第12話 襲い掛かる魔物から村を守れ 2
村に着くと悲惨な状況だった。
広々と広がる農地は荒れて作物は全て荒らされている。
「大分やられたみたいだね」
「でも人の気配がするわ」
閑散とした様子が続くけど、マリーの言う通り人の気配はする。
少なくない人数の気配を感じ取れるから、間に合ったといっても良いだろう。
「牛舎もボロボロだな」
「牛さんもいないです」
アリスがしゅんとして呟いた。
他の建物もボロボロだ。
至る所に傷が見えて建物ごと攻撃されているのがわかる。
「傷跡からしてゴブリン? 」
「多分ね。でもこの規模だと確実に上位種はいるでしょうね」
ゴブリンは棍棒を持ち原始的な攻撃をしてくることで有名だ。
これが上位種になると魔法を使ったり剣を使ったりしてくるのだけれど、逆に武器をもたない普通のゴブリンは鋭利な爪を使って人や物を傷つける。
何の訓練もしていない村人からすれば単なるゴブリンでも脅威だ。
それに村が襲われたとなると作物の収穫に影響する。
作物が収穫できなくなると納税が出来なくなる。
生きていく上で「単なるゴブリン」さえも脅威となるのがこの世界だ。
「た、旅のお方でしょうか? 」
被害の様子を確認しながら歩いていると建物から人が出て来た。
「は、早くこの村から出て行った方が良い。ま、魔物がやって来るぞ」
「忠告ありがたいが僕……いや私達はウィザース男爵家から派遣されたものだ」
「領主様から?! 」
「この村の村長の手紙を読んできたのだが……、村長の所まで案内してくれるかな? 」
言うとすぐに村長の所まで案内してくれた。
村長の家を訪ねると驚かれた。
初老にかかった村長に促されるまま部屋へ行き、事情を聞く。
「最初はいつものように冒険者ギルドに依頼として出していたのじゃ」
村長が説明する。
この村も他の村や町と同じように魔物の駆除を冒険者ギルドに頼んでいた。
この村を襲う魔物は殆どがゴブリン。冒険者達も慣れた手際で倒していた。
毎年被害が出る前に討伐されていたのだけれど今年は違った。
「一気に大勢のゴブリンが村を襲うようになりまして……」
「冒険者が対処できなかったと」
「……はい。それだけならまだわかるのですが……その、村人を置いて我先にと逃げ……、この有様に」
怒りゆえか座る村長の拳に力が入っている。
「このままでは村は滅びるしかない。そう考え隙を見て領主様に手紙を出した、ということですじゃ」
「事情はわかった。すぐにゴブリンの掃討作戦に出ようと思う」
「なんと! 」
「何が起こるか分かりません。私達が出ても構わないというまで建物から出ないように村人に伝えてください」
「わかりましたじゃ! 」
立ち上がりマリーとアリスと共に出る。
そしてゴブリンがいるという森へ向かった。
★
「冒険者のことも問題だけど森で何が起こったかが問題だな」
「繁殖力の強いゴブリンとはいえ流石に急すぎますねぇ」
森に入る手前、僕達はすでにゴブリンを捕捉していた。
外に出る前だったのだろうね。
まずマジックソードを手に持って戦闘準備をする。
「マリーは後ろから探知を。アリスは……、アリスも一緒に戦う? 」
「戦うのです! 」
「わたしも戦うわぁ」
「いやマリーが攻撃したら森が使い物にならなくなるからダメだ」
マリーが「そんなぁ」と肩を落とす。
けれどすぐに気を持ち直して魔導書を掲げた。
「敵意探知」
マリーが魔法を唱える。
顔を右に左にしたかと思うと僕の方を向いて情報を教えてくれた。
「ん~。一先ずあちこちにいるわね。それも百じゃ収まらないわぁ」
「森に入ってもすぐに囲まれるか。僕が上から魔弾を降らせても良いけど外に漏れると厄介だな」
「ならアリスが倒すのです! 」
「アリスが? 」
「確かにアリスちゃんなら可能でしょうねぇ」
「アリスは範囲攻撃も出来るのか? 」
「出来ないです……」
「ならどうやって」
首を傾げながらアリスを見ているとマリーの所へ行って魔法をかけてもらっている。
何をする気だ?
