第10話 フォレ王国第二王子誕生パーティー 2 僕と一曲踊ってくれませんか?
パーティー当日。
アリスの力で王都に着いた僕達は早速王城へ行き城内に入る。
他の貴族達から不審者を見るような目線を向けられる。
中々にハードな出迎えだ。
「居づらくなったらすぐに言うんだよ」
「それは父上がこの場から逃げたいだけでは」
「バレたか」
父上が気遣ってくれる。
多分僕の耳の事を心配してくれるのだろう。
ぱっと見て僕のように耳がとがっている人はいない。
リリーが特に何も言わなかったから、もしかしたら貴族の中には僕と似たような人がいるのかもと思ったけど、外れたようだ。
しかし特に話しかけて来る人もいないので気にする必要はない。
何事も無く無難に終わるのが一番。
壁のシミにでもなってやり過ごすに限るね。
どんどんと会場に貴族が集まっている。
入り口が閉まる。
「フォレ王国第二王子「エニー・フォレ」殿下のご入場! 」
大きな声が会場に響くと奥の扉が開いて少し気の弱そうな子供が入って来た。
しーんと静まり返る中、王子様は席に座る。
文官に急かされるような形で、慌てながらもパーティー開始の挨拶を始めた。
「私の為に集まってくれて嬉しく思う。今日は楽しんでいってくれ」
長い話が終わり締め括られる。
大きな拍手が巻き起こる中、フォレ王国第二王子「エニー・フォレ」殿下がほっとしたような表情をしている。
そして誕生パーティーが、始まった。
★
パーティーも始まり挨拶を済ませて僕達はまた壁のシミになる。
各貴族が集まり談笑している。大人もそうだけど子供もそう。
どんなグループがあるのかな、と観察していると一際大きな集団があった。
「リリーは人気者だね」
「嫉妬かい」
「そのようなことは無いですよ」
口から言葉が漏れたら父上に指摘されてしまった。
確かにいつも見ない幼馴染の姿を見ると、少し胸がざわつく。
だからといって嫉妬する程でもない。
元よりリリーは公爵家の娘であの社交性だ。
むしろ友達が少ない方が違和感がある。
「あれはリリアナ嬢」
「噂に違わない綺麗な子だ」
「立ち振る舞いも素晴らしい」
貴族達がリリーを褒める。
友達を褒められて嬉しいけど、彼らの指摘は勘違いだと思う。
だってリリーはとてもイライラしている。
リリーの周りには男の子、女の子と取り巻きがくっついている。
聞き耳をたてると、男の子のリーダーらしき人物が鼻高々と演説のようなことをして周りが頷いている。
これはアウトだね。
自分に向いてほしいのは分かるけど自慢話は引かれるだけだ。
リリーのあの冷たい表情が見えていないのか演説は続いている。
剣があったら切られていると思うぞ。
「……僕にどうしろと」
リリーの集団を見ていると僕の目線に気付いたみたい。
目をぱちくりとさせると何か思いついたような表情をする。
嫌な予感しかしないんだけど。
「アル」
嫌な予感を感じているとリリーが僕の方へ歩いて来る。
げっ……。
「アル! 」
「や、やぁリリアナ様」
「アル。いつものように、リリー、と呼んでください」
「……リ、リリー」
僕が呼ぶとリリーは満足げに笑みを浮かべる。
邪推をしたのかついて来た女の子達が騒がしくなっている。
顔を引き攣らせているとリリーが顔を近づけて小さな声で尋ねてきた。
「あの場から助けてくれてもよかったのですよ? 」
「あまりにも僕が場違いじゃない? 」
「そのようなことはありません」
「リリアナ様。こちらの方は? 」
リリーの取り巻きの一人が待ちきれないとばかりに聞く。
「こちらの方は――「誰だお前は! 」……」
さっきの男の子が大きな声を上げてリリーの言葉を遮った。
瞬間リリーからさっきのようなものが漏れている。
それに反応して女の子達は一歩下がっているけど、男の子は鈍いのか銀色の髪を振り回して近付いていくる。
「誰だと聞いている! 」
憤怒、という表現が正しいと思えるような表情で聞いてくる。整った顔は歪み、怒りのせいか赤い瞳が真っ赤に染まっている。
だから「アウト」と言ったじゃないか。口には出していないけど。
しかし声をかけている子が違う所に行ったからと言ってキレ散らかすとは……カルシウム足りてる?
