第18話 時にはお金よりも身の安全を
冒険者ギルドでソニックタイガーの素材を引き取ってもらった。
しかし今までに見ない大きさのソニックタイガー。
今すぐには換金できない。なので報告書を持ってくる時までに用意してもらうようにした。
「倒した魔物に治療薬、山頂にいた魔物と……」
僕は今、自分の部屋で報告書を書いている。
前のこの部屋の持ち主も忙しかったのか羽ペンに紙に様々なものが揃っている。
男爵家の子供の部屋に執務台というのは中々珍しいんじゃないだろうか?
けどこれとは別に父上にも報告書を書かないといけないから少し面倒だ。
体を使うのとはまた違う疲れを感じる中、「あと少し」と意気込んでラストスパートをかける。
「よし」
書類を二つ書き終える。
扉の向うに控えていたフレイナを引き連れ一つを父上の所へ持っていく。
小腹が空いたので台所へ向かうと母上と会う。
「アル、お仕事は終わったの? 」
「はい。母上」
「お疲れ様ね。そう言えばリリアナが来ていたわよ」
「リリーが? 」
「ええ。今食堂にいるから会ってきなさい」
母上と別れて食堂へ向かう。
リリーが来ているのか。
用事もなく来ることもあるけれど、今日は何をしに来たのだろうね。
「お邪魔しています。アル」
食堂に入るといの一番にリリーが挨拶。
僕が挨拶を返すと、遅れてマリーとアリスも寄ってきた。
リリーが少し誇らしげな微笑みでよってくる。
「アル。マリーさんに聞きましたよ? 」
「何を? 」
「モンスター病——いえ竜熱病を治したそうじゃないですか」
「ま、まぁ……、あぁ~治したのは僕じゃないけどね」
少し気まずくなりながらも椅子に座る。
マリー達も椅子に座る中、リリーが正面に座ってぐいっと顔を寄せてくる。
「それでもです。竜熱病の治療ができるという証明が出来ただけでも十分な功績だと思います」
「そうなの? というよりも今竜熱病ってあるの? 医者や聖職者が投げ出したって聞いたからもうないものだと思っていたんだけど」
「竜熱病という呼ばれ方はしていませんが存在します」
呼ばれ方が違ったのか。
しかしそれでも妙だ。存在するのならなんで医者や聖職者が名前を教えなかったんだろう?
村人に配慮した?
「今は「モンスター病」と呼ばれる竜熱病ですが今まで治療方法がありませんでした」
「失伝、か」
「そのようで。マリーさんがどこで竜熱病の治療方法を知ったのかとても気になりますが、それよりも治せるものと分かったことは素晴らしい事です! 」
難しい病気が治療可能になった。
言われるとその実感が湧いてきた。確かにすごい事だね。
少しドキドキする。
「治せない事がわかっている竜熱病を使いあくどいことをしていた者達もいます。この治療薬が広まれば今まで救えなかった人達を救うことが出来るでしょう」
リリーの言葉でさっきとは違うドキドキが走った。
これあくどいことをしていた人達に目をつけらないか?
