第25話 エズの町を救え! 3 ダンジョン 4 悪魔の実験
マジックソードを出し、警戒しながら部屋に入る。
これまで各魔物の頂点にいるような敵と戦ってきた。この先何がいるかわからない。
警戒しすぎるに越したことは無い。
「さ。行こう」
中に入るとそこは広い部屋だった。
地面の中をくりぬいたような部屋で幾つか石柱のようなものが立っている。
光はある。
壁に一定の感覚で蝋燭のようなものに火がともっていた。
数は少ない。蝋燭だけで部屋全体を照らせるとは思えない。
何かしら魔法的な効果がこの部屋全体に掛けられているのだろう。
「いたわ」
マリーの言葉に緊張が走る。
剣を構えながら正面を向く。
奥には次の部屋に繋がる道だろう、通路が見える。
そこからドス、ドス、と足音のような音が聞こえてきた。
「なんだ……あれ」
「ガガ」
出てきたのは見たことのない魔物。
それは二足歩行で二本の足と二本の腕を持っている。背中には蝙蝠のような黒く大きな一対の翼があり体は真っ黒。後ろからは獅子のような尻尾が前に伸びており、他の部分に毛は無く顔は人間のそれ。けど口は顔と腕に一つずつあり、人間ではない事がよくわかる。
いや魔物かどうかも怪しい。
「こいつは本当に魔物か? 」
「見たことないわね」
「ううう……気持ち悪いです」
何をしてくるのかわからない。
杖や剣を持っていないということはファイター系の敵か?
「ガッ! 」
「! 」
速い!
いきなり殴りかかってくる。
すぐにマジックソードを盾にする。
「重っ! 」
拳と剣がぶつかり「カチカチ」と音がする。
「この! 」
剣に力と魔力を込めて拳を払う。
一瞬隙ができ腹を蹴る。
相手を吹き飛ばして距離を作り、身体強化を何重にかけた。
「手伝いましょうか? 」
「いや僕がやる」
「大丈夫? 」
「大丈夫。それに僕が何といおうとピンチになったら手を出すんだろ? 」
「まぁね」
そう言うマリーを見ながら体中に硬化をかけて行く。
敵が吹き飛んだ先で体を起こそうとしている。
「ピンチにならない、というのは考え物だけど安心して戦える」
贅沢な話だけどこの先も彼女達のお世話になるだろう。
だからと言って僕が成長しなくてもいいという話ではない。
「卒業試験を突破したといっても僕はまだマリー達に敵わない。多分それは圧倒的な経験不足だからだと思う」
だから僕は経験を積まないといけない。
どんなイレギュラーな魔物にも対応できるような経験を。
この先も見たことのない魔物と戦うことはあるだろう。
人間擬きのような魔物もどきのような相手に、
「遅れをとる訳にはいかない! 」
拳に剣を、ぶつける!!!
超速で戦闘が続いて行く。
このスピードについて来るとは正直驚きだ。
バシュッ!!!
何十ものやり取りをして相手の腕を一本取った。
「再生?! 」
が、一方の腕を掴みくっつけた。
驚くも一瞬。再生能力を持つ魔物は幾らでもいる。
不利を悟ったのか相手が僕から距離を取ろうとする。
攻撃は絶対の防御。
マジックソードで斬れる事がわかった以上、防御に回るのは悪手だ。
見逃さない!
「! 魔法?! 」
一気に距離を詰めてマジックソードで斬りつけようとすると腕の口から火属性魔法が飛び出る。
――火球?!
デカすぎだろう!
勢いを消すことができない。
直撃してしまう!
反射的にマジックシールドを展開させて火球を凌ぐ。
「まだくるか」
最初の一撃は完全に不意を突かれた。
しかしくるとわかれば対処は可能。
マジックシールドを展開しつつ空中をかける。
幾つもの火球を凌いで距離を縮めようとするも、今度は風刃が飛んできた。
マジックシールドを蹴って大きく回避する。
複数属性の使い手か。なら他にも属性を持っているかもしれない。
最善は何か。
相手にそれを出させる前に倒すのが一番だ。
マジックソードに魔力を込める。
もっと。
もっと、もっと!
