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第40話


カタカタと、車輪が回る音が響く。


王都南門にて受領印を受け取った私達は今、馬車に揺られながらヴィゴーレ城へと向かっていた。


王都が所有している馬車なだけあって、座面はフワフワ、音や振動も控えめという一級品。行商人時代に使っていた乗合馬車とは雲泥の差だ。


「ふむ。女神ベローナ、か」


車内での話題は、私が騎士ゼノンから聞いた事。この国で信仰されている、女神ベローナについてだ。


「あぁ、どうりで。似た気配を感じると思ったわ」


「似た気配、ですか?」


「えぇ。多分そのベローナって女神は武甕槌神(うちの神様)と同じ、戦を司る存在なんじゃないかしら」


「な、成る程」


サーリャさんの言葉に相槌を打つ。ふと、北門から素顔を晒しっぱなしだった事に気付いて、フードを被り直した。


そのまま何となく、チラリと窓から外の様子を眺める。


空は橙色に染まっており、太陽がゆっくりと傾きはじめていた。


私達が森を抜けたのが昼過ぎ。そこから入都の為に色々やった事を考えると……まぁ妥当な時間帯だろう。


やがて馬車は城門を潜り、丁寧に整えられた庭を抜け、離宮のような建物の前で停止する。王宮と比べると流石に小さいが、上等がすぎる程に豪華な建物。


聞くに、この建物は賓客が訪れた時に使われる迎賓館(ゲストハウス)とのことだ。


元々ヴィゴーレ国は魔物大量発生(スタンピード)の度に冒険者や傭兵を雇い、魔物達に対処して来たらしい。


その際、雇った彼等の宿泊の場として提供されたのが、目の前の建物。もっとも今回は“赤のギルド”しかいない為、私達の貸し切り状態との事だ。


そんなゲストハウスの前には侍女が一人、しゃんと背を伸ばして立っていた。


輝かんばかりの金髪に、宝石をはめ込んだような青い眼。年齢は……サーリャさんと同じ二十代前半ぐらいだろうか。


美しく整った顔立ちに金髪碧眼のその姿は、まるで絵本に出てくるお姫様のようだ。もしここがヴィゴーレ国でなければ、王家の血筋を引く高貴な人物だと勘違いしてしまったかもしれない。


「お待ちしておりました、“赤のギルド”の皆様」


馬車を降りた私達へ、侍女はゆっくりと頭を下げる。容姿だけでなく、ひとつひとつの所作も綺麗だ。


さぞや異性にモテるんだろうな…と思うも、彼女の右腕に通された腕輪はオレンジに近い赤褐色。(うつくし)さから最も遠い者達が着ける、真鍮の腕輪だった。


こんなに綺麗な人なのに、ヴィゴーレ国では美しいと認識されないのは何と言うか……少し勿体無いな、と思う。


「長時間の移動でお疲れでしょう。勝手ながら、お茶のご用意をさせて頂きました。どうぞこちらへ」


促され、館の中へと入る。案内された応接室(サロン)は、ガラス作りの大きな窓がはめ込まれたサンルームのような造りになっていた。


日が傾き、空が薄暗くなっている為わかりにくいが、もし日中であれば、温かな日差しを存分に浴びながら庭の木々や咲き誇る花達を愛で、楽しむ事ができるだろう。


勧められるまま席に座ると、私達を出迎えてくれた侍女がテキパキと慣れた手つきでお茶の準備をし始める。


左手にポットを手に持ち、カップへ紅茶を注ぐその様子はとても洗練されていた。彼女の容姿が整っている事も合わさり、まるで一枚の絵画のように綺麗だ。


ファルベ国でも思ったが、やはりどの国でも、お城で働いている人達というのは動きが磨き上げられている。


確か、こういう場所で働いてる人も、貴族の出なんだっけ。ただお茶を注いでいるだけなのに、平民出の私とは天と地ほどの差がある。これが、気品というものなんだろうか。


人数分の紅茶を私達の前に置いた侍女は、改めてこちらに向き直り、頭を下げる。


「改めまして、ようこそ“赤のギルド”の皆様方。私はエルフリーデ女王陛下の侍女、サリーと申します。

 この度は女王陛下より、滞在中の皆様のお世話係を仰せつかりました。どうぞ、何なりとお申し付け下さい」


「“赤のギルド”、団長のブラッドだ。丁寧な対応、痛み入る」


「勿体無きお言葉、ありがとう存じます」


頭を下げた侍女サリーに、団長が返答する。敬語を使っていないのは、彼女が侍女だからだろう。


これは決して差別とか、使用人という職を見下してるが故の言動ではない。彼女からしたら私達は、魔物大量発生(スタンピード)に対処する為に女王陛下が自ら呼んだ客………やや大げさに言えば、国賓のようなものだ。


