第15話 病に苦しむ人々を救え! 1 竜熱病
依頼書を提出して村へ向かう。
行ったことのない村だ。
依頼の内容もかなり抽象的でどんな病気なのかわからない。
だけど文章から切羽詰まっていることを感じるのは確かだ。
基本的に病気を治すのは医者や薬師、あと教会の領分だ。
冒険者ギルドに依頼するようなものではない。
にもかかわらず冒険者に依頼を出しているということは、もう断られた後か、金銭面的に困っているということがわかる。
「お兄ちゃんは病気がわかるです? 」
「いや具体的な所まではわからない」
走りながらアリスの疑問に、前世の事をぼやかしながら、答える。
僕は生前の記憶がある。
しかしそれが全てこの世界で役に立つかと言えばそうではない。
例えばナナホシ商会。
ここで販売している物の中には前世の記憶を活用した物があるが、マリーの魔法をもってしても再現できなかったものも多い。
病気だってそうだ。
ウィザース男爵家の館にある図書室には膨大な量の資料がある。
その中には病気に関するものも多い。
前世の記憶と似たような症状を出す病気もあれば全く知らない病気もあれば。
所詮素人の浅知識だ。
「僕に出来る事は現地に行って、様子を見て、僕の知識が及ばない所だったら公爵様に頭を下げることくらいだよ」
「大人です」
「まぁその前にマリーが知らないか聞いてみるのもありだけど」
「マリーは物知りです! きっと役に立つと思うです! 」
そうだね、と言い先に進み、そして目的の村に着いた。
「冒険者ギルドの依頼できた。誰かいないか? 」
村は閑散としていた。
声を上げたけれど誰も出てくる様子が無い。
仕方ないと思い人の気配がする方へ歩いて行く。
「農地も草が生え放題だね」
歩きながらぽつりと呟く。
長い間手入れされていないことがよくわかる。
それほどに病気で動けない期間が長いということになる。
加えてこのガランとした村。
もしかしたら村人の殆どが動けない状態なのかもしれない。
「……この村に、なにか用事、でしょうか? 」
女の子がおずおずと聞いてくる。
やっと人に出会えた。
少しホッとしながら彼女に答える。
「私は冒険者ギルドで依頼を受けた冒険者だ」
「依頼?! 」
「この村を病気から救ってほしいという依頼なんだが」
「ほ、本当に……。本当に来た……。うっぐ……」
泣きだしてしまった……。
こういう時どうしたらいいのかわからない。
一先ず泣き収まるまで待つことに。
そして彼女に連れられ村長の所へ向かった。
「正直もうだめかと」
村長が体を震わせいう。
希望が見えた所で水を差す用だがこれだけは言っておかないといけない。
「私達は素人です。技術も知識も医者のそれには及びません。手に負えない可能性の方が高いですよ? 」
「それでもですじゃ。来てくれなければ何の希望もなくこの村は終わっていたのじゃ」
納得してくれたようだ。
僕達が出来る範囲を伝えて了解してもらう。
そして村長が状況を教えてくれた。
「全身に強烈な痒みと痛み、ですか」
「罹っているものは動けず悲鳴を上げておる。今は痛み止めでなんとか凌いでいる状態じゃ」
「全員ですか? 」
「いや村の男衆だけじゃ。じゃが殆どの男衆が苦しんどる。なにか病気に心当たりはないかの……」
困ったな。全く心当たりがない。
これは早々にマリーに頼るしかなさそうだ。
「アリス」
「はいなのです! 」
「村長。今から人が来ますが驚かないでくださいね? 」
「な、何をなさるつもりじゃ? 」
村長が戸惑う中、アリスが空間を繋げる。
その先から間延びした声が聞こえると魔法使い姿のマリーがやって来た。
「こ、これは一体……」
「彼女は私達の仲間です。様々方向に知識が深いので呼びました」
村長はぽかーんとした表情を浮かべる。
任せてぇ~、というマリーに今の状況を話した。
「ん~、思い当たる病気は幾つかあるけど見て見ないと特定できないわぁ」
知識系はやっぱりマリーだね。
町長に頼み村人の所まで案内してもらう。
