第26話 フレイナの挑戦 1 恐怖を克服せよ!
アルフレッドの武姫であり護衛役でもあるフレイナは一人部屋で項垂れていた。
「ううう……。主殿の護衛は私の役割なのに」
本来アルフレッドの護衛はフレイナの役である。
しかしながらアルフレッドの傍で冒険者をするにあたってどうしても暗闇のある場所が発生する。
フレイナは暗い所になるとパニックになる可能性がある。
よって彼女は不適合とされ、その役割をアリスに変わっていた。
フレイナはどういう訳か暗闇が苦手だ。
どうして苦手なのか彼女自身分かっていない。
けれども暗闇になると底知れぬ恐怖が沸き起こり彼女に無差別攻撃をさせる。
彼女が現在アルフレッドの護衛から外されている理由は彼女自身分かっている。
もちろん今も課されているウィザース男爵家の警護という任務の重要さもわかっている。
しかし本来の役割をこなせないということで彼女は椅子の上で悩んでいた。
――コンコンコン。
「フレイナちゃん。いる~」
「あ、あぁ。いるぞ」
ノックの音が部屋に響き黒い瞳を扉に向けると、金髪ロングの魔法使いマリーが入ってきた。
「どうしたの? フレイナちゃん」
「いや。何もないが? 」
「けど……浮かない顔をしているわよ? 」
マリーが要件を伝えようとすると首を傾げる。
フレイナは特に顔に出やすいというわけでは無い。
実際マリーが部屋に入って来た時にはいつも通りの表情に戻っていた。
けれどもマリーは持ち前の察しの良さを発揮してフレイナの違和感に気付いた。
「……マリーには敵わないな」
どうしたの? と何度も聞いてくるマリーにフレイナが折れる。
そして今の悩み事を彼女に話した。
「なるほどね~」
マリーがゆったりとした雰囲気で顎に手をやり考えだす。
マリーからしても取り扱い注意な問題だ。
彼女自身商会の事もありアルフレッドと共に行動することがある。
アルフレッドと共に過ごす時間はフレイナのそれを遙かに上回る。
下手に適当な返事を返すと自分が不和の火種になりかねない。
「ならいい考えがあるわよ」
「良い考え? 」
マリーは博識だ。それだけでなく頭が回る。
そのマリーが「良い考え」と言うのだ。
フレイナは目を輝かせて顔を上げ赤い髪を軽く揺らす。
今まで触れなかった、いや触れる必要の無かった問題が現代に出てフレイナを悩ませるのなら解決しようとマリーは提案した。
「暗い所を克服しましょう! 」
「で、出来るのか! 」
「もちろん! 名付けて、「ドキ♪ アルちゃんと一緒に克服、暗闇大作戦」よ」
アルフレッドの命が危ない。
★
と言うことで始まった暗所恐怖症克服作戦だが第一段階は普通。
夜、アルフレッドと共に暗い屋敷を歩くというものである。
「おおおおおおおお、おいいい、いそがしい、いいい所申し訳ありません」
「僕は大丈夫だけど……、フレイナは大丈夫? 」
「こ、この程度大丈夫でございます! 」
――明らかに大丈夫ではない。
アルフレッドは心の中で呟くも、ガクガクと体を震わせるフレイナと共に図書館に向かっていた。
暗い廊下を光球のランタンだけで移動する。
フレイナの精神状態はギリギリだが、今彼女は恐怖に対して奇跡的な抵抗を見せている。
(この暗闇でフレイナが暴れない?! 成長したね……)
震えながらも暴れず移動できているフレイナにアルフレッドは感動を覚えていた。
何故アルフレッドが夜の廊下をフレイナと歩いているのかと言うと、話は彼がダンジョンから帰って来た時まで遡る。
アルフレッドはダンジョンで起きた事を冒険者ギルドのアーネストと父ウィリアムズに伝えた。
二人共未知の魔物と異常な研究に驚きすぐにアルフレッドをまじえて話し合った。
がこの三人で解決できる問題ではないと結論に至る。
そして外部からウェルドライン公爵を呼んで調査をすることになったのだが、結果が出るまで時間がある。
アルフレッドは専門の知識が無いということで調査参加を辞退。
