第13話 ギルドマスター「アーネスト」
「急な面会申し訳ない。私はウィザース男爵領に構える冒険者ギルドの支部を任されているアーネストという」
父上と共に応接室に行くと強面スキンヘッドの男性がいた。
お互いに挨拶をして席に座る。
ゴブリンキングのような巨体をソファーに沈ませ「メシッ! 」と音をたてた。
……気まずい。
けどこのままではいけないので話を切り出すことに。
「冒険者ギルドのギルマス殿が私に何の用でしょうか? 」
「単刀直入に言おう。アルフレッド殿が行っている魔物の討伐を辞めていただきたい」
魔物の討伐?
「最近各村を周り、行っている活動のことだ」
それを聞き頭に血が上るのを感じる。
「村人に、被害にあっている人に、死ねと? 」
「そのようなことは言っていない。ただ魔物は我々冒険者が対処する。手出しは無用というだけだ」
「ふざけているのですか? 」
流石に我慢ならない。しかし感情的になってはならない。
「……アーネスト殿。アーネスト殿は知っていますか? 冒険者達が依頼を途中で放り投げたことで滅んだ村を」
「……冒険者とて人間だ。自分の力量を遙かに上回るレベルの問題に直面した場合撤退を余儀なくされることはある」
「ならば誰かが残りより高位の冒険者を引っ張ってくればいいのではないでしょうか? 何故それをしないので? 」
各村を周り魔物を潰して行く間に滅んだ村を見たことがある。
どこも冒険者ギルドまで近い村だった。
情報を集めると定期的に魔物の駆除はしていたみたい。
だがこの前と同じようにいきなり爆発的に魔物が増え滅びたとのこと。
「確認ですが、冒険者ギルドでは【ゴブリン五体討伐】のような依頼の出し方をしているようですね? 」
「確かにそうだが」
「しかし村は【ゴブリンの討伐】と出しているはず。何故依頼を変えるのですか? 」
「……アルフレッド殿。アルフレッド殿は冒険者ではない。だからわからないだろうがゴブリン討伐は初心者用の依頼だ。初心者にゴブリンの軍勢を任せる訳にはいかない。それに初心者用だからこそ各村が低い価格で依頼できる」
「ならば依頼をいくつかに分けて中級者用を作りより、中級者以上により小まめな討伐を任せれば良いのではないでしょうか? 」
「……それをするには予算が」
「魔物対策費としてウィザース男爵家から予算が降りているはずですが? 」
僕の言葉にぐっと押し黙る。
あまりない例だけどこの領地では魔物対策費として幾らか冒険者ギルドに渡している。
痛い出費ではあるけれど全体の被害を抑えるためならば仕方ないと思っている。
「アーネスト殿。冒険者にとってゴブリンの討伐は身の入りが少ない依頼というのは察します。しかし、そういった依頼を受けていただくためにも魔物対策費を出しているのですよ? 」
きっと魔物対策費もギリギリなのだろう。
悔しそうなアーネスト殿の顔を見ればわかる。
だからと言って手を抜かれては困る訳で。
彼を責め立てるのはこの辺が潮時だろう。
「今回私が各村を周って魔物を討伐しておりますがこれはあくまで緊急を要すると判断したもの。私とて冒険者ギルドの職域を侵すのは気が気ではありません。しかし今回は見逃せないということで介入しているのです」
元より僕は冒険者ギルドと対立する気はない。
彼らが正常に働いてくれたら十分である。
しかし今回は事が大きくなり過ぎた。
だから僕が討伐して回っているというわけで。
「ウィザース男爵家としてはまだ魔物対策費を続ける予定です。可能ならば魔物討伐依頼の見直しを」
僕が区切るとアーネスト殿が弱々しく返事をする。
タイミングを見計らったかのようにマリーがお茶を持ってきた。
一休憩には丁度いいね。
「アーネスト。一つ聞きたいことがあるのだけれどいいかね」
「お前の息子にボコボコにやられた所だが……構わないぞ」
「こらこらぼやかない。で何で手出し無用なんて言い出したんだい」
「それは」
とアーネスト殿が事情の説明を始めた。
ある時冒険者が村に行ったそうだ。
その冒険者が村人に僕の事を自慢して危機感を感じたようで「仕事がなくなる」と騒いだそうだ。
そしてその話が運悪くアーネスト殿の所まで届き、動くことになったみたい。
デマを流すとは何て傍迷惑な冒険者だ。
「私は冒険者達を守らなければならない」
「けど今回は冒険者の言葉を鵜吞みにし過ぎてこんな行動に出たと」
「お騒がせした。全くもって申し訳ない」
アーネスト殿がペコリと頭を下げる。
「そこまで怒っていないのでお気になさらず」
「助かる」
「代わりに見直しの方をよろしくお願いします」
,
釘を刺すと「ははっ」と苦笑い。
見直すといってもアーネスト殿の手が届くこの領内だけで構わない。
無慈悲に聞こえるかもしれないけど、僕が助けることができる範囲なんてたかが知れているんだから。
「……一つ構わないか、アルフレッド殿」
少し首を傾げたかと思うとアーネスト殿が聞いてくる。
はて。なんだろうか?
