第2話 誕生日、そして武姫解放
父上が「誕生日を楽しみにしておくように」と言って早一か月。
僕の誕生日がやってきた。
「コホン。アルフレッド。八歳の誕生日おめでとう」
「おめでとう。アル」
「ありがとうございます」
父上が音頭をとって祝いの言葉を口にする。
丁寧すぎるなぁ、と父上に呆れられるが性分なのだから仕方ない。
母上もクスリと笑い料理を食べるように僕に促す。
僕は苦笑いを返しながら目線を落として机の上にある料理を見た。
「……良い匂い」
「今日はお父さんが採って来たウルル鳥よ」
「ウルル鳥?! 」
「はは。苦労したんだぞ」
ウルル鳥は魔物ではなくこの国に生息する鳥だ。
けれど空を飛ぶ速度は異常に速く捕獲が困難とされている鳥の一つ。
本で読んだ内容によると下手な魔物よりも捕獲難易度は高かったはず。
もしかして父上は思っているよりも凄い人?
「さ。食べようか。ウルル鳥は焼き立てが美味しいんだ」
フォークとナイフを手に取ってこんがりと焼けたウルル鳥に切り込みを入れる。
そして第二の人生初めて未知の鳥を口にした。
★
料理を食べ終え満足だ。
確かに今日は特別な日だった。
ウルル鳥に驚かされたし、部屋の装飾がいつもよりも綺麗だった。
父上が「お楽しみに」って言ったのも頷ける。
今日は本当に楽しかった。
「さて。これからが本題だ」
「え? まだあるのですか? 」
聞き返すと「してやったり」という表情で父上が頷いた。
終わるムードと思いきや、まだあったとは。
驚きながらも父上を見る。
黒い瞳を覗いていると少し椅子を引いてこちらにくるように声をかけられた。
「これは代々我が家に受け継がれてきたものだ」
父上の近くによると小さな箱を取り出した。
ゆっくりと父上が開けるとその中には金色の鍵が一つある。
「これを、僕に? 」
「そうだ。誕生日プレゼントとしてね」
「ありがたいですがこれは当主の証のようなものでは? 僕は当主になっていません。受け取ってもいいのですか? 」
「いやいやこれは当主の証ではないよ」
「? 」
「受け継がれてきたと言っても必ずしも当主が受け継ぐものでもないんだ。ただ脈々と我が家系に受け継がれてきただけの鍵でね。私が持っていても仕方ないし、……誕生日のお祝いにね」
「大事にします」
鍵を受け取り光にかざす。
形は古いタイプの鍵そのもの。差し込む側にはデコボコが幾つかありつまみのような部分は円を作っている。
鉄に金箔を塗っているのだろうか。冷たく硬い感触がするけれど光に照らされキラキラと光り輝いている。
「ところでこれは何の鍵なのですか? 」
一通り見終わって父上に聞く。
すると得意げな顔を作って答えてくれた。
「これは図書室にある開かずの扉の鍵と、聞いている」
★
父上の話によるとこの鍵であの開かずの扉が開くらしい。
けれど誰もそれに成功した者はいないと。
父上も試してみたけど成功ならず。
ならばということで僕にその番がやってきたようだ。
『ダメ元で試してみると良いよ』
そう言われるとやってみるしかない。
幸いまだ寝るまで時間はあるし、こんなものを貰ったら今日眠れる自信はない。
ということで僕は今開かずの扉の前に立っている。
「若干温かくなってない? 」
ポケットに手を突っ込んで鍵を握るとやっぱり温かい。
光球の付与がされている大きなランタンで鍵を照らすけど外見に変化はない。
だ、大丈夫だよね。これ。
「熱を吸収している? いやなんか違うような……」
戸惑いながらも早めに鍵を差し込むことにする。
ランタンを机の上に置いて鍵穴に向かう。
ゆっくりと鍵穴に入れて、――回した。
――ガチャ。
「開いた?! 」
驚きながら扉を引く。
ギギギ、と音を鳴らしながらゆっくりと開ける。
恐る恐る中を覗くと真っ暗だ。
しかし一瞬にして部屋の中が照らされた。
「鍵が輝いている……」
手にもつ鍵が急に光る。
まるで先を急げと言わんばかりに光が束になり始める。
何が起こっているのかわからない。
けれども僕を呼んでいる気がする。
行くべきか、引き返すべきか。
……もしかしたらこれ一回きりの開錠なのかもしれない。
なら――。
「行く、一択だね」
周囲に注意を払いながらも慎重に僕は部屋の中に足を踏み入れた。
開かずの間の中は意外と清潔だった。
魔法を見抜く力はないけれど、これまでのこと考えると保存魔法がかけられているのだと思う。
「僕の部屋くらいの広さみたい……」
部屋の中はそんなに広くない。けれど小部屋という感じでもなく人が数人生活できるくらいのスペースがある。
大体半分くらいまで行きぐるりと周りを見渡す。すると多くの本や武器が所狭しと置かれていた。
机の上にある本を手に取ってみる。パラパラと捲る。見た所汚れやカビは見当たらない。
きっと偉大なるご先祖様とやらが魔法をかけているのだろうね。
「これに差し込めってこと? 」
ある程度見渡すと鍵の光が一つの本に収束していることに気が付く。
見ると表紙には鍵付きの帯がかけられており開かないようになっている。
鍵と本を交互に見て、鍵を鍵穴に差し込んだ。
「うわっ! 」
風が巻き起こったかと思うと、本がパラパラパラ、と捲れる。
本自体が輝き出す。
なんだ?! と驚き下がると本が宙に浮きだした。
本当になんだこれは!!!