「ちょっとゴブリン達が混乱して外に漏れて来ると思うからアルちゃんはそれをお願いね」
「混乱? 」
「では始めるです! |いっぱい鍵を開けるのです《臓器穿孔》! 」
アリスが唱えると森の方からドサドサと音が聞こえてきた。
「な、何をしたんだ? 」
「わたしが探知で見つけたゴブリン達の臓器をアリスちゃんの力で穴をあけたのよ」
「ぞ、臓器? 」
「そう。例えば……脳とか心臓とか」
ドン引きである。
……確かにこれは初見殺しだな。
そして防ぐ方法がわからない。
本当にアリスが仲間でよかったと思うよ。
「アルちゃん。来たわよ」
逃げるようにゴブリンが三体森から出て来る。
これ以上村は荒らさせない。
地面を蹴ってマジックソードで首を刎ねる。
確認する必要はない。
魔力感知でさらに出てくるゴブリン達を捕捉する。
そして相手が僕に気付く前に切り裂いていった。
ゴブリン達を倒し更に奥に行く。
ある所まで行くと少し大きな気配を感じて足を止めた。
「これはゴブリンキングね」
奥へ足を進めると簡単な造りの家がある。
家は村をつくっていて、視覚強化を使うと奥に一際大きな家が見えた。
「王の誕生か。それで上位種が増えたのか」
「数の問題は解決できないけどねぇ」
「まぁ差し詰め冒険者が手を抜いていた辺りじゃないか? 」
そうかもぉ、とマリーが言いながらさらに探知を始めた。
ゴブリンキングが現れると、その下位にあたるジェネラルやリーダー・コマンダーのような指揮系統の上位種が現れやすくなる。
だからと言って爆発的に増えるわけでは無い。
確かに上位種が現れることによりゴブリン達はその数を増す。
けれどもここに来る途中倒したゴブリンの数を考えると、冒険者達が毎回手抜きをしていたと考える方が自然だ。
「まず一人で突撃してみるよ」
「危なかったら助けるわ」
「後ろは空間を閉じておくのです。村にゴブリンが出る事はないので存分に暴れるのです」
「そこまで戦闘狂じゃないけど、まぁ……。やるか」
マジックソードを構えてゴブリン村に駆ける。
中に入ると早々に左右からゴブリンが斬りつけてきた。
「回転」
二体の胴体を真っ二つにするとそれを飛び越え多くのゴブリン達が飛びかかって来た。
「伸びろ」
バックステップで距離をとる。
魔力を多く込めてマジックソードを伸ばす。
と同時に飛びかかるゴブリンを倒して先にいく。
後ろからゴブリンの悲鳴が聞こえてくる。
マリーが無双しているのだろう。
奥に杖を持っているゴブリンが見える。
唱えているけどそれよりも先に小さな魔弾を放って打ち倒す。
走りながらもう一回魔弾の準備をする。
火球が迫ってくる。
それを避けて魔弾を放ってゴブリンマジシャンを仕留めた。
「家から出るのを待つほど僕は優しくないんでね。魔硬連弾」
ドドドドド!!!