魔法を掻い潜りながら一気に距離を詰める。
回避しながらも魔力を込め続ける。
一段階上の存在になったマジックソードを手に持ち、地面に向けて蹴りつける。
「うおおおおお……らぁッ! 」
ズドン!!!
岩を砕くほどの蹴りを受けて相手は動けない。
「空牙」
大量の魔力を一つに込めたマジックソードから溢れる魔力が獣の牙のような形を取り始める。
そして敵に向けて渾身の一撃をぶつけた。
★
「ん~。やりすぎ、よね」
「反省してます」
確かに跡形もなく粉々にしたのはやり過ぎたと思う。
「はぁ。仕方ないわ。アルちゃんの成長を見ることができてよかったということにしましょう」
「お兄ちゃんかっこよかったです! 」
「本当よね。惚れ惚れしちゃうわ」
「最後の技もとーーーってもパワフルだったのです! 」
「そうよね。もう剣技を習得するなんて思わなかったわ」
何かむず痒いな。
最後の空牙は魔力消費量が多すぎるという難点がある。
それを改善したいから、そこまで褒められると恥ずかしい。
「さて次の部屋に行く? 」
「この部屋が最後じゃ? 」
「わたしもこの部屋に入る前までそうと思っていたのだけれどちょっと様子が違うみたい」
「? 」
「アルちゃんが倒した魔物。あれ、違う部屋から来てない? 」
言われて思い出した。
確かにそうだ。
違う所から歩いてきていた。
「分かったみたいね」
「うん」
探すと暗い通路を見つけることができた。
マリーが光球の魔法を使い向かう準備をする。
そして三人で通路の先へ行った。
「これはっ! 」
マリーの光に照らされながら入った部屋にはおぞましいものがあった。
唖然としながら歩く。
右にも左にも、よくわからない液体の入った巨大な試験官のようなものがある。
生前よくSF映画とかでみたクローン人間をつくるような光景に似ている。
しかし入っているものが違う。
「……魔物が入ってるね。さっきの人間だか魔物だかわからない敵は、ここで作られたということか? 」
「ここでかはわからないけど、作られた可能性はあるわ」
ショッキング過ぎて言葉が出ない。
地球と倫理観が違うのは分かっている。
だが魔物と魔物合成。魔物の研究を逸脱しすぎている……。
「……僕達の手に余る。一度戻って、報告して、父上と……そうだね、ガイア様にでも相談しよう」
ショッキングな光景だったけれど、今まで隠されていたものを見つけることができた。
今もどこかで研究がされているのなら必ず潰すと心に決めて、僕はダンジョンを後にした。
★
「アルフレッド?! 」
「戻ってきた! 」
「ということは踏破したのか! 」
「うおっ! 」
マリーを家に送りダンジョンの転移魔法陣で外に出ると冒険者達の前に出た。
ビ、ビックリした……。
いきなり前に大勢の人がいるんだから。
「リーグルド達から話は聞いてるぜ! 」
「ゴブリンエンペラーを倒したんだろ?! 」
「他のボスはどんなんだった! 」
いきなりの質問攻めに戸惑う。
え、なに?!
何でこんなことになってるの?!
「なんでっておめぇさん。リーグルド達が慌てて冒険者をかき集めるように言うからよ」
「ダンジョンが出来たって聞いた時は目を見開いて驚いたが……本当にできてるとはな」
「でせめて雑魚くらいは倒せねぇかってなって、大森林にはいってみりゃ、本当に全滅されてやがる」
「この前まで魔物だらけだったってのによ! 」
「こんなすげぇ奴がいるとは」
「アルフレッドがいるとこの領地は安泰だぜ! 」
「まさにウィザース男爵領の守護神だ! 」
冒険者達が「ははは」と大きな声を上げて「バンバン! 」と背中を叩く。
痛い。
痛いけど……悪くない。
いきなりの魔物の急増に謎の残るダンジョン攻略だったけど、町を守れてよかったと思う。
今回は運よく守れたけど次はどうなるかわからない。
だからせめて万全を尽くそう。
騒ぐ冒険者に慌てているアリス。
ウィザース男爵家と領民の距離が近いのは父上達が守ってきた光景。
僕もこの風景を守れたらいいな。
皆を見て決意を新たにした。
第1章完結になります。
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