第11話 襲い掛かる魔物から村を守れ 1
*本日は3話投稿します。
十五になって数日。
僕は木剣をもってフレイナと対峙していた。
何をするのかというと「卒業試験」。
まだまだ学ぶところは多いと思うのだけれど彼女達からすれば免許皆伝にしても良いとの事。
嬉しさ半分、寂しさ半分。
彼女達に実力を認められたと喜びたいけど、彼女達と打ち合う日々は楽しかったわけで。
だからと言って手を抜くわけにはいかない。
僕は彼女達の主。
認められたからには今までのようにひっくり返る訳にはいかない。
「本気で行きます」
フレイナから今まで感じたことのないような膨大なプレッシャーを感じる。
これまでに大型の魔物と何度も戦ってきた。
けれどそれが子供のように感じる程に膨大なプレッシャー。
反射的に体に力が入る。
――ダメだ。
力の入り過ぎだ。
息を吸い、吐く。
「始め」
マリーが開始の合図をする。
そして卒業試験が始まった。
★
「……ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……。勝っ……た」
「お見事です主殿」
「流石アルちゃんね。わたしも負けちゃった」
「なんで負けた方が余裕なんだ……ぜぇ」
フレイナに一撃入れ、マリーと魔弾の打ち合いで競り勝った。
けれども勝った気がしない。
「大丈夫です? 」
「……大丈夫、と言いたいけどちょっと休憩」
体力と魔力切れで横たわる僕にアリスが覗く。
心配そうに聞いてくるけど今回ばかりは本音で。
強情張ってアリスと戦う、なんてことになったら目も当てられないからね。
もう武姫と戦う気力が無い。
「……そう言えば戦ったことないけどアリスはどんな戦いをするんだ? 」
フレイナは剣術で、マリーは魔法で戦う。
僕が見たことのあるアリスの力は、魔法に例えると転移と広範囲結界のようなものだ。
戦うとなるとどんな戦い方をするんだろう?
「基本的に即死系、かな? 」
おっとマリーが物騒なことを言い出した。
「そ、そんなことないですよ! 」
「アリスの力の応用力は凄まじい。正直なところ先手を取られたら私でも対処が出来ないかもしれない」
「……フレイナがそこまでいう程か」
「わわわ……。マリーとフレイナがおかしなことをいうからお兄ちゃんが信じちゃうです! お兄ちゃん信じちゃダメです」
「魔物の中には即死魔法を飛ばしてくる相手もいるのよ? だけどアリスちゃんの即死攻撃はその比じゃないの」
「完全な初見殺しだな」
「はわわわ……。はっ! そうです! お弁当を持ってきたです! 皆で食べるですよ! 」
風向きが怪しくなったのを感じてアリスが弁当を取り出した。
いつも妹のように可愛いアリスだけど戦い方は思ったよりも可愛くないみたい。
けれど彼女も家族の一人。
アリスの事が知れてよかったと思う。
★
「これはお菓子? 」
「うん。そう」
「美味しそうね」
「昔は無かったの? 」
「なかったわぁ」
ある日の事、僕がキッチンでお菓子作りをしているとマリーが摘みにやって来た。
マリーは珍しそうに器の中のボーロを手に取った。
「ふわふわサクサクで甘いわぁ」
「あまり食べ過ぎないでね」
「分かってるわよぉ」
ボーロを作るには砂糖を使う。けれど砂糖は高い。だから今回は市場に出ている代用品で作ったんだ。
ボーロはいつも忙しい父上と母上用に作っている物。その他にも時々作れそうなお菓子を作っている。
といっても大層なものが作れるわけでは無い。作っているのは一人で簡単に作れるものだけだ。
「わぁ! お菓子です! 」
「主殿。何やら美味しそうな匂いが……」
「二人も食べる? 」
マリーも加えた三人が一斉にボーロを食べ始める。
これはもう一回作った方が良さそうだね。
「これは売りに出さないのかしら? 」
「……まだわからない」
「売らないのですか? 絶対に売れると思います! 」
「はは。そう言ってもらえると助かるんだけど……」
