第14話 アルフレッドは特務冒険者になる
「冒険者になるのですか? 」
「まぁ事の成り行きで」
リリーに僕が冒険者になることを伝えると凛々しい顔つきを膨らませる。
五年という歳月は僕達を一気に成長させた。
リリーの黒髪赤目はそのままだけど身長は平均的よりも少し低めまで伸びた。胸は少し残念な結果になったけど、その分キリッとした顔つきとスレンダーな体つきになって今も女性から人気があるみたい。
リリーは剣の訓練をすることが多い。そのためか今日も騎士のような白のジャケットとパンツスタイルをしている。
「私もご一緒に、と言いたい所なのですが……、今回はアルの帰りを待つことにしましょう」
ため息交じりにリリーが言う。
忙しいのだろうか?
いつもなら一回くらいは「一緒に行く」というリリーがいかないという。
「アルはアリスさんの力で家に毎日帰ってくるのでしょう? 」
「日を跨がない依頼ならね」
「なら尚安心です。行ってらっしゃい」
微笑み出発の挨拶を受け取り「行ってきます」と答えて館を出る。
そして僕はアリスを連れて領都に出た。
因みにリリーが今日ウィザース男爵家の館に来た理由はナナホシ商会で作られているお菓子を買うためだそうだ。
★
町を歩き冒険者ギルドへ向かう。
冒険者ギルドは、各支部で少しの違いはあるけれど、基本的に同じ構造をしている。
そして文字が読めない人のために剣と盾の看板が付けられている。
「字が読めない人も仕事が出来るのです? 」
「読めない人はお金を払って読んでもらうみたいだよ」
「お金を払えるのにお金を稼ぐのです? 」
アリスが頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら首をかしげている。
この世界の識字率は低い。
それこそ文字の読み書きや数字の計算がだけで職があるほどに、だ。
けれどこれにもランクのようなものがあるみたい。
父上から話を聞いた所によると、冒険者ギルドで文字の読み上げを生業にするのなら一番下のランクでも可能。そしてこのランクならば初心者でもお金を払える金額だそうだ。
もっとも高ランクの冒険者の依頼を読み上げる仕事はかなり高額になるみたいだけど。
「さ。アリス。そろそろ着くよ」
「おっきな建物です! 」
歩いていると僕達の前を剣や杖、盾などを持った如何にも冒険者といった人達が一つの建物に入っている。
剣と盾の看板もあるし間違いないだろう。
けど他の支部のギルドとは違うな。
アリスの言う通り建物がかなり大きい。
建物を見ているだけではいけない。
アリスを連れて他の冒険者に紛れて入る。
少しずれて騒がしいギルドを見渡すと大勢の冒険者達が飲み食いしていた。
「食事も出来るのか」
色々な依頼を受けるには体力が必要。
腹が減っては戦は出来ぬというし、これも依頼の達成率を上げるためのギルドのやり方なのかもしれないね。
「そろそろ行くのです? 」
「そうだな。ここでもたもたしているわけにはいかない」
受付を探して向かおうとする。
けれども他の冒険者に止められた。
「おおっと兄ちゃん。新入りか? 」
ガタイの良い冒険者がニヤニヤして聞いてくる。
顔が赤い。お酒の匂いがする。酔っているのか?
アリスが不快な顔をしている。
今にも排除に入りそうな彼女を見てすぐに抜け出さないと行動に出る。
しかし僕の前に移動して邪魔をする。
どうやら逃がさないようだ。
「兄妹で冒険者になりにきたのかもしれないが帰りな。ここはガキが来るところじゃねぇ」
「兄貴の言う通りだな。そんなひょろい体で何が出来る? 」
「精々ゴブリンの餌にされるくらいだ」
ハハハ、と声を上げて笑う。
アリスの怒気が一気に膨れ上がっているのを感じる。
けどまって。
なんだろうか、この人達。言葉は悪いけど僕達の事を心配してくれているんじゃないだろうか?
