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第45話

長いこと更新ができず申し訳ありませんでした……!


そして、翌日。


パーティーから一夜明け、ブラッド団長とサーリャさんはアンさんや他の貴族達と共に、王都の北門から魔物の森へと出陣していった。


それを見送った私とノワール先輩は、迎賓館にてやや遅めの朝食を摂っている。


ちなみに食事を運んでくれたのはエルフリーデ女王陛下だ。現役の女王陛下に配膳をしてもらうとか、恐れ多いにも程がありすぎる。


「お気になさらないで下さい。元々、皆様が来る前から侍女として働いていましたから。

 むしろ、他の仕事が押しているせいで準備が遅れてしまい、申し訳ありません」


「いや、そんな……」


むしろ、こちらこそ気にしないで下さい、だ。


何ならもう、調理場さえ貸してもらえれば自分達の食事は自分達で用意するんだけど、賓客という立場である以上、そんな事をしては女王陛下の面子を潰してしまう事になる。


「えぇ、食事の用意をして頂けるだけ、有り難く思います。……もしや、他の仕事というのは、あちらの事ですか?」


そう言ってノワール先輩が指差したのは、壁際に置かれた小さな机。その上には大量の書類が、文字通り山のように積まれていた。


朝食を並べながら、女王陛下は困ったように眉を下げる。


「はい。女王としての公務と、各領主から引き受けた領地経営関連のものです。

 魔物と戦う事が最重要視される我が国では、事務仕事に携わる事ができる人間は少ないので……このような雑務は私が全て処理しているのです。

 特に、スタンピード中は各領地から領主が不在になりますから」


成る程。確かに魔物討伐の方が華々しいと言うか、誰の目から見ても成果がわかり易い仕事だろう。


けれど、国家経営においても商売においても。地味な仕事をコツコツと続ける、いわゆる縁の下の力持ちが一番重要なポジションなのだ。


……アンさんはエルフリーデ女王陛下の事を、この国に必要なお方、と言っていた。


初めて聞いた時は、ただ単純に女王陛下がヴィゴーレ王家最後の生き残りだから、という意味かと思っていたが、それだけでは無いらしい。


彼女は、間違いなくこの国の(トップ)なのだろう。


いくら手足(軍事力)が優れていようと、血液(お金)の循環が滞り内蔵(市民)が壊死すれば意味が無い。


それを防ぐ為に、国が死なないように稼働する、ただひとつだけの頭脳。それが、彼女だ。


そうこう考えている間に、目の前にお皿が並び終えた。私とノワール先輩は「いただきます」とそれぞれ料理に手を伸ばす。


ヴィゴーレ国の料理は、魔物討伐が盛んな国風であるからか、しっかりとした味付けのものが多い。


とろみのある濃厚なスープを味わっていると、ノワール先輩が「そういえば」と口を開いた。


「昨夜、とある令嬢から気になる話を伺ったのです。勇者エルヴィン、という存在なのですが……何かご存知ですか?」


先輩のその言葉に、女王陛下が僅かに目を伏せた。


「……はい。エルヴィン・カステン、かつてこの城の門兵だった者です。今回の依頼には関係の無い事でしたので、皆様には知らせずにいたのです」


「関係無い……ですか?」


先輩の声に、疑問の色が浮かぶ。私も、その発言に対して少し不思議に思った。


どんな功績を立てたのかは知らないが、勇者という肩書きが本物であるのなら、魔物大量発生(スタンピード)に対する為の重要な戦力になるだろうし、

もしコルヴォ伯爵が言った「裏切り者」という表現が事実なら、勇者は王家に恨みを持つ存在……誘拐事件の容疑者候補になるだろう。


どちらにせよ、“赤のギルド”への依頼と無関係とは思えない存在なのだが。


そんな私達の様子を見て、こちらの疑問を理解したのだろう。女王陛下は微かに頷くと、少しずつ、勇者エルヴィンについて話し始めた。


「先程説明した通り、エルヴィンは城の門兵でした。そんな彼が勇者と呼ばれるようになったのは、二十年前の魔物大量発生(スタンピード)が理由です」


「二十年前……一昨日に伺いましたね。魔王クラスの魔物が複数出現する程に大規模なものだった、と」


……そして。エルフリーデのご両親やご兄姉の殆どが命を落とした、とも。


「はい。お父様達はその命と引き換えに、魔王クラスの魔物達を討伐していきました。ただ、最後の一体だけはどうしても倒す事ができず、その魔物は城壁を越え王都内へと進攻してきたのです」