そんな最大限もてなすべき存在から敬語を使われては、使用人である彼女は立つ瀬がないだろう。


それを理解してか、ブラッド団長は敬語を使わず、けれど礼を欠かない客人としての振る舞いをしたのだろう。


……なんというか、前々から思っていたけど。もしかしなくても、団長ってそれなりに高貴な生まれなのではなかろうか。


「女王陛下は現在、魔物の森より戻られたばかりでございます。もう夜も遅く、魔物討伐で疲れたので休むと仰いました。

 明日の午後、改めて皆様に依頼内容を話すと仰せですが、よろしいでしょうか」


「あぁ、構わない。元より、予定日より二日も早く到着したのはこちらだ。

 予定を前倒しして謁見を賜ること、感謝申し上げます、と女王陛下にお伝え頂きたい」


ブラッド団長の言葉に、サリーは「かしこまりました」と頭を下げる。


「では、私はこれで失礼します。夕食の準備が整い次第お呼び致しますので、それまでゆっくりとお寛ぎ下さい。

 ご用がおありでしたら、こちらの鈴を鳴らして下さいませ」


もう一度礼をして、サリーは部屋を後にした。


パタン、と閉まる扉。部屋の中がギルド団員(身内)だけになった事を確認し、私はゆっくりと息を吐いた。


ファルベ王国の時もそうだが、平民も平民である私がこんな国賓級の持て成しを受けるのは何か、過度がすぎるというか、恐れ多くて息が詰まる感覚がある。


「………あら。この紅茶、ダージリンの秋摘み(オータムルナル)ね。私はミルクティーにするけど、皆はいる?」


「いや、俺はストレートでいい」


「俺もミルクはいいですかね。お砂糖だけ入れます」


「ティアは?」


「え、っと………ミルクありでお願いします」


……そっか。よく考えればこの面子の中で、本当に平民なのって私だけなのか。


サーリャさんは、神に仕える家の直系。文化が違うヒノモトの血筋とはいえ、神話に登場する神を祀る程の旧家だ。


ノワール先輩は確か、養父であるマオさんが祖国にて騎士爵を賜っていたと聞いた。騎士爵は世襲が認められない一代限りの爵位だが、それでも貴族の人達に接する機会は平民よりも多い。


ブラッド団長も。騎士爵のマオさんが団長のお父さんの部下だったという事は、必然的にブラッドのお父さんも騎士か、もしくは私用の騎士を抱えられる程に高位の貴族、という事になる。

先程の侍女サリーへの対応からして、おそらく後者だろう。


実際、そんな借りてきた猫状態の私と違い、先輩達は屋敷の雰囲気に気圧される事なく、いつも通りの様子で紅茶を口にしている。


場慣れしている、というか。こういう雰囲気に呑まれない教養や品があるというか。


……うん、この任務が終わってギルドハウスに帰ったら、礼儀作法やマナーの勉強をしよう。ひっそりと、そう心に決めた。


「さて。無事に城へ到着したことだ。女王陛下に謁見する前に、今回の依頼について再度確認を行う」


カップを置いたブラッド団長はそう言って、懐から一枚の封筒を取り出した。


ヴィゴーレ国の紋章が刻まれた封筒には、“赤のギルド”を示す封蝋。中に畳まれていた便箋を取り出して広げると、やや筆圧が高めだが綺麗な文字が並んでいる。


私達“赤のギルド”へ、とある依頼をしたい旨が綴られている内容だ。一番下、差出人を示す箇所にはエルフリーデ・サンドラ・ヴィゴーレの名前が書かれていた。


「依頼内容は、魔物大量発生(スタンピード)の助力と誘拐事件の解決、でしたね?」


「あぁ。ハウスでも話した通り、前者は俺とサーリャが担当だ。特に問題は無いだろう」


「問題ない、かなぁ……?」


いや確かに彼等の実力は凄まじいけれど、それでも魔物の集団が相手となると少しは苦戦するのではないだろうか。


「えぇ。だって今回のスタンピードは魔物の大量発生、でしょ?ただ倒せばいいだけだし、全滅させる必要もないもの

 特別な技術が必要な普通のスタンピードよりも、よっぽど簡単じゃないかしら」

 