パラパラパラ……、ピタ。
止まった。
と思うと輝きが強くなっていく。
思わず目を閉じてゆっくりと開けると、――そこには伸びをしている魔法使い風の美少女がいた。
「なっ……」
「ふぁ~~~。おはよぉ~~~」
背は高くない。毛先にカールがかかっている金髪ロングの美少女は腕を伸ばしながら眠たそうに挨拶を。
口を開けたままにしていると彼女は眠たそうな瞳を擦って緑色の瞳で僕を見る。
一瞬目を見開いて何度か瞳をぱちくりさせて「まぁ」という。
「貴方が主ちゃんね」
「あ、あるじ? 」
「そうよぉ。わたし達「武姫」の主ちゃん。ねぇ主ちゃん。名前はなんて言うの? 」
「ア、アルフレッド」
「アルフレッドちゃんね。なら……主ちゃんでアルフレッドちゃん。ん~~~、やっぱりアルちゃんね! 」
黒いとんがり帽子を被った緑のローブの彼女がニッコリと笑みを浮かべてそう言った。
なにやらとんでもないのが出て来たみたいだ。
★
「ところで貴方の名前は何でしょうか? 」
「あらごめんね。言うの忘れたわ」
あくまでもマイペースな魔女系美少女に聞くと、可愛らしく手を合わせて謝る。
本から美少女が出て来た、という驚愕の事実は僕の中で処理しきれない。
せめて考える時間が欲しい所。
けれども彼女が何者か知る必要はある訳で、せめて名前くらいは教えてほしい。
彼女を見ていると再度僕の前に位置どり軽く咳払いをする。
そして柔らかい口調で自己紹介を始めた。
「わたしはマリー。「杖の武姫」のマリーよ。これからよろしくね。アルちゃん」
「杖の武姫? 」
「そうよ。わたし達は――」
と彼女が武姫について説明してくれた。
マリーの話によると「武姫」とは作られた魔法生物のようなもので、その本体は武器や道具にあるようだ。
でその開発者がこの館の持ち主で、彼女達は開発者の手によって次の適合者を見つけるために休眠状態となったみたい。
彼女達武姫は研究用というよりも戦うために作られたようだ。
そのため戦闘能力はそれなりに高いとのこと。
だから護衛に勉強に任せてほしいと大きな胸を張っていた。
しかしマリーはさっきから「武姫達」と言っている。
もしかしてまだ居るのだろうか。
「ここにもあと二人いるわよ? 」
何ともないような口調でマリーが言う。
マリーに他の武姫の場所を聞くと近くにいることが判明した。
というよりも一人は僕が手に持つ鍵が武姫らしい。
道理で意思を持ったように熱を出したり光を出したりしたわけだ。
「ねぇアルちゃん。ちょっと頼み事、良いかな? 」
「頼み事ですか? 」
「うんそう。あそこにある剣なんだけど……、アリスちゃんで鎖を解いてくれないかな? 」
「アリス? 」
「アルちゃんが手に持っている鍵のことよ。鍵の武姫「アリス」ちゃん」
マリーが紹介するとぶるっと鍵が揺れた気がする。
アリスとやらは自分の自己紹介のタイミングをとられて憤慨してそうだ。
僕が主のはずなのだけれど何故かマリーの頼みを断れる気がしない。
こういう時は抵抗するよりも素直に言うことを聞くのが一番だ。
ニコニコと笑顔を浮かべるマリーについて行く。
鍵付きの鎖でがんじがらめにされた長剣を見つけて鍵を回す。
「わっ! 」
「あらあら派手ね」
鍵を回して鎖を外すと長剣が燃え上がった。
やばいやばいやばいやばい!!!
「か、火事! 」
「大丈夫よぉ。これは幻影魔法のようなものだから」
「幻影魔法?! ……なら燃え移らない、のか? 」
「全然大丈夫よぉ。ほら、熱くない」
ゴウゴウと燃えている中にマリーが手を突っ込む。
引っ込めて僕に「大丈夫でしょ? 」と見せてくる。
心臓に悪い……。けど本当に大丈夫なようだ。
よく見ると天井も燃え移ってないようだし。
マリーと一緒に様子を見ていると炎の幻影がかき消えた。
かと思うと赤く長い髪をした女性が膝をついている。
彼女がゆっくりと顔を上げて僕を見る。
黒い瞳が僕を見つめる中、赤髪の彼女がゆっくりと口を開いた。
「お初お目にかかります主殿。私は「剣の武姫」。フレイナと申します。主殿に置かれましては――「フレイナちゃんったら堅苦しい」、ちょ、マリー?! 今いい所! 」
「久しぶりにいっぱいお話しましょう、フレイナちゃん。良いでしょ? アルちゃん」
「え、えぇ。いいですよ」
僕がオッケーを出すと「やったー」という声が聞こえてくる。
フレイナがもみくちゃにされるのを見ながら「仲が良いな」と少し距離を取る。
こうしてみていると姉妹のようだ。
マリーが姉で、フレイナが妹で。
そう考えると微笑ましく見えて来た。
「だ、大丈夫ですか? 」
「うん。大丈夫」
「ならよかったです」
「はは。心配かけたね。……ってだれ?! 」
横を見るとそこには背丈の半分ほどある長いオレンジ色の髪をした女の子がいた。
いつの間に?!
僕が驚いているとおどおどした様子をする。
彼女は青い瞳で僕を見上げて自己紹介を始めた。
「アリスは「鍵の武姫」アリスというのです」
「鍵の武姫……。君がアリス」
「はいなのです。これから色々とご迷惑をお掛けるかもしれないのですが、よろしくなのです! 」
「うん! よろし……、あ……」
そう言えばこれ、父上と母上に言わないとダメ、……だよね?
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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