第19話 ナナホシ商会とウェルドライン公爵家
僕とマリーの所に招待状が来た。
けれどこれはリリーが主催するお茶会の招待状ではないみたいで。
「ガイア様から呼ばれたね」
「わたしもよ」
マリーが招待状をハラハラと振り僕に見せる。
中に入っている手紙を読むとマリーはナナホシ商会代表として呼ばれているね。
「僕はリリーの友人としてか」
特に重要なことは書いてない。
リリーが来るのを待っていたから丁度いい。
向こうからくるのもこちらから行くのもやることは同じ。
お菓子を渡しに行こうか。
「……返信は不要みたいだね」
「アリスちゃんの力を知っているからでしょうね」
「ならアリスも連れて行くか」
「フレイナちゃんには悪いけどちょっと家でお留守番してもらいましょう」
父上に事情を話して了解を得る。
アリスも連れて行くことをフレイナとアリスに伝えるとフレイナが悔しがる。
着ていくもの、持っていくものを決めて公爵家に向かう日がやって来た。
★
「よく来たな。アルフレッド」
「リリーと共にお待ちしておりました」
公爵家について早々公爵様に迎えられる。
僕達が挨拶すると中へ誘導してくれる。
「……ガイア様とローズマリー様が直接部屋に案内しなくても良いと思うのですが」
「私達の案内は不満だったかね? 」
「いえそう言う訳でなく普通は使用人に任せるものかと」
「……以前何度も君の案内を使用人に任せた。その結果君に不快な思いを抱かせるような結果になった」
ガイア様が強面を歪ませて不快そうな顔をする。
僕の魔法適正は無属性魔法。所謂不遇扱いの魔法しか使えない。
このステータスは貴族社会でも発揮される。
属性魔法を使える者は褒め称えられて無属性魔法しか使えない者は侮蔑される。
僕はこの家に何度も来たことがある。
その時案内してくれた使用人が侮蔑の言葉を吐いたり、明らかに蔑んだ目線を送って来たのをガイア様が気にしているのだろう。
「一度なら厳重注意で済ませるのだがこれが何度も続くとなるとな。彼らは解雇したが、他の使用人の無属性魔法に対する差別的な感情を拭うことは出来なかった。と言っても全員を解雇するわけにはいかない。だから私がこうして案内している所だよ。全く恥ずかしい……」
それほどまでに大事に思ってくれているのは素直に嬉しい。
生まれてからの価値観が消えないのは仕方ないと思うけど、主人であるガイア様と代わられるのは思う所もあるわけで。
「さ。ついた」
「中でリリーも待っています」
「今回は私達も同席する。良いよな? 」
拒否する理由はない。
ガイア様とローズマリー様と一緒に部屋の中に入る。
リリーに挨拶してそれぞれが席に着いた。
「まず初めにマリー」
「わかっているわよぉ。はい、これ」
「ありがとうございます! 」
マリーが綺麗に包まれたお菓子を渡す。
リリーは受け取り仕舞い込んだ。
「これはお茶会でブームになるかもしれませんね」
「リリーはいつも大袈裟だね」
「そんなことはありません。率直な感想です」
「じゃぁ何でブームになると思っているの? 」
「どれも斬新で、それでいてしつこくない、とても美味しいお菓子だからです」
僕は……、というか母上はお茶会に行ったことが無い。
だからどんなものが出ているのかわからなかったけど……、なるほどスコーンは斬新なんだ。
流石にクッキーは出ていると思う。
けど砂糖をふんだんに使うようなことはしていない。
それが今回リリーの目に留まる理由の一つだったのか。
「次回のお茶会は成功するでしょう」
「もう確定なんだ」
「ええ。もう確定です。そこで一つマリーさんとお話がありまして」
「そこからは私が話を引き継ぎましょう」
と皆がいる所ではあまり口を開かないローズマリー様が口を開いた。
少し驚きながらもマリーを見る。
彼女はいつものマイペースな雰囲気を崩さずローズマリー様に「なんでしょうか? 」とゆったり聞いていた。
「ナナホシ商会の商品をウェルドライン公爵家にも卸していただけないでしょうか? 」
ウェルドライン公爵家と取引?!
「実の所現在ナナホシ商会がどのような商品を売っているのか調べさせていただきました」
「あらあらそれは光栄なことだわ」
「商品を見るとどれも斬新で目を引くものばかり。お菓子類もよく改良され、時には新しいお菓子も見られます。長い付き合いをしたいのですが、まずはお菓子類を卸していただけないかと思いまして」
お茶会用、かな。
リリーほどじゃないけどローズマリー様やガイア様も家に来る。
その時お菓子を出していたけど、それを気にいった感じかな?