家の中に入ると苦しそうな表情を浮かべている男性と付き添う女性が。
男性の頭には水袋のようなものが置かれている。
「この者はわしの息子夫婦じゃ」
悲しそうな表情をしながら彼らを紹介する村長。
しんみりする中マリーが何かに気が付いたようである。
「村長さん。彼、包帯巻いているけど、何かと戦ったの? 」
「むぅ……。前、村を襲った魔物と戦ったのじゃ」
「魔物と? 」
「うむ。この村の男衆は力自慢ばかりでの。魔物の襲撃も殆ど村の者で凌いどるのじゃ」
「それねぇ」
凄い事だと思ったけど、マリーは違うみたい。
「多分これは竜熱病よぉ」
「「「竜熱病? 」」」
「全身をね、竜がのたうち回るような苦痛を襲う病気でね。大体が魔物と戦ったあとに起こるの」
「なんとっ! 」
今までこんなことが無かったのだろう。
村長は目を見開いて驚いている。
「傷口の処理は完璧に行ったはずじゃが……」
「それがこの病気の厄介な所でね。傷が治ったと思っても、時間が経ってから痛み出すの。そして何も食べる事が出来なくなり最後には衰弱して死に至るのよ」
マリーが説明を終えた。
死に至る、か。
病気は分かったけど恐ろしい病気だということもわかった。
痛い沈黙が流れる。
「マリー。この……竜熱病? は治すことは出来るのか? 」
「材料があれば薬を作れるわよ」
「本当?! 」
「本当よアルちゃん。火竜草っていうんだけど……あるかしら? 」
確か……本で見たことはある。
とても貴重な薬草で火山やフレイムドラゴンが住む場所に育つという薬草だ。
今はあまり出回っていないはずなのだけど――。
「火竜草、というのは覚えがない。じゃがフレイムドラゴンなら……」
「知っているのですか、村長?! 」
「う、うむ。伝承によるとイカリタケ山の山頂にフレイムドラゴンがいるそうじゃ」
イカリタケ山。
そこは大森林の向こうにある、――荒山である。
★
聞くところによると、イカリタケ山という名前は、山に住むフレイムドラゴンが村を襲う様子を他の村の人が言い伝えたことに端を欲するらしい。
逸話によると昔は今大森林がある場所にも村が存在していたようだ。
けれどもフレイムドラゴンの怒りを買い、滅んだと。
そして人が住まなくなった土地は長く誰も入って来ず、大森林となり、今度はフレイムドラゴンの庇護の元で魔物達の楽園になったみたい。
「山に登るには寒さ対策が必要よ」
冒険者ギルドに事の次第を伝えて一日が経った。
すぐにでもイカリタケ山に行きたい僕はマリーに保温の魔法をかけてもらい準備万端。
「わたしもいけないのが残念だわ」
「マリーは商会の方、よろしく」
「頼まれたわ」
「な?! な!!! 」
ふふっと笑うとむぎゅーっと抱きしめられた。
「なにしているんだ? 」
「保温よぉ」
さらにむぎゅーっと抱きしめられる。
胸に顔がうずまって、顔に血が上る。
これは役得だが……まずい。
「マリー。そろそろ放してくれ」
「ごめんね……。はい」
解放されてふぅと息を吐く。
「フレイムドラゴンがいる場所は灼熱のように暑いわ。それはフレイムドラゴンがマグマを出しているからなの」
「聞いたことある」
「でね。火竜草というのはマグマが冷えて固まった岩石の上に育つの。つまりね。とても危険だから無理だと思ったらすぐに戻ってくるのよ? 」
マリーの言葉に大きく頷く。
「あとね。いくら攻撃してきたからと言っても、フレイムドラゴンは倒さないようにね? 」
「分かっているよマリー。フレイムドラゴンがあそこにいるおかげで大森林の魔物達は均衡を保っているからだろ? 」
「その通りよぉ。アリスちゃんもね? 」
「分かっているですよ! 」
「ならいいわ。火竜草を採ったらすぐに帰ってくるのよ」
わたしがお薬を作るから、と言うマリーの言葉を背にして、アリスの力でまず大森林へ向かった。
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