「そうかな……そうかも……」


元々スタンピードとは魔物に関係なく、野生動物の群れが突然の音や光などで興奮状態になり、一斉に同じ方向へ走り出す集団暴走状態を示す。


魔物よりも脅威度が低いとはいえ、動物の集団暴走(スタンピード)は凄まじい。人よりも体の大きな動物が群れとなって高速で突っ込んで来ると考えると、その脅威が分かるだろう。


特に牛やサイの大群が一度暴走してしまえば、小さな村程度であれば人も建物も何もかもを蹂躙し、跡形も無く消し去ってしまう程だ。


故に、とある国では暴走した牛達の進行方向をコントロールする、カウボーイ・カウガールなる人達がいるのだとか。


対して、今回対処するのは魔物のスタンピード。こちらは暴走ではなく、大量発生。瘴気の濃さにより周囲の動物が魔物に変異したり、複数の魔物の繁殖時期が被ったり等で魔物の数が増えすぎる状態を指す。


勿論、増えすぎた魔物は家畜や人々に被害を出す可能性が高い為、討伐して数を減らす必要がある。


ここで重要なのは、あくまで数を減らすであって、全滅させてはいけないという事だ。


生態系を崩しかねないのは勿論だが、その大量発生が瘴気によるものだった場合、本来なら魔物が吸収するはずの瘴気を一帯の草木が吸い込んでしまい、植物系魔物が闊歩する死の森へと変貌してしまいかねないのだ。


そうならないように、けれどそこに住む人々の手で対応できる程度に。絶妙なバランスを見極めて、討伐する魔物の数を調整する必要がある。


だがまぁ、対処法はサーリャさんが言った通り「倒せばいい」だけ。動物の進路をコントロールする技術など必要なく、ただ数を減らせばいいだけ。


戦う力がある彼女からすれば、魔物の方が簡単と考えるのもまぁ、分からなくもない、かもしれない。


「そして、後者の担当はノワールとティアだ。誘拐事件の詳細については謁見の際に説明すると、女王陛下からの手紙に書かれている」


ブラッド団長の指が、便箋に綴られた文字の上をなぞる。そこには彼が言った通り、事件の内容は直接合った際に話すと記されていた。


また、視線を動かして次の文章を見ると『誘拐事件は後回しでいいから、先に魔物大量発生(スタンピード)の対処をして欲しい』といった旨が書かれている。

 

優先順位の問題だろう。魔物の軍勢と誘拐事件、どちらも脅威だが、直接的かつより多くの被害者を出す魔物の方を先に対処するのは、為政者として納得できる選択だ。


「書かれている通り、先方は魔物討伐を優先する事を希望している。故に二人は、俺達が魔物討伐に向かっている間に情報を集め、誘拐犯の潜伏先を特定してくれ。

 実際に誘拐犯を捕縛するのは、戦闘に特化している俺とサーリャで行う」


「ブラッド君達を待たなくても、俺が影魔法を使って誘拐犯に麻痺毒でも仕込めばよくないですか?」


「誘拐犯が単独だったなら、それでも構わんがな。だが、共犯だった場合は必ず俺達との合流を待て。

 お前の隠密魔術は確かに強力だが、流石に複数人を相手するには相性が悪い。まだ犯人の手元に被害者がいた場合、彼等を救出する為の人員も必要だろう」


「成る程、了解です」


「あぁ。移動中に確認した魔物の強さと数を考えるに、魔物大量発生(スタンピード)の対処は最短で三日、多く見積もって五日ほどかかるだろう。

 その間、二人は情報収集に専念するだけでいい。……ティア」


「は、はいっ」


「お前にとって、攻略本(予言書)の無い国での依頼は今回が初めてだったな。今まで以上に用心して任務にあたってくれ。

 単独行動はせず、できるだけノワールと行動を共にするように」


じわりとにじみ寄る緊張感を感じながら、団長の言葉に頷く。


その後、サリーが夕食の準備が出来たと呼びにくるまで、私達は依頼の打ち合わせを続けるのだった。







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