そしてナナホシ商会で売っていることがわかって会長のマリーに話を持ってきたと。
「ナナホシ商会がウェルドライン公爵家に商品を卸すとして、独占的な契約になるのでしょうか? 」
「いいえ。あくまで公爵家に卸してほしいというものです」
「なら……」
「良いんじゃないか? マリー」
「オッケーがでたので……、これからもよろしくお願いします~」
マリーとローズマリー様が握手をする。
大口の契約がとれたみたいでなによりだ。
あとで契約書を作ることになり、この話は一旦終了。
ガイア様に竜熱病の治療薬の事を話す。
治療薬と原料を各方面に流したいというと驚きと呆れが混じった表情で手伝ってもらえることになった。
「普通は独占するものだがな」
「独占して家族に危険が迫るくらいなら分散させた方が良いかと」
「……アルフレッドの性格は分かっている。ちょっと愚痴っただけだ」
ムニャァァァっと笑いコップに口をつける。
「さて……リリー」
「っはい! 」
「そろそろ切り出してもいいんじゃないか? 」
ガイア様がリリーに目をやる。
するとリリーが緊張した様子で背筋を伸ばして返事をする。
さっきからリリーがそわそわしていたのと関係があるのだろうか?
「場は繋いでおくから取りに行って来なさい」
「よろしくお願いします! 」
というとリリーがサクサクと部屋を出て行ってしまった。
いつものリリーなら「ありがとうございます」と言いそうだけど……、やっぱり何か隠しているな?
「さてアルフレッド。君は最近大活躍しているそうじゃないか」
「そのようなことはないと思いますが」
「謙遜しなくてもいい。リリーやウィリアムズから話を聞くだけでなく、実際にその目で確認している」
どうやって?
「この前は大型のソニックタイガーを倒したようだな。あれほどの大きさのソニックタイガー。私も見たことが無かった」
「……なんで大きさを知っているんですか? 」
「……この前オークションがあってな。そこで偶然冒険者ギルドの出店があったのだ。出されたのは規格外のソニックタイガーの毛皮。もちろん落とした」
この前ソニックタイガーの毛皮の代金を手に入れた。
予想を遙かに上回る金額で驚いていたけどガイア様が落としたのか。
納得だ。
「あれほどの魔物を倒すというのに君はいつも軽装だ。ウィリアムズやアネモネも心配していたぞ」
父上と母上を心配させていたか。
これは反省しないとね。
お金が無い。ということを理由に装備はおさがりの物を使っていた。
ナナホシ商会が好調なこともあって僕の懐も温かい。だけど新調する機会を失っていたのも事実。
「持ってきました」
リリーがノックをして入って来る。
汗が滲む顔で僕を見つけると背筋を伸ばして両手に持つものを渡してきた。
「これは? 」
「アルが冒険者の活動をする時に着てもらえれば、と」
「まさか新しい装備」
リリーが大きく頷いた。
「リリーもそうだが私達も君の事を心配している。是非受け取ってもらいたいのだが」
リリーが差し出している装備をみるとどれも高価そう。
分不相応な気がするんだけど……。
思っていると僕の心を読んだのかガイア様が付け加える。
「君の実力は君が思っているよりも遙かに高い。ランクもBランクで高位冒険者だ。しかし、失礼な言い方だが見た目からそれだけの実力者というのがわからない」
確かに高位冒険者の装備ではないね。
「装備の効果は物理的に身を守るためだけじゃない。装備している者の実力を周りに見せる効果もある。君が相応の実力者と見ただけで分かれば不用意に絡む者も少なくなるだろ? 」
トラブル回避のための装備変更か。
それは考えてなかったね。
「受け取ってくれますか? 」
「もちろん」
リリーから装備を受け取る。
「ありがとう。リリー」
お礼を言うとリリーが感極まった様子でバタバタしている。
時々子供の時のような仕草をするけど、これはこれで可愛いね。
ともあれ今日の予定を全て終わった。
★
装備を新調したおかげか少しウキウキとしているのを感じる。
新しいものを使うとなると落ち着かないのは僕が子供だから、という理由だけではないだろう。
皆同じだと思いたい。
今日は冒険者ギルドに行く日だ。
行っても行かなくてもいいんだけど一応最低でも週に一回は行こうと予定している。
だからアリスを連れて新しい装備で領都の冒険者ギルドへ。
しかしいつもよりも中が騒がしい。
「なにかあったのかな? 」
首をかしげているとアーネスト殿がやって来た。
「丁度いい所に来た。アルフレッド殿、部屋まで来てくれ」
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