いやいや子供のカルシウム不足は深刻だぞ?
「話しを聞いているのか! 」
「……失礼。では自己紹介を」
「この人に自己紹介はいらないと思いますよ? 」
心底鬱陶しいという表情でリリーが言う。
けれど名前を聞かれているのに答えないのは後々問題になるかもしれない。
それに今にも噴火しそうな顔をしている彼を無視するのはあまり良い手ではない。
ということで自己紹介を始める。
「男爵? ……はっ! リリアナ様が話掛けるからどの程度と思えば……。いやそうか。貴様が「魔力だけの無能」か」
「魔力だけの無能? 」
「なんだ。領地に引っ込み過ぎて自分がどう呼ばれているのかしらないのか? 魔法が使えない無能」
一体彼は何年前の話をしているのだろうか。
いやもしかしたら彼の中では属性魔法しか魔法と認めていないかも。
「それに引き換えボクは全属性持ちだ。お前とは格が違うんだよ。格が! 」
まぁそんなことよりも君は今のリリーの表情を見た方が良いと思うよ。
「ボクの名前はアンテ・ノーゼ。ノーゼ公爵家の長男だ。覚えていなくても覚えないといけない名前だからな」
「……」
「ボクは本来お前のような男爵家の子供が気軽に話せる存在ではない。精々リリアナ様に感謝するんだな。さぁリリアナ様。あちらでボク達と料理でも楽しみましょう」
「嫌です」
「……そのようなことをおっしゃらず。ボク達が交流を持つことは両派閥に益となります」
「貴方のような下品な男と話すようなことはありません」
「…………どう考えてもあの男と貴方は釣り合いません。ここは公爵家同士」
「私がお付き合いをする相手は私が決めます。貴方が決めることではありません」
……リリーがきっぱりと言った。
周りの女の子達も「うんうん」と頷いているから余程煙たがられていることがわかる。
けれどアンテ君は諦めきれないのか焦った表情で一歩前に出る。
「っ! そう、……おっしゃらず」
「私はアルとお食事をするので他の方々とお食事を摂られては如何でしょうか? 」
「このっ! ボクが誘っているのに……っ?! 」
「流石に暴力はダメだと思いますが? アンテ君」
「放せ……、痛い痛い痛い! 」
リリーの拒絶についにキレた。
「貴様っ。こんなことして……ひぃ! 」
アンテ君が僕を見上げてガタガタ震えている。
何か気配を感じたかと思うと僕の後ろから殺気を感じる。
マリー達が様子を見ていたのか。
「く、放せ! 」
すっかり青くなった手首を放す。
アンテ君は手首を抑えて取り巻き達と逃げて行った。
逃げ足だけは早いようだ。
しーんと静まり返った会場だけどパーティーは続く。
曲が流れ一人また一人ダンスを始める。
リリーが良い笑顔で僕を見上げる。
「先程はありがとうございました」
「どういたしまして。だけど僕が割り込まなくてもどうにかなったんじゃない? 」
僕の言葉に「そんなことありませんよ」という。
本当かな? と心の中で首をかしげていると、リリーが何か訴えるような目線で僕を見上げてくる。
「……僕と一曲踊ってくれませんか? 」
「喜んで」
リリーと一緒にダンスを踊る。
苦手なダンスもリリーと一緒なら少し楽しく感じるから不思議だ。
ひと悶着あったけれど、大きな問題はなく、パーティーを終えることができた。
その後僕達は王都でちょっと観光して懐かしのウィザース男爵領へ帰るのであった。
★
パーティーが終わり僕達は日常に戻る。
あの後ノーゼ公爵家から何か言われるかと思ったけど特になし。
もしかしたらガイア様が牽制してくれたのかもしれないね。
僕は訓練をやりながら領地経営の勉強も始めた。
勉強だけでなく実務も手伝ったりしている。
最初は戸惑いながらの作業だったけど、少しだけ慣れることができたと思う。
訓練も日に日に激しさを増している。
それだけ僕の力が彼女達に近付いているということなのだろうけど、まだまだ頑張らないとね。
そう意気込んで訓練に打ち込む。
そして僕は免許皆伝の日を迎えた。
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