魔物が城の目と鼻の先まで迫り、王都内の誰もがヴィゴーレ国の終わりを悟った、その時。


天から一筋の光が差し、そこから聖剣が現れたのだとか。


それは丁度、門番として最前線にいたエルヴィンの元へと降り、その輝きをもって魔物を討ち取ったらしい。


それ以降、エルヴィンは「聖剣に選ばれし者」「女神ベローナの加護を受けし者」とされ、勇者と呼ばれるようになったとか。


「ふむふむ。どの国にも、神から武器を賜る逸話(いちゅわ)というのはあるのでしゅね」


私の隣に座る金瞳の男児……ヤツフサが興味深そうに頷きながら話を聞いている。


ヤツフサの存在については今朝、サーリャさんが女王陛下とアンさんへ説明していた。


使い魔であるため食事を摂る必要はないが、私とノワール先輩が食べている隣で何も出されないままなのは如何なものかと思われたのか、ヤツフサの前にも紅茶と軽食が並べられている。


サンドイッチを食べるヤツフサの右腕には、市民証明の腕輪がある。人の姿で行動した時、他の人から怪しまれないようにという理由で用意して貰った物だ。


彼が身に付けているのは、私達のような金属製の物ではなく、ガラス細工の腕輪だった。どうやら、まだ(つよ)さを示せない幼子が付ける為の物らしい。


「ですが、彼はその後に重い罪を犯しました。勇者として、英雄として扱われるようになったエルヴィンは段々と増長し、そして……十年前の、あの時に………っ」


震える声を抑えるように、エルフリーデ女王が小さく唇を噛んだ。


その様子を見て、ノワール先輩が小さく首を横に振る。


「陛下、もう十分です。お辛い事を思い出させてしまい、申し訳ありません」


そう言って、頭を下げる先輩。彼女の様子を見て経緯を察した私も、それにならう。


……二十年前の魔物大量発生(スタンピード)を生き延びた女王陛下の兄君は、十年前のとある事件で命を落とした、と聞いた。


女王陛下のこの様子と先程の発言からして、十年前のその事件と勇者エルヴィンは、何かしらの関わりがあるのだろう。


それもおそらく、加害者側という意味で。


「………いえ、すみません。一国の王として感情を露にするのは良くない、と理解しているのですが、どうにも」


エルフリーデ女王はかすかに苦笑を漏らすと、気持ちを切り替えるように数回目を瞬かせ、再び口を開く。


「今から十年前、勇者と崇められ増長したエルヴィンは、当時王太子だったお兄様を「自分こそこの国の王に相応しい」という理由で殺めました。

 聖剣を持つ勇者の反乱に民はパニックになりましたが、アンがエルヴィンの隙を突いて、何とか捕らえる事ができたのです」


成る程、コルヴォ伯爵が『裏切者』と呼んだ理由はコレか。


魔物を討伐して国を救った勇者が一転、王太子殺しの重罪人となれば、パーティでのあの冷たい視線の意味も何となく理解出来る。


「……その後、エルヴィンはどうなったのですか?」


「本来なら、王族を害した者は極刑に処すのがこの国の決まりです。ですが、女神から聖剣を賜った者を処するのは如何なものか……と各所から反対の声が挙がった為、この国からの永久追放を言い渡す事にしたのです」


この国において追放刑を受けた者は、魔石を砕いて作った入れ墨を身体に刻まれる事になる。


その入れ墨を持つ者が許しを得ず国内に入った場合、王城と各地の騎士団屯所に設置された魔水晶が反応する仕組みになっているらしい。


そして、それが反応した事は、勇者を追放して以降一度も無い、との事だ。


つまり、勇者は国内に戻って来てはいない。連続誘拐事件の犯人にはなり得ない。


故に『今回の依頼内容とは関係ない』と女王陛下は判断し、私達に詳細を話さなかったのだろう。


「成る程。……ひとつ確認なのですが、その入れ墨は身体の何処に刻まれるのでしょうか。

 例えば、その入れ墨が右手に刻まれるのなら、右腕を切り落としてしまえば密入国しても魔水晶は反応しないのでは?」


「そこはご安心を。追放刑の入れ墨は、絶対に切り落とせない場所に刻む決まりとなっておりますので」


エルフリーデ女王陛下はそう言うと、入れ墨の位置を隠喩するように、己の首筋をトントンと指差すのだった。













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