第23話 エズの町を救え! 3 ダンジョン 2 vs ゴブリン
僕が緑の絨毯に向けて魔弾の雨を放つ。
ドドドドドドドドドドド!!!
と大きな音と一緒にゴブリン達の悲鳴が聞こえてくる。
よし!
大体半分は削った。
だがまだ多い。
隣を見るとアリスが準備を終えたようだ。
位置を確認しアリスが力を使うと途端にゴブリン達が倒れて行く。
アリスの攻撃に悲鳴は上がらない。
スマートだな、と思いつつマジックソードを手に持った。
下を見る。
いきなり襲われたせいか奥にいるキングやエンペラーが困惑している。
今の内だ。
そして崖をくだり、ゴブリン達を切り裂いていった。
★
ゴブリンという魔物は足が遅い。
その代わり爆発的に仲間を増やして集団で襲い掛かって来る。
通常ならばなりたての冒険者でも一体二体倒せるほどの弱さだ。
けれどゴブリンはその数に応じて脅威度を増す。
「シッ! 」
伸ばしたマジックソードでゴブリン数十を切り裂く。
足は止めない。
円形状のフィールドを走りながら次は前にいるゴブリン達を薙ぎ払う。
「キキ! 」
「上か! 」
上位種が指示を出したのだろう。
剣を持った多くのゴブリンがジャンプしている。
着地を待つ必要はない。
「ギャ! 」
こちらもジャンプし足場を作りながら斬っていく。
数体倒した所で下から気配を感じ取る。
下を見るとまたゴブリンがジャンプしてきた。
だがそれだけじゃない。
「うげ。投げてやがる」
キングほどじゃないがガタイの良いゴブリンがこっちに向けて仲間を投げていた。
あのゴブリンが頭……ってわけではなさそう。
この戦法をとらせているゴブリンはどれだ?
ゴブリンは狡賢い。
手先も器用で人が作ったものを再現することもある。
それゆえか指揮系統や魔法使いのような上位種に進化することが多い。
その反動か筋力は他の魔物よりも低い訳だ。
上位種、特にジェネラルやキングとなると高い腕力を誇る事がある。
しかし他の魔物のキング等に比べるとやはり非力だ。
「回転」
空中回転斬りで残りのゴブリンを一掃する。
着地して周り見ると大体ゴブリン達は倒せたみたいだ。
それでも警戒は解かない。
構えながらキングがいる方向へ足を向ける。
途中で飛距離が足りず落ちたゴブリン達が散乱していた。
僕からすれば自滅してくれて嬉しいのだけど、ゴブリンからすればたまったもんじゃないだろうね。
けどこれで残すはキング二体とエンペラー一体だ。
「やるか」
★
「……マジでこの数を相手してやがる」
アルフレッドがゴブリン相手に無双している間、その様子を冒険者達が観察していた。
本音を言えば彼らはこの場をすぐにでも離れたい。けれど離れない。
本人は勝てる気でいるがどう見ても多勢に無勢。
彼らは「もしかしたらアルフレッドなら」と思う所もありこうして残っている。
だがリーグルド達は最悪の事態を頭に入れている。
彼らはいつでも逃げることができるように準備している。
アルフレッドが負けた場合彼らが行う最優先事項は情報を持って帰る事。
残りを討伐することではない。
いくら数を減らしたからといっても奥にいるキングとエンペラーを倒せるはずがないとわかっているからだ。
アルフレッドが負ける事も頭に入れている彼らだが、途中からアルフレッドの戦闘に釘付けとなっていた。
それもそのはず。
緑一色がどんどんと違う様相を呈し始めていたからだ。
――黒い光がゴブリン達を包み込む。
「ヒョウカ、あれはなんだ?! 」
「わ、わからないわよ。最初はマジックソードみたいだったけど」
「けど? 」
「伸びるマジックソードなんて聞いたことないわ」
リーグルドの疑問に困惑したようにヒョウカが答える。
マジックソードは伸びない。
これは一般常識であるが、実情は違う。
マジックソードというのは本来魔力を剣状に固めたもの。
一応魔法と言うことになっているがその実魔力の塊である。
マジックソードが伸びないというのは、伸びる程に魔力を込めることが出来ないということ。
それにもし伸ばすことができたとしても、形と同じ質を維持するために膨大な魔力と精密な魔力コントロールが必要となる。
まさに膨大な魔力量を持つアルフレッドならではの使い方であった。
「ゴブリン達が飛んでる?! 」
「アルフレッドも?! 」
「アルフレッド殿は飛翔が使えないはず。なのになぜ……」
アルフレッドは大森林で作戦を行うにあたって彼らに無属性魔法以外使えないと伝えている。
だからライルが空を飛んでいるように見えるアルフレッドに困惑するのは不思議でもない。
アルフレッドが剣を振るう。
周りが黒く染め上げられたかと思うとゴブリン達が力なく落ちていった。
「……瞬殺」
「……すげぇな」
「いつか俺達も……」
七彩の剣のメンバーはアルフレッドの剣技を見て目を輝かせていた。