建物に当たり大きな音をたてる。
造りが悪いのだろう。建物が崩れて中から一体のゴブリンが出てきた。
「あれがゴブリンキングか」
マジックソードを構え直して観察を。
キング、とつくほどはある。他のゴブリンと違い緑色の体は筋骨隆々。
小柄なゴブリンと同種と思えないほどに身長も高い。
魔弾を喰らったのか体中が血だらけになっているね。
「Gaaaaaaa!!! 」
怒りで顔が真っ赤である。
巨大な剣を振り回して僕を睨みつけている。
けど――。
「判断が遅いね」
首を刎ねて戦闘を終えた。
キングを倒した後ゴブリン掃討戦に移った。
けど殆どマリーとアリスが倒したようで、僕が倒したのはキング周りのゴブリンのみ。
少ない、とは言えない数だけど大森林で魔物に囲まれた時と比べると全然マシである。
この村にいる魔物は全滅させた。
死体を集め魔石だけ取り除き火葬した。
処理を怠ってアンデットになったら洒落にならないからね。
ともあれ周りに敵がいないか再度チェック。
そして僕達は森を出た。
「も、もう討伐が終わったので?! 」
「驚くのも無理はない。けど……、マリー」
「はぁい」
疑いの目を向けて来る村長にマリーが回収した魔石を見せる。
村長は信じられないという表情をしながら、外に出て、魔物が殲滅されたことを村人に伝えた。
「あのゴブリンの大群を倒したのか?! 」
「ありえない……」
「だが見ただろ? あの魔石の量」
「すげーーーな! 兄ちゃん! 」
「流石領主様が派遣したお方だ」
「頼りになるぜ」
村人達にも証拠を見せて納得してもらう。
なんだか過剰に褒められている気がするけど、彼らにとってそれだけ脅威だったということ。
お礼の言葉は素直に受け取っておこう。
「しかしこの後どうするか」
この村の被害は甚大である。
農作物で成り立っていた産業はズタボロ。
税金は男爵家の方で考えるにしても食べて行けるかどうか。
中には小さな子供もいる。
このまま放っておくと不幸な運命を辿るのは目に見えている。
ん~~~。
「……皆。少しいいか? 」
大きな声で呼びかけると村人がこちらを向いた。
「近々商会を建てようと考えている。その時の従業員として君達を雇いたいんだが」
言うとマリーが「あら~」と言っている。
散々メリットデメリットを考えて悩んだ挙句にこの結果ですよ。
余計な危険を抱え込む必要はないと今でも思っている。
商会を構えることで家族に危険が及ぶ可能性は増えるだろう。
けど彼らを見殺しにすることはできない。
なら危険から家族を守る手立てを精一杯考えて、彼らも助けるとしようじゃないか。
それにもし先の事を予想出来て何もしなければそれこそ父上や母上に軽蔑されるかもしれないしね。
「わ、私達を雇ってくれるので?! 」
「ああ。雇う」
「正直この村はもうだめかと」
「店員をしながら村で働いても良い。条件は後でマリーと話してくれ」
「貴方様はゴブリンの討伐だけでなく働き口までっ! 」
「ありがてぇ。ありがてぇ」
村人達が再度熱狂した。
そして話もまとまり従業員も決まった。
……後で売る物を考えないとね。
★
マリーが会長を務める「ナナホシ商会」を設立した。
僕が会長を務めるべきとマリー達が言っていたけどそれは拒否。
何かイレギュラーが入った時に対応できるように少し余裕を持っておきたいしね。
それに実質彼女が魔法を使い彼女が商品開発していくことになる。
となるとマリーを会長にしていた方が何かと都合が良い訳だ。
「出だしは好調」
僕はマリー達の説得により特別顧問という枠に収まった。
まぁ彼女達の言葉も尤もだ。売り上げをウィザース男爵家の資金の一部にする場合僕を挟んだ方が良いのも事実。
面倒事が増えたかもと思わなくもないけれど、ここはぐっと堪えないとね。
ナナホシ商会が立ち上がり各村を襲う魔物を討伐していく。
ゴブリンキングの事があったからアリスの力を使って領内の村を駆けまわって調査した。
思ったよりも事態は深刻で、事ある毎に上位種を率いた魔物と出くわした。
これは冒険者ギルドの怠慢と言えるだろうね。
そんなある日の事。
書類を片付けていると父上が僕を呼んだ。
「……アルフレッド。お客さんだよ」
「誰でしょう? 」
「冒険者ギルドのギルドマスターだ」
ここまで読んで如何でしたでしょうか。
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