それに火竜草は貴重な薬草。誰かが何も知らない冒険者に採取依頼でも出したら大変だ。
今回僕達はフレイムドラゴンがいる山に登った。だけど他にも火山のような所なら採れるだろう。
もしかしたらダンジョンにもあるかもしれない。
採れるかもしれない。その希望が最悪の事態を招きかねない。
「探し回ってフレイムドラゴンの怒りを買うような人が現れるかもしれない。そう考えるとここまでフレイムドラゴンが襲撃してくるかも」
この近くで火竜草が採れるとわかっているのはイカリタケ山だけだ。
近くに火山は無いから多分ここだけ。
薬のレシピはまだ公開していない。
けどもうすでに冒険者ギルドに火竜草を使って治したと伝えている。
どれだけギルドに広めないでくれと言ってもどこから漏れイカリタケ山を目指す人が現れるかも。
なら――。
「マリー。火竜草を僕達で育てる事って出来る? 」
「難しいけど出来るわよ」
「出来ないよな……ってえ?! 出来るの?! 」
「出来るわよ。マグマを作るのは最高位の火属性魔法を使えば作れるし、外部魔力吸収型魔法陣と魔力循環魔導線を引いて状態維持の魔法を……っと。まぁ難しい魔法を色々と組み合わせれば出来るわよ」
いつもほんわかしているけど、やっぱりマリーも超人だ。
「昔色んな薬草を温室で育てていたのを思い出すわぁ」
昔の技術力が半端ない。
今跡形もないのが不思議なくらい。何があった……。
けど今はおいておこうか。
「なら作ろう。火竜草を栽培して薬を作りナナホシ商会で売る。同時にレシピも公開して危険を分散させる」
「少しもったいない気がするけど……わかったわ」
「全員を僕達で見る事が出来るはずもないし、薬も医者も薬師も足りるはずがない。独占してもキャパオーバー。原材料も、出来れば代わりになる原料が発見されると良いんだけどね。けど……セキュリティーは完璧にね」
「もちろんよぉ。誰か襲ってきたら迎撃できるようにしておくわ」
マリーが物騒なことを言うけど止める必要はない。温室や商会を守ることは周り周って僕達の身を守ることになる。存分に罠を仕掛けてほしい。
これで情報が出回っても無理する人を減らすことが出来るだろう。
わざわざ危険を冒してまでフレイムドラゴンに挑む人はいないだろうからね。
リリーがいてくれて助かった。
もし何も考えずに情報を出していたら領内をフレイムドラゴンが襲うということが起こってもおかしくなかった。
対策を考え一息ついて、机の上にあるお菓子を一つ口に入れた。
★
「そう言えば皆集まって何してたの? 」
「マリーさんにお菓子を頂いていたのですよ」
「お菓子を? 」
「はい。マリーさんのお菓子はとても美味しいので」
「ついつい食べ過ぎてしまう味だ」
「マリーのお菓子はとーーっても美味しいのです! 」
話を変えて気分転換。
マリーは褒められて満更でもないような表情をしている。
そうか。リリーは今日お菓子目当てだったのか。
「それでなのですが、マリーさんのお菓子をお茶会に出せればと思いまして来たのです」
と思ったら違ったようだ。
「と言われてもね。元々このお菓子はアルちゃんが作ったものだし」
「アルはお菓子も作れるのですか?! 」
「作れるけど……、作れるといってもマリーの方が上手だよ? 」
「しかし作れるのは本当なのですね。なんだか負けた気がします」
「いや作れなくてもいいんじゃない? 」
公爵家の娘なんだし気にしなくても良いと思うけど。
お菓子を作る時間なんてなさそうだしね。
「お茶会にもっていくのはそこにあるお菓子? 」
「……今の所は」
「ナナホシ商会で売っているハチミツクッキーじゃないか」
リリーはしょんぼりしながら答える。
見るとハチミツクッキーだけじゃないね。他にもスコーンもある。
そう言えばこの前リリーが食べているのを見たね。
「本当に持っていく気? 」
「マリーさんとアルの許可を貰えたらですが」
「僕は良いけど……」
「アルちゃんが良いのなら反対する理由はないわぁ」
「本当ですか! 」
「ええ」
「このくらいなら別にかまわないよ」
むしろ不足が無いか気になる。
マリーに教えたお菓子って殆ど簡単に作れるものばかりだからね。
貴族……それも公爵家が開くようなお茶会に出していいのかこっちが不安。
「最低限綺麗に包んだ方が良いかな……」
呟くとマリーとリリーが頷いた。
リリーに聞くとお茶会までまだ時間があるとの事。
だからお菓子はその時に作ることとなった。
冒険者ギルドに報告書を提出する。
リリーのお茶会の事もあり後日マリーと一緒に包装用紙を買にいく。
可愛くも自己主張しすぎない包装用紙を見てセンスの違いをヒシヒシと感じた。
もうすぐリリーが取りに来る頃だろうと考えていた時、僕とマリーに手紙が来た。
「招待状、か」
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
少しでも面白く感じていただけたらブックマークへの登録や、
広告下にある【★】の評価ボタンをチェックしていただければ幸いです。
こちらは【★】から【★★★★★】の五段階
思う★の数をポチッとしていただけたら、嬉しいです。