未知のものを見るような恐怖ではない。
憧れの籠ったまなざしである。
「……無属性魔法って不遇じゃなかったっけ」
「極めれば、そこに差はないということからしら」
「勉強になりますね」
氷炎のメンバーはアルフレッドの魔法に驚いていた。
無属性魔法といえば不遇属性の代名詞。
ならば自分達も極めれば、似たような事が出来ないはずがない。
そして彼らは再度気を引き締めてゴブリンキングに近付くアルフレッドに目をやった。
★
キング二体にエンペラー一体。
中々に見ない顔ぶれだ。
ゴブリンに限らずキングはその種の王だ。
どのような特徴があるのかというと、純粋な力もそうであるが支配力や統率力にも長けている。
それに比べてエンペラーは力に特化したような支配階級の魔物である。
キングが部下を統率し軍団強化を施して軍を強くするのに対して、エンペラーは配下となる魔物や諸王から力を奪い取り自分のものにする。
エンペラーは本によって記述が異なる。
出現によって配下の魔物が弱体化するという本もあれば、エンペラー出現によって一時的に爆発的に力を増すという本もある。
調査した対象が違うのか、それともエンペラーの間で個体差が大きいのかわからない。
けれど今僕が言えることは――。
「僕の敵ではない」
ズドン! と血飛沫を上げながら二つの巨体が倒れた。
「強化されていても、いなくても、ゴブリンキング程度なら相手にならな。……フレイナの方が異次元に強いからね」
「フレイナに言うのです。お兄ちゃん」
「ちょっと待て。単なる独り言だから言わないで」
「お兄ちゃんが言わないでと言っていたと言っておくのです」
今度なにか新作のお菓子を作ってあげるということでアリスに口止めをする。
独り言すらも言えないとは……、恐ろしい。
「ギィィィィィ! 」
「アリスがやるのです」
「いや今回も僕がやろう」
「アリスも戦いたいのです! 」
「譲ってくれ。エンペラー種と戦うのは初めてなんだ」
仕方ないですね、と言いアリスが引き下がってくれた。
さて、と三メートルは遙かに超える巨大な緑の剣士を見る。
ゴブリンエンペラー。
額に二本の角を持つ、ゴブリンの最上位種の一体。
魔力視で再度確認すると全身に膨大な魔力が巡っており、この肉体を支えていることが予想できる。
「ギィ! 」
エンペラーが僕を見下ろす。
剣を抜くと剣に炎が灯る。
――魔剣か!
剣をこちらに向けると声にならない声を上げて威圧してきた。
周りのものが吹き飛んでいく音が聞こえる。
「無意味だ」
パキン!!!
マジックソードを伸ばして剣を折る。
「ギ? 」
何が起こっているのかわからない。
ゴブリンエンペラーはそんな表情を浮かべる。
手は抜かない。
「よそ見していていいのか? 」
身体強化を重ね掛けしてゴブリンエンペラーの首を落とした。
「大丈夫ですか? 」
「アルフレッド殿。やったな! 」
「先ほどの魔物は一体何だったのですか?! 記録に残しておきたいのですが」
ゴブリンエンペラーが蓄えていた魔剣をどうするかアリスと話していると、リーグルド達の元気のいい声が聞こえてきた。
彼らの質問に答える。
「ゴブリンキングが二体に……エンペラー?! 」
「あれがゴブリンエンペラーだってのか! 」
「出たら国に甚大な被害がでるというあの……」
皆驚く。
と言うよりも引かれているような気がする。
イレギュラーが起こっても驚かないように訓練された結果だ。
本当に積み重ねた経験値が今回役に立った。
僕は|これよりも恐ろしい相手と戦っていたからね。
今回は倒せてよかった、ということにしておいてほしい。
「魔剣だれか使う? 」
僕達の中にこの魔剣を使う者はいない。
マリーやアリスは戦い方が違うし、フレイナは自分の剣があるし。
僕は機動力を生かした戦い方をするからこんな重いものを持って戦うとマイナスにしかならない訳で。
だから七彩の剣辺りが欲しいのではと思って聞いてみた。
しかし当てが外れたみたい。
「俺達が貰っても少し困るな」
「確かに魅力的な剣だが身長にあわない」
「それに身の丈に合わない武器はいずれ身を亡ぼす」
引き取ってもらえなかった。
「ならオークションにでも出すか」
「それが良いですね。剣に関してはアルフレッド殿に任せるとして……」
皆で剣やここにある魔石等の素材をどうするか話し合う。
そんな中アリスが話しかけてきた。
「お兄ちゃん」
「なに? アリス」
アリスが地面を指さしている。
その方向をみると何やら魔法陣のようなものが見えた。
「これ転移魔法陣なのです! 」
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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