調査の結果待ちをしているある時の夜、フレイナがアルフレッドを訪れて「読みたい本があるから一緒に取りに行ってほしい」と尋ねたのであった。
それを断れるアルフレッドではない。
例え「朝取りに行けばいいんじゃないか? 」と思っても口にしないのが主。
アルフレッドはフレイナの少し変わった要求を受け入れ「絶対に何かある」と思いながらも一階におり図書室へ向かっている、ということであった。
――ガタガタガタガタ……。
振動がアルフレッドの所まで伝わる。
(大丈夫って言っていたけど……)
今図書館に本を取りに行きたいというフレイナのお願いは断らない。
だがフレイナの精神はいつ限界を超えてもおかしくない。
それはまずい。
限界を超えたら今度何を壊されるかわからない。
アルフレッドは体にヒヤリとするものを感じながら「どうしようか」と考えた。
「あ、主殿?! 」
アルフレッドがいきなり手を握る。
フレイナはアルフレッドの突然の行動に驚き目を見開く。
怖い時、恐怖を和らげるために手を握るということはよく行われている。
アルフレッドはフレイナの恐怖が少しでも和らげばと思い行ったのだが、今度は動揺し始めた。
「主殿。これは……」
「少しでも怖いのが和らげばと思ったんだけど。手を握るの、嫌だった? 」
「嫌ではございません! 」
「じゃぁこのまま図書館に行こうか」
アルフレッドが軽く微笑みフレイナの手を引く。
少しだけ震えが収まったフレイナと共に図書室へ向かった。
「さむっ! 」
「あれ? 出る時窓は閉めたはずだけど」
図書室に入るといきなり冷たい風が二人を襲う。
今日最後に図書室を使ったのはアルフレッドだ。
時間は夜。
それ以降に使う人は限られている。
(マリーが閉め忘れたのかな? いやでもマリーに限って忘れるということは無いと思うけど)
疑問に思いながらもアルフレッドは窓まで歩き、を閉める。
さてフレイナの目的を果たそうとした時、フレイナの悲鳴が部屋に響いた。
「キャァァァァァ! 」
「フレイナ?! 」
アルフレッドは驚いて握っている手を引く。
フレイナを引き寄せたアルフレッドはフレイナに何があったのか聞いた。
「な、な、な、何かがいまぁぁ…………」
「なにか? いやこれは……」
恐怖のあまりアルフレッドの体に顔を埋めるフレイナ。
彼女は顔を埋めながら今にも泣きそうな顔でアルフレッドを見上げて弱々しく指をさす。
いつもキリッとしているフレイナが弱々しくなりドキッとするアルフレッド。
しかし今はそれどころじゃない。もしかしたら侵入者かもしれないからだ。
アルフレッドは気を引き締めてフレイナが指さす方を見る。
しかし何もいない。
続いて探知をすると、見知った気配を感じ、困惑した。
(マリーとアリス? 一体何やってるんだ? )
アルフレッドはフレイナが声を上げた時、魔力は感じなかった。
恐らく魔力を使わずにそっと何かを動かしたのだろうとアルフレッドは予測するが、何でこんなことをしているのかわからない。
マリーとアリスはフレイナが暗い所が苦手だと知っているはず。
(何で怖がらせるようなことを……。いや直接聞いてみるか)
「マリー、アリス。そこで何やってるの? 」
暗闇に向かってアルフレッドが声をかける。
「あら~。ばれちゃったわぁ」
「でもでも。成功なのです」
「そうね。最後の「動くもの」は無理があったみたいだけど暴れなかった分進歩よぉ」
机の下からマリーとアリスが出てきて評価する。
アルフレッドは「何をやっているんだか」と小さく溜息を吐くが、フレイナが大人しいことに気が付いた。
「フレイナ? 」
アルフレッドは体を預けているフレイナに声をかける。
しかし反応が無い。
フレイナの肩に手をかけ体から離すと――。
「気絶してる」
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