武姫達がボーロを食べ終わった後、彼女達が聞いてくる。
現在僕はウィザース男爵家の金策について考えている。
悲しい事にウィザース男爵家は万年金欠だ。
大森林の魔物を売ることで懐が温まっているとはいえ、これは不安定な収入。出来れば安定した収入源が欲しい。
そこで考え着いたのは商会を立ち上げて日本で売れていたものを売るというものだ。
「これも量産できると思うけど? 」
「そうなんだけど……」
「まだ迷っているのね」
マリーが苦笑いを浮かべ頬に手をやった。
資料で見る限りこの領地は資源が無いわけではない。
ただ新しい資源を活用するための投資を行っていないだけ。
どうやら僕の家系にギャンブラーはいないようだ。
もし商会を立ち上げて品物を作るのなら、それを有効活用すればいいだけ。
特に資源が無い訳でもなくデメリットという程のデメリットがない。
けれど僕は躊躇っていた。
「もっと活気つくと思うんだけどなぁ」
「確かにそうだけど、活気つくにつれて危険も増えるだろ? 」
「このまま衰退するよりかは良いと思うけど」
マリーの言う通りである。
しかし家族に危険が及ぶのなら思いとどまらないといけないと思っている。
新しい事をして利益を上げる。
これはとても喜ばしい事だ。
同時にこの領地の名前が売れるだろう。
となると父上や母上の名前も広まる訳で、どこかの強情な貴族の目に留まるかもしれない。
「問題事しか起こらないな」
「何事もそうだけどリスクの無いことなんてないわよぉ」
「それは分かっているけど出来るのなら家族に危害が及ぶようなリスクは取りたくない」
金策について何か考えないといけない。
一番手っ取り早い方法ではあるけれど、それを選択すると不必要な危険まで抱え込んでしまう可能性がある。
もう一回しっかりと考えないといけないな、と思いながらもボーロを父上の所にもっていった。
「いつも美味しいお菓子だね。良く出来ている」
「ありがとうございます」
持っていくと早速父上がサクサク食べる。
「あまり食べ過ぎないようにしてくださいね」
「分かっているよ。食べ過ぎて夕食を食べる事が出来なくなるとアネモネが怒るからね」
また一つボーロを口に入れる。
わかってるのなら大丈夫だろう。母上の怒りに僕まで巻き込まれるのは嫌だからね。きちんと量はコントロールしてもらわないと。
父上の机の上にお椀を置いて僕も隣の席に着く。
何枚もある書類に目を通しながら父上に聞く。
「……最近魔物の被害が多くなっていませんか? 」
「ん~。そうだね。どうにかして対策を練りたいんだけどね……」
父上が渋い顔をして溜息をついた。
この領地の魔物対策の殆どを冒険者ギルドに頼っている。
被害が多くなっているということは冒険者の数が少なくなっているか魔物が強くなっているか。それとも多くなっているか。
父上の話によると今まで問題になるほどの被害は出ていない。
それに被害が拡大しそうになると父上が現場に出て魔物を倒していたらしい。
「本当は騎士団か、それこそ領内全体を守れるような衛兵団を組織できると良いんだけど」
「お金がありませんからね」
「……本当に困ったよ」
頭を抱える父上から目線を戻して書類を漁る。
何枚かみるとしわくちゃな紙が見つかった。
「? 嘆願書? 」
ギリギリそう読める文字である。
紙を伸ばしてじっくり読む。
「父上。村から嘆願書が来ています」
嘆願書? と首を傾げながら僕が手に持つ紙を受け取る。
読むと表情を険しくしてぽつりと呟く。
「これはいけない」
「冒険者ギルドも何をやっているのか……。一先ず僕が村にいって魔物を掃討していきます」
「立派に育って嬉しいのだけれど怪我には十分気をつけて」
「もちろんです」
「よろしく頼むよ」
「任せてください」
小さなやり取りをして僕はアリスとマリーに声をかける。
そして館を出発した。
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