れるみたいだし……、次の段階に行ってもいいかな」
ちょ、ちょっと待て。次の段階ってなんだ?
「が、頑張る! 」
フレイナが拳を握ってやる気になる。
そのやる気が僕をさらに不安にさせる。
僕はフレイナの暗所恐怖症を治す手助けをするだけだよな?
「じゃぁ次行ってみよぉ~。作戦名は、「何が出ても僕が守る! ~ドキ! アンデットだらけの廃館攻略~」よぉ」
★
フレイナの暗所恐怖症を治すための作戦を立てたのは良いけれど名前のセンスがいまいちだった。
しかしこれは僕達の中での作戦。
マリーもやる気満々だし直す必要もないかと強引に納得して、僕はフレイナを連れて冒険者ギルドへ向かっている。
「アンデットが出る廃館か」
「魔物の討伐は冒険者ギルドの領分ですからね」
「こういう時本当に冒険者として登録していてよかったと思うよ」
館の管理はウィザース男爵家が行っている。
で魔物の討伐は冒険者ギルドに委託しているという状態だ。
けれど頼んではいるものの一つも解放されていないみたい。
それほど厄介な魔物が住んでいるのか。
気を引き締めて行かないとね。
「魔物を討伐することが出来たらウィザース男爵家が使っても良いのですよね? 」
「だね。ギルドに依頼しているのは魔物の討伐だから」
「館を解放した後はどうするおつもりで? 」
「一回壊して、有効活用するのもありだと考えているよ」
掃除でどうにかなる館はそのまま使ってもいいかもしれない。
使えそうにない館は一回壊してナナホシ商会の拠点にするのもありだと考えている。
最近マリーは農業も始めたみたいだから新しく使える土地は喜んでもらえるだろうね。
どちらにせよ魔物を全て排除してからだ。
「しかし廃館、か」
「私達が作られた時は多くの貴族が行きかっていたのですが」
「……何でウィザース男爵領が衰退したのか分かったりする? 」
「正直わかりません。私達が眠りにつく頃はまだまだ賑やかでしたので」
この領地には何故かはわからないが廃館が多くある。
フレイナの言葉をそのまま受け取ると、昔――、つまり僕のご先祖様が生きていた時代はもっと多くの貴族がこの領地に拠点を構えていたことになる。
もし没落したのだと考えると、何で没落したのかとても気になるね。
今考えても仕方ないけど。
しかしフレイナは元気だ。
今から依頼として廃館攻略をするのに大丈夫か?
「今は明るいので」
フレイナに聞いたらこう答えた。
心の持ちようは前向き。周りが暗くなった時のことは考えてないみたい。
けどこれはこれで良いのかも。
少なくとも暗い雰囲気のまま館に向かうようなことにならずすんでよかったと思う。
そして僕達は冒険者ギルドに行き、館へ向かった。
★
「大きいな」
「ここはその昔ゼギル男爵が住んでいた館になりますね」
フレイナが悲しそうな顔をしてボロボロの館を見上げる。
「ゼギル男爵? 」
「はい。ゼギル男爵は私達の生みの親、――つまり当時のサウザー公爵家当主エルドレッド・サウザーの幹部として働いていた者です。なんでこんなことになっているのか想像がつきませんが……」
おっとサラッと僕達のご先祖様が公爵家だったということを言ったね。
とんでもないご先祖様だということは想像ついていたけど、これまた大物だ。
父上と母上はこの事を知っているのだろうか?
多分知っているだろうね。時をみて、教えようとしたのかも。
しかし現在貴族名簿にゼギル男爵という家はない。
もしかしてご先祖様と一緒に没落したパターンだろうか?
「主殿。廃館を攻略するにあたって一つお願いをしてもよろしいでしょうか? 」
フレイナがキリッとした表情で聞いてくる。
出来ることならと彼女に答えるとフレイナはほっと息をついて僕を見た。
……。
沈黙が続く。
何で言わないんだ?
気まずい沈黙を耐えているとフレイナの顔が赤らみを帯びてくる。
僕、何もしてないんだけど?!
訳が分からないまま待っているとフレイナがもじもじしながら、どこか決意に満ちた表情をして口を開いた。
「主殿。館を攻略する時私の手を握っていてもらえませんか? 」
「手を握る? 」
「はい。昨日マリーが言っていたと思うのですが……、自分でもわからないのですが主殿の手を握っていると少し恐怖が落ち着くのです」
フレイナのお願いを拒否する理由なんてない。
僕はすぐにオッケーする。
「そ、そして、なのですが……。時々でいいので魔力を流して貰えませんか? 」
「魔力を流す? 良いけど……。あ、恐怖に打ち勝つために魔力を使うから? 」
「い、いえ。そうではないのですが……」
ならなんでだろうか?
「――主殿の魔力はどこかあったかくて、そして落ち着くのです」
フレイナは顔を赤らめ微笑みながらそう言った。
★
フレイナの手を握りながら廃館に入る。
廃館と言っても今は夜ではない。
なので明るいんだけど……。
「来たか」
急に周りが暗くなった。
けどこれはフレイナから聞いている。
ゼギル男爵というのはご先祖様の腹心のような人であると同時に優れた魔法使いだったそうだ。
だから館に何かしらの仕掛けを作っていてもおかしくない。
急に暗くなるのは侵入者の視覚を潰すため。
魔法によるものだろうけど、良い手だ。
身構えていなかったらパニックになっていただろうし、なにより急に明るさが変わると目が慣れるまでに時間がかかる。
しかも低位の魔法で魔力のコスパも良い。
館に仕掛けるにはもってこいの魔法だ。
「まずは……」
フレイナがギュッと手を握ってくる中、マジックシールドを周りに展開する。
敵からの攻撃に準備が出来るとフレイナに魔力を流す。
するとフレイナが握る手が和らいだ。
「さて来たみたいだよ。フレイナ、大丈夫? 」
「お任せください主殿」
フレイナがいつものキリッとした表情で返事をする。
剣を握る左腕を前にして、――唱えた。
「聖なる輝きをもって我が祈りに答え給え!!! 」
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