「見直しはするとして、案の一つなのだが……。アルフレッド殿、冒険者にならないか? 」
「……話を聞きましょう」
頷いて話を進めるように促す。
「各村を救っていることからアルフレッド殿の力は疑いの無いもだ。しかしそれを示すものが無いのが現状。例え領主の息子と言い村に行っても力を示すものが無ければ怪しまれるかもしれない」
「ここはウィザース男爵領です。示す必要はないのでは? 」
「かもしれない。しかし、何かの理由で他の領地で力を発揮する時その証明となるものがない。ならば冒険者ギルドに登録しておくと何かと便利だと思うのだが」
「……その心は? 」
「これだけの実力者。放っておく方がバカだろう」
質問した父上と一緒に溜息をついた。
が確かに利点はある。
この領内だけで活動するのなら大丈夫だが外の領地に行った時ちょっと厄介なことになるかもしれない。
例えば移動中に大量の魔物に襲われた時だ。
倒すのは良いけど男爵家の息子というだけでは弱い。「誰だ?! 」となった時「男爵家の小僧? 」とさらに怪しく見られるかも。
なら一層のこと冒険者ギルドのようにランク付けされた組織に所属するのは良い手だ。これなら身分とは別に実力を示すことができる。
けど――。
「私達のことは気にしなくても良いよ」
「しかし父上。家の事が……」
「気にせず冒険に……と言いたいけれど、アルフレッドのことだ。アリスの力を使って帰ってくるんじゃないかな? 」
「バレていましたか」
「ああ。だから特に心配していないよ。もちろん無理のないようにね」
父上に了解をもらい冒険者をすることにする。
ただ僕だけ冒険者登録をしたら武姫達が怒るかもしれない。だからマリー達も後日ギルドで登録することにした。
「あとは……大丈夫だとは思いますがリリーにも話を通しておきます」
僕の言葉にアーネスト殿が首を傾げて父上が苦笑いを浮かべる。
何か大きなことをする時事前にリリーに話しておかないと彼女の機嫌が悪くなることが多い。
この前のナナホシ商会の時もそうだったしね。
「なんだ。アルフレッド殿はもう婚約者の尻に敷かれているのか? 」
「彼女は婚約者ではありませんよ。それに恐れ多い」
「アーネスト。君は良い友人だとおもう。けれどリリアナ様に関して冗談を言っているとこれが過去形になるかもしれないから気を付けるようにね」
「リリアナ様?! まさか公爵家の「剣鬼」リリアナ・ウェルドライン様か?! 」
父上が注意した傍から怒られるようなことを言う。
裏表がないというか、性格が直線的なんだろうなと思う。
けどそれが色々な所で災いしてそうだ。
「後で領都支部の私の所まで来てくれ。そこでカードを発行する」
リリーの事はもうツッコまないようにと再度注意して話を纏める。
特殊なカードを作るというアーネスト殿の言葉を了解して一度解散する。
そしてリリーと話をすることにした。
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