第20話 エズの町を救え! 1 作戦会議
「新装備か」
「はい」
「中々似合ってるじゃないか。だが……装備から女の匂いがするな」
「……どんな匂いですか」
通された部屋でドキリとしながら呆れる。
にやけるアーネスト殿の顔が憎たらしい。
がすぐに表情を真面目なものにする。
「まぁ世間話はここまでだ。まずは話を聞いてくれ」
アーネスト殿が今起こっている異常について教えてくれた。
今大森林で魔物の異常発生が起こっているらしい。
といっても全体ではない。
起こっている場所は局所的で、ウェルドライン公爵領とウィザース男爵領の境目となっている場所。
今は近くにあるエズの町の冒険者ギルドが対処しているが、日に日にその数を増やして限界が近くなっているようだ。
「おかしいのは数だけじゃない」
「というと? 」
「大森林の魔物は多様で知られている。それは知ってるな? 」
「もちろんです」
「しかし大森林から出ようとする魔物はゴブリン、シルバーウルフ、オークだけ。大森林から溢れて来るならもっと多様な魔物が溢れてきてもおかしくない」
「それが見られないと? 」
「あぁ。大森林から溢れた魔物を調べると、その昔にアサシンモンキーにバブルコング、ブラックリノってのも外に出てる」
「それを聞くと偏っていますね」
「あぁ。幸いなことは今外に出てるのが普通の冒険者でも対処できるレベルの魔物ってことくらいだ。だがそれも……」
「時間の問題、と」
僕の言葉にアーネスト殿が大きく頷いた。
弱い魔物でも数が少し増えるだけで集団としても脅威度が跳ね上がる。
それらがどんどんと森から出ようとしていることを考えると、考えている以上に余裕がないのかも。
アーネスト殿は言わなかったけど脅威は数だけじゃない。
外に出ようとしている魔物の中には上位種もいるだろうし、なによりアーネスト殿が調べた魔物が外に出ないなんて保障はどこにもないからね。
冒険者達も疲労しているとおもう。そんな時に襲われたら一気に町が壊滅だ。
ひやりと額に汗が流れる。
――これはまずい。
大森林近くにはエズの町がある。
この町はウィザース男爵領の交易の要。
もしエズの町が落ちるようなことがあればウィザース男爵領は大打撃を受けることになる。
「そこでだな。悪いんだがエズの町に行って手を貸してやってくれないか? 」
「わかりました。準備をしてすぐに向かいましょう」
「助かるよ。うちの奴らは行きたがらねぇーしどうしようか考えてたんだよ」
「行きたがらない? 」
「あぁ。あいつら実力は確かなのに基本ビビりなんだ。こっちで魔物が急増したらどうするんだ……っと、愚痴ってても仕方ないな。悪いが本当に頼んだ。向こうのギルマスには手紙を書いておくから帰りに受付で受け取ってくれ」
アーネスト殿の話を了解する。
受付でアーネスト殿の手紙をもらい、エズの町へ向かった。
★
アリスの力を使いエズの町へ辿り着く。
エズの町は以前リリーと初めて会った時に来たことがある。その後もウェルドライン公爵領に行く時何度か通った。
その時と比べて町は閑散としている。少し歩けばピリピリとした雰囲気が伝わって来て、右に左に見えるお店は閉まっている。
町は本当に異常事態のようだ。
冒険者ギルドはすぐにわかった。
どこも同じ構造で同じ看板をしているからね。
それに他の建物よりも一際大きく広く作られているのも特徴的だ。
確認したら扉を開ける。
中は外よりもより一層ピリついていて殆ど殺気のようになっている。
「こんな時にガキか?! 」
「どこの冒険者か知らねぇが帰りな! 今お前に構ってる暇なんてねぇんだよ! 」
入るや否やすぐに罵声が飛んできた。
言っていることは的を得ているんだけど言葉通りに帰るわけにはいかない。
「僕はウィザース男爵領支部のギルドマスター、アーネスト殿に派遣されて来たBランク冒険者だ」
声を張って言うと「……ふざけるなよ」と誰かが言う。
アリスが一歩前に出て守ろうとするけど肩を叩いて「大丈夫」と伝える。
「加えてこのウィザース男爵領の領主、ウィリアムズ・ウィザースの息子だ。問題を解決しに来た。責任者の方の所へ通してもらおうか」
証明となるギルドカードを出しながら彼らに名乗る。
どよめきが走る中奥から出てきてギルドマスターの部屋まで案内してくれた。
「まさか領主様のご子息、しかもBランク冒険者のアルフレッド様に来ていただけるとは」
この町のギルドマスターが言う。
受付のピリピリした雰囲気とは違い空気が柔らかい。
「アルフレッド様のお力は存じております。いつになったら終わるのかと思っていましたが、これで少し光が見えました」
ほっと息を吐くギルドマスター。
力を知っているとは……、誰が僕の情報を流しているのだろうか?