「……僕達はギルドマスターの「アーネスト」殿に呼ばれてここにきているのですが、通してもらえますか? 」
「ギルマスが? 」
「それこそ有り得ねぇ」
「ギルマスは顔が悪いが俺達の事を思ってくれる優しい人だ。そんな人がむざむざ――「誰が顔が悪いって? 」……、ギルマス?! 」
僕達に突っかかって来た冒険者達が一気に顔を青くした。
彼らの後ろにはスキンヘッドマッチョのアーネスト殿が。
「アルフレッド殿は私の客だ。で貴様ら何をしている? 」
「ち、違うんですギルマス」
「俺達はまだ何もしていない! 」
「ほぉ。まだ、ねぇ」
「「「ぐっ……」」」
ゴキゴキとアーネスト殿が拳を鳴らす。
冒険者達の青い顔が白くなっている。
「はぁ……。こっちの用事が先だな。貴様らの処刑は後だ。アルフレッド殿。こっちだ」
アーネスト殿について行く。
ふとアーネスト殿は立ち止まり振り返った。
「あと私はイケメンだ」
それだけ言い残して再度足を進めた。
重要なんだな。そこ。
★
「さっきはすまなかったな。あいつらも悪いやつらじゃねぇんだがどうも口が悪くてな」
ギルマスの部屋に通されソファーに座ると溜息をつきながらアーネスト殿が言う。
その表情はかなり疲れているようで苦労しているのがよくわかる。
「で早速ギルドカードの件だ」
そう言いながらアーネスト殿は小さな箱を取り出した。
蓋を開けるとそこには黒いカードが四枚入っている。
冒険者ギルドのギルドカードを見たことがあるけど、どう見ても普通のギルドカードじゃないね。
「アルフレッド殿に渡すギルドカードは特務冒険者と呼ばれる者が持っているギルドカードになる」
「特務冒険者、ですか? 」
「ああ。軽く説明するとだな」
アーネスト殿曰く冒険者ギルドには特務冒険者という、ギルドマスターが直々に認めた冒険者がいるとの事。
これには人数制限があり特殊な場合を除いて指名されることは無い。
この特務冒険者はいつも普通の冒険者と同じように活動するがギルドマスターの指示により動くこともあるらしい。
「私はアルフレッド殿を縛り付ける気はない。しかし魔物の氾濫を個人で潰すアルフレッド殿を最低ランクから始めさせるのは能力の無駄使いと判断した」
「助かります」
「表でのランクはBランクになる。そこからランクを上げてもいいしそのままでもいい。自由に活動してくれ」
このブラックカードはかなり自由度が高いようだ。
いつも大森林で狩りをしたりあちこち飛び回っている僕からすれば更新期限がないのは助かる。
「依頼は下に張っているものから選んでくれ。もしかしたら館では見られない問題があるかもしれないぞ? 」
「それはやりごたえがありそうですね」
館で父上の補佐をしているとはいえこの領地内の全ての問題を把握しているわけではない。
小さな問題を拾い上げるのにはこの冒険者という身分は最適だね。
「あとは……このカードだが」
一枚のカードを別の道具にかざす。
すると一気に色が変わり青になった。
「こんな風に色を変える。普段は青で外から特務冒険者だということがわからないようになっているが、特別な道具に通すとわかるようになっている」
黒を使うことは無いと思うがな、と笑いながらカードを四枚渡してくれた。
それを仕舞いお礼を言う。
一番下からランクを上げないと、と思っていた所でBランクからの出発はありがたい。
用事を終えた僕達はギルドマスターの部屋を出る。
そして依頼ボードを見に行った。
依頼ボードには多くの依頼が張られている。
これ一つ一つが住民の要望だと思うと、仕方ないとはいえ、自分の不甲斐なさを感じるね。
「これはなんです? 」
依頼を見ているとアリスが一つの依頼書を渡してきた。
アリスが興味を持った依頼か。
依頼書を受け取り内容を読むとそこにはこう書かれていた。
――村を病気から救ってください、
と。
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