どこまで僕の情報が出回っているのかは気になるね。
けど少なくともこの場でスムーズにやり取りが出来るのは嬉しいよ。
「今回遅れてすまなかった。しかしこれから態勢を整えて反転攻勢に出られればと思うのだが……」
「おおお。そうですな。ではまず情報の共有から行きましょう」
ギルマスの言葉に軽く頷く。
「まず魔物が日に日に増えているのは御存じで? 」
「アーネスト殿から聞いている。出現する魔物の比較的ランクが低いものというのも」
「ならば新しい情報を」
と今の状況を教えてくれた。
現在、大森林から迫って来るゴブリン・シルバーウルフ・オークの集団と冒険者が戦っている状態。
これらの魔物は同じ種類で固まって外に出ようとしているのを冒険者が抑えているようだ。
通常時ならばおかしな所はない。
同一種で固まって行動するというのは魔物の特性だしね。
だけどこの現象がスタンピードならかなり不自然だ。
「魔物に怯えや焦りは? 」
「特にありません。何かに追われて来たという風でもないようで……」
「ならスタンピードじゃないのか」
スタンピードは圧倒的強者が移住してきた等の理由で起る。
その時魔物は恐慌状態や極度の興奮状態になるので危険度が異常に上がる。
スタンピードで外に追いやられた魔物達には余裕がない。だから様々な種の魔物が混ざり、今回のように単一種で襲って来るということは稀だ。
加えるのなら進行スピードも遅すぎる。
災害に例えられるスタンピードだが、もしこれがスタンピードなら正直この町がもうすでに滅んでいてもおかしくない。
「スタンピードならボスとなる魔物を倒せば時間と共に終わるのですが」
「今回は違うみたいだな。原因として考えられるのは居場所を見つけて異常繁殖したことくらいか」
原因を考えながら対策を練る。
魔物が安全に暮らせる拠点を持った場合、ひっそりと増えて、そして爆発することがある。
ゴブリンキングの時の例がこれだ。
「……魔物を倒しながら拠点を探すしかないか」
苦しいがこれしか方法はない。
普通に進めば問題ない。
迫ってきている魔物の種類を考えても精々浅い所に拠点があると考えられるからね。
「悪いけど僕はパーティーというものを組んだことが無い。しかし僕の見える範囲は限られれている」
「畏まりました。幾つか冒険者パーティーをつけましょう。その者達にアルフレッド様の邪魔をしないように伝えておきます」
僕の意図を汲んでもらえてありがたい。
あとは冒険者達に町の防衛ラインを敷いてもらうように頼んでおく。
僕が打ち漏らした魔物を倒してもらうためだ。
単騎でどこまでできるかわからない。
フレイナかマリーを連れて来るべきか?
いやマリーは周りに人がいると誤爆しかねないし、一日で収まらなかった場合フレイナの戦闘能力はマイナスになる。
やっぱりアリスが適任か。
頭の中で誰と一緒に戦うか選考を終える。
ギルマスとの話を終えて冒険者達に僕が今回参戦することが伝えられた。
今日はもう遅い。
ということで明日作戦開始となり、――朝日が昇った。
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